拝啓、世界の神々。俺達は変わらず異世界で最強無敵に暮らしてます。

雹白

拝啓、修道女見習いさん。バカにしすぎじゃないですか?

 目を覚まして真っ先に視界に入ったのは真っ白な汚れ一つ無い天井だった。
「…………ここは……?」
体を起こし、自分の置かれている状況を把握する。
 俺が居たのは質素で殺風景な一室だった。置かれている家具と言えばクローゼットや机、それから空っぽの本棚くらい。
 ❬大神父❭を前にして呆気なく負けたのは覚えている。しかし、そこで記憶が途切れている。
 そこまで考えた所で部屋の扉が開いた。
「あ、起きたのね。も・や・し♪」
そこに居たのは俺を教会まで案内してくれた少女だった。
「え……?も、もやし?」
「そうよ、もやし。あんたの事」
この人、案内してくれた時はもっと、こう……敬語使ってくれてたし、優しかったような……?
「だって、あんたおじいちゃんと戦う前に伸びちゃったじゃない?だからもやし」
 ぐ……。反論の余地が無い……。……というかおじいちゃんって❬大神父❭の事か?
「私、こっちが素なの。こっちの方が楽なのよ。あと、もやしに使う敬語なんて私は持ってないわ」
「そうですか……」
怒涛の罵倒に反論すらためらう。
「こっちが敬語じゃないんだから、そっちも素でいいわよ。話してる私も疲れるわ」
「そう、か?」
戸惑いつつもきちんと返事はしておく。……じゃないとまた「返事くらいしなさいよ!」 
とか言われそうだったから。
「ええ。それよりも、おじいちゃんが呼んでたからおじいちゃんの所に行くわよ」
 また、あの人に会わなきゃいけないのか。俺の心の内にはさっきの手合わせによって作られた❬大神父❭への苦手意識が残っていた。
「ほら!グズグズしてないで早く行くわよ!」
「ああ、分かったよ……」
 俺は少女の言われるがままに❬大神父❭の本に向かった。




それから少し経って……。
「そういえば俺、君の名前知らないんだけど?」
「あ、そういえば教えてなかったわね。私はレナ。家名はワケアリで名乗れないわ」
ワケアリ?一体この少女の家には何の秘密が潜んでいるのだろうか?
「ところでレナ?俺はなんで❬大神父❭さんの所に呼ばれたんだ?」
さっきからずっと思っていた疑問を口にする。
「さあ?なんかおじいちゃんはあんたをウチに一週間泊めるつもりらしいけど?あ、そういえば神のお告げがなんとか~っていってたわ」
神のお告げ……?イル・リアス様のかな?だとしたら神様なにを❬大神父❭に告げたのだろう。……神様、俺にも何か言ってくれれば良かったのに。
「ん?待てよ、一週間泊めるってどういう事だ?」
 神のお告げの内容がどうであれ俺がここに一週間滞在する事になるのはおかしくないだろうか?……絶対におかしい。
「そうよ!それなのよ!なんでウチにあんたみたいなもやしを泊まらせなきゃいけないワケ!?意味わかんない!」
 修道女見習い様はよほどその事が納得いかないらしく声を荒げていた。
「神様のお告げなぁ……?」
 そう言っている内に❬大神父❭の元……もとい俺が寝ていた民家の庭へ着いた。
「おや、来たね。秤君」
教会に入ってきた時と全く同じように❬大神父❭は笑っていた。
「あの?俺、神のお告げでここに一週間泊まるって聞いたんですが?」
「ああ、それ?じゃあ説明から初めようか。あ、もう手合わせはしないでいいよね?」
目の前の神父が笑顔で恐ろしい事をさらりと口にするので、表情が強ばる。
「もちろんです」
「だよね。……で、神からのお告げなんだけど……まずは、君が教会に訪ねてくるっていう事を伝えられて、その後君の戦績を教えられた……なんて言ってもほとんど君の事を自慢してるような感じだったけどね。そして、ここからの内容が君の質問の答えに繋がってくる。私は神から君を鍛え上げるように言われたんだよ。君の今の実力じゃあ❬法王❭……いや❬法王❭だけじゃない、この世界に住まう猛者達の足元にも及ばないからね」
「え……?」
❬大神父❭から告げられた神様の言葉を聞いて、俺は絶句した。なんせ、この俺にこの世界で戦い抜く術を教えてくれたのは神様だ。
 自分は自分を鍛えてくれた方に認められていなかったという事になる。流石に言葉を失う。
 ようやく絞り出せた声が❬大神父❭、そして神様に告げたのは反論だった。
「で、でも!俺は魔族の❬魔君主❭だって倒したし、常人族の精鋭で神器使いのグラハムさんにも勝ちました!神様も知っているはずです!」
 神様の言葉を信じない訳ではない。むしろどちらかというと理解すらしている。でも……それでも、納得できなかった。
「君は本当に❬魔君主❭やグラハムを倒せたのが自分の力だと思っているのか?」
 ❬大神父❭はさっきからの笑みを消し、とてつもなく冷たい声でそう言った。
……さっきまで暖かかった庭の温度が数度下がった。
「君が戦った❬魔君主❭は魔族の《影法師》という魔法で造られた❬魔君主❭の偽者だ。《影法師》によって造られた仮初めの生命は魔法の使用者の能力と容姿をコピーした状態で生成される。だが、能力をコピーできるといっても本物には遠く及ばない。所詮、本物の下位互換にしかならないんだよ」
「じゃあ、グラハムさんは!?あの人も偽者だったって言うんですか!?」
 それに答えたのは❬大神父❭ではなく、その隣に居たレナだった。
「あのねぇ、催眠系の魔法をかけられた時その対象のあらゆる能力が低下するっていうのは常識でしょ?まさか、そんなことも知らなかったの?」
……まったく知らなかった。正直、俺はまだ実戦で魔法を使った事がないし、神様との訓練でも魔法はあまり練習していなかった。魔法という一点においては俺はクラスメイトより劣っているだろう。
「その顔じゃ、知らなかったみたいね……」
レナが呆れたように言う。
「……まあ、ともかく君は弱いんだ。確かに君は神からの英才教育を受けただけあって戦闘の基盤はかなり高いレベルで完成している。
……だが、魔力の使い方はまだヘタクソだし、双剣の技術も基礎は完璧だけどそこで停滞させてしまっている。だからこれから君を鍛え直すんだ。分かったかい?」
「……はい」
返す言葉もない。俺は従うしかなかった。
「よし!じゃあ早速始めようか!あ、君の本来の目的……❬法王❭の情報はまあ、一週間の間に私を倒せるくらいに強くなったらってことで」
❬大神父❭はさっきまでの笑みを再び浮かべそう言った。
……なんだそれ。絶対ムリだろ。
 さっきなんて戦う前に負けたのだ。その実力差を一週間で埋めろと?無理難題すぎる。
「じゃあ、秤君!まずはレナと模擬試合してみて?」
「はぁ……。でもおじいちゃん良いの?すぐに私の勝ち・・・・で終わっちゃうわよ?」
完全に下に見られてるな。ま、実際そうなんだろうけど。
「まあまあ、それでも良いから」
「分かったわよ……。もやし!手加減ナシで行くわよ!」
レナはそう言うと手元に杖を出現させた。恐らく《アイテムボックス》を使用したんだろう。魔法を使えるという事はレナは異人族なのだろうか?
「秤君、レナは魔法使いとしてこの世界でもかなり強い方だから油断しない方がいいよ。……じゃあ、試合の始め方はどうする?」
するとレナがこちらをバカにするような笑みを浮かべた。
「コインが落ちたらでいいわ。また、コインが落ちる前にこのもやしが気絶してくれるかもしれないし?」
 ここまで、バカにされると流石にイライラしてくる。
「秤君?それでいいかい?」
「はい!」
❬大神父❭の確認に即答する。
「じゃあ……2人共頑張ってね」
❬大神父❭がコインを空高く投げた。











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