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ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第22話 祭囃子


 祭りもいよいよ盛り上がりを見せ、佳境に入ったと思われる。今回の目玉の1つである展示会もスタートし。警備員にチケットを見せたら、すんなりと展示品の近くまで案内された。

「さて、そろそろッスね」

「人混みから抜けれたのは助かるわ…」

  パタパタと胸元を扇ぐ仕草につい目が行ってしまう。

「こら、女の子が端ないッスよ?」

「あっ…ごめん…」

  頬を赤らめ俯くシファーに、ハジメも気不味くなり互いに暫し沈黙する。

「あ、私…こんなに楽しいの初めて。お祭りとかもコソコソと隠れてやり過ごしてたし、こんな…人と一緒にお店を見て回る事なんて無かったし…」

「シファーさん…」

「ありがとうね、ハジメ」

  少し寂しげに笑う彼女に、凄く胸が痛くなった。苦しくなった。

彼女は長い間逃げながら生活していたのだから、誰かとこんな風に街を歩き。
何も気にせず歩き回れたのがどれ程嬉しい事なのか。

思えば、道中もずっと気を張っていたし。
今だけは──彼女は普通の少女として存在出来ている。
きっと、このお礼の言葉も心からの本心であろう。

  俺は一呼吸すると、シファーさんの頭を撫でる。
柔らかくふんわりとした毛が撫でる度に揺れ動く。

「えっあ──?!」

  言葉にならない声でシファーは顔を更に真っ赤にし、今度は耳まで林檎の様に染まる。

「シファーさん、これからもずっと一緒ッスよ」

  絶対にこの子を守る。
そう心に近い、自分だけでも傍に居れる人間になろうと決意し発言したその言葉。

なのだが、シファーは壊れたロボットみたいに口をパクパクさせて目をグルグル回している。

「ず、ずずずずずっと?! いいいい一緒にッ───?!」

  戸惑う彼女の姿を見て、自分が言った言葉と状況を考え──

「──あっ!? そ、そういう意味じゃ 」

「あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

「「!?」」

  何とか誤解を解こうと頭を動かしていた刹那、会場から大きな叫び声が響き渡る。






「な、何するの!?  や…やめ」

「ギギギァ!」

  騒ぎの中心に居たのは仮面を着けた男性。
彼等は女性の噛みを掴み、そのまま引き摺って歩いたり。止めに来た他の人の腕を噛み千切り、見境無く襲い掛かっていた。

「な、何スかこれ?!」

「───キャッ!!」

  現場の近くに居たハジメとシファーも、その異様な光景を目の当たりにする。
暴動の中、子供らしき仮面を着けた人物にシファーが掴み掛れ、ハジメがそれを無理矢理引き剥がして距離を取った。

「だ、大丈夫ッスか?!」

「えぇ、少し痛むけど大丈夫」

「──っ!!」

  ドガッ!と背後から近寄って居た1人を蹴り倒し、ハジメはシファーを連れてその場から離れようと試みる…がしかし

「数が多いッ!!」

  次々と現れる人物達を蹴り技で回避して行くが、数が減る所か最初の暴動に比べて増えているのが明白。

しかも、相手はどう見ても一般人。
下手に手出しは出来ずに、加減をしながら逃げるしか無いのが歯痒い。

そこへ──

「中央騎士軍『ガーディアンズ』!!
只今を持って此処を制圧致す!!」

  白銀に太陽の紋章を掲げた鎧。
中央国が誇る騎士団の『ガーディアンズ』である。

彼等は現場に駆け付けるや否や、民間人を保護し避難場所へ誘導。
残りの者な暴徒の沈静化を行う為に、仮面の人達を取り押さえに掛かる。

「さぁ、今の内に…シファーさん?」

「は、ハジメ…ま、前…」

「えっ──」

  振り向いた矢先、視界が揺らぐ。

「ぐ──あぁぁ…」

  腹部に鈍痛。肺の中の酸素が口から一気に吐き出される。
何が起こったのか理解出来ずに、ハジメ一旦宙を待って地面に転がり落ちたのだ。

  その衝撃は凄まじく身体の至る所から激痛が走り抜け、確認しようと顔を上げた刹那、追い打ちを掛けるかの様にソレが飛んで来る。

「『プロテクト:Aアルファ』!!」

  シファーがハジメの前に現れ、手を前に翳し盾を出現させる。

ドゴォォォォン!!と大きな音を立て、ソレは盾に衝突した。

シファーは何とか耐え抜いたが、両腕が痺れたらしく反動で動けなくなり座り込んでしまう。

「シファーさん!」

「だ、大丈夫、少し痺れただけ…」

「グォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

「「?!」」

  衝突したのは大きな巨体をした男性だった。
筋肉が大きく膨らみ、今ので逆上でもしたのか地面を何度も蹴っている。その姿は丸で牛の様だ。

「くっそ──!!」

  ハジメは素早く立ち上がると、シファーを掴み横へ放り投げ。自分はそのまま巨体の男へと駆け…

ドガッ!!
勢いを利用して蹴りを御見舞した。


  魔力を込めて蹴りを入れた!これなら肩の骨くらいイッただろ!!

  喜びも束の間、ハジメは妙な違和感を覚えた。
普通なら骨が折れた音や感触が伝わるハズ。しかし、一向にその気配は感じられず、まるで柔らかいクッションを蹴ったかの様な感触だけが伝わって来る。

「グォォ!!!!」

「効いて無いのか?!」

  ズブズブと肩に飲まれる足を掴まれ、ハジメは思い切り地面へと叩き付けられる。

──ズゴォン!!!

「ハジメェェェェ!!!」
 
「だ、大丈夫ッス。魔力でガードしてるからァァァァァ?!」

  平気そうに返した途端、足を掴まれたまま持ち上げられ。今度は大きく円を描く様に振り回され放り投げられた。

「痛ってェ!  流石に全身は痛過ぎる!!」

  魔力で覆っていても、先程の様に背中や頭だけを集中し守るのと、身体全身を覆うのではダメージが変わってくる。


  魔力の調整がまだまだだな。
それでも、覚えていなかった時よりかはマシだけどさ…。

  衝突した壁の瓦礫を避けて立ち上がり、身体全身の無事を確認。
軽く首を左右に揺らして運動し、ハジメは腰に刺していた刀を抜く。

「──しっ!!」

  柄を握り刀も大丈夫だった事を確認すると、巨体な男目掛けて再び走り出す。


  あの蹴りを入れた感触、アレは肉体を変化させる魔術か。
となると打撃よりは───


ズバンッ!!と切り上げた刀が男の左腕を切り飛ばす。

 やっぱり、斬撃に弱いタイプか。
ジャックさんやカイトさんから習った剣術がコイツには通用するな。

  左腕を切り上げられた男は、腕が無くなった事に気付いて居ないのか、うしなった失った腕を振り翳して殴りに来た。

「──よっと!」

  ハジメはそれを体勢を低くして躱し、今度は男の左脚を切り裂く。

スパッ──!!ブシュウゥゥゥゥゥゥ!!!!

  勢い良く吹き出す血飛沫。
血でグチョグチョになった地面と、左脚の筋肉を断ち切られた事により。男は大きな巨体を支えきれなくなり倒れる。

「よし」

「凄いわね!ハジメ!!」

「がぎぐぐぐ…」

  駆け寄ったシファーの顔を見て安堵するや否や、男はまだ動こうともがく。

「辞めろ、命までは取らない。このまま自首するッス」

「グアァァァァァァァァァァッ!!!!!!」

「聞いて無いみたい…」

「と、取り敢えず『ガーディアンズ』に任せて逃げるッス!!」

  このままでは埒が明かない。
ガーディアンズが此方に向かって来ているのを目視しながらも、ハジメはシファーの手を取り逃走する。

背後から聞こえる呻き声を、頭を横に振り無視する事を決意。

幸い切り上げた脚が上手く動かない様で、あの巨体を持つ大男も追って来ない。





  タイガは現在、大人数を相手にしていた。それぞれ仮面を着け顔を隠してはいるが、背丈や格好には見覚えがあった。
  
「オイオイ、魚屋さんや服屋さんが何の冗談や?一体」

  片方は魚等を捌く為の出刃包丁を。
片方は布地を切る為の大きな鋏を持ち、タイガの目の前に立っている。それだけでも異様な光景なのだが、それが見知った人物であるなら尚更。

  頭を掻き状況を整理しようとした矢先、銀色に輝く出刃包丁がタイガへと振り投げられ───
 
ザクりと当たる直前に砂が邪魔をし、包丁を呑み込む。
 
「───冗談じゃ済まさへんぞ?」 

「ぎぐァ!! 」

  地面から沸き出る砂に2人は丸々と飲まれる。

タイガは「チッ」と舌打ちを鳴らし、整理した情報と現状を理解し腹を立てた。

  この仮面は祭りの為に商人が仕入れていた物。
そしてソレを着けた人が襲撃事件を起こしたと考えれば、話はとても簡単だった。

  2人の仮面を剥がし顔を確認した事により、タイガの考えは全て繋がって行く。
普段は何の変哲もないこの街の商人達。魚屋や服屋、大人から子供までこの事件で暴徒として暴れているのなら、ソレは裏で操っている人物が居るという事。


  気に食わんなァ。
祭りにかこつけて、こない事件を起こす人物。

  この国の防犯システムを熟知していなければ出来ない手口。
少なくとも、内通者か捕虜が居るハズ。

そして、ここ最近の失踪した人と言えば…バーンダストへ派遣された者達しか居ない。

内通者が居たとして、それは頻繁に出入りする者。もしくは、この祭りの物資輸送から詳しく知る者。
はたまた、上層部に黒が紛れ込んで居た場合。

どっちにしても、最悪の結果となってしまった今。
この仮面の性能と出処を突き止めなければならない。

簡単に外れはしたものの、後遺症の類も気に掛けなければ。

一旦、本部に戻って報告と対策を練ろう。

そう考え、タイガは砂を解除し医療班へ2人を託し『協会』の管理しているギルドへ向おうとするが──

「何や?  また新手かいな?」

「ギガグ…キョ…ヴ…ガ…ィ」

  ふらふらと現れたその姿に息を呑む。

「──アンタ、ルブさんやないか?!」

  ボサボサと無造作ではあるが、紺色の髪を後ろで固めオールバックにしていた名残。
青色のボロくなった服には中央騎士軍の紋章が刻まれていた。

だがしかし、彼は先日の報告で死んだとされていたハズ。

まさか──この人が内通者?

「グガァ───ッッ!!!」

 ずわっ!!!と水と砂が衝突し混じり合う。

ルブの出した水玉にタイガが咄嗟に砂で対抗したのだ。
砂は水を吸収しながらも玉の中で回転し、水と共に四散する。

  泥となった砂を避けた矢先、休む暇なく魔法の追撃がタイガを襲う。
水で出来た狼。ソレが牙を剥き、タイガを丸呑みしグルグルと駆け回る。

「ぐぼぁ──」

  人を丸呑みしても余裕の大きさ。
ソレがぐグルグルと回る事で、呑み込まれた人物は狼の中で水流に揉まれてしまうのだ。


  ち──くしょ────・・・






   同時刻。
会場付近で避難誘導をしながら仮面の軍勢を相手にしていたら、突如衝撃と共に建物へと押し込まれた。

  差程痛みが無いのは日頃から鍛錬を続けていた成果と、経験から戦闘中は魔力を覆っているからであろう。

しかし腑に落ちない。
自身が油断した事と、その油断を産んだ現状に対して不満が積もる。

取り敢えず、建物にめり込んだ身体を起こし、瓦礫を掻き分けて起き上がる。砂埃を払い、ネクタイを締め直す。

  すぅ…と息を吸い深呼吸をして辺りを見渡すと、先程まで相手をしていた軍勢が殆ど倒れていた。

これは自分がやった事では無い。
今、自分を襲った相手がした事であり無差別的攻撃だったと言うのが伺えた。

  風を切る音が微かに響き…ズガッ!!と奇襲を仕掛けて来た相手を足蹴りで受け止め、その人物の容姿を暴く。

「やはり、『紫電』の…」

「ギギッ!!」

  くしゃくしゃの白いくせっ毛のある髪を更に掻き分け、ショーンは理解した。してしまった。

この奇襲を仕掛けた人物の正体…。

それはCOLORSの一員であり、紫電を使い忍術に長けた人物プルーパであった。

  彼も暴徒同様に仮面を着けているにしろ、紫の忍者服に中央騎士軍の紋章を刻んだ仕事着。
そして、この魔法と戦闘スタイルは紛れも無く彼が良く知る人物そのモノの技だったのだ。

「メェの推測が正しければ、その仮面に秘密があるな?
しかも、COLORSの行方不明者数は5人。1人は先程、少年によって動けなくなっていると聞いたが、特徴的にロイエさんか?」

  バッ!
足で相手の腕を逸らし、回転して腹部に一撃喰らわせる。後ろに吹き飛んだプルーパは、壁に当たる直前にドロンと姿を木に変えて消えてしまう。

「目に見えない速さ。そして、この服の微かに焦げた臭い。無差別的にされた攻撃…。
この焦げや、無差別攻撃は紫電を放った時の余波だな」

  次の動きがあったのは数秒後だった。
一旦姿を消したプルーパが、何処からか短いナイフを投げ付ける。避けた先に刺さったナイフの角度で位置を把握。
直ぐに其方へ振り向き跳躍。

しかし、プルーパの他の気配を察知し壁を蹴り別方向へと追いやられてしまう。

「今度は貴方ですか───ドッレさん」

  対面し立つのは赤い髪を靡かせ、赤い忍者装束に身を包む男性。

炎を纏い佇む姿は鬼。
彼はCOLORSのリーダーであり、プルーパの師匠でもあった人物。

  火遁を得意とし、鎖鎌と炎を使う技は非常に厄介だ。

「二人相手は些か骨が折れそうです…ね!!」

  初めに仕掛けたのはプルーパだ。
紫電魔法を活かした素早さで、ショーンの動ける範囲を絞る。

後ろに反射的に飛び上がったのが不味かったのか、一気に距離を詰められドッレの鎖鎌の範囲に入ってしまい…腕に鎖が巻き付けられてしまう。

「───くっ!!」

  地面に素早く着地し、引っ張られる鎖を更に強い力で引き返し、ドッレを近くの壁へと衝突させる事が出来た。

  その内に今度はプルーパの動きを止める。
彼の動きは素早過ぎる故に、直角に動く癖がある。狙うのは次の着地点。

ダンッと地面をプルーパが蹴り上げた刹那、距離を一気に詰め間合いへ入り、蹴りを入れて更に追い打ちを掛けに走り出す。

  先程身代わりの術を使ったとは言え、蹴られたダメージに重なる様に蹴りを入れたのだ。
彼もノーダメージで居る訳じゃあない。

「ぐっ…」 

  しかし、追い打ちを掛ける寸前。
後ろから伸びて来た鎖により、首と両腕を巻き取られてしまった。

「ギギギ───」

「これは、『雷光線』!?」

  ドッレの持つ鎖で相手の動きを封じ、そこへプルーパの紫電を放つ荒業。
だがこれには鎖を制する側にもダメージが入るハズ。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」 

バチバチバチ!!と感電し、意識が切り離されてしまう。

電流の発光する紫の光が辺りを照らし、微かに焦げた臭いを撒き散らす。



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