最弱が世界を救う。

しにん。

地下牢。

目を覚ますと、周りは暗く少しばかり寒い。
あと、横向きに寝転んでいるのだろうか。
足に力が入ってない。
ここは……あぁ、確か捕まったんだっけ?
何があったっけ……あれ、思い出せない……


「やぁ、お目覚めかね英雄くん」


「ここは……?」


「君を閉じ込めておくための地下牢さ。今君には殺人罪の容疑がかけられている」


「俺は殺しなんてッ!!」


徐々に戻りつつある記憶を、精一杯思い出す。


「まぁまて、まだ君が犯人とは決まっていない。自己紹介が遅れたね。私はこの地下牢の総管理者のヴァルニア・ケイルだ。気軽にケイルとでも呼んでくれ」


ケイルと名乗った男性は一言で言うとおじさん。
全身は黒いマントで覆われ、どこか気だるそうな印象を受ける。
メガネをはめており、優しそうに見える。


「ケイルさん、俺はどうなるんですか?」


「俺には何もわからない。だが、一つ言えることはあんたは恐らく極刑だろうな」


「冤罪だ!!俺は殺しなんてやってない」


「まぁ、そんな所だろうよ。しかしな、お前さんがやってないという証拠が無いんだ」


「逆に俺がやったという証拠は無いだろ?」


「残念だがある。たまたま近くを通りかかった婦人が英雄の姿が一瞬だけ見た、と報告があったそうだ。つまりは君は無罪を主張できる証拠がない限り、死ぬ」


何も出来ないイラつきに、縄を引きちぎろうと試みる。
本気で力を入れるもビクともしない。


「くそっ、何でだ」


「外そうとしても無理だ。それは人の力で引きちぎれるほど弱くない縄を使用している。だから、そんな時みんなは何をすると思う?」


「唸れ、聖なる水よ!ネプチューン!!」


ケイルの話を無視し、二股の槍を顕現させる。
が、上手くいかず生成に失敗するどころか水すら出ない。


「魔力が……ない?」


「あー、言ってなかったか。お前さんがぐっすり寝ている間に全魔力を吸い取らせてもらった。回復させないためにも回復不可能な呪いをかけたさ」


ケイルが言っていることは正しい。
先程から魔力を回復するため練っていたが、全く魔力が戻る気配がない。


「あんた、魔法が使えるのか」


「まぁ、そうでもないとこんな物騒な所の管理者なんてなれないな。だが最近ここにやってくる囚人は珍しいな。いつもは上の人間が即処理して判決を出すと聞いちゃいるが、まさかお前さんこの国の王族と知り合いでもいるのか?」


「あぁ、アーネスト・リリーって王女と知りたいだ」


「なるほど、あのおてんば娘の知り合いってわけか。ならその娘のおかげで首が繋がっているのかもな?」


「どういうことだ」


「あーあー、教える義理もねぇ。これ以上は何も答えないぞ」


「あ、おい待て!どこに行く」


「んじゃ、仕事に戻りますわー」


ケイルは去り際にヒラヒラと手を振り、目の前から去っていった。
何か脱走できるものはないか……?
辺りを見渡し、何かないか探すがトイレしかない。
想像していた牢屋と少し違い、ベッドすら置いてくれていなかった。


「なんだよここ、これが極刑囚に与えられた部屋ってわけか?へっ、くだらねぇ」


ペタンとお尻から床に座り込むと、チャリンと音が聞こえてきた。
ポケットになにか入れてたっけな。
そう考え、背後に結ばれた手を必死に動かし音がしたものを拾う。


「指輪……?」


レインとの結婚指輪とはまた別の指輪。
一瞬自分のではないと思い無視をしようとした時、自分そっくりの人物を思い出す。


「ソロモンズリング……か」


ゼウスを倒すと誓い、夢を託された証。


「確か渡されたあと、どこを探しても見つからなかったんだよな……なんで今頃」


指輪にはめ込まれていた宝石を除くと、僅かな光が生まれる。
やがて、宝石から光が溢れ出ると聞き覚えのある声が聞こえる。


「久しぶりだなぁ、エクス。元気にしてたか?」


「―――ッ!ソロモン!?」


「元気そうだな、ならよかった」


「これは、通信機……?」


「まぁ、そんなところだ。ひとまず縄、燃やすぜ?」


宝石から放たれた一本の細い光は、縛っていた縄を燃やし両手の自由が許される。


「通信機みたいなものって、お前今どこに」


「不思議なことにここは地獄でも天国でもねぇらしい。世の中ってもんは不思議がいっぱいだな」


「あ、エクスさんお久しぶりです、私のこと……覚えてますか?」


映像は無いものの、音声で誰か聞き取れた。
ミルティだ。
この世界で唯一ソロモンに仕え、支えてきた獣人の子供。


「ミルティ……だっけな、腕や足は大丈夫なのか?」


「えぇ、何とか。ここに来た時には何故だが復活してました」


その言葉に、少しの安堵が零れる。
と、同時に昔見た時とは大きく印象が違って取れた。


「ミルティってもう少し挙動不審で引っ込み思案じゃなかったのか?」


「確かに、初めて会った時はずっと怯えていたな。けどここに来てからはずっとアブノーマルを発動させている。来るべき再戦のために」


「……?何を言って―――」


「まぁ、みなまで言うな。やっと俺様の力を使う時が来たって感じだな。いいぜ存分に使え」


「あぁ、確かにお前の力使わせてもらうぜッ!!」


やがて、光は収まり消える。
再戦などと言っていたが、今は忘れることにし目の前の状況を打破するために、考えられる全ての作戦を練る。


「ったく、ここから脱走を計画するか。まぁいいさ、俺は俺の仕事を精一杯頑張ったまでさ」


近くで全ての話を聞いていたケイルは、誰にも報告をせず自分の仕事をまっとうすると決めていた。


「しかし、ま、この地下牢から逃れるもんかねぇ。俺以外の見張りに見つかるかもだしな。俺には関係ないしいいか」


マントをひらひらさせいつもの仕事場へ帰っていった。

「最弱が世界を救う。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く