最弱が世界を救う。

しにん。

ルー。

昨晩は凄まじい戦いの連続だった。
借りた宿の部屋には三人。
エクス、レイン、ルーが面と向かって話をしていた。


「なぁ、どうしてルーはここにいるんだ?」


「パパとママの所に居てなにかダメなの?」


「そのルーの両親は少なくとも俺らじゃないよ?こう見えて俺は18でレインは16だし。国のルール上結婚できる歳だけど、はっきり言うと俺らは非常識だぞ」


「そんなこと言うんだエクスくん。へぇ……」


「冗談だって、って、ごめんごめん本当に冗談だからそんなに怒らないで!!」


ルーに向けていた視線をレインへ向けると、明けの明星を視線の代わりに向けていた。
軽く三途の川が見えたほどだ。
力は正しく使おうとエクスは心に誓った。


「冗談は置いといて、ルーちゃん本当に親を見たことないの?どんな人とか聞いてないの?」


「すっごく強い人達としか聞いてないよー。ルーよりも強い人ってこの国に居ないんだよね、だから私より強い人は初めてッ!!つまりパパはパパッ!!」


「よし、エクスくんこの娘飼おう」


「いや、せめて家族にしようじゃないかな!?」


「パパもママも仲良しー!」


ルーは二人に抱きつく。
知らない人から見ると、本当の家族に見えるだろう。


「わかった、じゃルーを俺達の娘にしよう。いいかいレイン?」


「元より私はこの娘を引き取るつもりだったよ。それでルーちゃん、今まで育ててくれた人は今どこに?」


「じゃ、紹介するねッ!でも今って夜だよねー?明日行こう!!」


エクス達は初めて子供を授かり、ルーと家族になった。
その後、疲れを癒すためにエクスはお風呂へと向かう。


「これで良かったのかなぁ……」


湯につかり、一連の出来事を反省する。
育て親に無断で預かることになって、エクスは罪悪感により押し潰される。
顔まで湯につけ、口から息を吐きブクブクとさせる。


「パパ────ッ!!」


「うぉお!?」


ゆっくりと休んでいると、いきなりドアが蹴り破られる。
飛んできたルーは湯船に勢い良くダイブする。
お湯は一気に減っていき、排水溝へと流れ行く。


「ちょ、ちょっと待て!!俺がお風呂入ってるだろ!?」


「えー、だってママがついでにお風呂入れって……ルー悪い子……?」


ルーは涙で訴えかける。
純粋無垢じゅんすいむくなその涙にエクスは騙される。


「悪かった、悪かった!!ルーはいい子だよ!」


「へへへっ、やったー!!」


さっきまでの涙は嘘のように一瞬で無くなる。
騙された、とエクスが気づく日は訪れない。


「ママがパパに洗ってもらえって言ってた!洗ってパパッ」


またしても幼女の涙にエクスは負ける。
仕方なく、エクスはルーの体を洗う。
タオルでルーの背中を洗っていると、レインから声が聞こえる。


「エクスくん発情しちゃダメだよー?」


「いや、するか!」


レインから言われ、エクスはルーをチラ見する。
ルーは何もわからず振り向く。
発達していない、未熟な体を見つめエクスは頭に血が上る。


「パパッ!?」


エクスは鼻血を出し、勢い良く後ろへ倒れる。


「あらぁ……」


大きな物音に気づき、レインが様子を見に来るとルーがエクスの上に乗り頬をビンタしていた。


「生きて!パパッ────!」


「ルーちゃん……それ逆効果だと思うよ」


ルーはふとエクスを見ると、完全に伸びていた。


「まぁ、後でエクスくんには謝ろっか」


二人は目を合わせニコリと笑う。
一方のエクスは鼻血(ルーのビンタも含む)の量が多く、気がつくまでに時間がかかったのは二人だけの秘密。




「あれ、俺は一体何を」


「お風呂でのぼせたんじゃないかな?いきなり鼻血を出して倒れてたよ?」


「確かルーがお風呂に入ってきて……そこから記憶が無い。何かあったのか?」


「いや、特に何も無かったよ。ねっ、ルーちゃん?」


「そうなのだー!パパが倒れたからビン……むぐっ」


「はーい、ルーちゃんは私とお風呂の続きに行きますよー」


なかば無理やりルーの発言を食い止め、その場を凌ぐ。
真実を隠し、二人はエクスが倒れていた空白の時間の犯人となった。


「ねぇ、ルーちゃん育て親ってどんな人?」


「すっごく強い人!でもね、今は腰が痛いらしくあまり動けないんだって。いてて、目にしみる」


「ちゃんと目をつむらないからだよ?」


レインはルーの髪を丁寧に洗い、入浴を済ませる。
次の日の朝、三人はルーを今まで育ててくれた人の元へと向かう。


「こらルーそんなに走ったら怪我するぞ」


「うー、ごめんなさい」


一人で走るのを止めたルーは二人と手を繋ぎ、ゆっくりと歩を進める。
元々インフィニティ・フォレストは人口が多い国ではない。
エクス達が旅してきた今までの国と比べると足下にも及ばない数だ。
この国の中心にある巨木、ユグドラシルをはじめとし国中緑で覆われている。


「ところで、目的地は何処なんだ?」


「えっとねー、あのおっきな木!」


指をさした方へ視線を送ると言葉を失う。
どうやらルーの育て親はユグドラシルにいるらしい。


「おいおい、マジかよ」


「よし、ルーちゃん行こっか」


「え、待ってレイン。何簡単に行けるみたいなこと言っちゃってんの?ここからあそこの木って一日歩いて辿り着けるかわからないでしょ」


遥か遠くのユグドラシルの根元を目を凝らし眺める。
どんなに目を凝らしても見えない根元を。


「大丈夫だよ、転移魔法があるじゃない」


「転移魔法?それって元々標的ポイントを付けた所にしか行けないんじゃなかったのか?」


「エクスくん救出のために私も修行したんだよね。今の私は標的ポイント無しでも、見える範囲なら何処へでも転移出来るようになったんだよ」


エクスは言葉を失い、黙ってレインの力を借りる。
一瞬でユグドラシルの根元に移動すると、目の前に扉があった。


「ここが玄関ッ!グラートさーん、帰ってきたよー!」


玄関を開け、ルーが叫ぶと奥の方から声が聞こえてきた。


「おぉ?なんじゃ、客か?」


出てきたお爺さんは髭を長く伸ばし、賢者のような見た目だった。


「ルーのパパとママみつかったよ!」


「そうかそうか、良かったなルーちゃんよ」


グラートと呼ばれたお爺さんはルーの頭を撫で、こちらへと視点を変える。
徐々に近づき、レインの前で止まる。


「な、何かな?」


「うむ可愛い、わしと結婚してくれ!」


「ぶっ殺すぞクソジジイ!!」


突然の求婚にエクスは声を荒らげる。
グラートは嫌な顔をし、文句を次々と言い始める。


「年寄りなんじゃからもっと敬え若者!バカ!」


「グラートさん、ルーとお別れなのだー。今日からパパとママと一緒に旅に行くんだー!すっごく楽しみー!」


「わかった、今までお前を育ててきたがお前が認めた強さなら文句は言わん。存分に楽しめよ」


グラートとルーが優しくハグをし、涙を流していた。
離れるとグラートはこちらへと向かってき、真剣な眼差しで口を開く。


「結婚してくれ!」


「いや、いい加減にしないと怒るぞ?」


「じょ、冗談じゃ。預かるにおいて一つ話をしておきたくてな。少しいいかな?」


「どうやら話をしたいってのは本当みたいだな、レイン少しルーと遊んでおいてくれ」


イェッサーと答え、ルーと外へ遊びに行く。
グラートに連れてこられた部屋は酷く殺風景だった。
周りを見渡してもあるものは机と椅子のみ。
窓もなく、恐らくユグドラシルの中央なのだろうか。
座れ、と言われ目の前の椅子へと腰掛ける。


「グラートとか言ったか、話はなんだ?」


「お前は双星という者達を知っているか?」


「双星……」


かつて、国と国との戦争が行われていた時代全てを終戦させたと言われる存在───双星。
その名は知れ渡ることなく闇へと消え去った。
双星は二つの希望の星と呼ばれ、伝説となるはずの存在だった。
双星と呼ばれるはずだった二人の名はノヴァとロット。
二人は互いを愛し合い、仲睦まじい夫婦だった。
しかし、二人の背後には戦争相手という壁が邪魔をしていた。
このままでは夫婦のはずなのに、敵となる。
そのことを恐れ二人は権力者へと、戦争を辞めるように訴え続けた。




「なぁ、そんな昔話をして俺に何を伝えたいんだ?」


「まぁそう言わずに最後まで聞いてくれ。ルーのことじゃと思って」


グラートはそのまま話を続ける。
度々グラートの淹れたコーヒーを飲み、喉を潤す。




ノヴァとロットの願いは届くことは無く、遂に二人の国は戦いを始めた。
戦力差はほぼなくこのまま行くと両者相打ち、もしくは他国から攻め入れられ両者負け。
そこまで追いやられた国は一つの案を出す。
『互いに負けることは無益だ。ここは同盟を組み互いに力を貸し合おう』。
その後同盟は組み、力を合わせ戦っていた。
そんな時、裏切り者がロット側の権力者の命を奪った。
犯人はノヴァ側の国と決めつけられ戦争は再び始まり、終わりのない戦いを繰り広げる。
戦争へ怒り、ノヴァとロットは国を抜け出し人気ひとけがない森の奥へと住み込む。
その時、二人の前に現れたのはとある神様。
『戦争を終わらせる力を授ける』と言われ、二人の心臓に当たる部分が光り始め、人のことわりを超えた力を得て戦争を終わらせた。
全ての国を負かせ、徐々に傘下へと入れ世界中の国を統合も近かった。
もう少しで終戦という所まできて、二人の命は儚く舞う。


「一体なんで死んだんだ?病気か?暗殺か?」


「魔力に喰われたそうじゃ。神様から貰った力は命と引換に得る力らしい」


「知らずに力を使っていた……のか?」


「察しがいいの。まさにその通りじゃ」


「酷いな……それでそれは何年前の話だ」


「そうじゃな、説話とも言われているからハッキリとわかっていないが千年以上前だろうな」


グラートの長話が終わり、エクスはふと疑問に思う。
なんでこの話を聞いているんだ?と。
考えていると一つの仮説がエクスの中で浮かび上がっていた。


「まさかその双星って、ルーの両親なのか?」


「うむ、そうじゃ」


「いやいや、ありえない。千年以上前の話なんだろ?ルーが生きてるわけない」


「実は、ルーは封印されし双星の子にして創世の子と言われる神の子じゃ」


「神の子?封印?全く話が掴めない」


「ノヴァとロットの二人が残した最後の希望がルーじゃ。じゃが、その力を恐れた人々はルーを長い眠りにつかせた」


「本音を言うと話についていけないんだが」


「要約するに、双星と呼ばれた英雄の子がルーってことじゃ」


「なら双星の説明はなんだったんだ?」


「久しぶりの客人じゃ、わしだってお喋りを楽しみたくての」


はぁ、と重いため息一つ。
エクスは最後の疑問をぶつける。


「力を恐れたってことは、ルーは強くなるってことだよな。だからそれを超える力で制御するための親を探していたってことか?」


「ハズレ。本当の狙いはルーに幸せになってもらいたいんじゃ。あの子の力は異常故に皆が恐れる。だから、容易に里親を探すと必ずルーは悲しい思いをする。これは思い込みではなく、現に恐れられたからこんなことを言っている」


「そんな過去が……」


ルーの過去を知り、言葉を失う。
確かに、異端者が近くにいるだけで人は虐め、妬み、恐れ、避ける。
馬鹿じゃないのか?と思う人が多くない。
その人たちは虐められたことや避けられたことがない人たち。
エクスは死ぬほど辛い思いをしてき、その事の辛さは誰よりもわかっているつもりだった。


「それら全てを踏まえて頼みたいことがある。ルーを幸せにしてやってくれ」


グラートからの心の底からのお願い。
先程までの冗談をいうグラートはもういない。


「わかった、責任もって俺がルーを幸せにしてやる」


「その言葉が聞きたかった。これなら安心してルーを任せられる」


ニカッと笑うと、グラートは椅子から崩れ落ちる。
先程からのグラートの様子にエクスは気づいており、近いのを知っていた。


「お前の分も、しっかりとルーを守ってやるからな」


グラートの顔は優しい笑顔のままだった。

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