話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第10話 揺れ揺られ



  もう何時間も対峙している気持ちだ。

何度も殴られたせいか、身体の至る所が痛く。
服等には黒い炎で焼かれた後が焦げ付いて目に見える。

「さて、そろそろ私は外へ出るぞ? 小腹も空いた事だ。
そこら辺の店から何か頂こう」

そう言って彼女の。シファーの肉体を乗っ取っている魔王サタンは、首を回しながら家の周り塀を軽々とジャンプし飛び越え様とするがバチィッ!!と魔王の目の前に電流の様なモノが走り、それを遮ったのだ。

「馬鹿ね…結界くらい張ってるわよ?
そもそも、こんな騒いで人が来ない時点で疑うべきよ」

  ローラの言葉に魔王はふむと考え込み。
ばんっと地面を強く蹴り、空へと舞い上がる。


「壁なぞ越えれば問題な───ぎいぃっ?!」

  後半変な声を上げたのは、先程と同じ様に電流見たいなのが流れる。

しかも、今度は体に脆食らっているのだから一堪りも無い。

「腐っても元勇者軍よ?  悪魔が空まで逃げるのなんて想定内よ」

  地面にふらふらと着地した魔王だが、今ので体力を削られたのは明白だ。
ローラは追い討ちとばかりにナイフを構え、ハジメも戦闘態勢に構える。

「舐めていた…とは言え、此処まで詰むとはな。
やはり肉体と魔力に問題があるか」

「そろそろ話して貰えるかしら?
その子と貴方について」 

「ハッ。話してやっても良いのだが、残念だが時間の様だ」

  魔王がそう呟くと、シファーの肉体から黒い魔力が薄らと霧の様に立ち込める。

「覚えておけ人間よ。この娘を殺そう等と思うなよ?
この娘を殺したら最後、貴様等に夜明けは無いと思え」

「その保証は出来ないわ。彼女が危険な存在と分かった以上、我々『教会』が彼女を拘束した後。処刑する」

「──なっ?!」

「フッ、カイトはソレを望まぬよ──」

「「!?」」

  最後の言葉を良いながら、魔王ら不敵に笑い消えて行く。それをしっかりと感じた。

シファーから重い威圧感や禍々しい魔力が消え、倒れた彼女の表情からは元に戻ったと伺える。
ローラもソレを察したのか、彼女に治癒魔法をかけた後に。ハジメや自分にも治癒魔法を掛け傷を癒す。

「──あ、れ?」

「目が覚めたッスか?」

「あ、たし…どうして?」

「貴女は魔力のコントロール中に倒れたのよ。大丈夫、軽い貧血見たいなのだから安静にしてれば良くなるわ」

「そう…」

  ローラの存在に違和感を覚えず、彼女は穏やか表情で眠りに着く着く。
否、そんな余裕等無いのであろう。魔力を酷く消耗し。挙句に肉体の自由を奪われ戦闘に使われていたのだから当然。




  彼女を部屋に運びベッドに寝かせると、ハジメはローラと共にテーブルに向かい合う様に座る。

「はーちゃん。私は『教会』側の人間として言わせて貰うわ。
彼女を中央国へ出頭させて」

  分かっていた事だった。
本来ならばそれが普通なのだ。

悪魔の、ましてや魔王の血を引き。あまつさえ、魔王自信が宿る肉体。
その存在は人間からしたら非常に危険でしかないのだから。

それでも──

「俺は彼女の目を信じたいッス」

「はーちゃん…」

「彼女はオークに襲われていた時、酷く怯えていました。あの目は俺と同じッス。
何かに怯えて生きている人間の目ッス。
オークが居なくなった後も、彼女の目には揺らぎが見えたッス!!」

  だからこそ守りたいのだという主張。
ローラは1度溜め込み、しかし心を鬼に変えて覚悟を決める。

「残念ながら無理よ。彼女は明日にでも出頭させるわ」

「──ッ!!」

「分かってるわ。貴方も彼も似ている。
だからこそ、今の私を受け入れてくれている事に感謝もしているのよ。
でもね、私は大切な人を守る為なら恨まれる事もするわよ?」

  それがどんな事でもね。という言葉にハジメは何も言い返す事が出来なかった。

──こんこん。とドアが何者かにノックされ、2人は扉を見る。

ハジメはこの空気に耐えられず、取り敢えずそのノックに軽く返事をして扉へと向かう。

ガチャりと扉を開くと、目の前に黒いスーツを着飾った白髪の男性が立っていた。
自前の髭をじりじりと弄っていた彼は、ハジメがドアを開けた事に気付くや否や、深々と頭を下げて挨拶をする。

「夜分遅くに済まない。
私はジャック・リッパー。現在は此処スタト村で『衛兵隊:隊長』を任せられている」

「衛兵長さん…いや、ジャックさん」

「怪我の具合はどうかね?ハジメ・ナイトソード君?」

  互いに顔を見詰め合う二人。




「やはり、何かあったのか」

  中に招き入れるや。衛兵長は先に席に着いていたローラに視線を向け、何かを感じ取ったらしく溜息を吐く。

ローラといえば、そんな事も梅雨知らぬ顔で立ち上がり、お辞儀をして挨拶をしまた席に着く。

「ローラ殿。先ずは先日の治癒魔法、誠に感謝する。
ハジメ殿も、自らの事を顧みず戦地へと赴き貢献してくれた事、深く、深く感謝する」

  二人に頭を下げるジャックに、ローラは顔をお上げ下さいと優しく言う。

「私は私の仕事をした迄です」

「いやはや、暴動を沈めた上に兵士の面倒まで診て頂いたのだ。感謝しても仕切れぬ」

「ジャックさん、衛兵長としての挨拶はもう良いッスよ。
俺なんて逆に頭を下げなければいけない立場何ッスから」

「いやいや、君がまだこの村に居てくれたとは。
てっきり、カイト君や他の人と旅に出てるものかと」

「俺はカイトさんと居たのは少しだけッスよ?
この村に滞在してる時に、剣や索敵について教わってたんスから」

「成程、君自身が『勇者軍』では無かったのだね。いや、随分幼いとは思っていたが。前例があったのでな、すまない」

  確かに、俺は少し前にカイトさんに剣や索敵。サバイバル術も学んでいたが、あの時はまだ8歳だったのだから、大人や上の人達と混じって戦闘なんてとても無理な部類だ。

ましてや、『勇者軍』は才能ある人の集まり。
強者じゃないヘタレな俺が混じった所で、足枷でしかないであろう。

10年前に旅をしていたカイトさん達がこの村に立ち寄り、たまたま知り合って教えて貰ったわけで。

旅に勧誘された訳でも無かった。

あの頃は冒険者も多く、旅人の出入りも激しかった。そして、その一行がカイトさん達でもあったのだが。

「実は、本日付けの文書で会議があるとの通達があったのだが。
各国の実力者と兵長クラスが集められるそうでな。此処からだと明朝に出る予定なのだが、ローラ殿は使いを出すのかと聞きに来たのだ」

「それねぇ…」

  衛兵長の言葉にローラは歯切れ悪く答え、ハジメへと視線を向ける。

彼女は『教会』側が使いに出している実力者。当然、その会議や号令には従わなければいけないのだが。場合が場合なだけに、彼女は村から離れる事は今現在難しい話である。

視線の先を見て、衛兵長は納得した様に首を縦に2度ほど振る。

「ハジメくんか、成程それなら私は納得だ。
シファーくんの件もある。同行してくれるのなら有難い」

「ちょっ、ちょっと待ってください衛兵長さん!!私は──」

「だからローラさんは俺の家に来たんッスね…」

「ふむ。実はな、その会議に『教会』や『亜人』も参加するらしく。
情報を集めるには充分かと私は思っている」

  ただ…と重い口を開き話を進める。

「彼女、シファー殿をその会議に連れて行けば身の安全を確保出来るかと考えている」

「「?!」」

「このままでは魔王軍に襲われるであろう。
なら、実力者の集まるこの会議を利用するのが1番だと私は思う」

「それって、シファーちゃんを囮に魔王軍を引き出す積もりですか?」

「───そう受け取って貰っても構わない」

  一瞬、空気が張り詰めた。

此処で言葉を返さなければ話は着く。元より、中央国にシファーを差し出そうという話だったのに。これではローラに渡りに船だ。

しかし、ハジメはその空気を壊す勇気など無かったのだ。

涼しい顔で話しているが、2人からは強烈な魔覇(魔力で発する覇気の様なモノ)を感じる。

「行くわ…私」

「シファーさん?!目が覚めて──」

「ジャックさん、私は人間の為に囮にでも何でもなります」

「──ほぉ?」

「シファーさん、何を言ってるんッスか?!」

「私っ…父を、魔王サタンを恨んでるのよ。
アイツのせいでママはずっと苦しんでた。
あんな姿を見るくらいなら、悪魔何か死ねば良いのよッ!!」

  それだけじゃない。
この子はオークに襲われていた。という事は。
彼女は、他にも色んな魔物に命を狙われていた筈だ。それなら悪魔を恨む気持ちも芽生えて当然。

母親も旦那がサタンなら、普通の生き方なんて出来なかった筈。

この子は、この歳で人間と悪魔の闇を知り過ぎているのだ。

「今回の会議には『聖痕の十字架クロスティグマ』も参加すると聞いている。
もしかしたら、君についての情報や生きる術を知っているかも知れない」

「『聖痕の十字架クロスティグマ』?!」

「クロ…ステ?」

  衛兵長の口にした言葉にハジメは目を見開く。

その隣でシファーは内容が分からずにハテナを頭に浮かべていた。

聖痕の十字架クロスティグマ』とは『聖職者』(クレリックとも呼ばれる職)の中でトップクラスであり、そこに所属している人は不明とされている。

  秘密の組織として国々を監視しているとされているのだが、ソレと似たような職業が別でもう1つ存在している。

『観測者』はソレの表版の職業。
表立って監視している事で少しでも犯罪意欲を削ぎ、その行動の抑止力にもなっているのだが。
確実に治める事など到底無理であり、その時に裏で行動するのが『聖痕の十字架』である。

「『聖痕の十字架』は裏の顔も効くハズだ。
少なからず、この状況をコチラよりは把握していると思うのだがね」 

  書類を幾つかテーブルに広げ、衛兵長は赤い印の着いた地図をトンっと指で叩いた。

「『魔王の血』に付いてと『新生魔王軍』この二つが今回の会議の鍵となるだろうが。
此処、東国の『ジパン王国』から北緯30度程に位置する独立国『チューハン王国』。
この国の貴族が奴隷買収し、国へ他の物資と共に密輸していたらしいのだ」

  彼の発言に驚く。
しかし、その中でも冷静なのが1人。

「その事については、私達観測者は『機密事項トップシークレット』として認定されていますが?」

「聖職者である君達の口から、市民を混乱へと招かない様にとの御配慮でしょう。
それにより、ドリムメルの各国の観測者達は撤退させられています。
これも東国や他の国々が決定し、既に撤退準備は完了しているモノかと」

「えぇ。戦争に成りかねない以上、私達観測者が関与出来ないので撤退命令が出されているらしいわ」

  『観測者』とは平和を維持する為にあるモノであり、世界や軍事に勝手に関与しては成らない決まりがある。

「実は情報によると、この売買されていた奴隷の中に『亜人』や『混血』が紛れていたらしく。『魔物』そのモノも売買されていたらしい」

「───っ!! 成程ね、魔物も売買していたとなると…」

「えぇ。シファー殿、失礼します」

「あっ、は、はい」

  今度取り出した地図は拡大されていた。
この周辺のモノを大きく写しているらしく、森の通路や近隣の道筋もしっかりと記されてある。

「貴方の逃げて来たルートは此処から…此処ですかね?」

大まかに指で道筋を謎る衛兵長だったが、シファーはそれに対して首を横に振り。別な場所へと指を指す。

「私、この山を抜けて…此処の川沿いの橋を渡ったのは覚えてる」

「───やっぱり」

「ふむ」

  ローラと衛兵長は同時に納得する。

「このルートはチューハン王国経由で間違い無いですね」

「シファーちゃん。貴方は此処に来る前に誰かに捕まったりは?」

「えっと…私は1度捕まって、夜に逃げたから街とか地形は分からないけど。
確か薬?みたいな臭いがする街…後、光る玉がいっぱいあったわ!!」

  その言葉に今度はハジメも理解した。
彼女は、チューハンに居たのだ。

「薬膳に提灯ッスかね?」

「えぇ、提灯は夜に見ると丸く見えるし。沢山あるのはチューハンの街中よ」

「これで分かりましたね。シファー殿はチューハン王国に売買されていた。そして、チューハンは悪魔との繋がりがあると」


「ヘタレ勇者と魔王の娘」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く