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ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第19.5話 暗躍せし暗黒




 力を得る為に、私は全てを殺して来た。
敵対した魔族。陥れようとした身内。
全てを──


──自分の心すらも殺して来たのだ。


  闇の力を手に入れてから、私の人生は変わって行った。敵わぬ敵なぞ無く。
力を振るえば皆私にひれ伏し。頭を垂れて自らの延命を懇願する。


何一つ不自由な事等無かった。
だが心は求めていたのかも知れない。

ずっと昔から────

目に見えぬ───愛を────





  その日はいつもと変わらぬ日であった。
この人間界に魔王城を現界させ。昔からの仕来りを破った事を問い詰めた所。

シラを切られ、何なら完全な敵対意思を見せ付けられた。

そこから私達は、この世界を乗っ取る事にしたのだ。
手始めに魔王城の近くの村を襲い。
1つの国へ宣戦布告をしたのだが、これが面白くも無く。

  その国は民の命を優先した結果、王は自ら魔王へ頭を垂れて許しを得ようとした。

  結局の所で人間も魔族も変わらぬ。


キールがこの世界の事を調べているらしく
。バーンダストの王を洗脳し、内側から探る事となり。その国は現在、我々の支配下とある。

  私は別に何とも思わなかった。
人間と魔族の醜態を見てから、私の心には大きな穴が空いた気分なのだ。

詰まらぬ。
この世界には、魔界には無かった何かを期待していたが。
あったのは結局の所で醜い生き様であったのだから。




  私は部下に外へ出ると伝え、この世界に来てから余り使わなくなっていた翼を大きく広げ、森の上を目指し適当に飛び回っていた。


  こちらの世界は魔界に比べると空気が良い。

腐った肉や血の香りは無く。
青々と生い茂った木々には生気が満ち溢れ。
地面や水も毒に侵されている事は無い。

「世界はこうも相反し存在するモノか…」

  人間界と魔界は互いに正反対な存在。
こちらには光は太陽と月があり、昼夜は明るく見易い。

しかし、魔界にはこの世界から漏れ出した微かな光しか無く。他に明るさを保つには水結晶という魔石の光を利用している。

「ん?」

  月の光を見ながら滑空していると、森の中から不穏な魔力の集まりが感じられた。


「きゃっ──!!」

「ギャギャ!!」

  小鬼が3匹で人間の女性を襲っている最中──バチンッ!!という音と共に、襲い掛かろうと飛び跳ねた小鬼が弾き返され地面に転がる。

「これは…ピンクの髪の人間とは珍しい。いや、貴様…ただの人間では無い臭いがするな?」

「ひぃっ…!!」

  怯え切った人間は、魔王の姿を見て体を震わせている。

「あ、貴方…は?」

「私か? 私は魔王サタン」




  ピンクの髪の女性は唖然とし。
魔王の姿を呆けた顔で見ていた。

「なんだ? 人間のクセに礼も言えんのか?」

「あっ、えっと、ありが…とぅ…ございます」

「ふむ。まぁ、良い」

  そう言うと、魔王は先程吹き飛ばした小鬼の元へ行き。
気絶した一体を持ち上げてマジマジと姿を見やる。


  普段の小鬼より、些か筋肉質なのが気になるな。
ん?この歯は…

  歯に触れると、その鋭利さにより指先から血が滴り落ちる。
軽く触れただけで切れる歯。
  爪を見ると、そちらも通常の小鬼より鋭い爪の形をしており。掌の皮も触った感触では皮膚が分厚くなっているのを感じる事が出来る。

「異形個体にしては弱い。しかし、この形状は普通では無いな」

「あ、あの───!!」

   魔王が小鬼を調べ、ブツブツと呟いて居ると。先程の娘が声を上げて魔王へと話し掛ける。

「何だ…娘」 

「は、はい。最近、この周辺のモンスターのレベルが全体的に上がってるのですが…。
魔界の民がこの世界を乗っ取ると言う噂は…本当なのですか?」

  怯えながらも、真っ直ぐに見詰める瞳に魔王は何かを感じ取り。ニマリも口角を上げて微笑む。

「そうだな。元は貴様等人間が契約を破ったのが原因だが。慈悲深い私は──貴様を奴隷として飼おうではないか」

  ユラりと女性の目の前から魔王の姿が消え。後ろから魔王の声が聞こえた刹那。
腕を掴まれ。顔を無理矢理逸らさぬ様に固定されてしまう。

「嫌───ッ?!」

バチッ──────

  一瞬、女性の周りが淡く光ったと思ったら。魔王の腕と彼女の腕の間から煙が現れ。手を離して見ると、魔王の掌は赤黒く焦げ臭い臭いを放つ。

「ぬぅ──?!」 

  これは聖職者が持つ『魔除』の力か?!

「成程──ッ!!」

  ギシッと奥歯を音がなる勢いで噛み。
魔王は焦げた掌を握り締め潰す。

「抗う力を持つ者…貴様を気に入ったぞ娘ッ!!」 

「い、いや?!」






  あの娘と出会い月日が流れ。
私は時折、城を出ては山を1つ越えた先にある村へと出向く。

山を1つ越えたと言っても、バーンダストを抜けば此処いらで1番魔王城に近い村なのだ。

  そして、魔王自らが此処へ足を運ぶ理由。
それは──

「やぁ、リリア。そろそろ私の下へ嫁ぐ気になったか? 」

「なりませんってば」

  あの日以来、この娘リリアを口説きにわざわざ来ていたのだ。

「ガッハッハッ!!  魔王様も、まさかリリアに惚れるとはなァ?」

  大きな口を開けてゲラゲラ笑う禿げで太った男。
明らかに不健康と言われるその肉体を持つ男は、この村にある『ぱっらいよ』のマスターなのである。

「魔王ちゃんったら、もう別な女子おなごに乗り換えたらどうだ?」   

「見た目はイケメンでも、魔王だからモテないのよ」

「違ぇねぇ!!  ガッハッハッ!!」

  散歩に来ていた婆さんや、オバさん達までこんな扱いなのには理由があった。

当初、魔王がこの村にリリアを抱き抱えて現れた時。
村は騒然とし、民は皆死を覚悟していた。

  しかし、魔王は突如現れたと思えば、この村には手を出さない事を約束し。
あまつさえ、リリアを嫁にすると言い出したのだ。

  元々、この世界には魔界出身の魔族も住み着いて居た為。魔王という存在も、慣れてしまえばその内の1人として見られてしまうモノ。

すっかり慣れた村の人達は、今では気さくに魔王に話し掛け。1部ではいつ落とせるかの賭け事の対象にもなっていた。

「てゆーか、アンタは人間を恨んでんじゃなかったの?」

「元はと言えば、こちら側の人間が契約を破ったのだ。
私はそれを確かめに来たのだが、情報が一向に出て来なくてな。中央国に出向こうにも、こちらの戦力に対して。人間の方が地の利もある。
下手に急いで返り討ちに合うわけにもイカンからな。我々は一国を乗っ取り、戦略を立てているだけに過ぎん」 

「魔王城をわざわざ人間界ここに転移させたのは何でだ?
別に人だけ移動させりゃあ良かったろ?」

  マスターが酒を飲みながら問うと、魔王は首を横に振り答える。

「此処に来るにも、先ずは拠点が必要となろうが。それとこれは圧力を掛けたのだ 」

「圧力?  契約を破った事に対しての怒りを現したって事?」

「そうだ。形を表して見えると、その脅威に人間は怯えボロを出すと考えたんだがな。
中々どうして、尻尾すら上手く隠しておる」

「そもそも、『ポールシフト計画』はどこの書物やデータを漁っても『途中で断念された計画』としか出て来ないんだがな」

「私も調べたけれど、サタンの言う様な詳細までは書かれていなかったのよね」

  人間界では秘匿とされていたらしく。詳しい情報を漁っても出て来なかったのは魔王も承知。

  かと言って、このまま人間界のポールシフトが行われている場所や、それを制御している柱となるべき物が無いのは有り得ない事。
現に今の世界が在るのは、そのポールシフトを起きなくする為のシステムが働いていたからであり。

最初から無かった等という選択肢は無いのである。

  皆は暫し考え首を傾げて各々に考え始める。






  魔王城の幾つかある研究施設の1つ。
そこに高身長でありながら筋肉質な肉体をし、黒く背丈まである髪を1本に結んだ男が黒い鎧を身に纏い訪れていた。

  彼の名はキール。
魔王軍での実力では上位に入る程の力を持つ。

そんな彼が此処へ足を運ぶのには理由があった。

「エネルギーは感知出来たか?」

「はっ、何分。古書とは位置がズレでいた為、多少手間は掛かりましたが発見出来ました」

  研究員の魔族の1人が羊皮を使ったメモを渡して来る。
ソレを受け取り確認すると、中央国のある場所を指してエネルギーが集合している事が事細かく書かれていた。

「成程。国を作り、システムの存在自体をカモフラージュしたのか。
通りで今の人間では知らぬわけだ…」

  羊皮を返し、このまま計画を進める事を伝えると、キールはドアを開けて研究室を後にする。

そこへ1つの人影がコチラに殺意を向けて立って居る事に気付くと、キールは思わず笑みが零れ落ち。

ソレを見た亜人族の女性は更に殺気立った目で彼を睨み付ける。

「もう良いニャ?  あの国を解放してくれ」

「──あの国には魔界との回路を繋ぎ易くする魔粒子が豊富にある。
そう易々と手放す訳には行かない」

「貴様ッ!!  約束が違うニャ!!
ポールシフト計画の場所が分かったら、あの国を手放すと言ったではニャいか?!」

「あぁ、手放すよ。ホンの10年程──ね?」

  キィンッ───!!

  金属と金属が衝突し、オレンジ色の閃光が飛び散る。

猫の亜人族の彼女は、その身体の身軽さを利用し短剣を素早く手元から取り出し。キールの首元目掛けて襲い掛かったのだが、一瞬にして現れた複数の鎌がソレを阻止し。

  彼女はそのまま後ろへと後退させられてしまう。

「──くっ?!」

「毒殺のナイフか。瞬時に武器を現界させられる我輩には取るに足らんな」

「ニャら、これならどうニャ!?」

  素早く身を屈めて走り出す。
猫科の動物特有のその動きは速く。そして戦闘にも有利なのだ。

「『鎌雨レインサイズ』」

  軽く手首を下に降ろし、キールは呪文を唱えると上から大量の鎌が出現し彼女を襲う。

「──ニャッ?!」

壁などを利用し、三角飛び等で回避していたがそれも束の間。
  一撃を避け切れずに喰らい、その後 降り注ぐ鎌に身動きを封じられてしまう形で拘束されてしまった。

「これが壁だ。覚えて置くが良い」

「ぐっ、待つ…に…ゃ……」

    届かない。
キールと彼女には魔力の大きさ、質、全てが違っている。彼に勝つ術なぞ無い事を悟り、それを思い知った刹那。
彼女の意思は抗いようもなく深く沈んで行った。


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