閃雷の元勇者

しにん。

9話 開戦

 いよいよ始まる『剣魔武闘会フェスタ』。
 今回初の試みにより、外部の観客に加え国王陛下と賢者シンも姿を現している。唯一居ないとすれば、来る予定に加えられていた、エースの勇者だけ。


「結局来ませんでしたわね……」


「……そうだな」


 勇者が来なかったことを知り、レティは儚げな表情をする。本当にこの道が正解なのか、複雑な気持ちで心が押し潰されていく。


「今回の『剣魔武闘会フェスタ』を心よりお待ちしていた皆様、大変待たせた。互いに競い合い、たたえ合い、戦い抜くことを誓え」


「我が名において、正々堂々と戦い抜くことを誓う。生徒会長、アイン・クロセル」


 生徒会長が選手宣誓をし、開会式は無事閉会される。
 剣魔武闘会フェスタの参加者は合計40人。961人の生徒が棄権し、観客の席へと座っている。自由参加とは聞いていたが、ここまで辞退する者が多いとは、正直考えていなかった。人数が減った分、優勝できる確率はぐんと跳ね上がる。
 だが、生徒会長がいる限り、そう簡単には出来ないだろう。裏で行われているという、優勝予想の賭けでは圧倒的差で生徒会長が1位になっていた。やはり、誰しもが認める強さなのだろう。アリスとの約束を果たすためには、生徒会長という大きな壁を超えなければ、成し得ないものだ。


「お兄ちゃん……?」


「色々と楽しみになってきた……アリスとの約束、必ず守る」


 返事はなく、ニコッと笑う。無邪気なその笑顔は、汚れなき純粋なもの。かつて、オレにもこんな表情が出来たのか、なんてことを考えていると、誘導員に部屋へ案内される。


「参加者全員集まったな。今回初の試みだ。なにかトラブルや問題が起こると予想されている。くれぐれも、巻き込まれないように頑張ってくれ」


 案内された部屋へ入ると、オレらの先生が前に立ち、参加者全員へ説明を始めていた。


「最初に、予選はグループを4つに分ける。各10人のグループの中で、2人が勝ち上がり、計8人のトーナメントで決勝杯を戦ってもらう。勝敗の判断は、仮想戦闘と同様、戦闘体が活動限界になるか降伏だけだ。また、特別ルールとして、各自衣装を用意してもらっていると思うが、その衣類への魔法の干渉は可。耐火など、様々なオプションを付けてもいいと決定された」


 その言葉を聞き、全員が驚きどよめく。それもそのはず、戦う相手で効果が違う衣装を用意すると、必ず有利に立てる。もちろん、相手の攻撃を知っておく必要があるのは当たり前だが、事前の下調べも実力のうちだろう。


「また、衣類への魔法の干渉は制限を付けさせてもらう。公平を保つため、衣装は一つのみとする。どの耐性や効果を付けるかはよく考えるように。それでは説明を終わる。グループ仕分けは前に貼ってあるものを見るように。万が一、試合に遅れるようであれば不戦勝となり、相手の勝利となる。気をつけるように」


 魔法が使えないオレにはほぼ無関係のようだ。誰かに魔法の効果を付けてもらうのも考えたが、止めた。オレはオレの信念を貫き通し、戦うと決めた。魔法が悪いとは言わないが、今のオレにはそんなズルをして勝つ気なんて無い。誰が何を言おうが、魔法を使うのは奥の手としても使わない。


「どんな組み合わせになったか……楽しみだ」


「お兄ちゃんは……Aグループだね。メンバーは……」


 オレが配属されたAグループには、上位20名の名は一番少なかった。
 正直、上位者以外には負ける気は無いため、また、名前を聞いたことがないため、誰かすらもわからない。
 メンバーとしては、5位シルベスター・オーラ、11位リネッタ・シルヴィ、13位カイン・ハンズネットの名が記されていた。全員戦ったことはないが、上位者のため簡単には勝たせてくれないだろう。最も、このグループに生徒会長がいなかった事が、幸運とも言えるだろう。


「アリスの所はどうなった?」


「1位、3位、9位、14位、15位、がいる」


「10人中6人が上位20名か……それに、生徒会長とフォードエンも居ると考えると、狭き門……だな」


「大丈夫。アリスの夢は、お兄ちゃんに託してる」


「悔いの残らないよう戦えよ。オレも全力で戦う」


 少し照れながら、拳と拳を合わせ別々に歩いていく。試合はこの後すぐ行われるため、急いで会場へ行かないといけなかった。
 走って向かっていると、途中生徒会長に呼び止められる。


「ライガ……決勝まで上がってこねぇとぶっ殺すからな」


「安心しろ、負ける気なんて無い。オレの優勝を指をくわえて見ているんだな」


「せいぜい4位に負けるなんてことはねぇようにな」


「……忠告どうも」


 足早に会場へ向かうと、既に会場は盛り上がっていた。オレ以外のAグループのメンバーは並んでおり、オレ待ちだったようだ。それでも、開始には5分ある。どうやらAグループは血の気が多い者が多いようだ。


「Aグループの試合ただ今をもって開幕だ。トーナメントで勝ち上がった2名のみが決勝杯への挑戦権を手にする。また、2回戦目の余りはくじ引きで決め、シード権を獲得する。2回戦を勝ち抜いた2名と、シード権を獲得した1名の計3名で、さらにくじ引きをし、戦ってもらう。運が良ければ、1回勝つだけで決勝へ行けるが、運も実力のうちって事だ」


 遂に、試合が始まってしまう。兎にも角にも、勝つことが優先である。コートを羽織り、フードを被りさらにはマスクを付け、顔を隠す。これで、先日の敵にオレだという事がバレないだろう。


「Aグループ1回戦第1試合、序列46位テレッタ・バーネ対、序列13位カイン・ハンズネット。試合……始めッ!!」


 審判の合図とともに、両者走り出し攻撃を仕掛け合う。


「ハンズネットって奴はどんな戦い方をするんだ?」


「彼の二つ名は、暗黒魔王。暗黒魔法により作り出された剣で戦う。あまり魔法とは言えない……?かな」


「なるほど……おっ、あれが言ってた剣か。あれはもう大剣だな。身体と同じくらいかそれ以上の大きさか」


 ハンズネットが作り出した大剣はとても大きく、対人には向いていない武器だ。小回りが利かないため、大型用の狩りにしか使えないだろうと考えていたが、彼の筋肉の付き方や腕の良さ、それらを含めて見ると完成されている強さだった。


「これは流石に序列の差って奴か?バーネは押され続け、防御に専念しているせいで攻撃が出来ていない」


 バーネの動きや魔法もよく訓練されたものだったが、ハンズネットの大剣に全て斬り伏せられていた。あれはもう斬るではなく、叩き斬るだ。
 バーネが繰り出した炎の玉を避け、豪快なスイングで身体ごと真っ二つへ。


「勝者、カイン・ハンズネットッ!!」


 うおおおお、と会場が熱気に包まれる。
 ハンズネットは魔法をあまり使わず、己の身体のみを信じ戦う。オレとよく似ているような奴だった。とても強敵だ。
 ハンズネットは大きく握り拳を掲げ、雄叫びをあげていた。
 続いて2試合目。オレの出番がやって来た。相手は上位者ではないが、油断は禁物だ。


「序列外オーラス・ライガ対、序列29位ウーラ・レベンタ。試合……始めッ!!」


 まずは相手の出方を観察する。
 右近うこんだけ呼び出し、軽く握りしめる。
 レベンタが動き始めると同時に、全神経を集中させる。相手がどんな動きをしようが、経験の差がある以上それは埋まらない。故に、戦いにおいては負ける気がしない。


「雷魔法――雷神の演舞ッ!!」


 彼の身体の周りに雷が走り、簡単には近づけさせないつもりだ。
 あの攻撃を喰らうと雷で身体が痺れ、その間にトドメを刺され負ける、これが彼の勝ち方だろう。
 まずは、相手がどんな攻撃を持っているか――体当たりではあるが、何もしないよりはマシだろう。


「おっと、ここでライガ選手、捨て身の攻撃か!?」


 実況者が熱く叫ぶと、会場も盛り上がる。
 そんなのを気にせず、いつでも回避ができるように力を込めて走り抜ける。雷で作られた龍を飛ばされるが、ギリギリで切り裂き立ち向かう。


「なるほど、これが転入生の剣技……確かに強いが、剣1本如きでこの量の雷龍を倒せるかな?」


「――これは流石に厳しいかな。軽く数えて20はくだらない……まぁ、だから何だって話だけどな。左近ッ!!」


 突然現れた狐が小太刀に変わったことに驚いていた様子だが、すぐに戦闘に集中する。戦いにおいて、隙を見せるということは、死も同然。それは一応習っているようだ。


「雷魔法――雷龍の進軍ドラグサンダーッ!!」


「……見切ったッ!」


 反撃の隙も与えないほどの連続攻撃に、レベンタは勝ちを確信したかのような笑みでこちらを見ている。
 しかし、徐々に消されていく雷龍を見て、表情は焦りへと変貌していく。


「な、なんということでしょうか……あれほどまでの龍を全て……全てです!ライガ選手は顔色一つ変えず切りきった!!」


 さらに会場はヒートアップ。どうやら、ひとつのエンターテインメントとして見られていたようだ。多少恥ずかしいが、今はそれどころじゃない。
 先ほどのように身体の周りに雷をまとおうとするレベンタへ一気に近づき、腕を切り落とす。


「く――ッ!」


「いい技があるんだ、これからもっと強くなれるさ」


「ここでフィニッシュ!!勝者、オーラス・ライガッ!!なんとまだまだ力が余っているかのようにも見える戦いだ!!」


 試合後すぐに裏へ戻り、アリスの元へ駆け寄る。無事勝利したことに、安堵する。


「お疲れ様、強かったねお兄ちゃん」


「まさか2本目を抜く事になるとは……この学園は強いのがゴロゴロ居るんだな」


「今日はAグループだけ終わらせるらしい。何とかシード権を獲得したいもの」


「確かにな。二回連続でシード権を獲得すると、力を見せずに決勝へ行けるな。オレの実力はまだ未知数だろうし、まだ隠しておいて損は無いな」


 3試合目の勝者は、リネッタ・シルヴィ。4試合目は、シルベスター・オーラが勝ち抜いて来た。
 予想通りの展開なだけあって、あまり驚きはなかった。驚いたことがあるとすれば、序列5位のシルベスター・オーラが、格下である相手に少し手こずっていた事だけだ。相性が悪かったのか、相手の使う闇魔法に、光が喰われているように見えた。どうやら相手の衣装には、耐光魔法の何かをしていたのだろう。
 魔法の用途と戦略の立て方次第では、下の者が上の者を倒すなんてことは、簡単なのだろう。


「5試合目はどうなった?」


「38位の勝利」


 飲み物を買いに行っている間に5試合目は始まっており、既に終わったと思われる。序列37位と38位の試合のため、多少は長引くかと思い買いに行っていたが、あっさりと終わったらしい。しかし、気の毒だな。38位の選手は上位者と必ず当たるという、ジョーカーを引き当てたも同然。


「Aグループの勝者が決まったな。2回戦の組み合わせはどうなるかな」


「……見に行こう」


 アリスから手を引かれ、小走りで向かう。一番好ましいことはシード権を獲得すること。確率は低いため、期待はしていない。
 到着し、組み合わせを見る。
 まず、シード権を獲得した者は、リネッタ・シルヴィだった。初めから予想はしていたが、シード権を奪われたことは大きい。
 続いて第1試合の組み合わせを見ると、オレの名前があった。対戦相手は、序列5位のシルベスター・オーラだった。
 先ほどの戦いぶりを見る限り、光魔法による攻撃がメイン。それに加え、近接戦闘もこなす中近距離型が、彼女の戦闘スタイルだろう。


「お兄ちゃん、勝てる……?」


「勝てる勝てないじゃない。オレはアリスのために優勝するだけだ。負けは有り得ない」


「流石、頼もしい。約束だからね」


 アリスは小指を差し出し、指切りげんまんをやろうとしてきた。そんな事をしなくとも約束は守る、と言って拒否するとアリスは頬を膨らませ、拗ねてオレにか弱いパンチをしてきた。特にダメージはない。


「そろそろ時間だな。思う存分戦って勝ってくるわ」


 フードを被り、戦いの場へ。

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