インセクト ケージ

内藤 涼

8話 自我を持つ猛毒 Ⅱ

階段を降り、リビングへ出ると見知らぬ顔がもう1人まるで顔見知りのように自然に話しかけて来た。
[あっ気が付いたんだ元気?痛い所とか無い?]
[気分の話でしたらあまり良くは有りませんけど、体の事でしたら問題有りません]
現れた別の人間も特に自分に危害を加えない
ここはひとまず安全なのだと感じた少女の顔からは緊張の色は消えていた。
[取り敢えず席について、今日のメニューは卵焼きとウインナーです!召し上がれぇ〜]
月夜は訳ありな客人を精一杯の笑顔と元気でもてなした。
[これが食べ物なのですか?私の知ってる食べ物は生命活動を停止していませんでしたけど]
少女の言葉に月夜の笑顔が引きつる。
[生命……活動と言いますと生き物を生きたまま食べてたって事かな?中々にワイルドなのね]
[違います私自身は食べるという行為自体は初めてでして、記憶と言えば良いのでしょうか?どうやって捕まえて、どうやって食べるのか分かってしまうんです]
月夜は朝陽に鋭い目線を送る
[分かった話すわよ、あくまで考察だけどね。まず一つこの子は人ではないわ、二つこの子は恐らく私達を殺す為に此処へ来たわ、三つ道を誤らなければ危険はないわ]
[お姉ちゃん一つ目はまぁ分かるけど、二つ目と三つ目が良く分からないんだけど]
月夜が興味しんしんで語りかける。
朝陽の説明はこうだ、一つ目は昨日確保した異常な適応能力を持つ母体、その母体が自分達を殺す為に人間の姿で産み落としたのだ。この場所に来たのも母体の記憶を部分的に共有していたからであり、会話が出来るのも捕食対象だった人間の能力をコピーしたものだからと言う。
三つ目の理由だが意思の疎通ができ感情を持っていた為、会話が成立しすぐに襲うことも無かった、人間に近い形で産まれた為に起こったイレギュラーなのだ。
[卵焼き、ウインナー、人間の言葉で表すならとても美味しい]
2人の会話を聞く素ぶりも見せず初めての食事を楽しんでいる様子の少女を見て、月夜も納得した。
[うんまぁこうして見てればただの女の子だしねぇ]
[そうこの子は何も悪い事はしていないし、自分から危害を加えるつもりも無いと思う、けどIcにバレれば間違いなく実験動物にされる。私はそれを見ている事は出来ない]
珍しく感情的な朝陽を前に月夜は少し戸惑い口を開く。
[お姉ちゃんの言いたい事は分かった、けどこの子の意見も尊重すべきだと思う此処に監禁するのは簡単だけどさ、それってIcとやってる事変わらないと思うよ?]
朝陽は困った顔で黙ってしまった。
それを見ていた少女が口を開く。
[私は此処に記憶を頼りに走ってきました。此処へ着くまでに沢山の人間から攻撃を受けましたが、あなた達はその逆でなんの関係も無いむしろ敵と見られてもおかしくない私をかくまい、施しを与へてくれました。朝陽さんに対して今の私の感情を言葉にするなら、ありがとう、嬉しいなどが該当します。なのでよろしければ朝陽さんの提案に甘えたいのですが駄目でしょうか?]
[あなたがそれで良いなら私は構わないよ、その代わり家のルールは守る事それが条件よ]
こうして少女は黒咲家に迎え入れられたのだった。胎動する猛毒と共に……

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