守護者は眠る

香月 玄_コウヅキ ハル

Episode2

2

 やっと家に着いた…大きなため息と同時に玄関を開け、靴を脱ぎ揃えながらリビングにいるであろう母に声をかける。
「ただいま、お昼食べたらすぐ出かける。」
「おかえり、何処行くの?」
と、顔だけを覗かせた母に対し、曖昧な返事を返すと母は首を傾げ再び顔を引っ込めた。

 お昼ご飯は冷たい、“そうめん”。夏にはもってこいだ。
いつもなら、つるつるとした感じとか、歯ごたえがどうのっていう食感とかを事細やかに確かめ、ゆっくり食べるのだが生憎今日の僕にはそんなことよりも気になることがある。
 急いでつるつるっとそうめんをすすって、食事を終え、森へ向かう。
自転車は森に入れないので、歩きで来れる距離というのもあり、汗を流しながらもダッシュで到着した。

 で、地面をトコトコ歩く蟻を眺めたり、靴紐を何度も結び直したりして暇を潰しているのだが、いくら待っても来そうにない。
 イライラも蓄積するというものだ。
……もう1時間はたった。
退屈になり小腹も空いてきた事だし、と家にあったスナック菓子を食べながら僕は木にもたれ座り込んだ。

 よくぞここまで待てたなと自画自賛するが、流石にそろそろ待つのも限界で食べ終わったら帰ろうかな、と思いまた溜息をつく。
 刹那、突然自分がもたれてる木の葉が風もないのに鳴いた。

 そして次に聞こえたのは声。

『何の気配かと来てみたら…………何してんだお前。』
 驚いて飛び跳ねるようにして立ち上がった。
『よォ、昨日振り。』
 ああ、待っていた声だ。
 声の主は木の上から僕の前に静かに舞い降りると、彼の足に集まるようにして一瞬、風がふいた。

(何か…かっこいい…。雰囲気とか、風貌も……。)
 無意識に目の前の彼をジッと見つめ、感心してしまう。
身長は高く、適度な筋肉はついているが適度に痩せている…細マッチョというのだろうか?どっかの“あいどるぐるーぷ”とやらにいそうな青年だ。……顔はほぼ見えないが。
『おいおい、そんな褒めんなって。お前も中々綺麗な顔してんじゃねェか。ガキのくせに。』
 褒めているのか貶しているのか…。
一方彼は褒められて嬉しそうではある。

…それよか言いたいことがあったのだ。
「昨日から思ってたんだけど、心読むのやめて?凄いけどさ。」
 僕はムスッとしながら腕を組む。誰だって心を読まれたり、ってのは気分がいいものではないだろう。
『んァ?それはすまん。次は気を付けるわ。』
彼は手をひらひらと振って軽ぅく返した。
「か、軽い……。」
呆れてつい口から出たその言葉を彼は一切意に介する様子もなく笑った。

『で、お前何してんの?』
「えー…と、昨日は何をしていたの?っていうのが気になって…。」
質問する内容、失敗した…。
別にどぉぉぉしてもそれを聞きたかったわけではなく、彼を引き留めるために無理矢理考えついた質問だったから。

彼は僕の質問の意図を計りかねるように首を傾げる。
『そっちかァ。てっきり“何で心が読めるのか”ってのを問われるのかと思った。』
当然の答えだろう。
「勿論それも気になるよ。けど貴方が人間ではないだろう事はわかったから、それくらいは出来ても不思議じゃないかなって。まぁ、貴方が何なのかも詳しく知りたいっちゃ知りたいけどね。」
取り繕ったようにそう言うと、彼は感心したようにほぉ、と顎に手を当て言った。
『お前、聡い子だなァ。』
僕が“聡い子”かどうかはわからないが…ともかく冷静な判断は大事なことだろうと思っている。

『昨日は食いもん探しとかをしながら薬の材料になりそうなもんを探してた。暇だったしな。』
そう答えて、彼はよっこらせと僕の目の前に胡座をかいた。
自分もそれにならってその場に座る。

暇潰しが凄く有意義だな…。
それきしても、妖怪とかが食べるものっていったい………薬って……、、
疑問がグルグルと頭をまわるもんだから我慢ならなくなった“らしい”、いつの間にか僕は彼の顔にグッと自分の顔を近付けて弾丸の如く質問を投げかけていた。
「…食べ物って何?薬って?どんなの?材料は………っ」
彼は驚いておお?!と唸った。
「はっ…ゴメンナサイ…!つい!」
自分の行動にはっとして両手で口を塞いで身を引こうとした…が、彼はそんな僕の手を引いて膝の上に座らせた。
『構わねェよ、知らない事に興味を抱くのは悪い事じゃねェし…むしろいい事だと、俺は思う。』
すぐ後ろから、耳元で低い声がするのにドキッとした。…変な意味じゃなく。
 …低くて凄く…凄く格好良い声。服から漂うのは香の香り。それに混じって微かに植物の匂い。見上げると色白で形の良い顎とここにいるからこそ見える、普段隠れている綺麗な、整った鼻。
あまりにじっと見過ぎていたのか彼は少し、僕のいない方向…横に顔を反らした。
『あんま見んな。恥ずかしいだろ。』
…恥ずかしいんだ。
『…心は読まねェようにしてっけど、顔で何考えてるかわかるぞ。』
「流石僕。」
『開き直るな?褒めてねェしな?』
そう言って僕の髪をわしゃわしゃと掻き回した。
今度は自分が恥ずかしくなって慌てて彼の腕から逃れると、また最初の場所に座り直した。
それを面白そうな顔して笑う彼を少し頬を膨らませて睨むようにしたらさらに笑われた…何か悔しい。



相手は出会って間もないうえに、世間では“不審者”と認識されるであろうヒト。
しかし彼がする事に対してたまに恥ずかしさとかを感じることはあるものの、嫌な気はしない。むしろ安心さが勝るのは何故だろう。


『で、何が知りたいって?あ、質問は1コずつな。』
と彼は長い人差し指を立てて言った。
「えっと、さっき言ってた食い物って…自分の?」
『それ以外何があんだよ…。そ、昨日は蝉の幼虫を獲ったぜ。』
「……………………え?食べるの。」
蝉の…………幼虫だとさ…。理解に苦しむ。
『おう。素揚げして塩をかけて………』
「わぁぁぁもういいもういい!!!」
想像しちゃうじゃんか………。何調理方法まで事細やかに説明しようとしているのだ…!ていうかこの森でどうやって素揚げするんだ?!

彼は自分の顎を撫でながら、青ざめた僕を不思議そうに見つめ言った。
『前は人間だって同じように食ってたじゃねェか。』
「いやいつの話。てか、何歳だよ…」
『んー、俺?400くらいだったと思う。』
「思う…。」
『だって数年で死ぬような人間と違うんだぜ?いちいち覚えてられっかよ。』
そういうものなのだろうか。
にしても…400歳って…。色々古臭く感じられたのはそのせいか。
『今失礼なこと考えただろ。』
「流石僕。」
『開き直るなって。』
そう言いながら腕を伸ばして僕の鼻をツンとつつくと何かを思いついた様に言い足した。
『なァお前、門限あるか?』
「唐突……。17:00までだよ。ついでに現在16:09。」
そう告げると彼はニヤッと笑った。
嫌な予感がする。
『じゃ、時間あるな。お前を俺の友人として認めよう。てことで、行くぞ。』




「…………………………………はい?」

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