拝啓、世界の神々。俺達は変わらず異世界で最強無敵に暮らしてます。

雹白

拝啓、俺の半身(自称)?本当に何者?

「……ここは、何処だ……?」
気がつくと何も無い真っ暗な部屋に居た。
すると、後ろから声が掛かる。
「ここはお前の固有世界だよ。秤彼方」
透き通るような美しい声。
「誰だ?」
 声が聞こえた方へ振り向くと、銀髪の美しい女性がいた。
 見覚えは無いが、何故か既視感があった。
彼女の銀髪がイル・リアス様と同じ輝きを誇っているからだろうか?
「何を呆けた顔をしているんだ?」
「……お前は誰だ?」
 真っ先に浮かんだ問いはそれで、つい口からその質問がこぼれた。
「ふふ。まぁ、そう聞かれるのは当たり前か」
その女性は穏やかに微笑を浮かべた。
「……そうだな。私は……❬ミッシング❭、とでも呼んでくれ」
 ミッシング……確か、欠けているとか失われたとかの意味を持つ単語だったような?
「……❬ミッシング❭。さっきここが俺の固有世界だと言ったな?どういうことだ?」
「なに、言葉の通りだとも。ここはお前の深層意識の中。お前は、先程の❬大神父❭との修練で致命傷を負ってな。意識が浮上できる身体に回復するまでの間の魂の休憩所だと思ってくれ」
「まあ、なんとなくは分かった。理解はできないけどな。……二つ目の質問なんだが、その俺の深層意識の中に何故お前……赤の他人が居る?」
 俺の深層意識の中に他人がいるなどおかしいのだ。神々のような超常の存在などはまだ百歩譲って理解できるが。
 この❬ミッシング❭と名乗る人物は何故俺の内部・・・・に存在している?
「ああ……それは私が君の半身・・だからだ」
「半身?お前が俺の?」
「そうだ。と、いっても実感は無いだろうが」
「どういうことだ?俺は二重人格ということか?」
 俺がそう言うと、❬ミッシング❭は可笑しそうにクスクスと笑った。
「フフ。そんな難しい話じゃない。私はお前がこの世界で生きるに置いて必要な唯一無二の存在、君の命の半分ということだよ。まあ、向こう側……現実で私とお前は何度も会っているのだがね」
……本当にどういうことなんだろうか?俺の半分?それに会っている?
「訳が分からないという顔をしているな。まあ、良いとも。どうせ私のことも……この世界で起きた出来事すべて忘れて・・・しまうしな」
❬ミッシング❭は少し寂しそうな表情を浮かべた。
「え?」
忘れてしまう?今の会話もすべて?
「仕方の無いことだ。こんな存在を維持するのがやっとの不安定な世界のことなんて記憶できるなんてできるわけない」
「……そうなのか。じゃあ、これ以上お前について聞き出しても意味が無いな。……そういえば俺はここにいつまでいるんだ?」
 正直、美女と二人きりは少し前までただの男子高校生だった俺には精神的に気まずい。
「さあな。お前の体がきっちり回復するまでだと言っただろう?」
「でも、俺は致命傷を負ったんだろ?それなら回復までにかなりの長時間かかるんじゃないのか?」
 誰かが回復魔法とかを使ってくれていたとしても即回復とはいかないと思うのだが……。
 そう考えると、致命傷だろうがなんだろうがすぐさま全回復できる❬神々の加護❭はやはり、チート能力なのかもしれない。
「それも分からないな。そもそも今現在この世界には時の概念が存在していないからな」
「……?なんでだ?」
「人の精神というものは基本的にその者が活動している時間と共に時が流れ、その形を変えていく。だが、今のお前はどうだ?回復するために寝ている。意識が無いのは何も認識できないということだ。外部からの情報もなにもなしに人の精神なんて変わりはしない。変わらないのだからそれは『不変』を表す。『不変』とは『変化』……すなわち『流転』と対をなす概念だ。君が寝ている間この世界は一時的に『不変』の概念が加わり……『流転』の概念が失われる、つまり時間が流れなくなるんだよ。そして、現実との時間の流れのズレが生まれる」
……?????
「全然、理解できないんだが?」
正直、何を言っているか分からない。概念?とか引き合いに出されても。
「君が寝ている間、この世界も一休みしているってことだよ」
「まあ、さっきよりは分かりやすい」
 最初から、そうやって簡単に説明してくれればいいのに。
「ふむ。概念については神器保有者なら知っておくべきだと思うが……」
「悪かったな。知らなくて」
「別に知らなくても無理はないさ。なにせお前はこの世界で概念操作の初歩技術である、魔法を使いこなせていないのだから」
 やっぱり、使いこなせてないよなぁ。俺の半身(自称)が言っているのだからかなり信憑性は高いだろう。多分。きっと。おそらく。
「魔法は使いこなせてないが……剣の才はある。この世界はしばらく存在を維持できるだろう。その間、私とおしゃべりしてるだけでは暇だろう?だから双剣の、いや❬聖銀の双剣❭の戦い方をこの世界で教えよう」
 剣の才能はある……か。やっぱり誉められると悪い気はしない。
……というか、双剣の戦い方を教える?この世界では記憶が残らないんじゃ?
「なあ、この世界の記憶は残らないんじゃないのか?」
「ああ。残らないさ。でもここは何処だ?お前の深層意識の中だ。お前の精神に、双剣の戦い方を刻むんだ。そうすれば勝手に体が動くようになる……はずだ」
 確証はないのか、❬ミッシング❭が目を逸らした。
……そんなものなのだろうか?本当に技術を反射的に扱えるようになるのだろうか?
「まあ、とりあえず行動をしてみるのが吉だ」
「あぁ……?」
まあ、この世界を去るまでする事もないし。
困惑しながらもその誘いを受けることにした。
「とは言っても双剣はどこにあるんだ?」
周りは暗闇で俺と❬ミッシング❭がポツンと立っているだけだ。
「だから、ここは君の深層意識の中だと言っているだろう。全てはイメージが重要だ」
すると。❬ミッシング❭の両手に俺の神器である❬聖銀の双剣❭が現れる。
「ほらね。ちなみに君の魔眼も❬神々の加護❭も、魔力放出も全部つかえる筈だ」
「へー」
早速、いつもの《アイテムボックス》から神器を取り出す感覚をイメージする。すると美しい銀で出来た双剣が現れた。
 目の辺りに魔力を流し、魔眼を発動。未来が視えることを確認する。
 腕の魔力を高速で循環させる。すると、腕が雷を帯び始めた。
 本当に全部能力は使えるようだ。
「確認は済んだようだな。じゃあ……お前の強化を始めよう。秤彼方!」



 こうして、俺は想像を越えた長い期間、鬼のような強さを誇る❬ミッシング❭と戦うことになった。
 正直、神様とか❬大神父❭とかと同じレベルなのではないかと思われた。




 私が彼方に気が遠くなるほどの間ひたすらに双剣の技術を授け続けて……ついに、その時は来た。
「ふむ。もう行かなければならないようだな」
 最初とは気迫も戦闘技術もすべて変わった自分の半身に視線を向けて言う。
 既に彼の体は足から少しずつ光の粒子となって元の世界……現実に戻ろうとしている。
「……❬ミッシング❭。俺はお前にどれくらい近付けた?」
どこか冷めている変わりきった声で彼はそう口にした。
「さあな?ただ、今のお前はただただ強くなった・・・・・というのは分かるが」
「そうか」
彼はそう短く返した。
 そして彼の体は完全に光の粒子となり。暗闇に溶けて、消えていった。
「……全く。お前は私に何回同じ説明をさせる気なんだ。彼方」
 彼が消えて、一人。暗闇の中でひとりポツリと呟く。
 実を言うと彼方がここに来たのはなにも初めてではない。ここまで長居するのは今回が初めてだったが。
「確か……前は魔眼の使い方の習得だったかな?」
 魔眼の自動発動に、もっと効率の良い使い方を教えたはず。
「もう、ここに来る事がないと良いんだが」
 彼がここに来るということは少なからず強い攻撃を受けた時だ。そんな場面がそう何回もあっては困る。
「さて……。あいつはどんな光景を見せてくれるのかな?」
 そうして、私は今日も彼方の視点から外を覗き見するのであった。













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