ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第16話 期限付きの修行


「───っ、此処は?」

  ハジメが目を覚まし体を起こすと、節々に鈍く痛みが走る。

肩などを摩りながら起き上がると、先程まで居た砂浜へと戻っていた事に気が付く。

(戻って来た…シファーさんやジャックさんは?)

  辺りを見渡すと、海辺に2人の姿を見付けた。

重っ苦しい足を前に進め、砂を蹴るように歩く。
精神世界からこっちに戻ると、例えようの無い重力感を感じる。

  あっちでは意識さえしなければ重力を感じないのか?

精神世界なので、想像力で重いや軽いと言った概念が生まれるのであろう。

だからこそ、現実世界での重力の重みを余計に感じるのだ。

これからは注意した方が良いな…。

「二人とも、何をしてるんッス…か?」

   二人と下へ着くと、シファーが裸足で海に入り、静かに深呼吸をして手を前に翳していた。

「しっ、今から面白いモノが見れますから。ハジメくんも此方へ」

「えぁっ、は、はい」

  手招きする衛兵長の隣へ並び静観する。

「魔力を集中して…入れ物を想像して…収縮・固定」

  身体の周りから青い光を放ち、魔力が目に見える形で円形状に固定される。


──この光と硬化された魔力の壁。

 これは、初めてシファーさんと出会った時に、オークに使っていた防御魔法に似ているな。

「防御と言っても、前に出すだけでは芸が無い。
意識や魔力を集中させれば周り全体を覆え、外部からの攻撃を防ぐ他にも、瘴気や毒類からも身を守れる。シファー殿にはそのやり方を教えて居たのですよ」

「さてと」と言いながら、ハジメの目の前に立ち、衛兵長は頭を深々と下げる。

その行動に目が点になるが、しばらくしてからソレが何を意味して居るのかを察した。

「申し訳ない! 我々も詳細は把握していたのですが、公言する事を禁じられている為、この様な強硬手段を取ってしまい…!!」

「い、いえ!! …という事は、ジャックさんの他にも知っている人が居るんですね?」

  『我々』という言葉に引っ掛かりを感じ、その事を問う。

元々、魔王サタンの発言からして協力者はカイトの他にも複数居る事は想像していたのだ。

その1人がスタト村の衛兵長であるジャック。
そして、その上司も当然この事を把握しているのであろう。

「後々ソレは分かると思います。ですが、申し訳ないですがコレはまだ言えません。」

「…分かりました」

  言及はしない。
きっとこの人にも腑に落ちない所があるのだろうから。

拳を握り、強く何かを押さえ付けている衛兵長の姿を一瞥してハジメは首を縦に振る。

  ソレはきっと、酷く辛い事。
この人の性格からして、自分の様な年齢の子供を巻き込む事も、決して快くは思っていない。


分かっているからこそ。
ハジメは彼のした事に腹を立てる事は無かった。






「では、シファー殿は魔力の調整として『防御魔法』に特化した特訓を。
そして、ハジメくんには剣術をお教えしよう」

「はいッス!!」

「はいっ!!」

  浜辺に上がったシファーと共に元気に返事を返す。

「魔力の流れには、風や水等の基礎的流れと似た流動があります。その流れを感じる為にも、シファー殿は海に浸りながらの状態で魔力固定の練習を3分毎に休憩を2分」

「分かりましたっ!」

「ハジメくんはその間に私と組手をして貰いますね。そうですね…うむ。取り敢えずは、休む事無く続けて『私の体に一撃』当てて下さい」

「は、はいッス!!」

「では─────始めッ!!」

  返事を聞いた衛兵長は腕を振り上げ合図を出す。

シファーは直ぐに海へと戻り、魔力を練り始める。

そしてハジメは木剣を構え──

「───フッ!!」

ガゴッ!!と木剣と木剣が当たる。鈍く軽い音が響き、手にビリビリと衝撃が走る。

「基礎となる構えは出来ていますが、振り方にムラがあります。
もっと動作を簡略化すれば……」

  ヒュッ──ガゴッ!!!

  同じ木剣でも速さが違う。
目に追えるか追えないかの速度で、剣は懐へと攻撃を仕掛けて来る。

ハジメは最初の一太刀をガードする事は出来たが、二撃目はガードし切れずに左肩への直撃を許してしまう。

「くっ……?!」

「これでも随分とレベルを落としてますよ!!」

  加減をしているのは分かっている。
先の六連撃を喰らったばかりなのだから。

しかし、だからと言って直ぐに見切れるかと聞かれたらそうでもない。

ガッ───!!

  放たれた腕への突きの一撃。
だが、ソレをギリギリの所で剣の腹に寄って遮られてしまった。

「成程、見切れないのなら技が繰り出される直前の腕を狙う…。中々な判断です」

  そうは言うものの。
不意を突いた一撃すらも押さえられてしまう。

「はぁ…はぁ…」

  おかしい。
いつもなら、もう少し体力があるハズなのに。
足が重っ苦しく、まるでいつもの自分の足では無い見たいだ。

額に浮かんだ汗を無理矢理拭い。ハジメは若干フラつきながらも構え直す。

「そろそろキましたね?
足だけじゃなく脚全体に負荷が掛かっているハズ」

「な──?!」

  視界に捉えていたハズの衛兵長の姿を見失った刹那、腹部に衝撃が走り後ろへと倒れてしまう。

「ぶっ!!」

  倒れた拍子に砂が舞い、口の中へと侵入して来る。

「うぇっ、ぺっぺっ!!」

  気持ち悪いジャリジャリとした砂の感触を早く消し去りたいが為に、何度も口から砂を吐き出す。

「うへぇ…いつもなら、こんな事にならないのに…ぺっ!!」

  ん?いつもなら?

  バサりと砂浜を蹴る勢いで起き上がると、ハジメは反対を向き四つん這いになり、地面にある砂を手で鷲掴む。

サラサラと手から零れ落ちる砂を見て、今度はしっかりと起き上がった状態で地面を何度か踏み付ける。

ザッザッ──ザッザッザッザッ。

  ──そうか!!
砂浜は普通の地面とは違い、足場が確定されないんだ!!

足跡は着くけど、砂は柔らかいままだ。
  だから、踏み込む時に少しでも足元の力がズレてしまうと足場を不安定にさてしまう。

  その分、余計に足に力が入り。その結果、脚全体が余計に疲労したのか。

(気付いた所で、ハジメくんはこの打開策を練らなければ解決しない。しかし──)

  ズザッ──!!

「くっ…?!」

  剣が砂にめり込む。
衛兵長の放った一撃を、間一髪で横に回避。
その結果、剣は砂と衝突し地面に突き刺さってしまったのだ。

(チャンスッ───!!)

  剣を握り振り翳す。
狙うは左肩。ジャックさんの利き腕である左を狙えば、この体勢から避けられ無くても、もう片方でカバーしに来るハズっ!!

そうすれば右は潰せる。

「良い判断ですが──」

  ダッ!!と衛兵長が大きく後ろへと跳躍する。

「なっ?!」

  この砂浜で足元を取られずに綺麗に跳ぶ姿に、ハジメは唖然とした。

「足元の把握とソレを利用した応用。判断力は良し。
しかし実力が無い。経験が無い。知識が無い」

  「どうして…?!」

  あまりの出来事に息を呑む事すら忘れる。

「簡単な話しです。ハジメくん。君は森で行動する時に何をコツにしていましたか?」

「えっと、地形を把握して利用していましたけど…?」

「木とかを利用していましたか?」

「は、はい。木はイノシシとかに出会した時に飛び移ったり、モンスターを狩る時に罠を準備するのに良く使いました」

「そこですよ」

  人差し指をピンと立てて言う。
衛兵長の言葉にハジメは更に首を傾げ苦悩する。

「初歩的な動作1つにヒントがある筈ですよ?」

初歩?
ムムッと首を更に傾げるが、答えは出て来ない。

「そうですね。コレを明日までの課題とします。
シファー殿には私から魔王サタンの話をして置きましたから、ハジメさんも何があったのかを詳しく話して貰いましょう」




  夜が老け。
訓練らしきモノが一旦終了し、晩御飯へと向かった海辺のお店で3人はそれぞれの知っている事に付いて話し合った。

シファーさんは1年前に魔王の娘だと知らされただけで、あまり深くは知らなかった様だ。

母親と2人で森で暮らしていたが、魔物の襲撃により母親は致命傷を負い。その時に自分の血筋の事を話してくれたらしく。

その時に得た情報が『魔王の血』の事。これは魔王本人しか知り得ない情報だったらしく。

魔王の死後、解明されたと判断した。
魔王が亡き今現在、血筋を引くシファーが襲われるのは通り。

そして、その情報の漏れた先が裏切り者のキールと一緒に居た『ライオット』であろう。
彼は魂を喰らい、自分のモノにする事が出来るらしく。

ソレはハジメ本人も目の当たりにした能力である。

  魔王とカイトの魂を喰らったライオットは、思う通りに力を制御出来ずに居て。
だからこそ、この月日が経ってようやく行動に移した。と衛兵長は見ているらしい。

俺もソレには納得した。

「数年越しに悪夢の再来…やはり、『教会』に連絡をして置きましょう。
今回の会議では色々と不安な所が有りますから」

「分かりました。じゃあ、俺とシファーそんはこのまま出発まで特訓をすれば良いんッスね?」

「いえ。君達2人にはこれから先を見越して、様々な知識や経験を積んで貰います。
先ずは今日を含めて明日、明後日の三日間で基礎を叩き込みます。
そこから移動しながらの魔術に対する知識を教え、王国に到着後は頼みたい事があります」

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