ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第12話 元勇者軍VS新生魔王軍

──数百年前。

世界規模の大災害。
大地は割れ、水が減り。人々は残り少ない自然を増やす事に着目した。

しかし、その後世界は何度も崩壊の危機に直面し。
それ故に禁忌を犯した。

─────人を減らしたのだ。

人が人を裁く。
ソレはよくある事なのだが。違う。

コレは各国による国の潰し合いだったのだ。

自らの国が助かる為に、幾つかの国は協定を結び『人滅計画』を開始する。

しかし、残された国も必死に抗った。
互いに手を取り防衛し、平和な国を作ろうとした。

それでも攻撃は止まない。
痺れを切らした国民は一揆いっきを起こし戦争を加速させて行くが、統率の取れない力はとても無力。

気付いた時には全てを失っていた。

そして世界を我がモノとした連合国は、敗者を奴隷として扱い。
全てを犯し尽くした。

  だが、それだけで全ては終わらなかった。

連合国が天下を取ってから数年後。

世界は『ポールシフト』により崩壊して行く。

  人類の殆どが新たに作り出された環境に耐え切れずに死滅。
残った者は普通の者と。
肉体が変化し、人ならざる者として生まれ変わったのだ。

そこから更に悲しいか。
巨大な隕石の落下により、人類の英知の結晶である物資は全て地に呑まれたのだった。





現在から─10年前。

この世界は魔王サタンにより、過半数の領土を悪魔に略奪されていた。

国々は力を合わせて魔物の軍勢が攻め入るのを阻止し。世界の均衡を保とうとしていたのだが。

この世と相対する世界──魔界。
そこで育った魔物はどれも強力な力を持ち、魔王軍の勢力は更に増大化する。

いつから魔界があったのか。
そしてこの世界と繋がったのかは不明。

  そして魔王軍に対抗し、国々から猛者が志願し作られた軍隊『勇者軍』。

これに所属している間、通行規制の免除。ある程度の物資提供を受けれて、更には戦闘に必要な費用は幾らか割り引かれる。

勿論、それ相応のテストや見極めもされるので。
生半可な者がなれる事は少ないのだが。

それでも完全に善人が勇者軍になれる訳では無い。

例外も多数はあった。
しかし、その例外は例外のまま。勇者になる事もなく散って行くだけ。

残った部隊は2つ。
第一部隊・第六部隊だけであった。


「やぁ、カイト。久しぶり」

「──『彗星の光コメクトラ』か」

「その名で呼ばなくとも、前みたいに名前で呼びたまえ」

   セイヤ・ライトニングスター。
彼は勇者軍第一部隊のリーダーだった男。

二つ名に『彗星の光』を持ち。その力はトップクラスである。

「お前が此処に居るという事は、このまま中央国プロミネンスへ向かうのか?」

  カイトの問いに、美形が更に目立つ微笑みを浮かべてセイヤは後ろへと振り向く。

此処は現在船の上。
そして二人が居るのはデッキの先端部分なのだ。

海風に金の髪を靡かせ。彼は水平線を見詰める。

「(──仲間が殺された。ボクはその調査の途中だったんだよ)」

「───?!」

  小声で放たれた言葉に、カイトは息を呑んだ。

「(魔王軍の動きが活発化している中、ソレを利用した国の暗殺者の仕業だろう。
現に死体を見たが、雑に切られた傷の中に致命傷となった刃物傷をボクは見付けた)」

  セイヤは水平線を見詰めたまま、振り返らずに小声で会話を続ける。

その意味を察して、カイトも何事も無いように手摺に背中を預けて、ただ風に当たっている様に見せる。

「(第三部隊の事を覚えて居るか?)」

「───あぁ、良い風だな?」

「そうだな」 

「(流石だ。第三部隊はチューハンとアーシロの独立国同盟部隊だった)」

  唐突な発言に目を一瞬丸くしたが、カイトの返答だと気付くとセイヤは話を再開する。


アーシロ。
それはアーシロコルト王国(独立国)の略称である。

チューハン王国とアーシロコルト王国の両国は、10年前の勇者軍結成の際、和平交渉に数人戦闘員を参加させて来た二国である。

「(彼等の部隊は戦死とされていたが、知り合いがそのメンバーだった1人を最近見付けてね。
その調査を行っていたんだよ)」

「(お前、まさか?)」

「(あぁ、どっちかじゃない。両国黒だよ。
ボクはその鍵となる証拠を手に入れた。部隊のメンバーだった奴の写真と、『買い手』の細かい情報の載った写しだ)」

「(戦争になるかも知れないぞ )」

「(だからこそ。今回の会議にコレが必要なんだ)」

  セイヤは胸に手を宛て、拳を握り締める。

「(悪魔と取り引きをして、自分達だけ生き残ろうとしてる奴等を──根絶やしにしてやる)」

  揺るがぬであろう決意が瞳に宿り、夕焼けに差し掛かった陽の光が反射する。

「──そうか。それは残念だ」











「「!!」」

  突如聞こえてきた声に、二人は警戒体勢に入る。

何も言わずに瞬時に背と背を合わせる辺りは、流石は熟練の冒険者と言えよう。

「何処だっ?!」

「──?! 海の上を見ろ!!」

  カイトが何かを発見し、それを伝える。
言われた方へと視線を向けると、海の上に複数の人影があった。

「見知った顔が幾つかあるね?」

「あぁ、元魔王軍の幹部だった奴が数人居るな。
しかも───魔力が桁違いに上がってる」

左から。
ピエロの仮面を着けて、道化の格好をしているのがタンジュ。

木で出来た身体を持つ、魂を宿した人形マリオネ。

白髪で痩せている子供はライオット。

死の軍団を従える老人アレゴリー。

そして、その中心に立つのは長身で筋肉質な肉体をし。長く黒い髪を後ろで縛って1本にしているキール。

「自己紹介をして置くか」

  キールの横に立つ男が、黒いコートを脱ぎ捨て筋骨隆々の姿を現す。

「我が名は『オールド』!!
長らく封印されていたが、『転生山』の呪縛から解き放たれた魔神なりッ!!」

バリバリッ──!!!

「何だっ──この魔力?!」

「くっ──!! ボク達を遥かに凌ぐ力…魔神と言うのは本当なのかもね」

「『転生山』…奴等は『蘇った側』の」

「お喋りは良くないヨ?」

「?!」

  カイトの背後にタンジュが現れ、セイヤの背後にはライオットが回り込む。

「『ホールナイフ』ゥ!!」

「『魔炎』!!」

  タンジュの手に大きな円状のナイフが出現し、ライオットは黒い炎を出現させ。
互いの目の前に居る二人へと襲い掛かる。

「『光閃こうせん』!!」

魔炎に対して光線を放つ。魔炎の炎を描き消し、光はライオットの左腕を捉え直撃。

「ぐっ────!!」

ガキィン──!!

「ぬぅ?!」

「『刃折返しはおりがえし』…」

バキィンッ!と音を立て、タンジュのナイフが砕け散る。

よく見るとナイフとカイトの間には、1本の刀が滑り込み。肉体を切り裂くのを阻止していた。

「ンおやぁ?」

コツン…と小さな赤い玉が床に甲板に転がり──

「──なっ?!」


刹那、赤い炎が燃え盛り。
甲板の一部を轟々と燃やし始める。

「クソっ!! 甲板燃やしやがった!!」

「火が点いた!!火が着いた!!火が付いた!!」

「なら───」

 ゲラゲラと笑い転げるタンジュに対し、カイトは冷静になり落ち着きを取り戻す。

シンとした瞬間。
カイトが刀を振るうと、甲板の燃えていた部分に風が巻き起こり炎を描き消した。




「ほぉ…あの若造。今の魔力…」

  遠くで観戦していた面子がニヤニヤと不敵に微笑み、その光景を目に焼き付けていた。

特にオールドは今の技に興味があるらしく、大人しく待機している面子から1人だけ離脱した。

「あーあ。オールドまで行っちゃったよ。
ボク退屈だなぁ〜。ねぇ?船の中の人殺しても良いでしょ?」

「フォッフォッ、あの船は『空船からぶね』じゃよ。
囮用じゃて。機械しか中には無いぞ?」

「えぇ?!  人乗ってないのに動いてるの!?」

「──あぁ」

  マリオネとアレゴリーの会話に、静かにキールが割り込む。

「良く見てみろ。船の中にある魔力は『2種類だけ』だ」

  言われた通りに船の中を感知する。
確かに船の内部には複数の魔力を感知したが。どれも似た質の魔力ばかり。

マリオネは機械仕掛けの瞳をカチャカチャと鳴らし、瞳を一回転させる。




  ザンッ───!!と腕が吹き飛ぶ。
赤い血飛沫を数秒遅れて撒き散らし。

腕は放物線を描きながら船の下へと落下する。

「──『閃空斬せんくうざん』!!」

  タンジュの懐に入り込み、刀を切り上げた姿のカイトがそこにあった。

そして、その切り上げた勢いを利用し。カイトは刀を瞬時に切り替え。
刃の向きを下に変えると───ザシュッ!!

勢いを加速させてタンジュの残った左腕も切断した。

「ぎィ───ッッッッッ?!」

「『追斬撃ついざんげき』!!!」

「エヘヘへ…」

  両腕を切断された筈なのに、不気味に笑う道化師。

ドサリと落ちた左腕を見て、カイトはその笑みの意味を知る。

切断された左腕に埋め込まれていた物を見付けた刹那。
カイトはライオットと戦闘中のセイヤに駆け寄り、物陰へとセイヤを刀の鞘で薙ぎ払う。

「ぐっ──?!」

ガタガタと震えた左腕が、カッ──!!っと閃光を放ち爆発する。

───ボッッッッ!!!!

  爆風と共に激しい炎が辺り一面を飲み込む。
爆煙の中でカイトの姿を見失ったセイヤは、木箱の後ろに隠れてやり過ごすが、近くに接近する威圧感に気付き。
頭だけを陰から出して覗き込む。


煙で良くは見えないが、大きな魔力の気配を感じる。


「幹部以上の魔力だ。オールド…『全能なる魔神オールド・デビルズ』か?!」

  昔話を思い出したセイヤは、オールドの本当の名前らしきモノを閃いた。

ポールシフトが起こり、世界が異変の渦に呑み込まれている最中。
突然変異した生物。そして、人間や魔物を喰い数百年生きてきた災厄の魔物。

魔神足るは所以ゆえんは、そのべたモノの魔力をそのまま己の力に変える能力。

  己より強いモノに挑んでは勝ち。
血肉を浴びた生物の末路が彼であり。
魔物の中で神という存在として崇められる。それ故に彼は魔神と言われている。

自分で呼べと命令した訳でも。
頼んで呼んで貰っているのでも無い。

それは彼の強さやおぞましさがそうさせているのだ。

 「ケホッ──前より・・・は学習してるのか」

「流石…全くダメージを受けていないのですネ?」

「生き返ったボク等の力も格段に上がってるハズなのになぁ…」

「お主等よ。少しわっぱをワシに貸せい」

  爆煙の中から現れた4人は無傷で炎が燃え盛る甲板に立っている。

あの爆発の中を、一体どうやって凌いだのか。セイヤは額に冷や汗を垂らし、ゴクリと唾を飲んだ。

「どれ、手始めじゃ『炎龍えんりゅう』」

ゴォォォォォォォォォ───!!!

  炎に手を翳した刹那、炎がうねりを上げて舞い上がり。
たちまち龍の姿へと変化した。

「『海龍かいりゅう』!!」

  反対の余った手を翳すと、海から巨大な龍の姿が現れる。

海水で出来た龍に、炎で出来た龍。
2匹の龍は大きく天を仰ぎ、そのまま下に急降下する。


タンジュとマリオネは互いに猛スピードで既に空中へと逃れていた。

そして、残されたカイトに2匹の龍が襲い掛かる──が

パキッ──!!

───ゴォゥ!!!

それぞれの龍がうねりを上げ鳴く。

海水で出来た龍は凍り付き。
炎で出来た龍は黒い炎が現れ呑み込まれてしまう。

それもたったの一瞬で。

何が起こったのか分からない面々に対し、キールとオールドだけが違う表情を露にしていた。

キールは訝しげに。
オールドはニヤリと満足気に。

しかし、互いの距離が離れている為。
それは知る由もなく。他の他の者も、その一瞬の出来事に集中していたせいで気付いては居なかった。

「やはりその魔力…ワシの見立てた通りじゃ。
懐かしいわい──サタンよ」

「俺はサタンじゃない。カイト…カイト・シラザキだッ!!」

「────ぬ?!」

  カイトの振るった刀から黒い炎が出現し、オールド目掛けて解き放たれる。

「『海龍』!!」

パキッ───パキンッ!!!!

凍り付いていた海龍がオールドの呼び掛けにより、氷を打ち破り再び姿を現し──ジュッと言う音を立てて炎を呑み込む。

炎を呑み込んだ海龍は、そのままカイトへの向かい奇襲を仕掛ける。

「──凍てつけ」

  右手に刀を預け、左腕を前に翳し先程と同じ様に海龍を凍らせる。

「何?!」

  しかし、海龍は凍らない。
正確には所々は凍っているのだが、それでも全体が凍り付く事は無かった。

「なっ──」

バクンッ!!!!

  一瞬にして海水の中に身を呑み込まれる。

「ぐっ──あぁッ!?」

  海龍の中は文字通り海水。
激しい海流の流れと水圧がカイトを襲う。
肉体が引き千切れる程の痛みと、水圧が腹部を圧迫し酸素を吐き出させる。

(このままじゃ不味いな)

  魔力を集中し、身体に纏わせて空間を作成する。

しかし、それを見ていたオールドは更に魔力を上げ、海龍の力を強め始めた。
それにより中の海水の流れは勢いを増し、先程とは比べられない力がカイトへと襲い掛かる。


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