ヘタレ勇者と魔王の娘
第12話 元勇者軍VS新生魔王軍
──数百年前。
世界規模の大災害。
大地は割れ、水が減り。人々は残り少ない自然を増やす事に着目した。
しかし、その後世界は何度も崩壊の危機に直面し。
それ故に禁忌を犯した。
─────人を減らしたのだ。
人が人を裁く。
ソレはよくある事なのだが。違う。
コレは各国による国の潰し合いだったのだ。
自らの国が助かる為に、幾つかの国は協定を結び『人滅計画』を開始する。
しかし、残された国も必死に抗った。
互いに手を取り防衛し、平和な国を作ろうとした。
それでも攻撃は止まない。
痺れを切らした国民は一揆を起こし戦争を加速させて行くが、統率の取れない力はとても無力。
気付いた時には全てを失っていた。
そして世界を我がモノとした連合国は、敗者を奴隷として扱い。
全てを犯し尽くした。
  だが、それだけで全ては終わらなかった。
連合国が天下を取ってから数年後。
世界は『ポールシフト』により崩壊して行く。
  人類の殆どが新たに作り出された環境に耐え切れずに死滅。
残った者は普通の者と。
肉体が変化し、人ならざる者として生まれ変わったのだ。
そこから更に悲しいか。
巨大な隕石の落下により、人類の英知の結晶である物資は全て地に呑まれたのだった。
現在から─10年前。
この世界は魔王サタンにより、過半数の領土を悪魔に略奪されていた。
国々は力を合わせて魔物の軍勢が攻め入るのを阻止し。世界の均衡を保とうとしていたのだが。
この世と相対する世界──魔界。
そこで育った魔物はどれも強力な力を持ち、魔王軍の勢力は更に増大化する。
いつから魔界があったのか。
そしてこの世界と繋がったのかは不明。
  そして魔王軍に対抗し、国々から猛者が志願し作られた軍隊『勇者軍』。
これに所属している間、通行規制の免除。ある程度の物資提供を受けれて、更には戦闘に必要な費用は幾らか割り引かれる。
勿論、それ相応のテストや見極めもされるので。
生半可な者がなれる事は少ないのだが。
それでも完全に善人が勇者軍になれる訳では無い。
例外も多数はあった。
しかし、その例外は例外のまま。勇者になる事もなく散って行くだけ。
残った部隊は2つ。
第一部隊・第六部隊だけであった。
「やぁ、カイト。久しぶり」
「──『彗星の光』か」
「その名で呼ばなくとも、前みたいに名前で呼びたまえ」
   セイヤ・ライトニングスター。
彼は勇者軍第一部隊のリーダーだった男。
二つ名に『彗星の光』を持ち。その力はトップクラスである。
「お前が此処に居るという事は、このまま中央国へ向かうのか?」
  カイトの問いに、美形が更に目立つ微笑みを浮かべてセイヤは後ろへと振り向く。
此処は現在船の上。
そして二人が居るのはデッキの先端部分なのだ。
海風に金の髪を靡かせ。彼は水平線を見詰める。
「(──仲間が殺された。ボクはその調査の途中だったんだよ)」
「───?!」
  小声で放たれた言葉に、カイトは息を呑んだ。
「(魔王軍の動きが活発化している中、ソレを利用した国の暗殺者の仕業だろう。
現に死体を見たが、雑に切られた傷の中に致命傷となった刃物傷をボクは見付けた)」
  セイヤは水平線を見詰めたまま、振り返らずに小声で会話を続ける。
その意味を察して、カイトも何事も無いように手摺に背中を預けて、ただ風に当たっている様に見せる。
「(第三部隊の事を覚えて居るか?)」
「───あぁ、良い風だな?」
「そうだな」 
「(流石だ。第三部隊はチューハンとアーシロの独立国同盟部隊だった)」
  唐突な発言に目を一瞬丸くしたが、カイトの返答だと気付くとセイヤは話を再開する。
アーシロ。
それはアーシロコルト王国(独立国)の略称である。
チューハン王国とアーシロコルト王国の両国は、10年前の勇者軍結成の際、和平交渉に数人戦闘員を参加させて来た二国である。
「(彼等の部隊は戦死とされていたが、知り合いがそのメンバーだった1人を最近見付けてね。
その調査を行っていたんだよ)」
「(お前、まさか?)」
「(あぁ、どっちかじゃない。両国黒だよ。
ボクはその鍵となる証拠を手に入れた。部隊のメンバーだった奴の写真と、『買い手』の細かい情報の載った写しだ)」
「(戦争になるかも知れないぞ )」
「(だからこそ。今回の会議にコレが必要なんだ)」
  セイヤは胸に手を宛て、拳を握り締める。
「(悪魔と取り引きをして、自分達だけ生き残ろうとしてる奴等を──根絶やしにしてやる)」
  揺るがぬであろう決意が瞳に宿り、夕焼けに差し掛かった陽の光が反射する。
「──そうか。それは残念だ」
「「!!」」
  突如聞こえてきた声に、二人は警戒体勢に入る。
何も言わずに瞬時に背と背を合わせる辺りは、流石は熟練の冒険者と言えよう。
「何処だっ?!」
「──?! 海の上を見ろ!!」
  カイトが何かを発見し、それを伝える。
言われた方へと視線を向けると、海の上に複数の人影があった。
「見知った顔が幾つかあるね?」
「あぁ、元魔王軍の幹部だった奴が数人居るな。
しかも───魔力が桁違いに上がってる」
左から。
ピエロの仮面を着けて、道化の格好をしているのがタンジュ。
木で出来た身体を持つ、魂を宿した人形マリオネ。
白髪で痩せている子供はライオット。
死の軍団を従える老人アレゴリー。
そして、その中心に立つのは長身で筋肉質な肉体をし。長く黒い髪を後ろで縛って1本にしているキール。
「自己紹介をして置くか」
  キールの横に立つ男が、黒いコートを脱ぎ捨て筋骨隆々の姿を現す。
「我が名は『オールド』!!
長らく封印されていたが、『転生山』の呪縛から解き放たれた魔神なりッ!!」
バリバリッ──!!!
「何だっ──この魔力?!」
「くっ──!! ボク達を遥かに凌ぐ力…魔神と言うのは本当なのかもね」
「『転生山』…奴等は『蘇った側』の」
「お喋りは良くないヨ?」
「?!」
  カイトの背後にタンジュが現れ、セイヤの背後にはライオットが回り込む。
「『ホールナイフ』ゥ!!」
「『魔炎』!!」
  タンジュの手に大きな円状のナイフが出現し、ライオットは黒い炎を出現させ。
互いの目の前に居る二人へと襲い掛かる。
「『光閃』!!」
魔炎に対して光線を放つ。魔炎の炎を描き消し、光はライオットの左腕を捉え直撃。
「ぐっ────!!」
ガキィン──!!
「ぬぅ?!」
「『刃折返し』…」
バキィンッ!と音を立て、タンジュのナイフが砕け散る。
よく見るとナイフとカイトの間には、1本の刀が滑り込み。肉体を切り裂くのを阻止していた。
「ンおやぁ?」
コツン…と小さな赤い玉が床に甲板に転がり──
「──なっ?!」
刹那、赤い炎が燃え盛り。
甲板の一部を轟々と燃やし始める。
「クソっ!! 甲板燃やしやがった!!」
「火が点いた!!火が着いた!!火が付いた!!」
「なら───」
 ゲラゲラと笑い転げるタンジュに対し、カイトは冷静になり落ち着きを取り戻す。
シンとした瞬間。
カイトが刀を振るうと、甲板の燃えていた部分に風が巻き起こり炎を描き消した。
「ほぉ…あの若造。今の魔力…」
  遠くで観戦していた面子がニヤニヤと不敵に微笑み、その光景を目に焼き付けていた。
特にオールドは今の技に興味があるらしく、大人しく待機している面子から1人だけ離脱した。
「あーあ。オールドまで行っちゃったよ。
ボク退屈だなぁ〜。ねぇ?船の中の人殺しても良いでしょ?」
「フォッフォッ、あの船は『空船』じゃよ。
囮用じゃて。機械しか中には無いぞ?」
「えぇ?!  人乗ってないのに動いてるの!?」
「──あぁ」
  マリオネとアレゴリーの会話に、静かにキールが割り込む。
「良く見てみろ。船の中にある魔力は『2種類だけ』だ」
  言われた通りに船の中を感知する。
確かに船の内部には複数の魔力を感知したが。どれも似た質の魔力ばかり。
マリオネは機械仕掛けの瞳をカチャカチャと鳴らし、瞳を一回転させる。
  ザンッ───!!と腕が吹き飛ぶ。
赤い血飛沫を数秒遅れて撒き散らし。
腕は放物線を描きながら船の下へと落下する。
「──『閃空斬』!!」
  タンジュの懐に入り込み、刀を切り上げた姿のカイトがそこにあった。
そして、その切り上げた勢いを利用し。カイトは刀を瞬時に切り替え。
刃の向きを下に変えると───ザシュッ!!
勢いを加速させてタンジュの残った左腕も切断した。
「ぎィ───ッッッッッ?!」
「『追斬撃』!!!」
「エヘヘへ…」
  両腕を切断された筈なのに、不気味に笑う道化師。
ドサリと落ちた左腕を見て、カイトはその笑みの意味を知る。
切断された左腕に埋め込まれていた物を見付けた刹那。
カイトはライオットと戦闘中のセイヤに駆け寄り、物陰へとセイヤを刀の鞘で薙ぎ払う。
「ぐっ──?!」
ガタガタと震えた左腕が、カッ──!!っと閃光を放ち爆発する。
───ボッッッッ!!!!
  爆風と共に激しい炎が辺り一面を飲み込む。
爆煙の中でカイトの姿を見失ったセイヤは、木箱の後ろに隠れてやり過ごすが、近くに接近する威圧感に気付き。
頭だけを陰から出して覗き込む。
煙で良くは見えないが、大きな魔力の気配を感じる。
「幹部以上の魔力だ。オールド…『全能なる魔神』か?!」
  昔話を思い出したセイヤは、オールドの本当の名前らしきモノを閃いた。
ポールシフトが起こり、世界が異変の渦に呑み込まれている最中。
突然変異した生物。そして、人間や魔物を喰い数百年生きてきた災厄の魔物。
魔神足るは所以は、その喰べたモノの魔力をそのまま己の力に変える能力。
  己より強いモノに挑んでは勝ち。
血肉を浴びた生物の末路が彼であり。
魔物の中で神という存在として崇められる。それ故に彼は魔神と言われている。
自分で呼べと命令した訳でも。
頼んで呼んで貰っているのでも無い。
それは彼の強さや悍ましさがそうさせているのだ。
 「ケホッ──前よりは学習してるのか」
「流石…全くダメージを受けていないのですネ?」
「生き返ったボク等の力も格段に上がってるハズなのになぁ…」
「お主等よ。少し童をワシに貸せい」
  爆煙の中から現れた4人は無傷で炎が燃え盛る甲板に立っている。
あの爆発の中を、一体どうやって凌いだのか。セイヤは額に冷や汗を垂らし、ゴクリと唾を飲んだ。
「どれ、手始めじゃ『炎龍』」
ゴォォォォォォォォォ───!!!
  炎に手を翳した刹那、炎がうねりを上げて舞い上がり。
たちまち龍の姿へと変化した。
「『海龍』!!」
  反対の余った手を翳すと、海から巨大な龍の姿が現れる。
海水で出来た龍に、炎で出来た龍。
2匹の龍は大きく天を仰ぎ、そのまま下に急降下する。
タンジュとマリオネは互いに猛スピードで既に空中へと逃れていた。
そして、残されたカイトに2匹の龍が襲い掛かる──が
パキッ──!!
───ゴォゥ!!!
それぞれの龍がうねりを上げ鳴く。
海水で出来た龍は凍り付き。
炎で出来た龍は黒い炎が現れ呑み込まれてしまう。
それもたったの一瞬で。
何が起こったのか分からない面々に対し、キールとオールドだけが違う表情を露にしていた。
キールは訝しげに。
オールドはニヤリと満足気に。
しかし、互いの距離が離れている為。
それは知る由もなく。他の他の者も、その一瞬の出来事に集中していたせいで気付いては居なかった。
「やはりその魔力…ワシの見立てた通りじゃ。
懐かしいわい──サタンよ」
「俺はサタンじゃない。カイト…カイト・シラザキだッ!!」
「────ぬ?!」
  カイトの振るった刀から黒い炎が出現し、オールド目掛けて解き放たれる。
「『海龍』!!」
パキッ───パキンッ!!!!
凍り付いていた海龍がオールドの呼び掛けにより、氷を打ち破り再び姿を現し──ジュッと言う音を立てて炎を呑み込む。
炎を呑み込んだ海龍は、そのままカイトへの向かい奇襲を仕掛ける。
「──凍てつけ」
  右手に刀を預け、左腕を前に翳し先程と同じ様に海龍を凍らせる。
「何?!」
  しかし、海龍は凍らない。
正確には所々は凍っているのだが、それでも全体が凍り付く事は無かった。
「なっ──」
バクンッ!!!!
  一瞬にして海水の中に身を呑み込まれる。
「ぐっ──あぁッ!?」
  海龍の中は文字通り海水。
激しい海流の流れと水圧がカイトを襲う。
肉体が引き千切れる程の痛みと、水圧が腹部を圧迫し酸素を吐き出させる。
(このままじゃ不味いな)
  魔力を集中し、身体に纏わせて空間を作成する。
しかし、それを見ていたオールドは更に魔力を上げ、海龍の力を強め始めた。
それにより中の海水の流れは勢いを増し、先程とは比べられない力がカイトへと襲い掛かる。
世界規模の大災害。
大地は割れ、水が減り。人々は残り少ない自然を増やす事に着目した。
しかし、その後世界は何度も崩壊の危機に直面し。
それ故に禁忌を犯した。
─────人を減らしたのだ。
人が人を裁く。
ソレはよくある事なのだが。違う。
コレは各国による国の潰し合いだったのだ。
自らの国が助かる為に、幾つかの国は協定を結び『人滅計画』を開始する。
しかし、残された国も必死に抗った。
互いに手を取り防衛し、平和な国を作ろうとした。
それでも攻撃は止まない。
痺れを切らした国民は一揆を起こし戦争を加速させて行くが、統率の取れない力はとても無力。
気付いた時には全てを失っていた。
そして世界を我がモノとした連合国は、敗者を奴隷として扱い。
全てを犯し尽くした。
  だが、それだけで全ては終わらなかった。
連合国が天下を取ってから数年後。
世界は『ポールシフト』により崩壊して行く。
  人類の殆どが新たに作り出された環境に耐え切れずに死滅。
残った者は普通の者と。
肉体が変化し、人ならざる者として生まれ変わったのだ。
そこから更に悲しいか。
巨大な隕石の落下により、人類の英知の結晶である物資は全て地に呑まれたのだった。
現在から─10年前。
この世界は魔王サタンにより、過半数の領土を悪魔に略奪されていた。
国々は力を合わせて魔物の軍勢が攻め入るのを阻止し。世界の均衡を保とうとしていたのだが。
この世と相対する世界──魔界。
そこで育った魔物はどれも強力な力を持ち、魔王軍の勢力は更に増大化する。
いつから魔界があったのか。
そしてこの世界と繋がったのかは不明。
  そして魔王軍に対抗し、国々から猛者が志願し作られた軍隊『勇者軍』。
これに所属している間、通行規制の免除。ある程度の物資提供を受けれて、更には戦闘に必要な費用は幾らか割り引かれる。
勿論、それ相応のテストや見極めもされるので。
生半可な者がなれる事は少ないのだが。
それでも完全に善人が勇者軍になれる訳では無い。
例外も多数はあった。
しかし、その例外は例外のまま。勇者になる事もなく散って行くだけ。
残った部隊は2つ。
第一部隊・第六部隊だけであった。
「やぁ、カイト。久しぶり」
「──『彗星の光』か」
「その名で呼ばなくとも、前みたいに名前で呼びたまえ」
   セイヤ・ライトニングスター。
彼は勇者軍第一部隊のリーダーだった男。
二つ名に『彗星の光』を持ち。その力はトップクラスである。
「お前が此処に居るという事は、このまま中央国へ向かうのか?」
  カイトの問いに、美形が更に目立つ微笑みを浮かべてセイヤは後ろへと振り向く。
此処は現在船の上。
そして二人が居るのはデッキの先端部分なのだ。
海風に金の髪を靡かせ。彼は水平線を見詰める。
「(──仲間が殺された。ボクはその調査の途中だったんだよ)」
「───?!」
  小声で放たれた言葉に、カイトは息を呑んだ。
「(魔王軍の動きが活発化している中、ソレを利用した国の暗殺者の仕業だろう。
現に死体を見たが、雑に切られた傷の中に致命傷となった刃物傷をボクは見付けた)」
  セイヤは水平線を見詰めたまま、振り返らずに小声で会話を続ける。
その意味を察して、カイトも何事も無いように手摺に背中を預けて、ただ風に当たっている様に見せる。
「(第三部隊の事を覚えて居るか?)」
「───あぁ、良い風だな?」
「そうだな」 
「(流石だ。第三部隊はチューハンとアーシロの独立国同盟部隊だった)」
  唐突な発言に目を一瞬丸くしたが、カイトの返答だと気付くとセイヤは話を再開する。
アーシロ。
それはアーシロコルト王国(独立国)の略称である。
チューハン王国とアーシロコルト王国の両国は、10年前の勇者軍結成の際、和平交渉に数人戦闘員を参加させて来た二国である。
「(彼等の部隊は戦死とされていたが、知り合いがそのメンバーだった1人を最近見付けてね。
その調査を行っていたんだよ)」
「(お前、まさか?)」
「(あぁ、どっちかじゃない。両国黒だよ。
ボクはその鍵となる証拠を手に入れた。部隊のメンバーだった奴の写真と、『買い手』の細かい情報の載った写しだ)」
「(戦争になるかも知れないぞ )」
「(だからこそ。今回の会議にコレが必要なんだ)」
  セイヤは胸に手を宛て、拳を握り締める。
「(悪魔と取り引きをして、自分達だけ生き残ろうとしてる奴等を──根絶やしにしてやる)」
  揺るがぬであろう決意が瞳に宿り、夕焼けに差し掛かった陽の光が反射する。
「──そうか。それは残念だ」
「「!!」」
  突如聞こえてきた声に、二人は警戒体勢に入る。
何も言わずに瞬時に背と背を合わせる辺りは、流石は熟練の冒険者と言えよう。
「何処だっ?!」
「──?! 海の上を見ろ!!」
  カイトが何かを発見し、それを伝える。
言われた方へと視線を向けると、海の上に複数の人影があった。
「見知った顔が幾つかあるね?」
「あぁ、元魔王軍の幹部だった奴が数人居るな。
しかも───魔力が桁違いに上がってる」
左から。
ピエロの仮面を着けて、道化の格好をしているのがタンジュ。
木で出来た身体を持つ、魂を宿した人形マリオネ。
白髪で痩せている子供はライオット。
死の軍団を従える老人アレゴリー。
そして、その中心に立つのは長身で筋肉質な肉体をし。長く黒い髪を後ろで縛って1本にしているキール。
「自己紹介をして置くか」
  キールの横に立つ男が、黒いコートを脱ぎ捨て筋骨隆々の姿を現す。
「我が名は『オールド』!!
長らく封印されていたが、『転生山』の呪縛から解き放たれた魔神なりッ!!」
バリバリッ──!!!
「何だっ──この魔力?!」
「くっ──!! ボク達を遥かに凌ぐ力…魔神と言うのは本当なのかもね」
「『転生山』…奴等は『蘇った側』の」
「お喋りは良くないヨ?」
「?!」
  カイトの背後にタンジュが現れ、セイヤの背後にはライオットが回り込む。
「『ホールナイフ』ゥ!!」
「『魔炎』!!」
  タンジュの手に大きな円状のナイフが出現し、ライオットは黒い炎を出現させ。
互いの目の前に居る二人へと襲い掛かる。
「『光閃』!!」
魔炎に対して光線を放つ。魔炎の炎を描き消し、光はライオットの左腕を捉え直撃。
「ぐっ────!!」
ガキィン──!!
「ぬぅ?!」
「『刃折返し』…」
バキィンッ!と音を立て、タンジュのナイフが砕け散る。
よく見るとナイフとカイトの間には、1本の刀が滑り込み。肉体を切り裂くのを阻止していた。
「ンおやぁ?」
コツン…と小さな赤い玉が床に甲板に転がり──
「──なっ?!」
刹那、赤い炎が燃え盛り。
甲板の一部を轟々と燃やし始める。
「クソっ!! 甲板燃やしやがった!!」
「火が点いた!!火が着いた!!火が付いた!!」
「なら───」
 ゲラゲラと笑い転げるタンジュに対し、カイトは冷静になり落ち着きを取り戻す。
シンとした瞬間。
カイトが刀を振るうと、甲板の燃えていた部分に風が巻き起こり炎を描き消した。
「ほぉ…あの若造。今の魔力…」
  遠くで観戦していた面子がニヤニヤと不敵に微笑み、その光景を目に焼き付けていた。
特にオールドは今の技に興味があるらしく、大人しく待機している面子から1人だけ離脱した。
「あーあ。オールドまで行っちゃったよ。
ボク退屈だなぁ〜。ねぇ?船の中の人殺しても良いでしょ?」
「フォッフォッ、あの船は『空船』じゃよ。
囮用じゃて。機械しか中には無いぞ?」
「えぇ?!  人乗ってないのに動いてるの!?」
「──あぁ」
  マリオネとアレゴリーの会話に、静かにキールが割り込む。
「良く見てみろ。船の中にある魔力は『2種類だけ』だ」
  言われた通りに船の中を感知する。
確かに船の内部には複数の魔力を感知したが。どれも似た質の魔力ばかり。
マリオネは機械仕掛けの瞳をカチャカチャと鳴らし、瞳を一回転させる。
  ザンッ───!!と腕が吹き飛ぶ。
赤い血飛沫を数秒遅れて撒き散らし。
腕は放物線を描きながら船の下へと落下する。
「──『閃空斬』!!」
  タンジュの懐に入り込み、刀を切り上げた姿のカイトがそこにあった。
そして、その切り上げた勢いを利用し。カイトは刀を瞬時に切り替え。
刃の向きを下に変えると───ザシュッ!!
勢いを加速させてタンジュの残った左腕も切断した。
「ぎィ───ッッッッッ?!」
「『追斬撃』!!!」
「エヘヘへ…」
  両腕を切断された筈なのに、不気味に笑う道化師。
ドサリと落ちた左腕を見て、カイトはその笑みの意味を知る。
切断された左腕に埋め込まれていた物を見付けた刹那。
カイトはライオットと戦闘中のセイヤに駆け寄り、物陰へとセイヤを刀の鞘で薙ぎ払う。
「ぐっ──?!」
ガタガタと震えた左腕が、カッ──!!っと閃光を放ち爆発する。
───ボッッッッ!!!!
  爆風と共に激しい炎が辺り一面を飲み込む。
爆煙の中でカイトの姿を見失ったセイヤは、木箱の後ろに隠れてやり過ごすが、近くに接近する威圧感に気付き。
頭だけを陰から出して覗き込む。
煙で良くは見えないが、大きな魔力の気配を感じる。
「幹部以上の魔力だ。オールド…『全能なる魔神』か?!」
  昔話を思い出したセイヤは、オールドの本当の名前らしきモノを閃いた。
ポールシフトが起こり、世界が異変の渦に呑み込まれている最中。
突然変異した生物。そして、人間や魔物を喰い数百年生きてきた災厄の魔物。
魔神足るは所以は、その喰べたモノの魔力をそのまま己の力に変える能力。
  己より強いモノに挑んでは勝ち。
血肉を浴びた生物の末路が彼であり。
魔物の中で神という存在として崇められる。それ故に彼は魔神と言われている。
自分で呼べと命令した訳でも。
頼んで呼んで貰っているのでも無い。
それは彼の強さや悍ましさがそうさせているのだ。
 「ケホッ──前よりは学習してるのか」
「流石…全くダメージを受けていないのですネ?」
「生き返ったボク等の力も格段に上がってるハズなのになぁ…」
「お主等よ。少し童をワシに貸せい」
  爆煙の中から現れた4人は無傷で炎が燃え盛る甲板に立っている。
あの爆発の中を、一体どうやって凌いだのか。セイヤは額に冷や汗を垂らし、ゴクリと唾を飲んだ。
「どれ、手始めじゃ『炎龍』」
ゴォォォォォォォォォ───!!!
  炎に手を翳した刹那、炎がうねりを上げて舞い上がり。
たちまち龍の姿へと変化した。
「『海龍』!!」
  反対の余った手を翳すと、海から巨大な龍の姿が現れる。
海水で出来た龍に、炎で出来た龍。
2匹の龍は大きく天を仰ぎ、そのまま下に急降下する。
タンジュとマリオネは互いに猛スピードで既に空中へと逃れていた。
そして、残されたカイトに2匹の龍が襲い掛かる──が
パキッ──!!
───ゴォゥ!!!
それぞれの龍がうねりを上げ鳴く。
海水で出来た龍は凍り付き。
炎で出来た龍は黒い炎が現れ呑み込まれてしまう。
それもたったの一瞬で。
何が起こったのか分からない面々に対し、キールとオールドだけが違う表情を露にしていた。
キールは訝しげに。
オールドはニヤリと満足気に。
しかし、互いの距離が離れている為。
それは知る由もなく。他の他の者も、その一瞬の出来事に集中していたせいで気付いては居なかった。
「やはりその魔力…ワシの見立てた通りじゃ。
懐かしいわい──サタンよ」
「俺はサタンじゃない。カイト…カイト・シラザキだッ!!」
「────ぬ?!」
  カイトの振るった刀から黒い炎が出現し、オールド目掛けて解き放たれる。
「『海龍』!!」
パキッ───パキンッ!!!!
凍り付いていた海龍がオールドの呼び掛けにより、氷を打ち破り再び姿を現し──ジュッと言う音を立てて炎を呑み込む。
炎を呑み込んだ海龍は、そのままカイトへの向かい奇襲を仕掛ける。
「──凍てつけ」
  右手に刀を預け、左腕を前に翳し先程と同じ様に海龍を凍らせる。
「何?!」
  しかし、海龍は凍らない。
正確には所々は凍っているのだが、それでも全体が凍り付く事は無かった。
「なっ──」
バクンッ!!!!
  一瞬にして海水の中に身を呑み込まれる。
「ぐっ──あぁッ!?」
  海龍の中は文字通り海水。
激しい海流の流れと水圧がカイトを襲う。
肉体が引き千切れる程の痛みと、水圧が腹部を圧迫し酸素を吐き出させる。
(このままじゃ不味いな)
  魔力を集中し、身体に纏わせて空間を作成する。
しかし、それを見ていたオールドは更に魔力を上げ、海龍の力を強め始めた。
それにより中の海水の流れは勢いを増し、先程とは比べられない力がカイトへと襲い掛かる。
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