ヘタレ勇者と魔王の娘
第15話 魔王と勇者の戦い
  何度目になるだろう。
魔王と対峙するのは始めてでは無い。
旅の途中に幾度となく現れては、俺達を殺そうとして来た魔王。
しかし、それももう終わるのだ。
薄暗い洞窟の中。
拓けた此処は魔王がカイトと戦う為に用意した空間。
「へっ、随分と好き勝手やってくれたな。
アンタの所のキールだっけ?
全部白状してくれたよ。お前が人間の生命エネルギーだけで柱を作成しようとしていた事も、この争いも、人間を殺す事で負の感情を更に悪化させ、新たな生命体を作り上げようとしている事もな!!」
  口元の血を拭いながら、震える脚を叩き奮い立つ勇者軍のリーダー。
対峙する魔王も、お気に入りの黒コートをボロボロにされ。
口や頭から血を流し満身創痍の状態である。
「カカッ──何を言っている人間?
貴様等が条約を破ったのが原因だろ?!
しかも、表に現れた私達を襲撃したのも貴様等だッ!! 」
「違うッ!!  お前らが攻め込んで──」
「───待て、貴様さっきキールと言ったな?」
  カイトの発言を遮り、魔王は質問を投げ掛ける。
「あ、あぁ。キールっていう悪魔がさっき襲って来た時に言っていた」
  そこで魔王サタンは違和感に襲われた。
キール?いや、そんなハズは無い。
彼は人間世界に始めて足を踏み入れた時に殺されたハズだ。
「────ッ?!」
  何かを掴みかけたその時、魔王の口から血反吐が吐き出される。
「ぐっ───がはッ!?」
  同じ様にカイトも血反吐を吐き地面に膝を着く。
互いに何が起きたのか分からない状況。
そこへ黒いフードを被った何者かが2人の間に割って入る。
「何者だ…貴様ッ…?」
「…キール!?」
  カイトの言葉に驚き目を見開く魔王。
しかし、魔王の知るキールと、今現在目の前に居る人物では身長は愚か、魔力も全く違う存在である。
「否、ボクはキールでありキールでは無い」
  バサりとフードを後ろへと下げる。
露出し、露になった姿はやはりキールとは全くの別モノ。
白髪の少年の姿がそこにはあった。
  髪の全てが白髪であり、両目は薄紫色に輝きを放っている。
「おっと、君達は随分と『大きい』な。
もう喰えないや」
「喰う…だと?」
「そうそう。魔王サタンくん、色々とご苦労だったね?
コレはボクからのプレゼントだ」
「──────まさか?!」
  そう言って魔王に向けられた左手。
魔王が何かに気付いた刹那、下から氷が芹上がり魔王を吹き飛ばす。
「魔王?!」
「おっと、君にはコレだよ?」
「───なっ!?」
  起き上がろうとしたカイトに、今度は右手が差し出される。
そして──ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!と燃え盛る火炎の渦がカイトを呑み込む。
ダンッ!!
「はっ?!」
  壁に衝突する直前、魔王は体を捻り威力を殺して壁に足を着く。
そしてそのまま壁を蹴り上げ、先程まで居た場所へと猛スピードで戻る。
その光景に小柄な彼はスットンキョンな声を上げてしまう。
「はァァァァァァァァァァァァァァァ──ッ!!」
────ズパンッ!!
   更に火炎の渦に呑まれていたカイトも、居合抜きの姿で炎を切り裂き。
そのまま抜き刺した刀を白髪の彼の頭目掛けて振るう。
しかし、それは彼の発動した氷魔法で阻害されてしまう。
「ば、化け物共めっ!!」
「互いにだろ?」
  口角を上げて敵を見るカイトの目は、黒く澄んだ色をしていた。
血で滑りそうな柄をしっかりと握り締めながら、カイトは凍った柱で止められた刀を更に前へと押し出す勢いで力を込める。
パキッ───バキィンッ!!!
  明確な死を間際にしたのは初めてではない。
ボクは生れつき病気のせいで体が弱く、死と隣り合わせの生活を歩んで来た。
  だが他人からの死と言うのは厄介なものであり、覚悟なぞしている余裕も無く迫って来るのだ。
けれどボクは今現在も生きている。
振り翳された刀は喉の前で止まり、微かに喉を掠めていたのか、血が少し滴り落ちるが関係無い。
目の前で一瞬にして起きた事に、頭が理解するのには数秒掛かった。
「──ライオット、我輩の許可無く接触はするなと命じた筈だが?」
「ご、ごめんよ。でも、『回収』はしたよ!!」
「お前は──?! 
何故此処に!?他の皆は───!?」
  刀を指で抑えていたキールが、ライオットを叱り付け。カイトは警戒しながらも、その手を払い除け。
刀を構え直す。
「キールッ!!貴様ッ、何故生きている?!」
「これはこれは魔王様。お久しゅう御座います。
カイトさんでしたっけ?
貴方のお仲間なら…全員死にましたよ?」
「────なっ?!」
 ブツリと途切れた意識。
ハジメは急な出来事に驚き、よろめきながら倒れそうになる体を何とか支える。
「な、何だ今の?」
「今のは魂の記憶だ。
私とカイトが共有しているのは此処まで。
この後互いに奇襲を受け致命傷を負わされた挙句、最後には洞窟を崩されたからな」
「魂の…記憶?」
「あぁ、貴様は私の『血』をその体内へと取り込んだ。
その時に私の記憶が覚醒したのであろう」
  記憶の覚醒?
何故、俺が魔王の記憶なんて持っているんだ?
「カイトの奴め。まさか、こんな子供に私の記憶を託すとは…。いや、元々の運命がそうであったのか?」
「何を言ってやがる?!」
「そう荒立てるな。私は現在、貴様等『人間側』の味方なんだからな」
「───魔王が人間の味方だと?!」
  ハジメの質問に魔王は頷くと、先程の地球儀をもう一度出現させる。
今度は良く見知った地球になっていたが、所々に黒い濁点があるのが気になった。
「これはポールシフト後の現在の地球。
そしてこの黒い点は『悪しき人間の心』だ」
「な…にを言って…」
  言葉にならない。
今言われた事がどんな意味なのか、ハジメは理解した刹那。
頭が思考を停止し、全てを真っ白にしてしまう。
「心当たりがあるのだろ?
悪魔と契約した者や、国を滅ぼそうと動く者。その者達の強い邪念がこれに映し出されているのだよ」
「戦争──」
  悪魔と人間が手を組み、戦争を起こすというのか?
  近年、チューハンやアーシロコルト、バーンダストと大きな国が不穏な動きをし。
『過去の遺産』から武器を中心に研究していたとニュースの記事で読んだが。
  特に目立つのはチューハン王国。
あの国は此処10年で好戦的な発言や、態度を中心とし表立った行動も何件かあった。
「でも、どうして悪魔が関与してるって…」
「私とカイトは崩壊した洞窟から生き延び、互いに腑に落ちぬ所の整理をする為に3年間、闇へと姿を晦ませていた。
体力の回復と情報の調達」
  そう言いながら魔王が腕を払う仕草をすると、着ていた衣服やマントが煙の様に消えてしまう。
そして露になった彼の体を見ると、鍛え抜かれた肉体に、細やかな傷。
更に左腕の付け根と胸元、左の脇腹に深い傷痕が残っていた。
「流石の私でも傷が塞がるのに1ヶ月。動ける様になるには2ヶ月も要した。
互いに本領を発揮してはいないとは言え、魔力残滓が私の魔力や血の流れを変え、此処まで深手になったのは初めてだった」
  バサッともう一度腕を払うと、服が瞬時に元に戻る。
絶句したとは正にこの事。
彼の傷を見て、ハジメは魔王サタンと勇者であるカイトの戦闘の凄まじさを垣間見た気がした。
先程の記憶の中でも2人には一切の隙が無かったが。
レベルが違う。
「そして私達は歴史を調べ、この世界のシステムを知り─────全てを壊す事に決めた」
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