最弱が世界を救う。

しにん。

《憤怒》4

二人の七大悪魔は、一触即発なムードのまま会話を始める。


「待ちかねていたぞ、ルシフェル。俺が一番ムカついていたのは貴様だ」


「生憎だね、私も同じ感情を抱いていたところだよサタン。あと私はルシフェルなんかじゃない。私は堕天使ルシファー、いいや、私の名前はレインだ」


「レイン=シェイン……か。いや、今は結婚してレイン・フォルトか?どちらでも構わない。まさか貴様が人間ごときに恋をするとはな、そんなにこいつの事が好きなのか?」


「好き?馬鹿なことを聞かないで、愛してるに決まってるじゃん」


照れも見せず、ただひたすらにサタンの質問に応答する。
何がそんなに楽しいのか、サタンの口角は徐々に上がっていく。
次第には、声を荒らげ笑い始める。
大きな笑いは、戦場に響く鎮魂歌。


「お話はここまでだ。もう戦いたくてウズウズしてやがる。この憎悪、この憎しみ、この憤怒。全てが戦いを楽しみにしてる……あぁ、楽しみだ」


不気味な笑を浮かべ、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
セレネは一歩前へ出て、向かってくるサタン目掛けて、矢を射抜く。


「弓矢……そんなものが効くとでも思ってるのか?」


放たれた矢は確実に心臓を狙っていた。
サタンはその矢を避けようともせず、そのまま突き刺さる。
まるで、その程度の攻撃でどうこうできる相手でないと思わせるかのように。


「わかってましたよ、貴方に弓矢が効かないことを。ですが、私の方が一枚上手うわてですね」


「貴様――ッ!!」


突き刺さった部分が激しい音とともに煙をあげる。
恐らくは矢の先端に、時限式の爆弾を仕掛けていたらしい。
もちろん、爆弾の中身は火薬ではなく悪魔を祓うと言われる、聖水だ。


「少しは効いてくれましたか?」


「人間も捨てたもんじゃねぇ――とでも言うと思ったか?いい事を教えてやろう。俺は確かに七つの大罪、《憤怒》の悪魔だ。だがな、元は天使だ」


その場の全員が固まる。レインを除き。


「おっと、やっぱり話してなかったのか?ルシフェルよ。全くつまらないことをするじゃねぇか」


「黙れ――」


「じゃあ、俺様からお前らにいいことを教えてやるぜ?」


「黙れ――」


「実は俺らはなぁ――」


「黙れ――」


「姉妹なんだぜ?」


「黙れって言ってるだろうがァッ!!」


サタンの体は見事に宙を舞う。
レインが出せる限りの全力で、一蹴。


「嘘でしょ……?レインさんと《憤怒》の悪魔が姉妹……?」


「別に隠す気は無かったんだけど、アイツの言ってることは本当であり嘘。アイツは私から生まれた成れの果てって所」


レインは過去の話をする時は必ず悲しい顔をする。
過去に何があったのか、全く話してはくれないが。


「おー、イテテ。相変わらず強いなぁ、お姉ちゃん?」


「お前、いい加減黙れ。ぶっ殺すぞ」


姉妹喧嘩を見ているつもりだったエクスは、ニコニコとしていたサタンの胸ぐらを掴み持ち上げる。
レインと同じ華奢な体は簡単に持ち上がる。


「くっくっ、いいねぇ、英雄サン?」


「お前とは久しぶりになるのか?《色欲》の悪魔を倒した時何故俺に力を貸した。お前に何の利益があるというんだ」


「決まっているじゃないか、早く君と戦いたかったんだ。早く君を殺したかったんだ。早くこのクソつまらない物語を終わらせたかったんだ」


「物語?お前は一体何を――」


「話は終わりだ、存分に楽しませてくれよな?」


胸ぐらを掴んでいた腕を強く握りしめ、エクスの手を離させる。
魔力を練れない今のエクスには、ダメージを軽減する盾すらも生成することは不可能だ。
そのため、ダメージはいつにも増して負担が大きくなる。


「ぐぁああああ!!」


あまりの激痛に、エクスは一歩引き下がる。
引き下がったところへ、サタンは一歩前へ。


「ぎゃはははは」


高らかに笑い、追撃を始める。
迫り来る脅威に成す術もなく、防戦一方。


「エクスくん、どいて!!」


閃光のように飛んできたレインは、理性を失いつつある。
普段見せない顔をしていた。


「やっと、本性を表したか。これは《憤怒》と《傲慢》の戦いだ。ほかの奴らは手を出すんじゃねぇぜ?」


サタンの申し出に、レインは反応しない。
大天使形態モードなのか、将又はたまた別の力なのか。
十二枚あるはずの翼は六枚へ減少。
それに加え、白い翼は黒い翼へと変貌していた。


「《憤怒》と《傲慢》の戦い――いいや、これは《傲慢》の暇つぶしだ」


「人を見下すその態度、いつもいつも腹ただしい。ぶっ殺してやるぜ」


互いに走り始め、すれ違う際に拳を交わせる。
そこから戦いは激しさを増していった。
意外なことにも、力の差は歴然。


「ヒヒッ……いいねぇ、いいねぇ!!待ちわびた甲斐があったぜ。その力自分の力なのに惚れてしまいそうだ」


「あまり騒ぐな、無様なゴミよ」


サタンは見るも無残な姿になっていた。
全身は傷だらけで、たっているだけでも精一杯なようだ。
それもそのはず、レインに全ての攻撃は通らず、逆に深手を負って退避する。
それを何度も何度も繰り返し、今では体力も底をつきかけている。


「セレネ、あの戦いに俺も――助けに行きたいんだが、ケイルがかけたこの呪い解けるか?」


「これは――術者本人じゃない限り解けないと思います。もしくは、術者の死。残念ながらそれほどまでの呪いをかける人物がいた事に驚きです。私では力になれそうにありません……」


「そうか……」


地下牢でケイルにかけられた、魔力を練ることが出来なくなる呪い。
そのせいで、エクスは参戦することを控えている。
レインを助けたいのに助けられない。
この現実に、エクスはいつも以上に感情的になっていた。
壁を殴りつけ、拳は自分の血で染まっていた。


「クソッ!!なんでだよ、なんで俺は肝心な時に何の役にも立てねぇんだ!!」


「ありゃりゃ、これまた酷いことになってんな。そこの英雄よ、私の力が必要かね?」


聞き覚えのある声に振り向く。
後ろに立っていた人物は、メガネをかけどこか頼りのないおっさん――ケイルだった。

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