季節高校生
伝説と旅行
何度とその世界が変わろうとも、どれだけ季節が変わろうとも……。
『みんな、嘘つきだ』
同じように、何回も何回も何回も!!
『助ける、って勝手に言って誰も守ってくれなかった』
赤い目を瞳に宿し、満月の夜がその地上を照らす。
長い、白髪をたらし、少女は叫ぶ。
『もう……誰も私は信じない』
吹雪が吹き付ける中、少女は涙を流し、咆哮を上げた。
寒々した青空。
それは冬休みになった一日目のことだ。
肌寒い早朝で、鍵谷家の玄関前に停まる一台の車。
運転席から顔を出すは髪を一括りにした一人の女性。
青いジャケットを羽織る、鍵谷 藍だ。
そして、そんな彼女の側には数人の少女たちの姿がある。
「藍さん、今日は本当にありがとうございます」
そう言って頭をペコリと下げたのは、首元に橙色のマフラーを巻く私服姿の少女。
島秋 花だ。
その直ぐ側には、鍵谷真木、浜崎玲奈、そしてリーナ・が佇んでいた。
藍はにこやかに笑顔で言葉を返す。
「ううん、別に気にしてないわよ。それより……えーと、リーナちゃんでいいのかな?」
不意に呼ばれたことに、ビクッと肩を震わせる少女。
リーナは少し慌てた様子で口を開いた。
「は、はい! 今回はお招きいただきありがとうございます!」
「いいわよ、そんなにかしこまらなくても」
くすくす、と笑う藍とは対照的に、今回が初対面でもあるリーナはどこか緊張している様子。浜崎と普段から一緒にいる分、あまり人と関わりを持つことが少ないのか、以外にも人見知りな性格だったりする彼女。
そして、そんな初々しい姿に鍵谷たちは優しい笑みで口元を緩めて楽しそうに眺めていた。
と、その時。
ドン! と音が鳴る。
彼女たちの背後で重い物が地面につく音が放たれた。
鍵谷たちはゆっくりと後ろに振り返る、そこには、
「お前ら…………自分で持てよ」
たくさんの荷物を肩から下ろし、荒い息を吐く少年、藪笠芥木。
早朝の電話による呼び出しで来た直後にいきなり荷物運びを任され、今しがた部屋に置いてあった皆の荷物を持ってきた所だ。
肩で息を吐く少年の額にはビッシリと汗が浮かび、外の寒々した風が全身を寒さで震え上がらせる。
ドッと疲れた表情を浮かべている藪笠。
そんな彼に対して、呆れたように眺めていた浜崎が不敵な笑みを浮かべた。
そして、彼女は言った。
「頑張ってね…………荷物持ち」
フフッ、と笑いながら藍に進められるまま車に乗る浜崎。
鍵谷たちも苦笑いを浮かべつつ車内へと入っていく。
一人、ポツリとなった藪笠。
同時に、何でこんな目にあっているのだろう、と数分前に言われた言葉を思い出す。
それは、浜崎玲奈の口から出た言葉。
『この前、誕生日祝ってあげたんだから手伝いなさい』
本当についてない。
藪笠は大きな溜め息を吐き肩を落とすのだった。
予定より少し時間が掛ったが、無事に出発した六人乗りのファミリーカーは現在にて高速道路を走行している。
車内にはのんびりした音楽が流れ、女性たちは賑やかに話を続け盛り上がっていた。
そして、荷物運びで後ろのトランクに全部の重荷を乗せた藪笠は一番後ろの席で座りつつ前にいる彼女たちをぼんやりと眺めていた。
どうやら、今は島秋の話らしく…。
「それにしてもよく当てたよね、そんな旅行券」
「えへへ、たまたまだよ」
「いや、たまたまでも凄いわよ」
実際には当てたよりも食い取ったと言った方が近い。
今回、この車が向かう先というのは島秋が手に入れた旅行券により行けることとなった温泉旅館だ。
仕事の都合がやっと取れ、久々に肩を休めたいとのことで藍が親代わりで同行することとなった。
言葉では成り行きと言いつつ楽しそうだよな、と藪笠はそんなことを思いながら話に入らず背中をつけ溜め息を吐いた。
この暇な時間をどう潰そうか………。
と、その時。
不意に賑やかに話す中で一人の少女だけが何かコソコソしていることに気づき藪笠は体を乗り上げ上から覗き込む。
その少女とは、浜崎のSPであるリーナだ。
そして、彼女の手には薄い長細い物が握られている。
しかも、ものすごく見たことのある物であり…………。
「おい、それって確か」
「っつ!?」
ビクッと体を震わせ後ろに振り返りつつ慌てるリーナ。
彼女が持っていたのはスマートフォンに似たようなボタンのない画面だけの機械。
それは以前、あることの調査で無人島に行った際で出会った男。
風霧 新がマップ代わりとして置いて行った物だ。
「な、ななっ、なにを見てる!?」
「いや、それ俺のセリフ。っていうよりも、お前まさか返すの忘れてたのか?」
「っ―!? し、仕方がないだろ! アイツが悪いんだ勝手にいなくなって………それに…いろいろと興味も……その…」
「………………………」
「あ、っちょ」
ひょい、とリーナの手からソレを奪い取る藪笠。
彼女が以前から機械関係の物に興味があったのは知っていたが、それでも人の物を勝手に使うのはいけない。
少しからかってやろうか、と藪笠は暇つぶしのごとく超慌てる彼女をよそに画面を覗き込む。
「えーと、何々」
藪笠は真っ暗な画面の機械を眺め、この前と同じように四季装甲の力を使い画面を起動させた。
どれほどロックしても、干渉を司る力の前では無力なわけで画面のロックはいとも簡単に外された。
ポン、と映し出されたのはネットのあるページらしく、そこには………、
『日本での大和撫子。これであなたも美人の仲間入り!』
…………………………………………。
すっ、とリーナにソレを返す藪笠。
そして、ぷるぷると震える彼女に対して謝る言葉を口にする。
「…………………その、ごめん」
「で、すむと思ってるのか!? 潰す! ここで叩き潰す!!!」
バタバタバタ、と後部座席で賑やかな騒ぎが起きた。
藍はそんな光景をにこやかに楽しみつつ、対して浜崎は呆れた表情を浮かべる。
「………アンタたち、ほんと仲良くなったわよね」
そして、その一方で一人の少女は握りこぶしを作りながら言った。
「真木ちゃん、がんばろう!」
「っえ!? 何言ってるの!?」
こうして彼らは目的地の温泉旅館へと向かっていく。
雪に囲まれた、季節を再現した場所。
一つの伝説が眠る。
『彷帰りの里』
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