美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

交わりたくない相手と密会 1


「鳥居と矢代を外回りの営業に? 昼食会でもあまり発言が見られなかったけど……できるの?」

 『天美法具店』の社長室で、人事異動について九条が店主に相談を持ち掛けている。
 店主が言うように、ミーティングでもあまり目立った発言が見られない二人。ところが九条は、二人に対して別の着眼点を持っていた。

「人の話を聞いてとにかく読み砕くんですよ。自分なりの解釈するには時間がかかりますからそれぞれ間を空けずにトークできる者と組ませると効率がいいかもしれません」

 今日の終業前のミーティングが終わった後、九条から相談を持ち掛けられた店主。
 自身が社長の立場を退いた後の『天美法具店』の在り方について非公式に考えを巡らせ、古参社員の一人である東雲や目の前にいる九条に時々その話題を投げかけていた。
 二人からは店主自身のその後の身の振り方を心配されていたが、社長職よりは職人として仕事をしてもらった方が生き生きしているとも評価された。

 趣味と実益を兼ねた加工職人。それと『天美法具店』の相談役も兼ねて店に残るのが、店のためにもいい影響が出るはずという提案をもらった。

 ひそかにその計画は進められていくが、もちろんいつかは公表する必要がある話。
 しかし思い付きの発言と思われても困る。ミーティングで発表するなら、店主の真剣さもその中に組み込む必要がある。具体的に将来のことも計画を立て、本気で取り組んでいることを理解してもらわなければならない。

 九条から店主の予想外の人員配置の案は、その思いを汲んでのことだろう。
 さらに詳しい話を進めていく。

「九条さんの意見を中心に考えていくとさらに人材確保とかまでも考えないといけなくなりそうだから、私もその案をもう少し深く検討してみますよ。しかし九条さん、隠れた才能を見つけるのが上手ですね」
 恐れ入ります、と店主の褒め言葉を素直に受け止める。

 しかし検討を続けるにはもう遅い時間。そんな時間でも新たな訪問者が来たようで、社長室のドアをノックする者がいた。

「失礼します。社長、九条さんはここに……っていましたね。俺、玄関で待ってますよ。先輩とは言え一人で夜道を歩くのはあまりいい傾向じゃありませんからね」

「なんだ、大道。気が利くな。引き留めて悪かったね、九条さん。んじゃ気を付けて帰ってね。私も中の見回りするから……」

 私はお客さんじゃないから見送りは結構ですよ。
 そんなことを言いながら苦笑いの九条に続き、東雲も帰宅する。

 代々続いてきたこの店。その社長職を退く意志を伝えた社員達からはそれを許すどころか、残ってもらうために骨を折ってくれている。彼らは思いもしないだろうが、店主は彼らへの感謝の気持ちが絶えない。
 電気の点検、戸締りを確認し、住まいに戻るために店舗の中を通る。

 戸締りしたはずの店舗の玄関のドアがいきなり開く。
 夜中というには早い時間だが、来訪者が来るはずのない時間に、しかも鍵をかけたはずのドアが開くのは流石に心臓に悪い。

「こ、こんばんは……。ひ……久しぶり……ね……」
「……何か用かよ」

 開いたドアの間には、一週間ぶりに見たセレナの姿がそこにあった。
 立ち話で済ますつもりだった。しかしまだ頬がややこけている。

「珍しいな。金色の白髪なんて初めて見た」
「……ただの金髪ですっ。全く相変わらずなんだから……」

 力なく笑うセレナの言葉はすぐに止まる。

 いよいよ決別の時を迎えたか。長かった。
 店主は感慨深くこれまでの事を振り返る。
 まだ放置されているアクロアイトは商店街の名所になっている。撤去の話はもうどうでも良くなった。

「……あのね」

 セレナの言葉をゆっくりと聞きながら、店主は思う。

 分かっている。別れの言葉を選んでいるのだな。こちらはどんな言葉でも構わない。その意志さえはっきりと分かる言葉であれば。

「……国からの役人さん達の事、覚えてる?」

 背広にネクタイ姿の三人の事か。覚えてはいるが、そこからどう決別の話に繋がるのか。
 まぁどんな話の展開でも構わない。こちらも別れの言葉を準備しよう。

「……お会いして話を聞きたい。法王が会いたがってる。なんならこの店にこちらから足を運んでいいって」

「あぁ、今まで世話に……へ?」

 店主の予想の斜め上どころではない展開になってしまった。

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