地獄の番人ですよ!

goro

地獄の手料理はいかがかね





地獄の手料理はいかがかね♪










地獄。
調理場、厨房にて。




「えー、と。まず目玉エビに口裂けシイタケ、と」


現在、白い三角きんに赤のエプロンを着たリザンカは、ページ羽を持つレシピコウモリを片手に食材を調理している真っ最中である。




ケルベロス・リザンカ。
彼女は普段、地獄の番人やその他の仕事で忙しい毎日を送る。
そんな彼女が何故、この厨房にいるのか。










それは数時間前の閻魔による依頼から始まった。














閻魔の審判台前。


『貴殿、今日は厨房に入って人間たちの夕食を作ってやってくれないか?』
「……………は? 今、なんと」
『……厨房に入れと』
「や、やや、やったああああああああああ!! うそ、ホントに、今日一日休みだあああああ!!」
『き、貴殿。言っておくが調理も仕事の』
「調理なんて朝飯前です!!」
『凄い自信だな………ちなみに調理経験は?』
「アンちゃんが泣きまくるほど」
『……………………地獄の極刑にもなるだろう』
「え?」
『あ、いや、何でもない。貴殿、人間たちに泣きまくるほどの料理をつくってやるといい』




閻魔が最後に残した哀れんだ表情が少し気になったが、リザンカはこうして丸一日の調理という名の休みを貰うこととなっり、


「よし。後は紫蛇の生き血とヌメヌメ三つ葉を加えれば、完成♪」




パラパラ、グツグツ、ゴボゴボ。
………グギャアアアアアアアアアアア………。




ハッキリ言って、料理とはかけ離れた魔女が作った毒汁にしか見えなかった。


















一方、地獄の屋台では、


「アンヨのねぇちゃん。それ本当なんかい!!」
「リザンカがマジで作ってるの!?」
「厨房のオニバアは!?」


極刑を早くに終えた人間たちがアンヨに聞かされた事実に驚愕を露にしていた。


「ええ、リザンカは閻魔様の命令で厨房に行ってるわ。後、オニバアは今日は地獄型インフルエンザにかかって休みよ」
「マジかいな。って、地獄型インフルエンザとか何で地獄つけんねん!!」
「いや、それよりも!! …リザンカさんはアレですか、料理の方は」








人間の一人がアンヨにそう尋ねる。
直後。


「ブフッ!!」




口に含んだ水をアンヨは一気に吐き出した。


「アンヨさん!?」
「ごほっ、げほ、っ、……大丈夫。ちょっとあの時の惨劇を思い出しちゃって」




惨劇って何!? と人間たちは青ざめた表情でお互いの顔を見渡す。
アンヨは口についた水を服の袖で拭き取り、


「一応忠告してあげるけど、リザンカが笑顔の時ほどエゲツない物はないから注意して」
「注意って、注意して何とかなるのかい?」
「……………………まぁ、なるようには」
「今、絶対思い付かんかったやろ!」


数人が急いで極刑最中の人間たちに情報を伝えに走り出し、その他は頭を抱えるしかできなかった。




まさか、あんな事になるとは………。


















人間全員が極刑を終え数時間後。


その時は、ついに来た。




「アンタたち、全力で食べなさい♪」


リザンカが満開の笑顔を見せる。






……ああ……むっちゃ笑顔じゃん。
人間たちのテーションは一気に地獄に落ちる。






地獄には設備の良い食堂が用意され、白い延々と続いたテーブルには既にアレがあった。
しかも、それはまるで『逃げられないぞ♪』というかのようにこちらを浮いた目玉が見ている。








リザンカが作った夕食。
料理名、地獄のクリーム煮。








「(な、なぁ…………これって)」
「(言うな。今、言ったら聞かれるだろ!!)」
「何が聞かれるの?」


小声で話す人間たちにリザンカは首を傾げながら尋ねる。
人間たちは背筋をピシッと立たせ、返答を返す。


「「何もありません!!」」




……彼らは言わなかったが、胸の内に呑み込んだ言葉がある。
それは、クリーム煮の見た目だ。












紫色のとろみがかかったクリーム。
沼に溺れた人間の口のような物。
さらに、ポツンと浮かぶ目玉。


加えて、生きてきた中で嗅いだことのない甘い匂い。




席につく、人間たちの心境は一斉に一致する。


((どう見てもクリーム煮じゃねええええええええええええええええ!!!!))


体の拒否反応による震えに怯える人間。
一方では、


「さぁ、アンタたち。食べて食べて♪」


笑顔を振り撒くリザンカ。
よほど機嫌が良かったのだろう。






ダラダラ…と、顔一面に大量の汗が涌き出る。








地獄では地獄の極刑が待つ。
まだこれぐらいなら許せる。
だが。














地獄の地獄死とか、いくらなんでも酷すぎる!!


何か、この状況を回避するために方法はないか。
思考を働かせ考える人間たち。






と、次の瞬間。




「た、食べるか……」
「!?」


一人の勇者。
震える指でスプーンを掴みとる人間が現れた。




やめろ!! と、側にいた人間は叫びそうになる。




だが、 地獄耳のリザンカがいる以上、それは出来ない。


「お、お前……」
「フッ、お前ら。……………先に行って待ってるぜ」


皆の送り涙の中、英雄は決め台詞を残し。




パクっ、と。
一口。






「!? !! !?」
「お、おい!!」


含んだ、直後。


勇者たる人間はまるで雷が落ちたかのように白目を向き、固まってしまった。


そして、


「………………がは!」


プワン!! と。
勇敢なる人間は肉体を残し、白く浮く火の玉のような魂の状態で空へと上がって行く。


…………………………………………。


「リザンカさん、………アイツ、どこに」
「うーん、あ。今、閻魔様の所に着いちゃった」


地上から空に目を凝らさせ、リザンカは問いに答える。










……事実。訳すと、 昇天して再び地獄落ち。


「…………………や、やば」
「うん、私の料理がそれほどよかったのね。もう、昇天なんて、嬉しいことしてくれるんだから♪」


頬を赤らめ、喜ぶリザンカ。


((ど、どんだけプラス思考!?))


驚愕を露にする人間たち。
だが、彼らにはどうすることも出来ない。






………遺言だな。
人間たちはその時、思った。






どうせ、閻魔の所に行くなら絶対に言ってやる。
















『金輪際、リザンカに料理をさせんな!!!!!!』


















数時間後、人間の魂が再び地獄の始まりに帰っていった。


















閻魔の審判前にて。
地獄から舞い戻ってきた人魂に閻魔は声をかける。


「……………貴殿、大丈夫」
「んなわけっぶ、ゲボロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!! うっ恨んでやるぅぅぅぅぅぅぅ!!」







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