ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第13話 旅先


  此処は海の街『ダイセン』。
東国の海沿いに位置するこの街は、漁業等が盛んであり。
美味しい魚や貝が沢山取れ、更には此処から船に乗って旅行をする事も出来るのだ。

  港に幾つかある船も、漁船やボートに囲まれ色鮮やかに並べられている。

そこへ、ハジメ・シファー・ジャックの3人の姿があった。

各々に荷物を持ち、ジャックが船長らしき人物と話ている傍らで、ハジメ達は海を眺めていた。

「きゃー!!  流石は東の国一番の港!!
広くて色々あるわね!!」

興味津々のシファーは、はしゃぎながらハジメの方へと振り返り、ある方向を指さして首を傾げる。

「ハジメ、あの赤い旗は何?」

  シファーの指さしたソレは、海辺の真ん中にある大きな柱と、ソレに飾られている大きな赤い旗であった。

 「あぁ、あれはッスね。
赤だと危険だから海に入るな。黄色だと波の様子を見てから。
緑だと海に入っても大丈夫といった具合に、色で海の様子を知らせる柱と旗なんッスよ」

「だからジャックさんは困ってたのね?」 

「そうッスねぇ…船が出れないとなると、このまま中央国に向かうか。
船が出るのを待つかの二択ッスからねぇ」

  現在の旗の色は赤。
海を見ると荒れた様子は無いのだが。漁船や他の船も港に停まっている事から、沖の方で何かあったと見るべきか。

「やはり無理だな」

  やれやれと腰を軽く何度か拳で打ちながら、衛兵長であるジャックが2人へと歩み寄る。

「どうやら、沖の方で波に変化があったらしくてね。護衛任務は変更になったよ」

「それじゃあ、シェルビーチには向かわないッスね…」

「ドリムメル王国は迂回ルートで中央国に向かい、護衛は別働隊が引き継ぐそうだ。
我々は一足先にプロミネンス王国に入国し、シファー殿を上手く招き入れなければならない」

  中央国プロミネンス。
そこへ向かうにしても徒歩だと後3日は掛かるが、現在は軍の馬車で移動しているので1日で着く。

着いた所で今度は入国手続きが必要なのだが、シファーは入国用のパスポートを持っていない。

「ごめんなさい…あたしがパスポート持ってないばっかりに…」

  シュンとして俯く少女の姿に、男2人は頭を抱えた後に優しく話し掛ける。

「シファーさん大丈夫ッスよ。入国審査には色々と必要必要ッスけど、どうにかなるッスよ!!」

「そんなの…根拠が無いじゃない…」

「ふむ。ソレが、どうにかなりそうですよ」

「え…?」

  衛兵長の言葉に、シファーは瞳をキョトンとし小首を傾げた。





  中央国『プロミネンス王国』。
城から少し離れた場所の高台には、大きな研究施設が存在する。

──ピコン!ピコン!と機械音が部屋に鳴り響き、赤いランプがチカチカと点滅していた。

「はいはい、今出ますよぉーっと。
はい、こちらヨツギ──あら!ジャックさん?!」

栗色の髪を1本に纏め、研究員の服を着た女性が電話を取り対応する。
聞き覚えのある声に直ぐ気付いた。

電話の相手はジャック・リッパー。

この国では有名な『疾風乱舞シルフィード』の名を国から授かっているトップクラスの兵士だ。

その彼からの電話に、ヨツギはあたふたと慌てふためく。

『落ち着いて下さいヨツギさん』

「あぁ、ごめんなさい私ったら…。
何故、私の連絡先を?」

  くねくねと体を悶えさせ、少し落ち着いた彼女は、不意に頭に浮かんだ疑問をふと口にした。

『これは失礼。急用の為にハジメさんからご連絡先を伺いまして』

  ピクっ。
その返答にヨツギの体が一瞬反応した。

「へぇ。彼、お傍にいらっしゃるのですか?」

『──いえ、現在は別行動中でして。私の諸事情でお伺いしたく、お電話を差し上げたのですが』

「そうですか。大丈夫ですよ♡
他でも無いシルフィード様の頼みであれば、私はいくらでも応えます!!」

『それはそれは──では、早速ですが大きな事を1つお願いします』




  ガチャりと受話器を置き、一呼吸をする。
疲れた。電話越しではあるが、一瞬大きく空気が凍り付いた気配を電話越しに感じたジャック。

首元の襟を少し引き、咳払いをしてから髭を一撫でし気分を取り戻した。

「さて、これで後は向かうだけだな。
1週間。長いのか短いのか分からないな…」

  電話を終え電話ボックスから出ると、丁度ハジメとシファーが隣の建物から出て来た。

「終わった様だね?ハジメくん」

「えぇ、ギルドでの証明書です。
これに俺の本当のレベルが書いてあるッス」

  手渡された書類に目を通す。
細かいステータスは今回省き、レベルと標準となる基礎値を記入して貰ったのだが。

やはり──おかしいな。

あのオークは実際に経験した中では推定レベル47は超えていた。
最低でも45。最悪50を超えていたとしても。
ハジメのレベルは19。

とても手に負える相手では無い。

「ハジメくん、これが本当の数値なら。
君は一体何者なんだ?」

「俺──は、普通の人間ッスよ」

まさか、『魔王の血』が作用するとレベルが上がるのか?

その考えならレベルは数倍に上がったと計算される。でなければ、あのオークを倒した時の強さは説明が付かない。

ただ今回のコレで幾つかハッキリした事があったのも事実。

「ハジメくんにシファー殿。プロミネンス王国に向かうのは四日後に決定したよ」

「え…っと、はい」

「…はいッス」

  ゴキりと手首を鳴らして伝えるジャックに、2人は息を呑む。

「さてと、近くの浜辺に向かうとしますか」




ダイセンには大きな砂浜が幾つかあるが、その一つにハジメ達は足を運んでいた。

「えっと、ジャックさん…?
今から一体何をするんスか?その何本もある木剣も気になるッスけど」

「ハジメくん。今から君の実力を測ろうと思ってね。
これは練習様の剣だから安心してくれ」

  辺りを見渡し、人気の少ない所で衛兵長は立ち止まり、ハジメに持っていた木剣を一本投げ渡す。

「シファーさんは、もう少し離れて立って居てくれますか?」

「は、はい」

  言われた通りにするシファーに、衛兵長は頷くと木剣をハジメへと構える。

「さぁ、ハジメくん。
好きなだけ打ち込んで来なさい!」

  中段の構え。
基本的な剣の太刀筋をする衛兵長に対し、ハジメも同じ様に立ち構える。

  砂を蹴り上げ、身を前のめりに走る。
間合いに入るか入らないかで横へと回り、剣を振るう。

───ガンッ!!

しかし、体に当たる直前に剣は弾かれてしまう。

(っ───速い?!)

剣を弾かれたハジメは体勢を直す為に一度下がるのだが。

「遅い──フッ!!」

  追い討ちの如く振るわれた剣を何とか回避したが、そこへ更なる追い討ちが掛けられる。

「いっ──?!」

「ハジメっ!!」

  右頬を掠めた。
海風で冷えた肌がじんわりと痛みを伝えてくるのを感じる。

だからと言って動きは止められない。
相手も同じなのだ。
これが実戦であれば、これは好機なのだから。

多分だが次にわざと隙をつくる筈。
その隙を突いて攻撃しようものなら、ソレは愚策だ。
また返り討ちに合うだけ。

分かっている。

覚えている。

これは、このやり方は過去に経験した事のあるやり方だ。

彼もそうして俺に教えてくれた。
闘い方を。剣の振り方から相手のパターンまで全て叩き込んでくれた人が居る。

軍の衛兵長であるジャックさんも、基本的な特訓としてコレを選んでいるのだろう。

俺を確かめる為に──

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

  怒号と共に剣を横に激しく振るう。
しかし、ソレを読んでいた衛兵長は悲しげな瞳をしながら剣を構え弾く体勢に入る。

「──シッ!!」

  吐き捨てる。
息を全て出し。足に力を込めて踏み留まる。

意外そうな顔をしたのは衛兵長であった。
だが構えは変わらない。

(このタイミングで後ろに回っ──?!)

  もう一度蹴ろうとした瞬間、ハジメは体勢を崩してしまう。
足が砂に呑まれてしまい、身体の重心がズレてしまったのだ。

「『六光線ろっこうせん』!!」

「なっ!?」

  足場に気を取られて居た刹那、構えを変えて高速で間合いを詰めて来た衛兵長。
ハジメは抵抗しようとしたが、気付いた時には遅かった。

───ガガガガガッガッ!!!

両肩・両脚が剣で突かれ。
最後に額へと当たった時、ハジメの身体は宙へと舞っていた。

「ハジメッ?! ハジメ!!」

急いで駆け寄ったシファーが体を揺するが、ハジメは抗えない何かに呑まれる。

深く、深く暗い闇へと意識を手放した。


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