美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

献品紛失 碁盤はいずこ 2

「碁……碁盤が盗まれた……って……」

「……そ、それって……」

 セレナは何となく事態は把握したらしい。
 しかしシエラはただなくなったとしか思っていない。

「盗まれたって……見つからないだけじゃないの? ひょっとして三人のうち誰かが寝ぼけて動かしたとか」

「力が見えるっつったろ? 感じ取れるとも言える。何もないところに力を感じたら、そこにジジィがいたこと忘れたか」

 店主とウルヴェスの初対面の時だった。
 何もない空間に力の存在を感じ取った店主は、そこに何者かが存在することを認識し、恐れおののいたところでウルヴェスが姿を現した。

「どこかに隠れてるんだとしても、碁盤の素材になった宝石の力の在り方は稀だ。石全体にいろんな種類の力が均等にいきわたってたんだから。あんな珍しい物なんかなかなかお目にかかれない。そんな物が何かに隠れて見つけられません、なんてこたぁ天地がひっくり返っても有り得ねぇ」

「あ、あの、壊れたり砕けたり……とか……。泥棒が入って、別の物を盗みに来て、何かのはずみで碁盤を壊した、とか……」

「そんな脆いモンだったら、足の彫刻にあんなに時間かけねぇよ」

 自分の仮定も店主に否定されたシエラはおろおろする。

「無理矢理施錠を解いて入った……とか……」

「出ていくときにまた施錠した? 魔術を使って侵入ってのはアリかもしれん。だが魔術を使うんならドアを開けずに入ることだってできるだろ」

 二つ目のセレナの仮定も店主は否定。
 ついでに店主は自分の推測も口にする。

「足跡が、食堂の奴しかない。床に足を付けずに移動した。あるいは直接碁盤のある所に移動した。作業机の上にある碁盤には目もくれずに、だ」

「碁盤の宝石目当てじゃない?」

「え……えっと……私にはよくわかりません……」

 青ざめた顔がそのままの二人。
 対して店主はいつもより落ち着いた顔。さらに腕組みをして考え込む。

「確かにこの店で一番価値が高い物は碁盤だ。だが三つある。そのうちの一つはまだ原型だ。宝石を狙うなら原型の方がいい。余すところなく細工が出来るからな。細工済みの足付きの碁盤は……その足を使って細工をするというなら手間はかからない。が、国の花の幹を象った物に何の価値がある? 花なら分かるがな」

 言われるがままに頷く二人。自分で考える心の余裕はどこにもない。

「そして噂は流れている。法王から依頼を受けた道具屋があるってな。非公式だから正確な噂の比率は低い。だが俺らはジジィに会ったのは温泉と皇居。その時以外にあのジジィは何をしてるかは全く分からな……」

「テンシュさん、皇居に行ったんですか?! 中に入ったんですか?!」

「食いつくところはそこかよ、オメェは。セレナと二人で会いに行ったよ」

 青ざめていたシエラがいきなり顔を赤くして興奮している。
 セレナが抑えようとするが、そのセレナも一緒に行ったということで、その話を聞きたがる。

「事態整理する方が先だろうが。蹴飛ばすぞテメェ! ったく……。以上のことで宝石を狙うとしたら原型が一番価値が高い。しかし狙ったのは碁盤。つまり碁盤の方に価値がある。だが入り口から来たなら机の上にあるのが先に目に入る」

「でもそっちに行かず二階に上がった」

「なんで二階にあるって分かった? 二階にある宝石はほかにあったか?」

 店主からの問いにセレナは首をかしげる。
 興奮が収まったが、まだ頭の中が整理されてないシエラは、店主が何を言いたいのかも理解できていない。

「お前と仲良しの連中は、二階がお前の私室だってことを知ってる。仕事の道具や商品もない。俺が温度の事を考えて持っていった物。昨日の夕方、あの碁盤を持ってったその一点しか、この店の仕事に関した物はない」

「宝石や碁盤を盗む目的じゃない? 別の物を盗む目的が、碁盤になった?」

「外れだ。ここにも碁盤があると分かったら、下にある物を持ってくだろ。出口に近いんだから。上にある物っつったら、何か訳ありって思わねぇか? だったら商品が並んである一階に置かれてる物の方が盗りやすい」

「たまたま二階に持っていった宝石を盗まれた。しかも割と重いし大きい。たまたま……」

 セレナの考え込んでいる間、店主はシエラを見る。
 シエラは店主とセレナの会話を聞きながら二人の顔を見ているが、じっと見ている店主と目が合った。

「……え? 何? 私の顔に何かついてます?」

「滅多にない一日中の雨。線引きの工程を完成させるためたまたま碁盤を上に持っていった。たまたまお前がここに宿泊した……」

「……え、えぇ? あ、あの……テンシュさん?」

 店主の言いたいことがまだ理解できていないシエラは、店主の顔をずっと見返すしかできない。
 セレナがさらに顔を青ざめさせた。

「ちょっと。ちょっとテンシュ! まさかシエラちゃんが……?! え? ちょっと……」

 セレナの声にも動じず、店主はシエラの顔を見つめ続けている。

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