守護者は眠る

香月 玄_コウヅキ ハル

Episode1



1

『おい、お前。その空蝉うつせみは俺のだ。』
「…は?」
 小学3年の夏休み。プールの帰り、近所のある森でぶらぶらしていた所“不審者”に出会った。

(………………アブナイ人だ…。)
 相手は、顔半分…鼻から上を覆い隠すような犬か狐かのお面をつけ、木の上から僕を見下ろしていた。
服装はなんか…和服…うん、多分和服で、髪は黒髪のストレート。
性別は声からして、そして身体つきからして若い男の人だ。でもって顔全体が見えるわけじゃないからはっきりとはわからないが20歳かそこらへん。

『誰かアブナイって?』
「?!?」
 え…心を読まれた…?
僕は一瞬フリーズしてしまう。でも…心を読むなんて…それではまるで漫画の世界ではないか。そんな僕の戸惑いなど相手にとって勿論どうでもいいはずである。男は偉そうに続ける。
『つゥか、さっさとその空蝉を寄越せ。』
そんな事言われたって、うつせみとやらが何なのか知らない。
『お前が左手で持っているそれだ。馬鹿なのか?』
不審者は面倒臭そうに僕の手を指さす。何様だろうか。いきなり怪しい格好でガキの見つけた物を取り上げようも言うのか。
僕は負けじと言い返す。…怖くなかったかって?そりゃ怖くないわけない。怖くて足は震えていた。
「…っ普通に蝉の抜け殻って言ってくれないとわからないし、僕が先に見つけたんだから僕のだし!だいたい、なんで木の上にいるの?馬鹿なんですか?」
 僕は取られまい、と背後に抜け殻を持つ手を隠した。
…そこまでこれが欲しかったわけではないのだが、自分が見つけたものを寄越せと言われると渡したくなくなる。我ながらひねくれているなぁ…とか思ったりしたが今更気にしない。
 そんな僕を不審者は更に面倒臭そうに見て、麻袋というのだろうか…その袋を掲げると聞こえよがしに舌打ちをした。
『面倒臭ェ、今日はこれでいいか。』
 僕は彼の持つそれを見て少し首を傾げる。
「何?それ。」
『袋。入れ物。』
…そういう事が聞きたかったのではない、中身を知りたかったのだ。
『じゃァな、俺の事周りに言いふらすんじゃねェぞ?』
不服そうな顔をした僕など知らぬふりで彼は何処かの不良のような捨て台詞を残して、忍者のように木々を軽々と渡っていった。
数秒後にはもう影すら見えなくなっていたから不思議だ。

「不審者…っていうかまず人じゃない。幽霊か妖怪かなー。心読めるって…。」
凄い、を通り越して羨ましい、とか思ったりして。

 台風のようなヒト、という表現はきっとここで使うのだろう。



 次の日も、プールが終わると昨日の事が気になって同じ場所に行ってみた。だが30分以上待ってみても昨日のヒトに出会えなかった。
「わー!もう!そう簡単に会えるとは思ってなかったけどさぁ!」
いや、少しは期待していたが…。
 僕のそんな叫び声は木々が回収し、あたりはまた静まり返った。
がっくりと肩を落とすと昼ご飯を食べにトロトロと家に向けて足を進めた。



 その小さな背を見送る、昨日とは別のモノ。

『…何用でこのような場所で長く立ち尽くしていたのか。』

 それはただ一言、そう申した。

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