地獄の番人ですよ!

goro

THE★ドッチボール





THE★ドッチボール♪








それは夕食真っ最中の食堂にて、アンヨの言葉が始まりだった。




「だったらドッチボールでもして勝負したら?」


直後。
ボトッ、と箸で掴んでいた具材を落とす。
地獄の番人こと、ケルベロス・リザンカ。


それに続いて食べかけの具材を箸から落とす人間たち。






食堂に異様な空気が包まれた。
















翌日、地獄の広場にて。


「いいか、お前ら!! 地獄に落ちて約何年、俺たちの時は来た!!」
「「うおおおおおおおお!!」」
「憎き、ケルベロス・リザンカに目に物を見せてやれ!!」
「「うおおおおおおおおおおおお!!」」


額に赤のハチマキを巻いた人間たちは声を上げながら闘志を燃やす。
遠くから見ると、……危ない集団にしか見えない。




「アイツら、言いたい放題ね」


白のハチマキを巻くリザンカは額に青筋を浮かばせる。
だが、口元は笑みであり、


「リ、リザンカ。ちょっとは手加減でも」
「ハッ。アンちゃん、何で私がアイツらに暴言を言わせてると思う?」
「え?」
「後で100倍に返せるからに決まってるからよ。……ふふ、…アイツらが地獄の地獄に落ちるのが目に見えるわ」
「………………」




アンヨは手を合わせ合掌。
……何でこんな事になったんだろう。




アンヨは食堂での出来事を思い出す。












極刑が終わり、食堂では夕食を食べようと人間たちが席についていた。
だが、何故かこの日だけは普段起きない暴動が起きた。


「リザンカさん!! 何で言ってくれなかったんですか!!」
「いや、だからちょっと忘れて」
「忘れてたで俺たちがどうなったと思ってんだ!!」
「だ、だから」
「ベスタの糞に溺れたんだぞ、マジ今も体が癖ぇんだ!!」
「ぅ、確かに臭いよ。ちょっと近づかないで」
「アンタのせぇだろ!!」
「いや、でも」
「罰を受けろ!! この前、閻魔の事にバカアホって言ってたってチクってやる!!」
「ッな!! 何言ってんのよ!! 私は言って」
「ボイスレコーダー!」


『ジー……………ああー!! 閻魔のバカアホヤロー!!』


「な、なな…」
「罰を受けろ、ケルベロス・リザンカ」
「ッ! 嫌よ!! この前から何回、閻魔様に怒られたと思ってんの! 今度は雷でも落とされるわよ!!」
「知るか!! お前が悪いんだろ!!」
「イィィィィィィィヤッ!!」








と、争いはさらにヒートアップしていき、見かねたアンヨが言った言葉が今の状況を生んだのだ。


そして。




「よーし、お前とお前、あとお前はこっちだ」


線で囲まれた敷地の中。
リーダーだろう、ムキムキマッチョ人間が次々と指示を出す。
対するリザンカは一人、突っ立っている。




「よし。………リザンカ、貴様。一人でやるつもりか?」
「……………」
「ふん、まぁいい。例え、一人としても我々は手を抜かな」
「勝手に先読みしてんじゃないわよ」
「………なに」


リザンカの言葉に眉を潜めるムキムキマッチョ。
と、その時だった。




ドォン!!
ドォン!!
ドォン!!


「…………………………………………は?」


ムキムキマッチョの表情が固まり、鼻からは鼻水がチョロリと出る。
リザンカの周りに集まったのは真っ赤な肉体を持つ、モジャモジャ頭の鬼。
しかも、その大きさが半端ない。




「リザンカ………アンタ」


頭を抱えるアンヨ。
リザンカは口元を緩めながら言う。


「それじゃ、殺りましょ。ドッチボール♪」














ピー!!
試合開始のホイッスル。
その直後。


ボォン!!


「グベェラアアアアアアアアアアア!!」
「ま、ムキムキマッチョ!!」


開始二秒。
ムキムキマッチョはボールという大砲に撃たれ、血を吐き出し、リタイアした。


「ず、ずるすぎる!? いくらなんでも鬼畜過ぎるだろ!!」
「ふん。こんないたいけな少女に殺意むき出しのアンタたちがよく言うわよ」
「いたいけ? ふざけんな!! 暴君の間違いだろうが!!」
「あ、ガイアの鬼さん。このクソアホを殺っちゃってください!!」


ドゴ!!
地面にボールがめり込み、下敷きとなった人間の頭に湯気がたつ。




そして、それから先はまさに地獄絵図だった。


ドゴ!!
バキィ!!
ボキィ!!
ボン!!


「げばッ!!!!」
「ぐぎゃぁあ!!」
「ぎゃああ!! 折れたァァあ!!!!」
「何でぇぇぇぇぇぇぇ………………(キラン)」




アンヨはその光景に口元をひきつる。




リザンカ………アンタ、もう番人っていうより、むしろ魔王よ。




ギャハハハハハ!! と悪魔のように笑うリザンカ。
このままでは残る人間全員が夜空の星に変わる。
(さすがにヤバイから、止めないと)


アンヨはリザンカの元に足を動かそうとした。
しかし、その時。


「リザンカ、私と一騎打ちをしなさい」


リザンカの目の前に、黒装束に身を包んだ男が現れる。


「………何よ、私とやろうっていうの?」
「ええ」


無言の沈着。
リザンカは片手で鬼たちを引かせ、背中から鎌を取り去る。


「…………わかった」


直後。
鎌につけられていた毛皮がリザンカの両腕に巻つき、それは巨大な手へと変わる。


『ケルベロスの掌』


「それじゃ、殺りましょ?」


リザンカは地面に落ちるボールを男に向かって放り投げ、男はそれを手にする。


リザンカ、対、男。
一騎打ちが始まる。
ガイアから投げられたボールが男の手に収まる。


「あ………つかぬ事を聞きますが、雷と水ならどちらを選びます?」
「は? 何を………………………そうね、雷で」
「雷ですかー……それはまた」


男は口元をニヤリと緩める。
















「落とされる方を選ぶとは、貴殿も立派になったではないか」


……………………………………え?


さっきまで、ただの若い人間だったはずの男。
それが、声色を変えた直後、身体中から雷が弾け出す。


「………え、あ、いや、今、貴殿って…………………まさか、閻魔様!?」
「ご明察、偵察でたまたま地獄に下りてみれば、それはまた楽しそうに遊んでいる番人を見つけてな」
「ち、違うんです!! これはコイツらが」
「ボイスレコーダーも、しかと耳に入れた」
「あ…………いや、……だから、その」
「まぁ、天罰だ。………………泣きながら受けよ」
「イヤァァァァァァァァァァァァ!!」






………………………………………………………………………バチバチバチバチ!! バチィンバチィン!!!!














そして、後日。
髪を焼かせたリザンカは涙ぐみながら人間たちに謝ったのだった。







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