最弱が世界を救う。

しにん。

《憤怒》11

「それでは、最後の戦いを始める。『アテナ』戦闘――開始ッ!!」


最初に飛び出したのは、遠距離メインとして戦っているゼル。
サタンもそれに驚き、防御に少しだけ遅れる。


「私が遠距離だけと思ったら大間違いっすよー?」


渾身の一撃は、惜しくも素手で止められる。
ゼルは舌打ちしわずかに後方へ飛び、体勢を立て直す。
近接戦闘が行われている間に、ゼノは一気に間合いを詰めていた。


「くっ……」


ゼノとゼルのコンビネーションは、流石双子と言えるものだった。
ゼノが攻撃し、多少のスキをゼルが埋め合わせる。
二人の協力技は一切の反撃を許すことが無い。
次第に押され始めサタンは地面を思い切り殴り、地形を変えゼノ達を遠くへ行くように誘い込む。


「クソザコ共が、いい気になるんじゃねぇぞおお!!」


無理やり逃げたため、ゼノ達は空中という不安定の中を攻められる。


「喰らいやがれ!!」


斧を振り回し、ゼノ達を追いかけサタンも空へ。
サタンの意識はゼノ達に向けられ、他のものには目が行かなかった。


「死してなお生き続ける魂、全てを狩りとれ!!死の管理者タナトス!!」


リリーは親指を噛み、地面へと垂らす。
すると、血でできた魔法陣が完成しそこから影が生まれる。
その影は一瞬で消え、サタンの目の前へに出現する。


「なに――」


大きな鎌はサタンから腕を切り離す。
血こそ出ないが、悲痛な叫びが世界へ響く。
そこへセレネから放たれた光の矢が、サタンの右足を狙う。
攻撃どころじゃなくなったサタンは、一度地面へ落ちていく。
一連の流れが僅かに、三秒足らず。
その全てがゼノが考えついた作戦だった。


「どうだ?殺さずに時間を稼ぐ作戦は。殺してしまうとお前は強くなるみたいだな、逆を言えば死ななければこれ以上は強くはならない。そうだろ?」


「見事だ、いい作戦だ。俺様を殺さずに殺すか……戦いってのはこうでなくてはな!!」


「両手切断、片足へ致命傷。何とか作戦通りになったなゼル」


「本当に上手く行き過ぎっすけど」


ゼノだけが安心し、警戒心を解く。
サタンはその瞬間を狙い、残された片足に力を込めゼノの目前へと迫り寄る。
ゼノは脊髄反射で、全力の攻撃をしてしまった。


「しまっ――」


「ありがとよッ!!」


再びサタンは炎に包まれ、みるみるうちに腕が再生していく。
再生直後の腕でゼノの首を絞め、炎の勢いを強める。


「貴様ッ!!」


「相打ちってことだよ人間……さぁ、一緒に死のうぜ!!」


徐々にゼノの体に炎が移り始め、燃え盛る。
ゼルは思い切りサタンを蹴り飛ばしゼノを助ける。
必死に消火を試みるが、地獄の炎は容易くは消えてはくれない。
消火に意識を取られ、立っている三人全てがサタンにより遠くへ薙ぎ払われる。
サタンは勝ち誇ったかのように斧を天に掲げ、雄叫びを上げる。


「ハッハツハッ!!所詮は人間よ!!貧弱でひ弱で最弱の下等生物が――滅ぶがよい……」


背中からは大きな羽が現れる。
《傲慢》の力を得た《憤怒》は、言わば最強に近い存在。
七大悪魔のトップ二人の力が合わさったため、それを止めることは誰にも出来なかった。
例え、世界最強の軍隊の隊長ですらも――


傲慢と憤怒の罪スペル・イア!!」


世界は刻一刻と終わりへ向かっていた。
もはや誰一人立ち上がることすら出来ずに――

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