最弱が世界を救う。

しにん。

《強欲》2

マモンの前に立つはパルス神殿の主、セレネ───ただ一人。
他の者は皆倒れ、セレネ本人の魔力もほぼ底を尽き戦える状態ではない。
百人中百人が答えるだろう。負けいくさと。
だが、セレネは諦めることはしなかった。
今ここで諦めること、それは他の者の死を意味する。


「私は……死ぬまであらがう。例え、勝てる希望が無くとも!!」


セレネは大声で叫び、回復した微々たる魔力で鎧を再構築。
マモンは余裕の笑みを浮かべ、セレネへ襲いかかる。
紙一重で攻撃を避け反撃するが、届かない。


「お前はもう充分あらがっただろう?最後は楽に殺してやるよ。感謝するんだな。」
「まだだ……まだ、終わっちゃいない!!」


普段は清楚なセレネだが、今は似ても似つかぬ、あられもない姿になっていた。
全身からは血が流れ出て服を赤く染める。
傷口は回復魔法ですぐに塞がっているが、徐々に回復は間に合わなくなって行く。


「娘よ、助け舟を出してやろう。ここまで耐え抜いた事を称え、儂の嫁に来る気はないか?さすれば命だけは助けてやろう。」
「そ、それは……今この場にいる全員助けるのか……?」
「お主が嫁に来るなら考えてやらんでもない。」


セレネは苦渋くじゅうの決断をいられていた。
一人が犠牲になるだけで、みんなが助かる。


「私一人が犠牲に───」
「セ、レネ……やめ……」


意識をかろうじて取り戻したエクスが止めにかかるが、セレネは涙を流しながらマモンへと歩を進める。


「ごめんっ!!勝手なのはわかってる……でも……でも、これしか道がない。他に正しい答えは存在する……の?」


涙を流し、エクスに訴える。
勿論、誰もが答えなんて導き出せない。
セレネの言う通り黙ってしたがうのが最善の手だろう。


「本当に……その道が正しいと思うなら、そのまま進め……でも、セレネは、泣いて、る。」


セレネは泣き崩れ、自分が出した答えを悔やむ。


「わかってる……わかってるよっ!!」


マモンはただ黙って目の前の光景を楽しんでいた。


「愚かな種族だ。そんなに命が恋しいか?」
「お前にはわからないだろうな……命の大切さを。」


エクスはレヴィから貰ったネックレスを握り締め、喉を震わせる。


「命……ねぇ。お主らこそ、我ら悪魔達を殺しているがその辺はどうなんだ?」
「それは……」


言葉をにごすエクスをさらに追い込む。


「お主らが殺してきた悪魔の達はどんな気分だろうなぁ?命の大切さを知らねぇのはお主の方だ。」


マモンはエクスの顔を蹴り飛ばす。
何度か蹴りを繰り返す内に飽きたのか、剣を取り出す。


「さぁ、ファナーレだ。」


エクスへと剣を突き刺そうとした瞬間、とてつもない魔力が現れる。
その場にいた全員が魔力の方へ目をやると、眠っていたレインが立っていた。


「よくも……よくもエクスくんを。」


レインは魔力だけでなく、容姿ようしにすら違和感を覚える。
普段の白いドレスなのは変わらないが、背中に6対の合計12本の翼が生えていた。
美しく、神々しいオーラを放っている。


「レインなのか……?」
「遅れてごめん。いや……いろんな意味でごめん。」


レインはただ謝ることだけをして、マモンへと殺意を向ける。


「よくもエクスくんをやってくれたね。覚悟はいい?」


翼を大きく広げ、空に浮かぶ。
それは、天使のように……


「聖宝星砕き。来よ。」


レインは最大の武器『星砕き』を顕現させる。
今までとは比べ物にならないほど光に包まれていた。

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