美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

新天地 鳥は飛んだ後の濁りは確認しない


 店主とセレナが首都ミラージャーナに移ってのんびりしながら仕事に勤しむ毎日を過ごし始めている頃のベルナット村では、彼らにとっては店舗『法具店アマミ』、店主たちにとっては元『法具店アマミ』の建物の前が次第に騒がしくなっていく。

「七日間休店って、ホントに言ってたんだもん!」

「でもまだ店が開かねぇってどういうことだよ。お前聞き間違えたろ?」

「待て待て。シエラちゃんは俺らの仲間じゃねぇんだ。いくら親族だからってそんな風に問い詰めたらかわいそうだろ」

「テンシュにほぼ一日中べったりなんだよ? それで言ってることと事実が違うってのはおかしいだろうよ」

「でもそう言ってたのっ! 信じてよ、お姉ちゃんっ……」

 ベルナット村で、いまだに『休業します』の札がかかったまま、入り口の扉にはカーテンがかかっている『法具店アマミ』の前でオロオロしているシエラと、その姉を副リーダーとする冒険者チーム『ホットライン』が言い合いをしている。

「あれ? いつもテンシュさんと一緒にいる助手じゃねぇか。……そちらは?」

『ホットライン』のメンバー誰もが見知らぬ人物が彼らに声をかけてきた。

「……あんたは? 俺はその助手モドキの従兄でブレイド。『ホットライン』のリーダーをしている」

「あぁ、あんたがこの子の『お兄ちゃん』で、そちらが『お姉ちゃん』か。俺はバティラッド=ラーグ。あんたたちの足元にも及ばねぇ『ガードラー』ってチームのリーダーをしてる」

 パッと見、エルフ種の冒険者がブレイド達の間を割って、『法具店アマミ』の扉のカーテンの隙間から何とかして中を覗こうとする。

「いや、かなり前に依頼した品物が届いてさ」 

 何とか覗き込もうとしながらバティラッドは話し始める。

「その料金の支払いに来たんだけどさ。これ。発送元が書かれてねーんだよ。まぁ俺もそこそこの常連になったからそうなのかなって思ってたんだが……。でも品物が届いて、店は休みってどういうこと?」

 バティラッドは扉に張り付きながら『ホットライン』とシエラの方を振り向いて尋ねる。
 彼らはバティラッドが見せた、梱包したままの荷物を覗きに来る。
 彼の住所と名前、発送元は店名とセレナの名前、そして依頼品の品名は書かれているが発送元の住所は無記名。

「聞きたいのはこっちなんだ。十日……よりさらにちょっと前からこの状態らしい。こいつはテンシュから、休店期間は七日程って言われたらしいが」

「……じゃあここから送られたんじゃねぇな。ほかのとこから発送したとしか思えねえ」

「じゃあ……あたし……置き去りにされた?」

 シエラが悲しそうな顔をする。
 気まずい雰囲気がその場に流れた。

 そしてその騒がしさは、傍に店主達が引っ越してきた事実をまだ知らず、そんな予想すらしないこの方々にも飛び火した。

「……あの店の休みの期限がだいぶ過ぎたような気がするが?」

「近所の者達も、常連客もみな困惑しているようです」

「わ、私達もどうしたらいいか……」

 皇居の玉座の前で若い女性の姿になっているウルヴェスが悩ましい表情を浮かべている。
 何かトラブルが起きた際、相談役として店主をアテにしていたのだが、その居場所が全く掴めない。

「休業する際に何かしらの移動手段は必要だろう。まずその調査をせよ。待ちに徹していては、貴重な人材が手元から本当に離れてしまう」

「ですが私達も長期の休暇をとることはまずいのでは……」

「今まで通り、ごく稀に休暇をいただくそのペースは絶対に維持する必要があるかと思いますが、そうなると調査の進み具合も芳しくは……」

 ウルヴェスの、店主の居場所を見つける手掛かりどころか、調査の手段も詰んでしまった。
 運が良ければ、セレナの冒険者としての活躍の噂が新たに流れることに期待するくらいだが、あまりに皮算用過ぎた。

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 同時刻皇居内某所。

「……もうあの場所に帰って来んのではないか? 後手を踏んだ、と見ていいだろう。工作をする手際はいいが、その後の手の打ちようはあまりに……。いや、今は嫌味を言うところではない。で、この後はどうするのだ?」

「……野宿でもしているか、あるいは自分達で住まいを作って暮らしているか……。いずれ道具屋家業からは離れられまい。新たに腕のいい道具屋がどこかで出来たという話が耳に入ったら真っ先に飛んでいくしかない」

「……少しは貴様の事は少しは買っておったのだがな。異世界の余所者にいいように振り回されておるではないか」

「閣下、畏れながら申し上げます。住む世界が違えば発想の仕方も変わるでしょう。突飛な者であるという評判もあります。一癖も二癖もあらば、並みの者はもちろん、知恵者とてあざ笑うかのような行動をとる者であると認識する方がよろしいかと」

「……ふん、まぁよい。私とてただ傍観しているわけではない。居場所を突き止めたら即座に手を打つ用意はある。貴様のような回りくどい方法よりもよほど即効性がある。余所者には居場所を与えぬままこの世界でさ迷い歩くがいいわ」

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