美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

隣町の来客より得たる 1


 店主がまるで自分を追いつめるかのように、とにかく製造と完成を急いだ鎖によって作られたベスト五着。修復分も入れてすべての工程が終わった。

「お疲れ様。でもどうしてそんなに急いだの? 何か理由があるの?」
「三着じゃ心許なかったんでな。それと、これは売り物じゃない。だが多分使うときは必ずある。ような気がする」

 店主はセレナに謎めいたことを言う。

「でもかなりハードスケジュールだったんだけど? 期限なしでいくつか作ってもいいんじゃない? 必要に迫られていそいでこの五着作らされたペースはちょっと大変かも」

 セレナも、調査の仕事と同時進行のため少し疲れ気味。

「まぁ……使われなくなったら鎖に戻して何かにリサイクルできるだろうしな。とりあえず暇つぶしな感じでこの鎖はストックできるほど作ってもらった方がいいか」

「暇があったらということね。了解。……あら、いらっしゃい。お久しぶりですね、チェリムさん」

 やあやあと声をかけて入って来たのは帽子屋チェリム。
「なんか最近は忙しそうじゃったから入りづらくての。隣町のリンヤ婆さんとオウラ爺さん連れて来たわ」

 この間の店内の暴行事件は、何とか店内で抑え込んだつもりだったが、近所の者には怪しげに見えたらしい。

「ノーム族のリンヤですわ。よろしゅう」
「ワシもノーム族でな。オウラっちゅうもんじゃ。よろしくな、若いモン」
「それはいいですが、何か御用はおありで?」

「畑を耕す道具なんぞはないかと思うての。力いらずで土を柔らかくできるモンはないかの?」
「最近はどうも土が硬くなってきとるようでな。そんな道具がなきゃ、次の世代に交代かのとか思うんじゃが」

「土が硬い? お爺さん、お婆さん、雨とかは降ってましたよね?」
「おぉ。ワシらも雨降りゃ土が柔らかくなると思うておったんじゃがな」
「道具はある。が、ワシらじゃ重たくて使いづらくなってなぁ。年じゃな。わははは」

 セレナは天候を心配するが、二人はあまりに気にしていない。
 店主は顔をしかめている。
「耕すと言ったら、鍬とかですよね。宝石を散りばめたところで何ともならんな……」

「ないのか。まぁワシらが捜してるのは道具屋じゃからな。法具屋ならそれこそ畑違いじゃ。そりゃワシらが悪かった。わははは」

「若い人達は農業はしないんですか?」
「若もんもいろいろ考えよるようでな。土に栄養がないとか言うて、別のところに引っ越すことまで考えとるようだわ」

「ってことは生産量も減って来たってことじゃないか。生産量を高くしないと命をつなぎとめることは無理だ。若い世代の考え方は間違っちゃいないが……」

 店主の独り言はノームの老人にも届く。

「はは、隣町の若もんにまで心配かけてしもうたわ。気にせんでええよ、若もん。その気持ちだけで十分じゃ」

「でも土に栄養がなくなるってことは、森林の寿命だって短くなるってことですよね」

「仕方がなかろうなぁ。時代の流れじゃ」

「生まれたところに愛着があるからの。なるべくなら離れたくはないが、若もんの言うことは正解じゃろうな」

 セレナが寂しげなのは、まだウィリックの事が心の中に残っているからだろうか。
 一緒に故郷に凱旋する夢もあったに違いなかった。
 しかし故郷に忌まわしい思い出しかない者もいる。土地に対する思いは、人の数だけ違いもある。

「自分の居場所、か……」

 これも店主の独り言のつもりが、みんなの耳に入る。
「そうじゃな。安心していられる場所を作るために必死になって頑張った。そして居場所が出来て安心出来た所が住むに適さなくなった。そんな所もある」
 チェリムが悟ったような事を言い、セレナも老人二人も同意して頷く。

「チェリムさん。考えてみりゃ、俺がいくら考えたところでこのお二人には何の力にもなれませんね。農業の経験もさぞかし長いんでしょ?」

「二百は数えたかの?」
「三つはいくわい」

「ゼロが三つ……じゃないですね。要するに三百年か。こっちは三十年をようやく越えたところです。知恵も知識も適うわけないですね」

 店主は自分の冗談めいた言葉にみんなが笑ってくれるものと思ったが、老人三人は真剣な目つき。
 気を悪くしたかと様子を窺うが、そうではないらしい。

「確かに農業を語らせりゃ若もん……テンシュさんじゃったか? テンシュさんなんぞ屁でもないわ。じゃがの」
 チェリムの後をオウラが続ける。

「ここは法具店じゃったな。法具についちゃワシらはテンシュさんの足元にも及ばんよ? 見方を変えりゃ新しいモンも見えて来る。若いからってバカにはせんし、そう軽々しく自分を蔑まんことじゃ。まぁ人生経験は間違いなく上じゃ。そこら辺は何でも聞いて構わんぞ。種族が違えども、色恋沙汰なんぞはみんな共通じゃろ。わははは」

 そうは言われても、この三人には適いそうにもない。店主はそんなことをふと感じる。

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