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季節高校生

goro

決意

暗い通路を進んだ途中に鍵が掛けられていない小さな個室を見つけた。
藪笠とリーナは鍵がその部屋に入り腰を落とす。


「………藪笠、大丈夫か?」
「ああ、まぁな」


藪笠は小さく息を吐き黒のコートを脱ぐ。
コートの裏側にはぽかりと穴が開いており摩擦により焼けた事が見てとれる。
そして、その被害は下に着ていた服を通り越し藪笠の体に小さな火傷を作っていた。


リーナはその原因が自分をにあることを知っている。守ったさいにできたのだと。
顔を伏せ落ち込むリーナに藪笠は困ったような表情を浮かべ、


「気にすんなよ。そもそも俺が道を間違ったのが原因なんだから」
「だ、だが」
「それよりも、だ」


話を変え、藪笠は室内周辺に置かれた物を見回した。
薄暗い中に隔離された知識の集合体。書物や紙束、数々の資料がぎっしりと部屋を囲むように置かれた棚たちめられている。


「資料庫って所か」


電気が通っていたらしく、藪笠は一番焼け痕が軽い黒シャツを着ながら室内入り口横のスイッチを押し、の電気をつけた。
本の上には埃が被っているのが見て取れる。
埃を気にしながら棚に納された本を手に取ったリーナは表紙、ゆっくりとを開いた。


「何だこれは?」


本の中身は、大半が絵で埋まっておりその題材は、この世に存在しないはずの伝説上の神や怪物。
図書館や博物館にあるような創造物を書き記した物だった。
リーナはずらりと並ぶ棚に納められた本を見つめ、同時にこの場所が一体に何をするために作られたのか、真意が読めないことに疑問を抱いた。
その時。


ガタッ、と本が落ちる音。
リーナはその音に振り返った、そこには。


「………………」


一枚の紙。
それを驚愕の表情で見つめる藪笠の姿があった。


「ど、どうしたんだ………や」
「ッ!」


声を掛けようとするリーナたが、藪笠の耳にその声は届かない。
藪笠は辺りに散らばる紙を無造作に手に取り、一枚一枚と目を通す。
それは一見からして焦りにも見えた。
リーナは宙舞った一枚の紙を掴み取り顔の前にやる。実験の状況を詳しく記したものだということは、科学の知識はなかったがリーナでも見て取れた。
これが一体何なのか、リーナは最後まで目を通す。
そこで、ピタリとリーナの目がある一文に止まった。
それは英語で一つの単語として記されていた。


どうしてこれが出てくるのか分からない。
その名は、一人の少年が口にする言葉。






『Sikisoukou』






無数に散らばっていた紙の内、一枚を藪笠は手に取った。
そして、それを目を見開きながら黙視する。


「!」


瞬間。
グシャリと藪笠はその紙を握り潰した。
それは苛立ちなのか悔やみなのか。前髪で隠れた藪笠の顔色には確かな変化があった。


「藪笠…」
「そうか。………………どうりで、メルヘンにいくわけだ」


ぼそり、と呟く藪笠。
リーナはその後ろ姿に声を掛けようとした。
その時。


ガタッ! 


突如。
部屋の隅、通気孔の蓋が外れ、そこから何かが動き出す。
リーナは目を見開きながら距離を取り、同時に警戒を体に走らせた藪笠は瞳を桜色に床を蹴飛ばそうとした。
だが、棚の影から現れたその姿に藪笠の動きがピタリと止まる。


小さな弱々しい動きを見せる影。
藪笠は驚いた表情で口を開く。




「アズミ……」




狼のような毛皮を腕に生やした少女。
アズミは藪笠の顔を見た直後に涙を流し、泣き崩れた。
















緊迫としたその場で。
正体不明な怪物に向かって走り出す風霧。
 

怪物は風霧の動きに合わせ、拳を突き出そうとする。だが、風霧は足を止めることなく向かってくる拳に向かい黒銃の衝撃弾を撃ち出した。
瞬間。
撃ち出され衝撃弾はその巨大な拳を弾き飛ばし同時に怪物の隙が生む。
風霧は至近距離で足を地面に落とし、体を捻らせ白の刀を振り抜いた。


「波風」


風という名の衝撃。
怪物の脇腹を突き抜け、まるで体の力が向けたかのように膝をつく。
その一瞬にも風霧の攻撃は止まない。
跳躍で打ち出された鉄弾のような速さで怪物頭上に飛び立ち、天井を足場に突撃する。
体全身を使い、より強力な一撃を放つため。
風霧は黒銃を一瞬で刀に変え放つ。






「混合式・連鎖風蝶」






次の瞬間。
巻き起こされる烈風から黒蝶の大群が怪物を覆い尽くした。




















静かすぎる室内。
その中で、アズミのすすり泣く声だけが響く。
泣きながら今までの事情を話したのだ。


佐治と名乗る男の急変。
自身を逃がし、強大な敵に向かっていった少年。




最後のように、言葉を告げた少年の事を。


意気消沈としたアズミを気遣うリーナ。
一方、傍らで顔を伏せながら話を聞いていた藪笠は、静かな足取りで使い物にならなくなった黒のコートの元へ足を進め、コートを持ち上げと同時にバサッと内側に閉まっていた物を広げた。


それは、ボタンのない代わりに左右同じの銀色のアクセサリーが二つ取り付けられた、赤色のコート。




そう……………………この世に存在しないはずの物だ。




「アズミ、道案内頼めるか?」
「え………………」
「……藪笠」


赤いコートを身につけ藪笠は振り変える。
リーナはその時、その姿が妙にしっくりとしたように見えた。


「………アイツは俺が絶対に助け出す」
「…………で、でも」


アズミは顔を伏せ歯を噛み締めた。
あれから何時間も経っている。
こんなこと考えたくない。
だが、それでも考えてしまう。


もう、ケンはこの世にいないのではないか……と。










「………………本当にそれでいいのか?」
「!?」




黙りこむアズミに藪笠は言葉を続ける。


「…納得なんてできないだろ。最後に『ごめん』って、そんな言葉何んて欲しくなかったはずだ」
「………………」
「アイツに、言いたい事があるだろ」


藪笠はアズミに手を差し向ける。


「この実験も、お前やアイツのソレも、全部が俺に繋がっている」


だからこそ、藪笠は言う。




「約束する。……この実験は、俺が潰す。アイツも俺が助けて見せる」
「………………」
「だから、お前が望んだ事をアイツに言ってやれ。それからでいいだろ、足を止めるのは」


藪笠は口元を緩め、アズミに手を差し向け続ける。
絶望が少女を蝕んでいた。


だが、その中で希望が目の前にある。






小さな手は動いた。
決意したのだ。




差し伸べられた希望という名の手を握る、決意を。









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