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ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第8話 魔力の調節


  家に戻ったタイミングで、丁度シファーが目を覚ました所だった。

最初は泣きそうな表情で出迎えてくれた彼女であったが、直ぐに俯き顔を伏せてしまったのをハジメは見逃さなかった。

彼女自身、思う所は多々あるのであろう。

しかし、今はソレに拘って居ては前に進めない。
前進する事が大事だとハジメは考え、彼女を庭裏へと連れ出す。

「シファーさんには聞きたいや話したい事は山程あるッスけど、今は兎に角その魔力をどうにかしましょうッス」

  ハジメの家の裏庭は意外と広く。
幾つかの薪や倉庫。鍛錬の道具が置いてあった。

どれも年季を感じる物ばかりで、縫われた後のあるサンドバッグや、錆びてはいないものの細やかな傷のあるダンベル等も置いてある。

ハジメ曰く、ここら辺は数十年前までは土地の物価が安く。
祖父達は米や作物を売った金で土地を増やしていたらしい。

なので広い土地を持っている者も多く、別に此処だけが特別であったり。大金持ちという訳では無いらしく。

田舎だからこそ広いのだと胸を張っていた。

「さっき言った通り、シファーちゃんには魔力の調整をしてもらうッス」

「さっきも言ったと思うけど、ちゃん付けは辞めて欲しいってば!!」

「えぇっと、じゃあ、シファーさんで良いッスかね?」

  歳下であろう見た目から、ちゃんと付けてしまうのが気に食わないらしく。
シファーは眉を吊り上げで少しだけ顔を膨らませる。

「ま、まぁ。こそばゆいけどそれで良いわ…」

「じゃあ、先ずは魔力の流れを感じ取る所からッスね」

  そう言ってハジメは一呼吸し瞑想する。
静かな空気に、シファーの生唾を飲む音だけが聞こえる。

「気を沈ませて大きく息を吸って下さいッス」

「わ、わかったわ!」

  言われた通りに見本を見せるハジメを真似し、シファーは同じ様に瞑想する。

「腹部に力をゆっくり集中させるッス。
力まずに腹の奥から押し出す感じで…そうそう」

「うぅっ…!」

「ゆっくり、ゆっくりッスよ…。そのままの状態を保って」

  腹部に暖かな温もりを感じる。

「そのまま後は力を抜いて…呼気は自然に…」

「ふぅ…」

「OKッス! 後は変に力を込めなければ大丈夫ッス。
最初は馴れないかもしれないッスけど、時間が経てば自然に出来る様になるッスよ」

「あ、案外簡単なのね?」

「そうッスね。魔力をコントロールする中で、一番簡単であり難しいのがコレッスから」

  ハジメの言葉にシファーは首を傾げる。
何故、一番簡単なのに難しいのか。

「その時間は鎮める事が出来ても、日常の中で鎮めたまま行動するのには時間が掛かるんッスよ」

「例えばどんな時に魔力が漏れるの?」

「そうッスねぇ…。感情の高まり具合や身体を動かす時に、人は無意識に魔力を使う事があるんッスよ」

  成程とシファーは納得してくれたらしく、何度か目を瞑りながら呼気を意識する行動を取る。

「まぁ、これに関しては習うより慣れろッス。
この木剣で俺を殴り掛かって下さいッス」

  手渡された木剣にシファーは目を落とすと、怪訝そうな表情でハジメを見る。

あれ?なんでそんな顔するんだ?

「殴れって…私、その趣味はちょっと…」

「趣味じゃないッスよ?!」

「だ、だって町の人で貴方をロリコンとか言ってる人居たし!
それに!あ、あたたたた私の、パ、パンツを…さ、触ってたし!!」

「それは誤解ッスよ!!
そもそも、あの人らは前から俺を馬鹿にしてるんッス!
信じないで下さいっ!!
てか、パンツは洗濯しようとしただけじゃないッスか?!」

  前半は兎も角、後半は濡れ衣だ!
いや、色んな意味で濡れてたけど。

えぇい、そんな事言ってる場合じゃない!!

「と、取り敢えず色々と説明するには実践するのが一番ッス!!さぁ早く!」

「わ、分かったわよ。当たっても文句言わないでね?」

「言わないッスよぉ」

  ようやく本題に入れるとホッとする…が、次の瞬間にシファーの瞳から光が消え。
何だか嫌な予感がハジメの脳裏を過ぎる。

「───っ?!」

  剣先が鼻を掠める。
剣が地面に向かう途中で更に切り返しが起き、ハジメの顎を目掛けて打ち付けられる。

ビュンッ───ヒュッ!!!


違う──!!
ルシファーじゃない!!


「誰ッスかアンタ!!」

  木剣から繰り出される剣技を何とか避け、地面に転がりながらハジメは近くにあった木剣を拾う。

「感の良いガキだな。わたしの攻撃を二回も避けた上に、更に避けれるとはな…」

  背筋が凍り付く勢いで血の気が引き、寒気に襲われる。
今までの彼女ではない『何か』が目覚めたのか。
気迫や魔力の質が変わっているのをハジメは感じていた。

しかも、その強さは並大抵の敵じゃない。
あの剣技も多分本気では無いであろう。

「くっ…!!」

「ほぉ。1度引くのか?
まぁ人間としてなら中々な判断だ。愚かな者程早死にするからな」

  ゆらりと剣先を向け、ニヤリと微笑んだシファー(仮)が、次に何をするのか予想が出来ない。

「しかし、私の変化に気付くとは…貴様、何者だ?」 

「変化なんて簡単に見切れるッスよ。
魔力の変化や口調、仕草が全部真似出来る人なんて居ないッスから」

「クックック…成程な。人間としては上出来だ。先程の言葉を訂正しよう」

「それで、アンタは何者なんッスか?」

「はーちゃん!!」

  切り詰めた空気を割くように女性の声が響く。

「ローラさん?!」

「ほぉ、彼女はもしや」

  駆け寄ったローラに驚いたハジメ。
シファーの方は何かに気付いたかの様に、ニタニタと笑い始めていた。

「貴様、カイトと居た小娘に似ているな?」

「──この魔力…魔王!?」

「なっ?!」

  その名にハジメは息を呑む。

「やはり君か『ローラ・スィートツ』。
否、『ローラ・イク───」

  言い終える前にローラの腕からナイフが放たれた。
しかし、そのナイフを指で軽々と受け止めたシファー(中身は魔王?)はニタニタと微笑みながらその美貌を崩す。

「『その先』はまだ踏み込めないのかい?」

「五月蝿い!!  『聖なる五星短剣イグリッドナイフィア』ッ!!」

────ガガガガガッ!!

  投げ放たれたナイフはシファーの横を通り抜け、後ろの壁に全て突き刺さる。

「今度は当てるわよ!!」

「何だ何だァ?  まさか、この『身体』だから当てなかったってか?
ぶっ…あはははははははははは!!」

「ローラさん?!」

「分かってるわ。状況は不明だけど、1つだけ確かなのは『身体は彼女のモノ』である事は確かね」

「あん?」

「馬鹿ね。本体であればもっと警戒したでしょうに…『五芒星ペンタゴン』」

「ぐ…ァァァァァァァァァ?!」

  カッとナイフが光り、壁に刺さったナイフはそれぞれを繋ぐ様に線を描き。最後に大きな円で囲まれる。

5つの点で作られた星が浮かび上がり、強烈な光が放たれ、シファーの肉体は後ろから照らされる。

「聖なる光で邪気を祓う!! はーちゃん下がって!!」

「でも、シファーさんはどうなるんッスか?!」

「がァァァァァァァァァァァァ!!」

「大丈夫、加減はしてるから!!  魔王と言えど、完全に復活していないのならこれで祓えるハズっ!!」

  根拠など無い。
しかし、今はその可能性に賭けるしかないのだ。

ローラが好き好んでこんな事をする人ではないと、ハジメは知っている。知っているからこそ、彼女の言葉を信じ下がるしかない。

「ぐァァァァァァ…!!」

  悲痛な叫びを上げる魔王。

「ぐぬ…!! 多少命は削るかも知れんが…アレを使うかッ!!」

  そう言うや否や、魔王はシファーの肉体を無理矢理動かしつつ手を前に翳す。

「──『魔炎』!!」

  翳した掌から黒く燃える炎が現れ、勢い良く2人の前に放たれる。

「はーちゃん!!」

「大丈夫ッス!!」

  2人は別々に飛んでソレを避ける。

──ズシャッ

  その隙に壁に刺さったナイフを抜き──ヒュッ!!とローラの方への投げ付ける。

「しまっ──」

 ローラの長いスカートが地面へとナイフで繋ぎ止められてしまう。

「1つ欠けたら解けるのか…やはり今は力を制御されているのか? ローラちゃん」

「ふんっ!!」

バシッ!!

  後ろに回った魔王相手に裏拳を繰り出すが、それすらも意図も簡単に受け止められてしまう。

「この───ぶっ?!」

「魔力や気配は消せても、殺気が漏れているな。
感情の制御は一番大事な事であろう?」

  後ろからの襲撃に蹴りで対処した魔王。
彼はシファーの肉体に慣れてきたのか、先程よりも動きが速くなって来ている。

腹部に強い衝撃を受けたせいか、強い吐き気がハジメを襲う。


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