話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第25話 黒虎



    刀を握り、目の前の敵を斬るという覚悟を決め、俺は真っ直ぐに翔けていた。

集中しているせいか、周りがやけに静かに感じ、フェイスの動きが良く見える。

柄を握る拳に力が更に加わり、ギチギチと音を立てて手に馴染む。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

「ドッレ君!」

「グガァ!!」

「ッ───邪魔だぁ!!」

抜け落ちたかの様に、黒い魔力がドッレから離れて行く。

ハジメはソレを追い掛ける為に飛ぶが、間に入ったドッレが自らの刀で、ハジメの振り翳した刀を防ぐ。
オレンジ色の火花を散らし、金属と金属がぶつかり合う音が響く。

「グルガ…ガルル…!!」

「なっ───」

    ゴオォォォッ!!と仮面から炎が噴出され、ハジメの身体を燃やしに掛かる。


   くっ、左肩を掠めた?!


  咄嗟に右に重心を傾けたのが幸いし、大きなダメージは入らない。
しかし、左肩の衣服が一瞬にして燃え尽き。肩の皮膚が赤く爛れてしまう。

  ヒリヒリと痛みが走り、時間と共に鋭い痛みに変わり襲って来る。

意識が削がれたその隙に、刀を流され腹部に蹴りを貰った。

肺の中の酸素が吐き出され、強い吐き気を覚える。だからと言って休む暇なぞ無い。

ドッレは刀を逆さに持ち、左手で印を結ぶ。

赤い炎が周囲を包みハジメとドッレを閉じ込め、外から遮断したのだ。

  この熱量…直ぐに乾涸びるか、丸焦げになるかの2択だな。

  身体を高熱で炙られているせいか、熱いというよりは最早冷たくすら感じる。

魔力を身体に纏わせているからと言って、この中では数分も持たず死に絶えるだろう。

何かが滴り落ちる音がしたので、横目で見てみると、屋台に使われていた鉄パイプが溶け出していた。


おいおい、冗談じゃねぇぞ?!

吸い込む空気も熱く、一呼吸する度に喉や肺が焼かれている様に熱い。

「───ッ”!!」

  1歩、歩くだけで足裏からジュワリと焦げた臭いが放たれる。

  クソっ、視界まで眩んで来た…。
このままじゃ、何も出来ずに死ぬだけだぞ。



『死にたくないなら力を解放せよ』


「えっ───」


『お前も、もう気付いているんだろ?』

『オークを殺した時の力。それは【大いなる力】の目覚めの前兆』

  大いなる力?
てか、お前は誰だ!!
勝手に人の頭ん中で話を進めやがって…


『お前は逃げられない。運命から───私から』

  脈打つ鼓動が速くなり、胸が苦しくなる。


  痛みとかじゃない。
何かが体から溢れそうな感覚。
──これは魔力?

自分の視界に広がったソレは黒く。荒々しくも溢れ出す魔力に、ハジメは酷く苦痛な顔をする。


  この魔力…魔王?!

  覚えはあった。
先日、ローラと共に操られたシファーと対峙した時。
否、それよりも前に…オークに殺されそうになった時に、ハジメはこの魔力を自分で放っていたのだ。

『さぁ、目覚めろ。ここからが本当の始まりだ』

  始まりだと?
一体、何を言っているんだッ…


「あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


ドッ!!!!

「グガァ!!」

  発せられた咆哮と魔力により、ドッレが2歩3歩とたじろく。

   何だこれ…熱さとかを感じない?
それ所か、力が湧いてしょうがない。

「ぐがァァァァァァァァァ!!」

  炎を纏い、スピードを上げて突撃を仕掛けるドッレ。

咄嗟に腕で頭を庇うようにガードしたが──鈍い音がしただけでダメージは無い。


  打撃処か、あの炎の熱も無効化しているのか。

ズドン───ッ!!!!

   お返しと言わんばかりに腹部へ拳を叩き込む。
重い音と共に、ドッレの体が宙を舞い吹き飛ぶ。

穴の空いた炎の壁を抜け、ハジメは今一度フェイスと対面する。

互いに暫しの沈黙──

  この状態になって尚、彼の強さが計り知れない。

魔力体だけになったからこそ、その禍々しい魔力の底知れなさにハジメは嫌気を差していた。

「魔力は集めたし、君達には消えといて貰おうか───ッ”!!!???」

「な、何だ…あれ?」

「下がるんだ!!此処はメェが──」

  刹那、大きな衝撃波と共にショーンの声が掻き消され、視界が全て黒く染まる。

「がっ…クソっ、サタンめ…此処まで力を…」

  一体何が起きてるんだ?

  魔力体となっていたフェイスの形が、歪に散らばり悶え苦しむ声が響く。

誰もが疑問に思う中、シファーは気付いていた。
微かに感じていた自分の中の何かが、今一度大きく膨れ上がって爆発し、それと同時にフェイスが苦しんでいたのだ。

そして彼が呟いたサタンという名前。

  この混乱の中、彼女だけが1つのモーションをしていた。

「『防御魔法:Αプロテクト:アルファ』!!」

「何っ?!」

  バラけていた魔力の幾つかを、防御魔法で囲う。
彼女の意図に気付いたショーンは、防御魔法で囲われた魔力を掻い潜り───

「邪を払いし聖なる拳を我が手に──」

「や、やめなさ──!!」

  ズバンッ!!!!

  残された大きな魔力の塊に、聖なる光が降り注ぐ。
光り輝くショーンの拳により、フェイスの魔力が掻き消されて行く。

「グルァ…ァ…」

  魔力の供給が切れ掛かったのか、ドッレが呻き声を上げながら、ゆらゆらとふらついた足付きで立ち竦んでいた。

  この人も…解放して上げなきゃな…

パキリと空気に乾いた亀裂音が鳴り、ドッレの顔に着けられていた仮面が半分に割れ落ちる。


その後、ロイエの仮面も割れているのを確認してハジメは深く呼吸を吸い…

「終わった…のか?」

「どうだろうな。王宮の方にも、不審な魔力を感じていたが…」

「それなら速く向かわないと!!」

「お前達が行って何になる?
此処に残れ。これは命令だ」

  そう言うと、ショーンは地面を強く蹴り上げ姿を一瞬にして消す。

残ったのは宙に舞った砂埃と踏み砕かれたレンガの残骸。

「あれ?他の魔力も消えちゃってるわ…」

  先程まで空に浮いていた魔力が消え、空の入れ物と化した防御魔法の箱だけが残されていた。

  核となる魔力が無くなったから、残りの魔力も消失したのだろうか。

ハジメとシファーは互いに首を傾げ、取り敢えず宮殿を目指す。






  宮殿前にて、大きな振動が響く。
慌てふためく軍の中央に、大柄で筋肉質な男性が甲冑を見に纏い指揮を取っていた。

「総員後退!  『盾衛兵士ウォーリア』は前に出て足止めを!!」

「軍隊長殿。足場が崩され、盾衛兵士では長い間足止めも出来ません」

「数秒で良い。後退させつつ『捕縛術式』の準備をさせておる。
此処まで引き付けたら、ワシが後は足止めをする。その間に市民の早急な救助を頼む」

「はっ!」

「『砂逆巻虎サンドラド』サー・タイガ…相手にとって不足は無しッ!!」

  彼、ペンド・ドゴンはガーディアンズの軍隊長であり、過去の戦争でも大きく成果を上げた一人である。

  日々の鍛錬を行い、自らの肉体を限界まで鍛え育てた筋肉。
その腕から放たれる斧を使った一撃は、岩をも両断し砕くとも言われている。

そんな彼が現在直面しているのが『教会』側の人間である、サー・タイガであった。

彼は現在、他の民衆と同じく不思議な仮面を着け進行し。この宮殿へと徐々に近付いて来ているのだ。


  何が起こったのかは分からんが、タイガや他の皆がおかしくなっているのには魔族が関係しているのだろう。

先程捕縛した者の仮面の物質、アレはこの世界には中々見付からない素材と研究員も言っていたな。


「今、目を覚ましてやるわ!!」

  背中に差していた斧を担ぎ、迫り来る砂嵐へと立ち向かう戦士。

轟音と共に2人の姿が砂埃にて消えてしまう。


  そう──平和と共に───

「ヘタレ勇者と魔王の娘」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く