最弱が世界を救う。

しにん。

《怠惰》と《色欲》



「セレネ、すまないがここでレインと一緒に居てやってくれ。今この状況で守れるのはお前だけだ」


ファントムから指定された場所付近へ到着すると同時に、作戦を考えついていた。
戦闘班のエクス、ルー。
防護班のセレネ。
今この場は明らかに罠の中。
少しでも眠っているレインを傷つけさせないためにはこうする他何も無い。


「わかり……ました。本当のことを言いますと私も戦いたかったです。レインさんにこんなことをする人は許せません。ですが、私以上に貴方の怒りは強いです。私の怒りも貴方に預けますエクスさん」


セレネ達と別れ、ファントムがいる場所へと踏み入る。
この奥に全ての元凶、ファントムがいる……
そう思うだけで、心の底から溢れ出る怒りが正気をむさぼる。
何度我を忘れ、暴れだそうとした事か数え切れない。
どうにか正気を保てた理由は、ルーが手を握っていてくれたからだ。
そう出なかった場合どうなっていたことか。


「いやぁ、よくぞ来ましたねエクスくん」


出来れば二度と聞きたくない声が聞こえてくる。


「ファントム、お前だけは許さない」


「おっと、怖い怖い。眠れる獅子を起こしてしまいましたか。ですが、計画通りです。ふふっ、貴方達の目的はレインさんの心臓ですよね?」


やっとの思いでファントムを見つけ出すと、その手にはレインの心臓と思われるものが握られていた。
改めて顔を見ると、憎たらしい程の笑顔でこちらを見ている。


「お前を今ここで殺す。そうしないと俺が壊れてしまう」


歯ぎしりが次第に強くなる。
大地が震え始め、立っているのもやっとのレベルになる。


「一つ質問をよろしいかなエクスくん。君は何故レインさんを助ける。昔の友達だからか?ん?」


「決まっているだろ。世界で一番大好きな人だからだッ!!」


すると、ファントムの口がニヤッとするのを確認する。
もう一度言う。ここは罠の中だ。
優勢劣勢だと、明らかにこちらは劣勢だ。
エクスは考えられる全ての状況に対処すべく、策を練る。


「おや?来ないんですか?昔の貴方ですとすぐにでも手が出るはずですが。成長されたんですか。へぇ……面白い」


「罠だとわかってて突っ込んだらレインに笑われちまうからな」


作り笑顔で返事をする。


「それでは私から行かせてもらいます……と言いたいところですが、本日はゲストの方々をお呼び致しました。ではご登場願います」


司会者のように、大きな声でハキハキと生き生きと人を呼ぶ。
全神経を研ぎ澄ませ、最悪な状況まで想定してまずは防御に専念する。
しかし、現れた二人にエクスは冷や汗をかく。


「おいおい……冗談はやめて欲しいぜ」


少年と姉らしき二人がファントム前へ立つ。
姉らしき人物はフードをかぶり、顔が見えない。


「ファントムと言ったか。強い相手と戦えとの命令、こいつが相手か?」


「そうです、《怠惰》の悪魔ベルフェゴールさん。存分に楽しんでください」


「《怠惰》の悪魔……だとッ!」


一度はリリーを呪いにかけた存在、《怠惰》の悪魔。
もちろん何人もの人を殺してきた存在。
それに加え、エクスは目の前の少年を見たことがあった。
インフィニティ・フォレストへ来た初日、エクス達の前に現れすぐに消えた少年。


「ベルく〜ん、悪魔殺しが相手だけど別に強くないから適当にやっていいんじゃない?」


「話を聞く限り弱いらしいな。姉さん勝手に戦ったみたいだが」


少年がきつく睨むと、女性はフードをとり素顔を晒す。


「お前、まさかあの時の―――」


もう一人の女性にも見覚えがあった。
同じくこの国へ来た時、英雄と騒がれ野次馬が集まった時に場を仕切り静かにさせた人物。
そして、レインと喧嘩をし戦いあっさりとレインを任せた。


「どうも初めまして……じゃないか、お久しぶり悪魔殺しのエクスくぅん。《色欲》の悪魔、アスモデウスでぇす」


これは想定したよりも遥かに最悪なパターン。
一対多も想定していたが、そんなものは可愛いものだ。
今目の前には単体でも勝てるかわからない、七大悪魔が二人もいるのだから。
不幸中の幸いはファントムが戦いに参戦しないということだけ。
それでも事態は最悪と言える。
下手をすればここで死。


「ただでさえまだ万全じゃないってのに、ヤバイな……いくらルーが強くても七大悪魔相手じゃ分が悪いってレベルじゃねぇ……」


「パパ、ルーも戦う。ママを助ける」


「馬鹿なことを言うな!」


怒鳴られ、一瞬肩をびくつかせるがルーは覚悟を決めている。
ここで折れるほど弱いメンタルを持ってはいない。


「ママを助ける……絶対助けるッ!!」


「武術だけで勝てる相手じゃない、それでもやるのか?」


「うん、本当は怖いけど戦う」


「わかった、もう止めない。だが、負けそうになったら全力で逃げろ」


「パパは、どうするの」


「一人で戦って勝つ、それだけだ」


これ以上の言葉は必要ないと、エクスの背中は語っていた。
ルーは横に並ぶと、目の前の敵二人に目をやる。
二人の余裕ぶりに、恐怖すら覚える。


「いくぞ、ルー!!」


大地を蹴り、二又の槍ネプチューンを創り、エクスは《色欲》へルーは《怠惰》へ向かう。
それぞれ初撃に全力を注ぐが、双方止められる。
それは想定内。
二発目にも全力を注ぐ。


「そんな生半可な攻撃は無駄だよぉ」


甘い声がエクスの耳元でささやかれる。
気がつくと、腹に強烈な拳を貰っていた。
水で作った壁を難なく突き破り、エクスへとダメージが突き刺さる。


「がはッ!!」


勢いよく飛び、近くにあった岩へとぶつかる。
砕けた石に埋まると、すぐさまその場から逃げ出す。
ワンテンポ遅れてさっきまでいた場所は、激しい砂埃を立て爆発する。


「避けられちゃったぁ……残念……でぇもぉ、そろそろかなぁ?」


エクスは目の前の視界がグルグルと回り始める。
気がつくと片膝をついていた。


「一体何が……」


「私の相手はあの女の子が良かったかもね。君は私の魅力に酔い惚れ、体が動かなくなっているわ、ふふふっ、貴方案外いい男じゃなぃ」


動けないエクスの首元を舐め、更に欲情させる。
その度に体が痺れていくのがわかる。






「ちっ、暑苦しいのはめんどくせぇ」


反撃の隙すら与えない連続攻撃に、《怠惰》の悪魔は防御をせざるを得なかった。
この状況を見て、誰しもがルーに軍杯が上がったと思う。
しかし、次第にルーの力は弱々しくなっていく。


「頭が痛い……目の前がぐるぐるする……気持ち悪い……」


「やっと静かになってきたか、クソガキ。あまり俺を動かすな、めんどくせぇんだよ」


わずかな隙を突き、《怠惰》の悪魔は反撃。
小さな体は簡単に飛んでいく。


「命令されたから戦ってるが、やっぱめんどくせぇ。勝手にやられていってくれ、俺はお前みたいなやつが大っ嫌いなんだよ。何かを守るために戦う、何かを救うために戦う。んなのは理由をつけて暴力を振ってるだけじゃねぇか。それだったら戦わなくて死ねばいいだろ、考えろ」


「ママを……」


「黙れっってんだろ」


ボロボロの小さな体はこれまた簡単に飛んでいく。
《怠惰》の悪魔は力を入れずともルーを軽く飛ばす。


「諦めろよ、お前じゃ俺どころか他の大罪人にすら勝てねぇよ」


「ルーは……負けないっ!!」


「そういうのがうぜぇんだよ!!」


今度の攻撃は全力を注がれていた。
蹴りは見事に腹へと命中。
ただ飛ぶだけではなく、生活する上で聴いたことがない音が響き渡る。


「じゃあな、クソガキ」


止まったルーの顔めがけて、正拳が放たれる。


「あ?」


砂埃で見えなかったが、《怠惰》の悪魔は手応えがなかったことを感じる。


「ルーは、負けない」


視界を覆っていた砂埃は風に流され、殺されたはずのルーは決死の思いで防御を取っていた。
ただの防御ではない事は《怠惰》の悪魔が一番わかっている。
純粋な殴りだったが、全身全霊全力の殴りだった。
力任せの攻撃を小さい体の、ましてや女の子が片手で止めているこの状況が信じられない。


「お前……一体何をした」


「ルーは負けるわけには行かない!」


両手の甲に一つずつ、五芒星が浮き出ていた。


「ベルフェゴール、そいつには気をつけろ。旦那のシナリオにはない、例外イレギュラーの存在だ。何があるかわからないぞ」


どこからともなく現れたファントムは、少しばかりの焦りを見せながら《怠惰》の悪魔へと告げ口をした。
《怠惰》の悪魔は嬉しそうな顔をしてその場を去ろうとする。


「やっぱ働くなんてバカだな」


「逃がすかー!」


ボロボロの体を無理やり動かし、全身の悲鳴は全部無視。
今出来る全力で《怠惰》の悪魔へと殴り掛かる。
嫌な顔をし、防御をとった瞬間《怠惰》の悪魔は力いっぱい後ろへと飛ぶ。


「てめぇ、力を隠していたのか?さっきまでとは比べ物になんねぇな」


「ベルフェゴール、さっさと退け。その両手の甲の五芒星、恐らく双星の子供だ。油断してると死ぬぞ」


「はぁ?双星?知るかよそんなもん。流石に今の攻撃で俺は堪忍袋の緒が切れたぜ、おいクソガキまだ戦えるよな」


ルーの返事を待たずに攻撃を仕掛けてくる。
小細工なしの、純粋な力比べが始まる。
二人は殴り続ける。
ルーが殴れば見事に顔に当たり、《怠惰》の悪魔が殴るとルーは少し体勢を崩す。
それでも二人は殴り続け、もはや手の動きは見えないほどだ。


「クソガキ、やるじゃねぇか。んなら、これはどうかな?」


《怠惰》の悪魔の周りが火の海へと変わる。


怠惰なる一撃アケディア・ストライク


背中から炎の翼が生え、僅かに中へ浮く。
瞬間、音速を超えた一撃がルーの腹部へと勢いよく命中する。


「おい、冗談はやめてくれ、めんどくさい」


ルーは手の甲を盾とし、強力な一撃を難なく防いだ。


「ま、時期に呪いが発動する。じゃあな、二度と俺を動かさせるな」


《怠惰》の悪魔はひらひらと手を振り、ルーに背中を向ける。
絶好の機会と思いルーが飛び出ると、体中に黒い文字のようなものが現れる。
《怠惰》の呪いはとても強く、ルーですらも防ぐことは不可能。
呪いは発動し、徐々にやる気を失っていく。
以前のリリーのように……

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