最弱が世界を救う。

しにん。

《憤怒》7

地震発生より少し前――レインは最後の力を振り絞りエクスへ話しかける。
一言一句逃すまいと、耳を傾ける。


「私の……命はもう終わり……ゲホッ……最後に、私の願いを聞いて?」


「あぁ、あぁ、レインの願いなら命に変えても叶えてやる、だから死ぬな」


レインの死を受け入れられるものは誰一人いなかった。
唯一回復魔法を使えるセレネは傷口に手を当て、必死に何度も繰り返し回復魔法をかける。
リリーは何も出来ないため、ただ手を合わせ神に祈っていた。


「ありが、とう。なら、ちゃんと……聞いてね?」


「…………」


「私の力を使って、サタンを倒して……」


消えゆく声、冷たくなる体温、死へと近づくのを実感するエクスは決意する。


「俺のできる範囲で――いや、俺がお前の願い叶えてやる。それがお前の本当の願いというのならば、必ず叶えてみせる」


その言葉を聞け、嬉しかったのかほんの少しだけ口角が上がったように見えた。
えみに声はなく、ただ柔らかく微笑んでくれていた。
レインの顔を見て、エクスは言葉をかける。


「なぁ、レイン。こんな時だけどさ――君と出会えてよかった。君と旅が出来てよかった。君と共に戦えてよかった。君と結婚できて幸せだった。世界で一番――愛している」


今度は、笑顔から泣き顔に。
顔は崩れ始め、ひどい有様だった。
涙は止めても止めても止まらず、嗚咽混じりの声で泣き出した。
それを見て、エクスは優しく抱きレインの指示に従う。


「セレネ、頼んだぞ」


「はい!!」


レインが心臓を抜き取られ、死なずに短い時間を生きているのには理由があった。
七大悪魔は、人間でいう心臓の代わりに魔石があるらしい。
レインの魔石はサタンにより抜き取られた、はずだった。
しかし、サタンが奪えた部分は大半ではあったもののほんの一部だけ奪えていなかった。
残った小さな魔石を、セレネは半ば無理やり取り除いてみせた。


「これが、レインの……」


魔石を取り出した時に、レインの体は消滅していた。
事態は一刻を争うため、悲しむことはやめた。
後ろを向くことをやめ、エクスは前だけを向いていた。


「本当に最高の嫁だ……」


魔石を握りしめ、レインの魔力を受け取っているのを感じる。
とても、心地よい。それに暖かい。
もっとレインと話したかった。
もっとレインと旅に出たかった。
もっとレインと戦いたかった。
もっとレインと、もっとレインと――
思い出や後悔全てを飲み込む。
やがて、全ての魔力を受け取り目を閉じ、レインの魔力へと話しかける。


「力を貸してくれ……ルシファーッ!!」


すると、目覚めたかのように返事をする。


「待っていたぞ、ガキ。それに、眠っている魔力よ」


「眠っている魔力……?」


レインの魔力は、エクスの中に眠る魔力に目を置いた。
それに答えるかのように、もう一つ別の声が聞こえる。


「まさか気づくとは。で、何用じゃ?」


「うちのお嬢から命令だ。共に戦うぞ」


「久しぶりに目を覚まして、いきなり働けと。まぁ、ちょうどいい肩慣らしでいいだろう」


今会話をしている、赤い炎と青い水はきっとレインの魔力とエクスの魔力なのだろう。
始めてみたが、なんの疑問もなく受け入れられる。


「で、小僧。貴様は何を望む」


「レインの願いを……サタンを倒す事だけだ」


承知したのか、二つの魔力はエクスの中へと入っていく。
エクスは軽く頬を叩き、気合を入れる。


七大悪魔との最後の戦いが、今始まる――

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