最弱が世界を救う。
新しき旅。
結婚式から数日、二人は早速旅に出ていた。
「んー、ここの空気は美味しい」
「緑の国、インフィニティ・フォレストか。初めて来たけどどこを見ても木が生えてるな」
二人が訪れていた国、インフィニティ・フォレストはその名の通り自然豊かな国である。
悪く言えば田舎であるが、その温もりを求めて訪れる旅行人も少なくない。
「新婚旅行のついでの旅のつもりだったけど、ここに来て正解だったな」
「そうだね、私にとって特別な思い出になりそうだよ」
二人が和気あいあいと話していると、小さな男の子から話しかけられた。
「ねぇ、少しいいかな?」
「どうしたのボク?」
「君たちってあの有名な、悪魔殺しの二人?」
「あ、悪魔殺し……?」
「知らないの?」
レイン達の知らぬ所では、悪魔殺しと勝手に名付けられているらしい。
「悪魔殺しのエクスとレインって言われてるけど」
「そっか、私たちそんな二つ名を貰ってたのね」
「喜ぶなよ、レイン」とエクスは呆れた顔で言う。
「それでボク、私達に何かあるのかな?」
しゃがみこみ、男の子の視線まで落とす。
「君たち強いって本当なの?」
「答えづらい質問だね……自分で言うのもなんだけど、私達強いよ」
「へぇ……それじゃ」
小さな男の子はそれだけを言い、別の場所へと歩いていく。
「あ、ちょっと……行っちゃった。何だったのかなあの子」
「僅かだが、魔力を感じ取れるからあれは恐らく悪魔だ」
ソロモンから体を奪われていた時、エクスはずっと意識はあったらしい。
その時、悪魔の独特な魔力を直で感じ、区別する技を身につけていた。
「尚更不思議が残るね。悪魔が私たちの前に現れて、あの質問。全然意図が読めない」
「考えても無駄ってとこかな。特に強い魔力を感じたわけじゃないから、脅威じゃないだろ」
そこで小さな男の子に関する話は終わった。
二人がインフィニティ・フォレストへ来た、と噂が流れ始め瞬く間に周りに人が集まる。
「ありがとう」や「残りの悪魔もやっちまえ!」のような、感謝と怒り全てを二人へぶつけていた。
「ははは……人気者も辛いね」
「人が少なそうな所を選んだつもりだったんだが、なかなかに上手くいかないもんだな」
二人が苦笑いを浮かべていると、一人の女性が場を仕切り始めた。
「はいは〜い、みんなぁこの二人困ってるよぉ?解散解散〜」
パンパンと手を叩くと、皆冷めたように去っていった。
これもこれで、悲しくなるが。エクスはそう思ったが、言葉を飲み込む。
「いやぁ、ごめんねぇ?」
女性はゆっくりとした喋りで、豊満な胸を揺らし振り向いた。
一瞬、エクスは立ちくらみを起こし、ふらつく。
「ちょっと大丈夫?まだ体が万全じゃないから無理はダメだよ?」
「善処はするよ」
エクスが目覚めた日以降、体への負担は大きく、長距離の移動は控えている。
「へぇ〜、君たちが悪魔殺しの二人なのかぁ。思ってたよりも弱そうかなぁ」
女性は二人を挑発するように話す。
まんまと餌につられたのは、案の定レインだった。
「私が弱いって?勝手な偏見はやめて欲しいんだけど」
「じゃあ、私を倒してみてよぉ」
女性は今も尚レインを煽り続けていた。
「上等じゃない?いいよ、やってあげる」
女ってやっぱ怖いとエクスは心の中で呟いた。
二人は戦うために、別の場所へと移動する。
その間もエクスは必死に止めようとはしたものの、聞く耳を持たない。
「ここでいいかな?」
「いいですよぉ」
小さな草原で、二人は視線をぶつけていた。
「これは俺にはどうにも出来ないな。本当俺らどこいっても戦いしかしてない気がするな」
エクスが独り言を呟いている内に二人は既に戦っていた。
レインは大天使形態にはならず素の状態で、もう一人の女性はその辺で拾ったような木の枝を持っていた。
「炎に焼かせし大地よ、我が力に答えよ!!火の弾丸」
レインは右手で殴りかかろうとすると、女性は後ろへ軽く飛び避ける。
ニッとレインは笑うと、拳から火の玉が飛び出てくる。
「────ッ!!」
女性は驚きバランスを崩す。
「決まった」とレインが笑うと、レインは気を失う。
「まだまだ青いなぁ……こんなんでよく悪魔を倒せたもんだよぉ」
柔らかな声は、次第に変貌する。
「全くだッ!こんな雑魚で英雄?ふざけんじゃねぇぞ」
先程までのイメージとは違い、別人のように話し方が変わる。
表情も笑から怒へとなる。
「そこまでだ、お前は誰だ」
「あぁ?もう一人の英雄サマか……どうせお前もゴミなんだろ?こんな奴らに助けられた人間ってのは無様だなッ!!」
「その辺にしないと……怒るぞ」
圧倒的な速度で女性の元まで辿り着き、気がつくと剣は首を狙える所で止められていた。
「へぇ……アンタはやるみてぇだ……なッ!!」
蹴りを躱し、レインの体を回収する。
一度距離を取り、目の前の敵を警戒する。
「あぁ、面白くなってきやがったぜッ!俺様と遊ぼうぜッ!」
女性が吠えると、突然現れた少年に殴られ倒れ込む。
「すまなかったな……姉さんが迷惑をかけた」
少年は気を失った女性を抱え、消える。
「さっきの奴は……」
少し前に出会った悪魔の少年だった。
エクスが考えているとレインは目を覚ました。
「あれ、私なんでここに……」
「目を覚ましたか、これは厄介な事になりそうだぞ」
事情を説明し、エクスの推測を話す。
「なるほど、あれほどの手練の悪魔と言うことは七大悪魔の可能性ってことだね」
「正解。まぁ、悪魔なのは確定だ、あれほどまでの禍々しい魔力は見たことないけど……」
「それよりも、エクスくんなんか前よりも強くなってない?私から見ても明らかに力が倍────いや、それ以上に感じられるけど」
「俺だってずっと寝てたわけじゃないよ。ムシュに眠っている間修行をつけてもらったんだ」
エクスは過酷な日々を思い出す。
「マスター、そんなものでは行けませんよ。ここは仮想現実ですので、もっと殺す気で来てください」
「殺す気言っても、明らかにムシュの方が強いから倒せないよな」
「強い相手だから負ける?マスターはおかしなことを言うのですね。では、今までマスターが倒してきた七大悪魔はマスターよりも弱かったから勝てた、そういう事ですか?」
「……」
ムシュの言葉にエクスは口を濁す。
実際、言われた通り弱かったから勝てた訳ではない。
はっきり言うと七大悪魔を倒せたのは奇跡に近い事で、全てギリギリの戦いだった。
「マスター、貴方はまだ弱い。弱さとは立派な強さです。弱さを受け入れた時初めて人は成長するのです。さぁ、ここで躓いていては皆に笑われてしまいますよ」
「ありがとう、今ので少し元気が出てきた」
ムシュと戦っている最中、一つの視線に気づく。
じっと、見つめると視線の主は姿を現す。
「すまない、私だ」
「ソロモン……どうしてお前がここにこれる」
「失礼ながら私がお呼びしましたマスター」
ムシュの記憶の図書館に入るためには、ムシュの同意がいるためエクスは何も言うことが出来ない。
「で、俺たちに何か用か?」
「単刀直入に言う。私はレインに敗れ死ぬ、私の夢君に託したくなった」
悪魔の未来予知を使い、ソロモンは負けることを知っていた。
せめて、生きた証を残すため意志をエクスに継がせる。
それが、ソロモンに出来る最後の仕事。
「夢……とは?」
「世界を救う事だ、訳分からない事だと思うが今世界は何者かによって操られている。私の夢、いややるべき事はその何者かを倒すことだ」
生前の記憶を全てエクスに伝える。
「それが嘘じゃないという証拠はあるのか?」
「マスター、嘘はありません」
ムシュの言葉に、エクスは信じること以外何も出来なくなった。
「わかった、ソロモンの意志継いでやろうじゃねぇか」
掌と拳をぶつけ、エクスは覚悟を決める。
「で、その何者かの名前とかは?」
「全知全能の神、ゼウス」
ゼウスの名前を聞き、ムシュはピクッと動くがすぐさま平然を装う。
「ソロモン、ただ意志を継がせるためにここに来たんじゃないんだよな?本題に入ろうよ」
「察しがいいな、君の予想通り目的は別にある。これを受け取ってほしい」
光るものを投げられ、ギリギリの所をキャッチする。
「おっと、これは?」
「ソロモンズリングだ。私の力の全てをそこへ注いでおいた。私でも倒せない相手を倒して欲しいと言っているんだ。私以上の力じゃないとダメだろ?」
エクスとソロモンはニッと笑い、拳同士を当てる。
男と男の友情が、暑苦しく結ばれる。
「んー、ここの空気は美味しい」
「緑の国、インフィニティ・フォレストか。初めて来たけどどこを見ても木が生えてるな」
二人が訪れていた国、インフィニティ・フォレストはその名の通り自然豊かな国である。
悪く言えば田舎であるが、その温もりを求めて訪れる旅行人も少なくない。
「新婚旅行のついでの旅のつもりだったけど、ここに来て正解だったな」
「そうだね、私にとって特別な思い出になりそうだよ」
二人が和気あいあいと話していると、小さな男の子から話しかけられた。
「ねぇ、少しいいかな?」
「どうしたのボク?」
「君たちってあの有名な、悪魔殺しの二人?」
「あ、悪魔殺し……?」
「知らないの?」
レイン達の知らぬ所では、悪魔殺しと勝手に名付けられているらしい。
「悪魔殺しのエクスとレインって言われてるけど」
「そっか、私たちそんな二つ名を貰ってたのね」
「喜ぶなよ、レイン」とエクスは呆れた顔で言う。
「それでボク、私達に何かあるのかな?」
しゃがみこみ、男の子の視線まで落とす。
「君たち強いって本当なの?」
「答えづらい質問だね……自分で言うのもなんだけど、私達強いよ」
「へぇ……それじゃ」
小さな男の子はそれだけを言い、別の場所へと歩いていく。
「あ、ちょっと……行っちゃった。何だったのかなあの子」
「僅かだが、魔力を感じ取れるからあれは恐らく悪魔だ」
ソロモンから体を奪われていた時、エクスはずっと意識はあったらしい。
その時、悪魔の独特な魔力を直で感じ、区別する技を身につけていた。
「尚更不思議が残るね。悪魔が私たちの前に現れて、あの質問。全然意図が読めない」
「考えても無駄ってとこかな。特に強い魔力を感じたわけじゃないから、脅威じゃないだろ」
そこで小さな男の子に関する話は終わった。
二人がインフィニティ・フォレストへ来た、と噂が流れ始め瞬く間に周りに人が集まる。
「ありがとう」や「残りの悪魔もやっちまえ!」のような、感謝と怒り全てを二人へぶつけていた。
「ははは……人気者も辛いね」
「人が少なそうな所を選んだつもりだったんだが、なかなかに上手くいかないもんだな」
二人が苦笑いを浮かべていると、一人の女性が場を仕切り始めた。
「はいは〜い、みんなぁこの二人困ってるよぉ?解散解散〜」
パンパンと手を叩くと、皆冷めたように去っていった。
これもこれで、悲しくなるが。エクスはそう思ったが、言葉を飲み込む。
「いやぁ、ごめんねぇ?」
女性はゆっくりとした喋りで、豊満な胸を揺らし振り向いた。
一瞬、エクスは立ちくらみを起こし、ふらつく。
「ちょっと大丈夫?まだ体が万全じゃないから無理はダメだよ?」
「善処はするよ」
エクスが目覚めた日以降、体への負担は大きく、長距離の移動は控えている。
「へぇ〜、君たちが悪魔殺しの二人なのかぁ。思ってたよりも弱そうかなぁ」
女性は二人を挑発するように話す。
まんまと餌につられたのは、案の定レインだった。
「私が弱いって?勝手な偏見はやめて欲しいんだけど」
「じゃあ、私を倒してみてよぉ」
女性は今も尚レインを煽り続けていた。
「上等じゃない?いいよ、やってあげる」
女ってやっぱ怖いとエクスは心の中で呟いた。
二人は戦うために、別の場所へと移動する。
その間もエクスは必死に止めようとはしたものの、聞く耳を持たない。
「ここでいいかな?」
「いいですよぉ」
小さな草原で、二人は視線をぶつけていた。
「これは俺にはどうにも出来ないな。本当俺らどこいっても戦いしかしてない気がするな」
エクスが独り言を呟いている内に二人は既に戦っていた。
レインは大天使形態にはならず素の状態で、もう一人の女性はその辺で拾ったような木の枝を持っていた。
「炎に焼かせし大地よ、我が力に答えよ!!火の弾丸」
レインは右手で殴りかかろうとすると、女性は後ろへ軽く飛び避ける。
ニッとレインは笑うと、拳から火の玉が飛び出てくる。
「────ッ!!」
女性は驚きバランスを崩す。
「決まった」とレインが笑うと、レインは気を失う。
「まだまだ青いなぁ……こんなんでよく悪魔を倒せたもんだよぉ」
柔らかな声は、次第に変貌する。
「全くだッ!こんな雑魚で英雄?ふざけんじゃねぇぞ」
先程までのイメージとは違い、別人のように話し方が変わる。
表情も笑から怒へとなる。
「そこまでだ、お前は誰だ」
「あぁ?もう一人の英雄サマか……どうせお前もゴミなんだろ?こんな奴らに助けられた人間ってのは無様だなッ!!」
「その辺にしないと……怒るぞ」
圧倒的な速度で女性の元まで辿り着き、気がつくと剣は首を狙える所で止められていた。
「へぇ……アンタはやるみてぇだ……なッ!!」
蹴りを躱し、レインの体を回収する。
一度距離を取り、目の前の敵を警戒する。
「あぁ、面白くなってきやがったぜッ!俺様と遊ぼうぜッ!」
女性が吠えると、突然現れた少年に殴られ倒れ込む。
「すまなかったな……姉さんが迷惑をかけた」
少年は気を失った女性を抱え、消える。
「さっきの奴は……」
少し前に出会った悪魔の少年だった。
エクスが考えているとレインは目を覚ました。
「あれ、私なんでここに……」
「目を覚ましたか、これは厄介な事になりそうだぞ」
事情を説明し、エクスの推測を話す。
「なるほど、あれほどの手練の悪魔と言うことは七大悪魔の可能性ってことだね」
「正解。まぁ、悪魔なのは確定だ、あれほどまでの禍々しい魔力は見たことないけど……」
「それよりも、エクスくんなんか前よりも強くなってない?私から見ても明らかに力が倍────いや、それ以上に感じられるけど」
「俺だってずっと寝てたわけじゃないよ。ムシュに眠っている間修行をつけてもらったんだ」
エクスは過酷な日々を思い出す。
「マスター、そんなものでは行けませんよ。ここは仮想現実ですので、もっと殺す気で来てください」
「殺す気言っても、明らかにムシュの方が強いから倒せないよな」
「強い相手だから負ける?マスターはおかしなことを言うのですね。では、今までマスターが倒してきた七大悪魔はマスターよりも弱かったから勝てた、そういう事ですか?」
「……」
ムシュの言葉にエクスは口を濁す。
実際、言われた通り弱かったから勝てた訳ではない。
はっきり言うと七大悪魔を倒せたのは奇跡に近い事で、全てギリギリの戦いだった。
「マスター、貴方はまだ弱い。弱さとは立派な強さです。弱さを受け入れた時初めて人は成長するのです。さぁ、ここで躓いていては皆に笑われてしまいますよ」
「ありがとう、今ので少し元気が出てきた」
ムシュと戦っている最中、一つの視線に気づく。
じっと、見つめると視線の主は姿を現す。
「すまない、私だ」
「ソロモン……どうしてお前がここにこれる」
「失礼ながら私がお呼びしましたマスター」
ムシュの記憶の図書館に入るためには、ムシュの同意がいるためエクスは何も言うことが出来ない。
「で、俺たちに何か用か?」
「単刀直入に言う。私はレインに敗れ死ぬ、私の夢君に託したくなった」
悪魔の未来予知を使い、ソロモンは負けることを知っていた。
せめて、生きた証を残すため意志をエクスに継がせる。
それが、ソロモンに出来る最後の仕事。
「夢……とは?」
「世界を救う事だ、訳分からない事だと思うが今世界は何者かによって操られている。私の夢、いややるべき事はその何者かを倒すことだ」
生前の記憶を全てエクスに伝える。
「それが嘘じゃないという証拠はあるのか?」
「マスター、嘘はありません」
ムシュの言葉に、エクスは信じること以外何も出来なくなった。
「わかった、ソロモンの意志継いでやろうじゃねぇか」
掌と拳をぶつけ、エクスは覚悟を決める。
「で、その何者かの名前とかは?」
「全知全能の神、ゼウス」
ゼウスの名前を聞き、ムシュはピクッと動くがすぐさま平然を装う。
「ソロモン、ただ意志を継がせるためにここに来たんじゃないんだよな?本題に入ろうよ」
「察しがいいな、君の予想通り目的は別にある。これを受け取ってほしい」
光るものを投げられ、ギリギリの所をキャッチする。
「おっと、これは?」
「ソロモンズリングだ。私の力の全てをそこへ注いでおいた。私でも倒せない相手を倒して欲しいと言っているんだ。私以上の力じゃないとダメだろ?」
エクスとソロモンはニッと笑い、拳同士を当てる。
男と男の友情が、暑苦しく結ばれる。
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