拝啓、世界の神々。俺達は変わらず異世界で最強無敵に暮らしてます。

雹白

拝啓、❬大神父❭。今から訪ねます。

 俺は❬大神父❭が居るというラグリス村に向かうためこの街の駅……鉄道乗り場に訪れていた。
「おぉ……!この世界こんな物まであるのか……!」
異世界の鉄道を目にして軽く感動する。
「でも、まぁ……やっぱり異世界のイメージは崩れるけどな……」
 剣と魔法の世界……中世ヨーロッパ風の世界……のんびりスローライフ……。俺の理想の異世界よ、さようなら……。
 感動した物に軽い絶望を与えられるとは、これまた皮肉なものである。
 と、そこでインフォメーションがかかる。
『……まもなく、3番線よりー、レンルス行きが発車しますー。お早めにご乗車くださいー』
 ちなみに、ラグルス村へ直接行く列車は無く、行けるのは中間地点のレンルス町までとなっている。
「もう時間か。ええと……3番線だよな?」
 手早く移動しようとした時……視界の端になにやら困っている様子の少女が映った。
 美しい白金髪プラチナブロンドの髪の少女だ。
(……あの子、どうしたんだろう?)
見るからに困っていてオロオロしている。
「あのー、どうかしましたか?」
俺は見るにみかねて、少女に話しかけた。つい最近までぼっちだった自分とは思えない対応である。
「えっ!いや……その……私、さ、3番線の場所が分からなくて……」
「そうなんですか?俺も3番線から出る列車に乗るんですよ。もし良かったら案内しますよ?」
すると、少女がパッと明るい笑顔を咲かせた。
「お、お願いします!ありがとうございます!」


 しばらくして……
「はい、ここですよ」
俺達は3番線のホームに着いていた。
「本当にありがとうございます!何とお礼したら良いか……」
深々とお辞儀をする少女。
「別にいいですよ、お礼なんて!俺はただ道案内……というか、元々ここに来る予定でしたし!」
「そ、そうですか……」
……沈黙が流れる。
と、そんな時、ジリリリリリと列車が発車するベルが鳴る。
「やば!急いで乗らないと!」
「はわわわ!早くしないと!」
二人同時に列車に乗り込む。
「「え?」」
……またもや数秒の沈黙。
「……同じ列車……だったんですね……?」
俺の言葉が沈黙を破る。
「そ、そうみたいですね」
「あ、俺、席向こうなんで……」
「そ、そうなんですか……」
「じゃあ、これで……」
 二人の間に気まずい空気を残して俺は自分の席に向かった。

……そこからは特に何も無く、異世界の駅弁を食べた後に列車内で寝ていた。
「……ん。そろそろレンルスか……。ふぁぁ……」
眠りから覚め、軽いあくびをする。
 その数分後。列車はレンルス駅に到着し俺はそこで降りた。
「さて、と。こっからラグリス村への交通手段を見つけなきゃならないのか」
 王都アリアスから直接ラグリス村へ鉄道が繋がっていないのには、いくつかの理由がある。
 数ある理由の中でも最も大きいのは『他種族の領地と限りなく近い』かららしい。この世界では争いあっている種族以外にも❬魔獣❭という種族がいる。
 ❬魔獣❭の特徴として『生活している地域を支配する種族の強さに比例して個体の強さが変動する』、というものがある。常人族は、科学の力で戦力を補強しているものの種族としての強さは全種族中で最弱である。つまり、王都付近で繁殖する❬魔獣❭と、ラグリス村付近で繁殖する❬魔獣❭では強さが桁違いに違うのだ。
 そのため、迂闊に鉄道などを通してしまうと鉄道が強力な❬魔獣❭に襲われてしまう可能性が高い。だから王都からラグリス村へは鉄道が通せないのだ。
「しっかし……もう真っ暗だな。今日はこの町に滞在するか……」
 ❬魔獣❭の多くは夜行性のため、この付近を夜にうろつくのは危ないだろう。
 それに……今日はもう疲れた。今すぐにでもふかふかのベッドに転がりたい。
「よし、決めた。あそこの宿にしよう」
目線の先にあるのは小さな建物。レンルス駅付近はそこまで都会っぽくはなく、地方の駅前、といった感じ。あるのはせいぜい小さなコンビニ?のように見える店と古びた宿……それにシャッターの下りた店達である。
 他種族の領地付近というのもあるのだろうか。王都と比べると元々いた世界のような近代的な感じは薄れている。
 早速、宿……といかホテルに入る。
「すいません、一部屋空いてますか?」
俺はロビーを通り、フロントの受付の人に尋ねた……。

……ここのサービスの説明を一通り受け、自分の泊まる部屋に着いた俺は、真っ先にベッドに転がった。それほどまでに疲れていた。
(……たった1日で色んなイベントが起きすぎだろ……。グラハムさん倒して、個性的な情報屋に会って、鉄道乗って遠出して……。これからさらに忙しくなるのか……?)
 そう考えるとため息しか出ない。
(本当に……つか……れ……た……)
結局。俺は襲いかかる睡魔に勝てず、その重い瞼を閉じ、深い微睡みにいざなわれた。
 こうして俺の異世界転移してから最も忙しかった1日は終わった。













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