最弱が世界を救う。

しにん。

図書館。

「それでは、私の仕事はこれで終わりですね。また何かありましたらいつでも召喚イヴォークしてください」


そう告げるとセーレはゴエティアの中へと吸い込まれ消える。
突然倒れたソロモンの命に別状は無かった。
ただ、ダメージは無いはずだがずっと眠り続けている。


「ソロモン、さん」


涙を流し、ソロモンをギュッと抱き締める。






目の前には無数の本が並び、大きな図書館を連想させるほどだった。
初めのうちは警戒し辺りを探索していたが一つの答えだけが導き出される。


「この本は全て記憶が記録されている、か」


答えへと辿り着いた時、後ろから足音が聞こえる。
カツンという音は段々と近づいて来て、後ろで止まる。


「敵か味方か、お前はどっちだ」


「私は味方です。マスター」


いきなりマスターと呼ばれ驚き後ろを振り返る。
目の前には小さな女の子が立っていた。
ミルティだと考えたが、全く違う容姿に否定される。
少女は本を片手にただ一点、こちらをずっと見ている。


「マスター、いえ。ソロモン。貴方が何故ここに踏み入ることが出来たのですか?」


「私に聞くな。気がついたらここにいた。それだけだ」


「ここへ立ち入る事が可能な人物はただ一人。我がマスターのエクス様のみです。他人が入れる場所ではありません、今すぐ立ち退いて頂くことを推奨します」


「戻れるんならこんなつまらない所にいつまでもいる訳がないだろ。お前、帰り方わかるか?」


「試練を成功もしくは死。それ以外は出れません」


「死、か。もしここで死ぬと現実の私はどうなる?」


「もうわかっていますよね」


目の前に立つ少女からは不気味な笑が零れる。
ソロモンは冷や汗をかき、目の前の敵に全神経を集中させる。


「あぁ、私の名前言ってませんでしたね。私はムネモシュネのムシュです。以後お見知り置きを」


スカートの裾をつまみお辞儀をする。
人形のように無表情で、機械のように仕組まれた動きで動き出す。


「お前はロボットか……?」


「私はこの図書館、正式には『記憶の図書館』の管理者です。マスターのエクス様の精神世界で生きています」


「さて、私はここで御暇させてもらう。グリモワール・ゴエティア!!」


いつものように、ゴエティアを呼ぶが何もこない。
してや音一つなく、ムシュはこちらを見つめる。


「クソッ!!唸れ、聖なる水よ!!ネプチューン!!」


ゴエティアのみならず、魔法も使えなくなっていた。


「一体何をした!!」


「私の空間でお痛はいけませんよ?」


「空間……固有結界か?」


「はい。確かセレネという子も固有結界を使っていましたね。ソロモンによって壊されていましたが。ですが、あの子と同じと貰っては心底不愉快です」


固有結界は自分で空間を作り出し結界を貼る。
これを作れる者は世界で一人。
パルス神殿の主セレネだけと言われている。
その彼女でさえ不可侵領域を作るので精一杯。
しかし、ムシュはその上を行く固有結界を使っている。


「お前は一体何者なんだ」


「この図書館の管理者です」


空間が小さくなっていくのを感じ取る。
タダでさえ魔法やそのたぐいを使えないこの空間が、徐々にせばまっていく。


「大人しく死んでください。貴方は存在してはならないのです」


冷酷な言葉が静かな空間を引き裂く。
実力の差を思い知り、ソロモンは負けを認め──
その瞬間、胸のネックレスが蒼く光り輝く。


「そのネックレスはレヴィ様のですね。返してもらいましょう」


「残念だったな。この勝負、俺の勝ちだ。なぁ、そうだろ?エクス」


背後から現れたのは紛れもないエクスだった。


「ムシュ、済まない。こいつが死ぬと俺も死ぬ。どうかこの場は見逃して欲しい。恐らくここへ迷い込んだのは俺の精神を封印した代償だろう」


「イェス、マスター。仰せのままに」


気がつくと固有結界が解除されていた。
ソロモンは今過ごした時間が永遠にも感じられた。


「助かったぜエクス」


「思い上がるなよ」


向けられたものは殺意。
今この場にソロモンの味方はいない。


「ちっ。負けを認めるからこの図書館から出してくれ」


「ムシュこいつを外へ出せ。いいか、いつかお前を殺す」


普段とは掛け離れたエクスの怒りの姿を見て、ムシュは胸をなで下ろす。
ちゃんとエクスが他人へ怒っていることに。


「イェス、マスター」


指を鳴らすと、ソロモンの前へドアが出現する。
無言で察し、ソロモンはドアの向こうへと消えていく。

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