季節高校生、短編 桜

goro

季節高校生、短編 桜





季節高校生。
短編・桜


<a href="//1659.mitemin.net/i42314/" target="_blank"><img src="//1659.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i42314/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>










その怪しい行動に気づいたのはつい二日前のことだ。




「じゃあ、10時に待ち合わせね」




鍵谷真木はその言葉に耳を疑った。
その日、曜日は土曜日でゆっくりくつろいでいた鍵谷はペラペラとファッション雑誌を眺めていた。


暇だな……。




鍵谷は眺めていた雑誌を閉じ、喉を潤すべく廊下に出た。その時、聞こえてきたのだ。


「もう、そんなに私をじらして、意地悪なんだから」


その声は叔母にあたる鍵谷藍の声だった。
いや、そこはスルーしよう。


問題なのはその叔母が発した言葉だ。


じらす?


意地悪?




確かに独身の身で鍵谷自身を育ててくれている叔母。
歳もまだそこそこだから付き合いも結婚もできるだろう。


だが、一緒に生活していてここまで甘えた声を出す叔母を見たことが合ったか?


「……………」


しばし、鍵谷は頭を悩ませながら耳を澄ませる。
そして、聞き耳の結果。明日の10時に公園で待ち合わせをするらしい。


「……………ぅう」


人のプライベートに踏み込むことはいけないとわかっている。
しかし、自身の育ての親であり。
そして、何より、


(高校生女子として気になるぅぅぅぅぅ!!)


好奇心があまりにも強かった。


















翌日。
公園広場。


午前10時。


「……………」


何、あれ…。
鍵谷は目を擦りながら、もう一度視線を向ける。
早朝、ご機嫌な鼻唄を歌いながら叔母の、藍は支度をしていた。
部屋が閉じていた分、鼻唄しか聞こえなかった。
最初は鍵谷自身、藍の後をつけようとしたが考えるにつれてその提案は却下した。
ああ見えて、隙を見せない叔母であることと、初っぱなからつけようとしてバレたら後が恐い。
ただでさえ、勉強をおろそかにしたら地獄行きになるのだ。




…待ち伏せしよう。






鍵谷は鼻唄を歌う藍にドア越しから、外に遊びに行くと言っていち早く公園の茂みで待ち伏せることにした。
そして、10時近くになって現れたら藍の姿には流石の鍵谷も驚いてしまう。


大胆にも胸元を見せ、ファッション雑誌に載っていたヒラヒラのスカートを着た、どこかのモデル?と疑いたい姿。
さらに胸元を見せている分、自身の胸より上であることに今更ながら少々落ち込む鍵谷。




しかし、今はそれは置いとくとしてだ。




10時5分。
藍が着てから10分が経過している。
女を待たすって、全くダメな男なのだろう。
鍵谷は眉間を寄せながら、我慢強く待つ。




すると、その時。


「あ、こっちこっち!」


藍の声に顔を上げる鍵谷。
そして、その待ちに待った男の姿を見た。


「え?…………」


直後。
鍵谷の表情は固まる。
全く予想していなかった分、その威力は絶大だった。






「いや、そんな呼ばなくても見えてますから」


そう声を出しながら近づく男。
その容易は青年か、はたまたオッサンか、と思ったが実際は鍵谷真木と変わらない年の少年。
しかも、超がつくほどよく知っている。


「じゃあ行きましょ」


その少年の名前は、






「籔笠くん」






籔笠芥木。








……………………………………。


スタスタと共に並び、籔笠の腕に自身の体を密着させる藍。


鍵谷はそんな二人を見送りながら、数秒、石化したのち、








「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」








絶叫が公園内に響き渡った。


















大事件よ!!
そう連絡を受け、呼び出された同級生の島秋花。
現在、二人がいるのは商店街の二階建てのコーヒーカフェ。
そして、コーヒーカフェの向かいに建つレストランの窓側に籔笠と藍が座っている。


「真木ちゃん、アレってやっぱりデート」
「認めない」
「そ、そう…だ……ね」


テーブルに出されたコーヒーをすする島秋。
しかし、視線はどうしようもなく籔笠に集中していた。


「それにしても、藍さんも大胆なことするんだね」
「ふん。何が大胆よ。娘じゃないけど娘の同級生と待ち合わせとかする、普通?」
「え、いや、そうだね」
「それに!籔笠よ、籔笠!藍さんも見る目がないのよきっと!」
「……………」
「そもそも何なのかなあのファッション雑誌の服!いくら何でも」


完全に愚痴状態になっている鍵谷。
そんな彼女に島秋はふと尋ねる。


「もう、何でこんな」
「真木ちゃん」
「ん?なに」


「羨ましいの?」












………………………………………ボンッ!


「なな、なななな何言ってるの、花ッ!?」
「だってさっきから羨ましそうに見てるから」
「羨ましくない!!別に憧れてもいないし!!籔笠何て気にもして」
「あ、籔笠くんが藍さんと」
「え!?」


視線を直ぐに振り向けるが依然として変わった様子はない。


「………………ぅう」
「……真木ちゃん、可愛い」
「可愛くない!!」


顔を真っ赤にさせる鍵谷。島秋は口元を緩めながらそんな彼女を眺める。


「真木ちゃん。自分に正直になったほうがいいよ?」
「………」
「籔笠くんも別に真木ちゃんのこと嫌ってないと思うから」
「………そうかなぁ?」
「うん」


口をとがらせ頬を染める鍵谷にそう言う島秋。
そして、こっそり一階にいる籔笠に視線を向けながら思う。


(正直か……………私もだよね)


















「ここって………」
「うん……………」


あの後、籔笠たちの後をつけ鍵谷と島秋はたどり着いた場所。それは、


『大人の遊び場』


そんな怪しげな看板を掲げるスナック。
人通りも少なく、いかがわしさが抜群に放たれている。


「真木ちゃん………やっぱり……」
「行くよ、花」


鍵谷は島秋の言葉を無視してドアに手をかける。
そして、ドアを開いた先には、




「………………」
「………………」
「………………」
「あれ、真木に花ちゃん?」




目の前に広がる光景。
いかがわしいと思っていたスナックの中は至って普通の喫茶店だった。
ただ違うのは目の前で籔笠芥木に押し倒され、今にも襲われそうとしている鍵谷藍の姿。




…………………………………………。
…………………………………………。
















……………………………………ブチッ。




そう聞こえそうなオーラが一気に膨れ上がった瞬間。






「この変態馬鹿ヤロおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「グハッ!?」




籔笠の顎に鍵谷の蹴りが炸裂した。
そして、籔笠はその場で気絶することに。
















「もう、真木はそんなに籔笠くんのこと気にしてた何て、気づいてあげられなくてごめんね」
「勝手に話を飛躍させないで!!何で私があんな親戚に手を出す変態なんかと!」


鍵谷真木と鍵谷藍は店内の向こう側で言い合っている。
どうやら不幸中の事故だったらしく、藍も何回もそれを鍵谷に言っていた。
一方で気絶した籔笠は島秋に膝枕させられながら眠っていた。




「籔笠くん、大丈夫?」
「……………」
「……やっぱり聞こえないかな」


島秋は笑いながら、籔笠の髪の毛をいじりながら遊ぶ。
すると、そんな彼女の前にコップが出される。
中には良い匂いを漂わせるコーヒーが入っている。
島秋が顔を上げると、そこには白髪頭の老人、このカフェのマスターが立っていた。


「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらずにどうぞ」


島秋はお言葉に甘えて、コーヒーに口をつける。


「あ、……おいしい」
「それは良かった。失礼ながら、お名前は」
「島秋花です」
「そうですか、島秋花。それでは花さんと呼びましょう」


マスターは島秋の向かいに座ると、にこやかに笑みを作り、


「籔笠くんのこと、好きですか?」
「グブッ!?」


盛大にふき、動揺しまくる島秋。


「な、なな、何を」
「いえいえ、ちょっと気になったもので」


老人は笑いながら近場に飾られた写真を眺める。つられて島秋も写真に視線を向ける。


「え?」


島秋は目を見開き驚いた表情を見せる。


飾られた写真。
そこには二人の人物が写し出されていた。
それも島秋自身、誰と誰を連想させる。


「あ、あれって……」
「籔笠くんの父親と鍵谷藍さんのお姉さんですよ」


その言葉通り、籔笠芥木。鍵谷真木。
そっくりと言いたいほど、似ていた。


「彼らは別々の人生を選びました。だが、皮肉にも彼らはまた子として出会いました」
「………………」
「そして、あなたも」


へ?とその言葉に顔を上げる島秋。


「あなたはどことなく籔笠くんの母親に似ていらっしゃる」
「は、母親………」
「ええ……………」


籔笠を触る手が止まる。
島秋はその老人の言葉に息を飲み、そして、ずっと気になっていたことを尋ねる。




「あ、あの………籔笠くんのご両親は…」
「……………12年前にお亡くなりになりました。…籔笠くんの目の前で」
「……ッ」


その言葉に胸に痛みが走る。
聞いてはいけなかった。
それなのに聞いてしまった。






春の終わりのあの日。
かろうじで覚えている助けに来てくれた籔笠の顔。
哀しみを知っているからこそ、理解できるからこそ。




あんな顔ができたのだろうか…。


「……………」
「花さん」


マスターは顔を伏せる島秋に声をかける。


「……籔笠くんのこと、これから色々と知ることになるでしょう」
「え?……」
「それでも、よろしければ、彼と一緒にいてあげてください。彼の守るべき者であってあげてください」
「……………」


お願いします、とマスターは頭を下げた。
普段なら慌ててしまう島秋だったが、何故かその言葉に茫然とするしかできなかった。








「ぅ…………」


不意の声。
その声に島秋は下に顔を向ける。
そして、ゆっくりとまぶたを開け目を覚ます籔笠。


………………………………。
両者の目が合う。




「お、おはよう?」
「………あ、ああ」


















カフェから出て、再び商店街を歩く四人。


「鍵谷、だからあれは………」
「黙れ、変態」
「もう、嫉妬深いんだから」
「嫉妬なんかしてない!!」


たわいのない言い合いを続ける、籔笠と鍵谷、そして藍。
ただ一人だけ、


「………………」


島秋は今だマスターの言った言葉を気にしていた。




『守るべき者であってあげてください』




(あの言葉の意味は何だったんだろう。それに、何か、何か私は忘れているような)


島秋は顔を伏せながら考え込む。


「島秋」


だが、前から聞こえてきた声に顔を上げると、そこには籔笠の姿が。


「きゃあっ!?」
「?そこまで驚かなくてもいいと思うんだが」
「あ、え、ち違うの!ただちょっといきなりだったから!」
「まぁそれはいいとして。今からそこの食い物屋さんで何か食うらしいから。鍵谷持ちで」


え?と島秋が籔笠の後ろに視線を向けるとそこには涙目の財布を握りしめた鍵谷の姿が。


「あ、あはは…………」


島秋は苦笑いを浮かべつつ、鍵谷払いに口元を緩める籔笠を見る。




辛い過去を持ちながらも、笑みを浮かべるその表情。








「いくぞ、島秋」


籔笠は後ろに振り返り歩き出す。
そんな彼の手を島秋は、そっと掴み。




驚いた表情を見せる籔笠に島秋は笑いながら唇を動かし言った。








「うん、行こう。籔笠くん」


















「所で藍さん、籔笠とどこ行くつもりだったの?」
「ん?内緒」




『短編・水』に続く。



コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品