美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

引っ越しまでの…… セレナの大殊勲


「何も言わずにこっちに戻ってきてよかったの? 他の従業員の人とかと会った方が良かったんじゃない?」

 店主と『天美法具店』の現社長をはじめとする社員達との間柄をセレナは心配するが、店主は歪んだ顔をセレナに向ける。

「お前がこの案を思いついたんだろうが。そんな心配はどこから出てくるんだ」

 セレナには店主の言っている意味が分からないらしい。
 いちいち説明するのも面倒な店主は、まず先に出したセレナの案を進めることにする。

「シエラ。店の仕事はちょこっと休む。気分転換のリフォームだ。入り口のドアをちょっと変えるだけ」

 シエラに何も言わずに作業を始めると彼女から余計に怪しまれ、そこから噂が流れ出る恐れがある。
 その可能性をなるべく抑えるためにも、差し支えない範囲で店の事情を説明する。
 気分転換と伝えれば、いつもの気まぐれかと思い込み、話はそこで終わる。噂話にもなりはしない。

「それはいいんですけど、そろそろ晩ご飯の時間ですよ? 食事の準備は私がしますか?」

 店主とセレナはつい先ほど、『天美法具店』の二階で朝ご飯を済ませたばかり。
 思い通りの時間に移動できるものの、二人はそのタイミングをすっかり忘れていた。

「あ、あぁ……。うん、頼むか。し、仕事があるからちと軽めでいいわ、俺」

「わ、私も夕食は軽くしとこうかな?」

 首をかしげるシエラ。

「食事と睡眠はしっかり摂らなきゃダメですよ?」

 二人は何とかシエラからは怪しまれずに済んだ。

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 周囲から引っ越しを悟られずに荷物を運び出す方法は果たしてあるのか?
 セレナが思いついた案はこうだ。

 『法具店アマミ』と『天美法具店』を繋ぐ扉を利用する。
 『天美法具店』側の扉を、店の入り口から店主以外に入らない店主の住まいにある作業場の入り口に取り付ける。
 『法具店アマミ』側の扉を、隣の棟の倉庫の入り口に挿げる。
 これで荷物の運び出しはシエラからも『天美法具店』の者達からも目撃されることはない。
 もちろん作業場に入りきれない量である。
 だが住まいの方にも荷物を運び出せば問題ない。とにかく『法具店アマミ』にある荷物全てを『天美法具店』側に運ぶ。
 『法具店アマミ』にある品すべてを運び出したら、業者に頼み、『法具店アマミ』の倉庫の扉だけを建具屋ニィナが建てた倉庫の入り口に挿げてもらう。
 ニィナが店舗の建物も建築完了し居住可能になったら、『天美法具店』に荷物を運び終えた直後の時間にそっちに移動し、荷物を運び出す。
 『天美法具店』の者達の目に触れる時間差は生まれない。そして『法具店アマミ』から何度も配送業が出入りしたり、一度に多くの配送用の車両を呼び出して、周囲の目を惹くほど目立つようなこともない。

 セレナの住まいから運び出す必要がある大きな家具などはない。必要であれば引っ越し先の首都ミラージャーナで買い求めれば済むことだ。
 どこに行っても手に入らない品物、すなわち『法具店アマミ』に並べる商品や店主が作る品物の素材などは運び出さなければならないが、すべて『天美法具店』の二階に収まる量。

 店主が初めてセレナを手放しで称賛するほどのアイデアだった。

 近所からも、客達からも、誰も店主とセレナの工作に気付かない。
 そして時は過ぎていく。


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「で、あれからは『法具店アマミ』には顔を出しているのか?」

「はい。ですが今までとあまり変わりません」

「テンシュさんもいつもと同じですし、セレナさんもシエラさんも普段と変わりません」

 玉座の間でウルヴェスがライリーとホールスからの報告を受けている。
 もっとも二人は、ウルヴェスに報告をするというより、どんな出来事があったかという雑談をする認識でしかない。

「そうか……まぁよい。頻繁に行くと向こうの者達を見慣れてしまい、普段と違う様子に気付かないこともある。これからもちょくちょく遊びに行くとよい」

 ウルヴェスの言葉を喜んで受け止める二人。
 地元の調査の報告を受け、特に目ぼしい情報はなかったと判断したウルヴェスは二人からの話を聞き、しばらく静観を決め込んだ。

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 皇居内某所。

「あれから引っ越しの話はどうなった? 全く音沙汰がないではないか」

「不動産を調べ上げたが、人間、エルフ、ラキュアの三人が訪れたという情報はない。建築関係へも調査をしたが、そんな来客はなかったらしい」

「あの余所者たちを追い出す計画の効果自体ないのではないか? それともよほど図太いのか……」

「そう焦るな、アムベス。何も情報が得られなかったからと言って調査を止めたわけではない。本当に奴らが動いてないのであれば、追い出そうとする者達の後押しを強めるだけだ」

「……後押しの方に力を入れるべきだな。確実にあやつらがあの村から出て行くという情報が流れるほどにな」

「分かっている。心配するな、アムベス」

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