最弱が世界を救う。

しにん。

死刑執行。

ゼノとの決戦を終え、無事に外へと辿り着くことが出来た。
喜びと安堵も一瞬で掻き消される。


「居たぞッ!!脱獄囚を確認、増援を頼む」


辺り一面エインガルドの警備隊が待ち伏せていた。
ゼノが万が一倒された時のための保険のようだ。
警備隊はじわじわとこちらへ近づいてきていた。


「囲まれた、なんて数だ……軽く見積もっても三十はくだらないぞ……」


双方一歩も引かず、臨戦態勢へと。
永遠の沈黙が続くと思われた時、警備隊の指揮官が威勢のいい声を張り上げる。


「総員、撃てッ!!」


その声を聞き、警備隊の配置が変わる。
前衛に大きな盾を持った壁、その後に遠距離射撃の弓部隊が、さらにその奥には支援魔法をかけているのか杖を握った者が複数人。
最初にエクスの元へ辿り着いたものは、驚くことに最前線で戦うであろう剣士だった。


「はぁッ!!」


国を守る警備隊だけあって、剣は重い。
躱すのもギリギリになってしまい次の攻撃に少し遅れる。
遠距離に飛んできた矢は真っ直ぐへと突っ込んできた。
大きく後ろへ飛ぶが、支援魔法の効果を得た矢は不規則にこちらへと追尾してきた。
ハルファスで何とか防いだものの、矢は体の様々なところをかすり、一筋の血でできた線が浮かび上がっていた。


「ミルティ、これ以上力は出せないか!?」


「まだあと一段階残してますが、エクスさんの体が持つか不安です」


「なんだっていい、どうなったっていい。せめて、復讐ぐらいさせてくれ」


「わかり……ました。では、私の最高の力をさずけます」


その時、心臓を握りつぶされた様な痛みにおちいる。
片膝をつき、痛みにもだえ苦しむ。
苦しんでいるところへ警備隊が追いついてきた。
エクスの周りに五人、剣を構え取り囲んでいた。


「脱獄により、エクス・フォルトの刑はより重いものとなった。即ち、この場を持って処刑とする」


一人の男が、エクスの首を切ろうと剣を首元へ近づける。
勢いよく剣はエクスの首めがけて振り下ろされる。


「手応えが……ないだとッ!?」


振り下ろした衝撃で、周りには砂埃が立ち上がる。
そのため視界が遮断された。


「ミルティ、ナイスタイミングだ。これが、段階《神》……か」


エクスの真っ黒な髪の毛の一部が、赤に染まっていた。
赤と黒の髪の毛は地獄の業火を連想させる。


「奴を殺せッ!!」


どこからともなく聞こえてきた声は警備隊全員を動かさせた。
次々と襲いかかる攻撃の嵐に、エクスは一度目をつむり精神統一。


「よし、やるかッ!!」


目を開き、気合を入れる。
アブノーマルの力と段階《神》の力を得たため、全ての攻撃は通常よりも遅くなって見えた。
―――さっきまでとは違い、矢だけじゃないな……あれは魔法による弾か、弓矢ほど早くないから後回しだ。とりあえず最優先に避けるべきは……
五人の剣士の後ろにいる、暗殺者と思しき存在を察知し意識を向ける。


「その首貰った―――」


斬りかかってきた剣士の背後から案の定、小さい身体の人間が飛び出してきた。
小太刀を構え、真っ直ぐに突っ込んできた。
―――流石は暗殺者と言える敵だ。ミルティの力を借りなかったら存在に気づくまもなく殺されてた。御生憎様だが、その攻撃避けさせてもらうよ。


「な、なにッ!?我々の攻撃が見透かされていただと。ええい、次だ、次の作戦へ―――」


暗殺者からの攻撃を避けたエクスは、誰にも認識されない速度で移動していた。
そのため、警備隊の指揮官も首に鎌がかけられていることに気づくのが遅かった。


「殺されたくなければ全軍退け、まだ俺の意識があるうちにな」


「ぐぬぬ……わ、わかった。総員、退避せよ。これは命令だ」


警備隊は大人しくその場を去っていった。


「いやぁ、悪いねわざわざ出向いてくれたのに」


「そろそろ私を解放してくれないのかね?」


「その前に一つ話を聞きたい、この国の王は何をしている。少なくとも俺が牢屋に入れられたと聞いたら顔を見せる人だと思っていたが?」


「つ、つい先日王が変わった。先代のアーネスト家とは別の人間がなった」


「……名前はなんて言うんだ?」


「サタン……」


その名を聞いた時、込み上げてくる怒りが殺気へと変わる。


「何もかも、お前の仕業かサタンッ!!」


怒りの叫びが無情にも谺響こだまする。

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