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季節高校生

goro

休息

季節は冬に入り、今日は学校が休みの土曜日。
テレビでは芸能人達が笑いを競い合い寒い水の中で暴れたりする映像が映し出されている。
そして、そんなテレビを見つつコタツに入りミカンの皮を剥く一人の少女、鍵谷真木。
と、そこで。


「真木―、ちょっと手伝ってくれない!」


親代わりの母方の姉。
鍵谷 藍の声が隣の部屋。ふすま向こうから聞こえてくる。
はーい、と暖かいコタツを名残惜しみながら鍵谷は体を起こし廊下を少し歩いて着いた隣部屋のふすまを開けた。
次の瞬間。


「何ーってええええええええええええええええええええええええ!!!!??」


バサバサアアアアア!! と直後。
部屋中央のデスクに高く積まれていた紙束が突如、鍵谷目掛けて襲い掛かる。
そして、紙まみれの上彼女の体はしりもちをつきながら後ろに倒された。


「いたたっー何よコレ……」


硬い床に当たった箇所を手で押さえつつ鍵谷は周りに散らばる紙の一束を拾い上げる。
表紙には長い英文で書かれた文が印刷されており見ていて頭痛がくる。
何かの仕事用紙かな、と首を傾げていると目の前に一人の女性が駆け寄ってきた


「ごめん、真木」


女性の名前は鍵谷 藍。
どことなく鍵谷真木に似た顔立ちをしており、今は仕事中もあり黒のフレーム眼鏡をかけている。
ついでにいえば体格もスリム上、美人。
鍵谷真木もたまに羨ましく思ってしまう。


「……で、どうしたのコレ?」


鍵谷は体を起こし、散らばった紙を集めていく藍につられ手を動かす。


「いやー、実は真木にちょっとした頼みがありまして」


若干、気まずそうに言う藍。
鍵谷は眉を寄せ首をひねった。だが、その疑問は藍の次の言葉で直ぐに解ける。










昼の三時。
玄関前で一人の少年は尋ねる。




「で、何でまた俺なのか藍さんに聞きたいんですが?」
「まぁまぁ、そう怒らずに。夕食はこっちでごちそうになっていいから」


藍の指示で呼び出した少年。
藪笠芥木。
何故か藍とよく関わりを持っていたりする。
普通、クラスメートである鍵谷と仲良いならともかく。
寒い中、バイクを走らせ来た藪笠は溜め息をつきつつ黒のジャケットを脱ぎ片手で持ちながら藍の仕事場に歩く。
そして、にっこりとした笑顔で渡された紙を藪笠は目を動かせつつ読む。


すると、後ろについていた鍵谷が藪笠に対し、あれ? と首を傾げた。


「藪笠? 」 
「ん?」


声に振り返る藪笠。
以前、というよも一週間前といえばいいが、どこか雰囲気が違っている気がした。
分かりやすく言うなら、雰囲気の鋭さが少し和らいでいるような感じだ。
だが、瞬間に至近距離で見つめ合ってしまっていることに気づき鍵谷は顔を背けてしまう。


「う、ううん、何でもない!?」
「?」


反対の首を傾げる藪笠に藍はそんな二人のやり取りを見ながら小さく笑っていた。
そして、数分と英文をある程度呼んだ藪笠はあえて藍に尋ねる。


「……それで、何を手伝えば?」
「とりあえず、これの感想を聞かせてちょうだい」


感想? 鍵谷は藪笠が持つ紙を見て頭を悩ませ藍に尋ねる。


「感想って、これって英文でしょ?」
「うん、英文の小説。真木は読めないでしょ」
「………いや、難しいから」
「だから真木には頼んでないでしょ」
「うっ!?」


確かに、勉強面からしてもアウトな鍵谷には正直いって無理だ。
この一枚を訳すのに何時間かかるかわからない。
しかし、それを身内から言われるのも正直痛い。
鍵谷は藍の視線を知らぬふりしつつ、藪笠に話しかける。


「……藪笠、ソレ読めるの?」
「ん? まぁな」


藪笠はまるで普通に日本語の小説を読んでいるかのようにスラスラと目を通していき、鍵谷自身でその事が目の動きで分かってしまう。
紙を顔の前から離し、一息つく藪笠。
藍は口元を緩めながら尋ねる。


「で、感想は?」
「うーん。………まぁまぁ、だと思う。だけど、なんて言うか主人公の表現が」


藪笠と藍。
二人だけの世界に行ってしまい、完全に一人になってしまう鍵谷。
中に入ろうにも、内容についていける能力がない。
数分と、立ち呆けていた鍵谷は肩を落とし、気まずそうに出口に振り返る。


「私、向こう戻ってるから」


そうして、スタスタと歩いていき部屋から去った鍵谷。
藪笠は紙での話を一旦止め、溜め息を吐きながら言った。


「藍さん、態々こんなことしなくても呼ばれたら来ますよ?」
「え? 藪笠くんってそんなに素直だった?」


何とも失礼な言葉を返す藍。
鍵谷はもちろんだが、彼女自身も藪笠の携帯番号を知っている。それなのに、娘である鍵谷に頼んだ。
それには何か理由がある。
藍は手に持っていた紙をデスクに置き、一息つく。


「いや、最近、真木つまらなさそうだったから」
「……………………」
「藪笠君、真木と学校とかでも全然話してないでしょ?」


鍵谷が毎晩帰ってくる時、いつも物足りなさそうな表情がちらほら見えた。
大抵のことはわかるわけで、その原因が藪笠にあることも知っている。
そんなわけで、鍵谷と藪笠を話合わそうと今回のことを起こしたのだ。




藪笠は心当たりがある分、言い返すことができなかった。
色々と合ったからもある。
無人島での死闘の後、リーナと言い合いながら帰ってきたが、それでさえ疲れもあり話す気力がなかったのだ。
はぁ、と溜め息をつく藪笠。
デスクに乗せられた紙束の半分を両手で抱え、藍に言う。


「書類、一応持っていきますよ」
「うん、ありがとう」


よいしょ、と言いながら部屋を後にする藪笠。
藍はそんな少年に口元を緩めるのだった。










「はあぁ……」


テレビを見つつ溜め息を吐く鍵谷。
あれから気分が優れず何を見ても面白いと感じない。
つまらないなぁ、と呟きつつ顔をコタツの毛布で覆った。
その時。


「よいしょ、と」


ドン! とテーブル上に何かが落とされる。
鍵谷は慌ててコタツから顔を出す。
そこにはさっきまで藍と一緒にいた藪笠が何故か直ぐ近くに腰を下ろしている。


「なっ、何でこっち来るのよ!?」
「寒いから」


確かに、完璧すぎる返答。




「………あっそ」


フン、と顔を背け再びテレビを見るふりをしながら動揺を隠そうとする鍵谷。
一方の藪笠もそんな彼女に気にすることなく積まれた紙を一枚一枚読み続けていく。
そうして、やや重い空気のまま一時間が過ぎ、さすがにこの空気に我慢できなかった鍵谷は藪笠に声を掛ける。


「………ねぇ」
「ん?」
「玲奈に聞いたんだけど、…………リーナちゃんと一緒にどこかに行ってたってホント?」


どこかオドオドとした鍵谷の言葉。
出所は大方リーナだろう、と藪笠は溜め息を吐く。
浜崎のSPであるリーナは本人では自覚していないが隠しごともあまり上手くない。
多分、浜崎に上手いこと言い包められたと見ていいだろう。
まったく、と内心で思いつつ藪笠は読むのを止め返事を返した。




「ああ、まぁな」
「…………………そ、そう」


鍵谷の言葉はそれだけだった。
再び口を閉じ体を寝転がせながらテレビに視線を向ける鍵谷は、リーナと何をしていたというよりも一緒にどこかに行った、という言葉に胸に痛みが走った。
別に藪笠と付き合っているわけでもない。だが、どうにも藪笠が女性と一緒にどこかに行くことに対し嫌な気持ちが胸を苦しめる。




再び、室内に静寂と沈黙が落ちる。


藍に渡されてた紙を置き、藪笠はコタツで寝転がり顔をこちらに向けない少女に視線を向ける。
そして、大きな溜め息を吐き。
トン、と。


「っえ、わ!? ちょっ、何やって」
「休憩」


鍵谷の隣。
片腕を枕に鍵谷がいる方に体を向けながら寝転ぶ藪笠。
至近距離な上、視線が重なり合う。
鍵谷はすぐさま反対方向に体を転がし、藪笠と目が合わないようにする。


「…………………」
「…………………」


静寂な空気の重さ。まるで圧し掛かられたように肩が凝りそうになる鍵谷。
しかし、その一方で、ドクン!ドクン! と胸の鼓動が速くなる。
同じ部屋、さらに直ぐ隣にいる藪笠。


意識して治めることできない。


どうしよう、と手を胸に置く鍵谷。
このような付き合いがこの頃なかっただけに、気持ちの整理がつかない。
どうする?
どうする!?
悩む鍵谷。だが、その時だ。


「なぁ、鍵谷」
「ふぇ?」


隣に寝ていた藪笠が鍵谷に声を掛ける。
鍵谷は顔をゆっくりと動かし、藪笠を見る。対して藪笠は天井を見つめ呟くように言った。




「………………俺といて疲れないか?」




一瞬。
今まで詰まっていた気持ちが真っ白になった。
何だ、その質問は? と思った。


「何よ……いきなり」
「いや…………ただどうなのかなって思ってな」


意味不信な言葉に眉を潜ませる鍵谷。
だが、その内心の裏では少し怒ってもいた。
疲れない。
それはつまり、私の気持ちなんて眼中にないほど気づいてないってこと? と。
頬を膨らませ、ムッとした鍵谷は散々恥ずかしがっていた自分が馬鹿みたいと思い口を動かす。


「馬鹿。そんな近くにいて疲れるぐらいなら一緒にコタツになんか入ってたりしないわよ」
「………………」
「第一、何が、俺といて疲れないか? よ。嫌な感じを漂わせているならともかく、私と藪笠は同じ人間なんだから一緒にいて疲れたりしないわよ」
「………………同じ人間」
「そうよ、それとも何? 宇宙人でしたって!」


鍵谷は勝手きままに今まで溜まっていた物を吐き出すように喋り続ける。
それはまるで初めてあって言い合いしていた、あの頃に戻ったように。


「ねぇ! ちょっと聞いてるの!」


鍵谷は藪笠に勢いよく近づき、顔と顔、数十センチといった距離で睨み付ける。
そして、そうしてやっと気づく。


「……………………」
「……………………」


ち、近すぎた!!?
バッ、と体を戻し再び背を藪笠に向ける鍵谷。
自身の行動に対し顔は一気に赤面状態になっている。
対して、藪笠は茫然とした感じに今のやり取りを思いだしつつ鍵谷の背中に視線を向けた。


『私と藪笠は同じ人間なんだから』


鍵谷が言った言葉。
その言葉は彼女から見て正しいのかもしれない。
しかし、藪笠は知っている。


あの無人島で、風霧 新という男から聞かされた自分の存在を。




「……………………」


人間とそう変わらない肉体と精神。
そして四季装甲。


四季装甲が神の溢した力ではなく、藪笠自身がその力の行き着いた先。










(あわわわわー! 私何やってるんだろ! なんであんな大胆なことしたの!?)


内心、パニック状態になっていた鍵谷。
さっき以上に気持ちが高ぶっていた。


(ううぅ、こっち見てかな……)


しかし、あんなことをして反応がどうであったか気になる鍵谷はそっと後ろに視線を向ける。
と、そこには……。




「……………………え?」




すぅ、すぅ……、と。
寝息を溢す一人の少年の姿が。


ブチリ! と鍵谷は再び振り返りその顔をひっぱたいてやろうと思った。
乙女の純情を何だと思ってるのか! という気持ちを込めて。
しかし、叩こうと近づいて鍵谷は次の瞬間、手を停止させる。


「…すぅ………………すぅ…」


まるで疲れ切った子供のように、安らかに眠っている。
だが、その顔色は疲労がにじみ出ているように衰えている。
今日、ここに藪笠が来た時、よく顔を見てなかったからこそ、今やっとこの距離で気づいた。


「…………何やってたのよ、藪笠」


鍵谷は片腕で眠る藪笠の頭を自分の膝に乗せ、そっと頭を撫ぜる。
体を触って分かったことだが、すでに藪笠の体はグッタリとしていてやや冷たかった。


「………………」


鍵谷は目を細め藪笠を見つめ続ける。


両親もいない。
一人暮らしで生活し、何かがあっても打ち明けず自分でどうにかしようとする。


何もかも一人で、孤独にしようとする。




グラッ、と睡魔が鍵谷にも来た。
そんな中で、鍵谷は呟くように唇を動かす。




「ねぇ……………私じゃ、藪笠の背負ってる重みを支えることってできないのかな?」




付き合いた、キスした、一緒にいたい。
そういったことよりも、この言葉こそが鍵谷の本心でもあった。
もしかしたら、初めて会ったあの桜の木下。


あんな出会い方だったが、あの時にすでに内心で気づいていたのかもしれない。






藪笠の内に抱える、重みを。




































時間が夕暮れに差し掛かっていた。
ふすまを開けた藍は、目を見開きながらも口元をゆっくりと緩める。


少年と少女。
二人の、今だけの休息を眺めながら……。




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