最弱が世界を救う。

しにん。

脱獄。

ソロモンズリングを指にはめ、覚悟を決める。


「よし、行きますか」


ケイルは持ち場を離れ、仕事仲間がワイワイしている部屋へ休憩のために戻る。


「おぉ、ケイルいいところに来た。酒飲もうぜ」


「真昼間っから元気な奴らだな。だがすまねぇ。今からちょっと大変になるぜ、お前らも気をつけろよ?」


「……?どうしたケイル何を―――」


ドオンと何かが壊れる音が響く。
敵襲かと思い、外を見てみるがそれらしきものは何もない。
煙も上がっておらず、音がしたのは外ではなく中と予想。


「総員、現状を把握するため持ち場へ戻れ!!」


「先輩ッ!!殺人罪の容疑がかけられた英雄が……脱走しましたッ!!」


勢いよく開けられたドアから、男が必死になって報告をする。


「ここで逃がしてはいかん、全力で止めろッ!!相手は魔法は使えん。だったら俺らが有利だ、行け!!」


リーダーとおぼしき人物がその場の指揮を執る。


「氷の精よ、凍りつきたまえ!フリーズ!!」


管理者達は横に並びエクスに向かって氷魔法を吹きかける。
見事に命中し、エクスは一瞬で氷漬けに。


「よし、止めたぞ―――」


ピキピキと氷にヒビが入り、豪快に割れる。


「な、何故だッ!!」


「怯むな、引き続き足止めをしろ!!今増援を呼んでいるそれまで持ちこたえろ!!」


「氷の精よ、氷塊たる氷を!氷岩フリーズ・ロック!!」


エクスの頭上に、岩のような大きな氷塊が生成される。
合図とともに、それは急降下を始める。
エクスへ命中する目前で大きな音を立て破壊される。


「魔法を……壊した……だとッ!?」


「怯むな!!手を止めるな―――」


「邪魔だ、くそゴミ共」


エクスの怒号にその場の全員が怯む。
魔法なしで魔法と戦う無謀さに加え、圧倒的な数の差に臆されず戦う様を見て全員が逃げ出す。


「邪魔をするやつは誰だろうが容赦はしねぇぞ。大人しくそこをどけ」


「ぐぬぬ……増援はまだか!!」


エクスの前に立ち塞がるリーダーは、膝を震わせながらも最後まで足掻き続ける。
ゆっくりと歩いてきたエクスは、目の前で歩を止める。


「殺しはしないが、半殺しならいいよなぁ?」


拳を振り上げた時、辺り一帯が閃光に包まれる。


「やっぱり来たな、ゼノッ!!」


「またこうして敵対する時が来るとは思ってもなかったよ、エクスくん」


目の前には剣を構えた戦士がいた。
世界最強と謳われた軍隊『アテナ』のリーダー、ゼノ。


「本当は万全の君と戦ってみたかったんだが、今は魔法が使えないらしいね。とても残念だがここは大人しくしてもらうことは可能だろうか?」


構えていた剣を軽く下げ、交渉に出た。
物事を穏便に済ませるためにも得策だと考えたからだ。


「それは話をしよう、ってことか?」


「まぁそういう所かな。流石に魔法が使えない君は私の相手にはならない。大人しく投降しないと死ぬかもだよ?」


現実を突きつけ、死を悟らせる。
が、その行為は無駄となった。
死を恐れず、エクスは一歩前へ進み怒号を上げる。


「戦わずして勝つのが目当てだろうが、俺も俺でやることがある邪魔する奴に容赦はしない」


「交渉決裂だね。ならば、怪我をしても構わないということだね?はっきり言うけど、君じゃ私に勝てない」


「ほう……」


「まて、君は誰だ」


エクスの言動を思い出し、別人としか思えなかった。
エクスはこんな口調や態度を取らないと分かっていたからこそ気づけた異変。


「ちっ、バレたか。仕方ないかバレちまったもんは取り返しはつかねぇ。久しぶりだな、世界最強の男。昔世話になったな」


「……?誰だ」


「ま、わからないのも無理があるか。我が名はソロモン」


その単語を聞いた瞬間、悪夢を思い出す。
少し前にエクスの体を奪い、世界を危機に陥れた存在。
またこうして敵対すると思わなかったため、拳に力が入る。


「ソロモン……何故お前がいる、エクスの精神はどこにやった」


「馬鹿じゃねぇの?俺はもう死んでるんだ、どうやって奪うと?」


「ソロモンそのへんにしとき、ゼノが困ってる。あと、交代してくれ少しばかり俺も堪忍袋の緒が切れかけてる」


体は一つだが、精神は二つ。
多重人格を見た時、ゼノは今まで以上に困惑の表情を浮かべていた。


「ゼノ……お前さっき言ったよな、俺じゃゼノに勝てないって。その言葉撤回してくれないか?」


「それはつまり、遠まわしにここを通せと言っているのかな?」


「無駄な争いはしたくないからね、それにこれ以上は俺が怒るぞ」


「いくらエクスくんの頼みとあってもそれは無理だ、ここを通す訳にはいかない」


「っじゃ、仕方ないよね」


光の速度を出せるゼノでさえ、その行動は目で追えなかった。
気づいた瞬間にはゼノは遠くへ飛ばされていた。


「ここは無理やり通らせてもらうよ」


「魔法なしで……この威力だとッ!!一体何をしたんだエクスくん……」


「きっとゼノも知っている子から力を借りているんだ。今の俺の身体能力は獣人族のアブノーマルと同等だよ」


「あの女か……これはより通す訳にはいかないな……ふんっ!!」


殺す一歩手前の威力で、エクスの神経を雷の魔法で攻撃する。
殺さなくても、行動不能にするだけでいい為最善の手を取った。
だが、全ての攻撃を回避される。


「光……遅い。確か行ったよな、魔法が使えない俺だと敵じゃないと。今でもそれは言えるのか?」


「あぁ、言えるさ。魔法が使えないのなら私がまだ勝てる希望があるってことだからね」


その言葉を最後に、ゼノの動きは止まる。
最初は警戒をしなかったが魔力がどんどん溜まっていくのを感じ、全身に力を入れる。


「まさか―――」


「神よ。全てに裁きの鉄槌を。これが全能の力!!これが最強の力!!雷霆らいていケラウノス!!」


ゼノの右手には、ゼウスの武器とされるケラウノスが握られていた。
雷の形をしたケラウノスは以前見た時よりも衰えていたように見えたが、未だにその力は本物だった。

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