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季節高校生

goro

華宗雪桜





暗い室内。
消毒の臭いが漂う中、ひっそりと集まる十数人の子供と白衣を着た年老いた男。




「A3はどうした?」


男は目の前にいる子供たちに問い掛けるが、返ってくるのは無言の首振る。
その中で一人。
顔に緑の皮膚を持つ少年が前に出た。


「俺がアズミを連れ戻してきます」


きびきびとした少年の言葉に年老いた男は口元を緩める。
男は腕に巻いた時計に視線を落とし、言った。


「いいだろ。ただわかっているな、A2。時間は限られているぞ」


A2。
そう呼ばれる少年は、その言葉に無言で頷く。
そして、その場から飛び去るように姿を消した。


暗闇からいなくなった少年。
男の口元は左右に開き、笑みがそこに浮かべられていた。


















場所を変更する。
そうリーナに伝え、藪笠は近くの水が流れる岩場付近に集合場所を移動した。
しかし、それは同時に気まずい状態を作ることになる。


「……………」
「?」


何も曇りもない。
見開いた瞳で藪笠を見上げる腕に毛を生やした少女。
身動きが取れないよう、木に巻き付くように垂れていた蔓を使い、少女の手足は縛られている。
気絶していたお陰でここまで難なく運ぶこともできた。
が、しかし。
岩場に寝かした直後、パチリと少女の瞳が開き、目と目が交差したのだ。




結果、今視線だけがこの不可解な空気を生み出している。
どうしたものかと苦い表情を浮かべる藪笠。
素直に事情を話してもいいかと思った。


だが、自身を縛った相手の話を普通に聞くだろうか?


頭を抱えながら唸り声を出す藪笠。
と、そこで側から声が掛けられる。


「お兄ちゃん?」


振り返るとそこには首を傾げる少女の姿。藪笠の顔を見上げながら少女は尋ねる。


「お兄ちゃんは、誰?」
「え? ………あー、藪笠芥木。………お、お前は?」
「アズミ」
「……そ、そうか。アズミっていうのか……」


邪悪のない、聖女かと思える表情のアズミ。それを見ると同時に罪悪感が生まれる。
藪笠は苦い表情を浮かべつつ、溜め息を吐き一応確認と数分前の事を尋ねる。


「あ、アズミ………さっきのこと、覚えてるか?」
「?」


再び首を傾げるアズミ。本当に覚えがないようだ。
藪笠は深く息をつきながら、疑問の一つを解決するべく再び尋ねた。


「アズミ、お前は何でこんな所にいるんだ?」
「……………」


無言。
一瞬、顔色を暗くさせながら口元を紡ぐアズミの様子から、触れてはいけない部分に触れてしまったか、と口に手を当てる藪笠。
だが、アズミは何かを振り払うように口元を緩ませ話始めた。


「私たち、お父さんやお母さんに捨てられたの。どこに行けばいいか、分からなかった。……大きな家がある所とか、水溜まりがある所にも行ったけど、誰も助けてくれなかった。……………だけど、その時。オジサンがここに住めばいいって言ってくれたの」
「……オジサン?」
「うん、オジサン。私たちのこの病気を治すために研究してるんだって」


アズミは自分の腕に生えた獣の毛を見せ口元を緩ませる。
病気という単語に気にかかった藪笠だったが、それよりも先にアズミの話から出たオジサンという男に対し、疑問を抱く。


(研究ってことは科学者なのか? それなら何でこんな人のいない無人島で研究なんて…)


藪笠は目を細め、アズミの腕の状態に視線を向けた。
そして、一つの予測をたてる。




(人に知られてはいけない研究。その成果がコレか)


アズミの腕の状態もそうだが、さっきの獣のような動作。
意識が飛び、獣のような人格に変わる。


身体だけでなく、精神もが獣に近づいている。
研究の結果が、もしそうなら…。


グッと藪笠は奥歯を噛み締める。








こんな何も知らない子供を手駒にするソイツは、ここで潰す。








藪笠は、その男の居場所を聞くべくアズミに声を掛けようとした。
その時だった。


「!?」


ビュッ、と風を突っ切る音と共に藪笠の頭めがけて大石が放たれた。
藪笠は体を唸らせ後ろに飛び下がることで大石を回避した。
そして、突然の奇襲に驚くアズミの上空から降り立つ一人の少年に目を細める。


「アズミ、大丈夫か!!」
「ケ、ケンくん!!」


ケン。
アズミにそう呼ばれるケンの頬には、彼女とはまた違った緑の皮膚が現われている。
ケンは、アズミの前に立ち口を開く。


「アズミ、気をつけろ。ソイツは佐江オジサンを殺しに来た悪いやつだ」
「え……」


アズミは目を見開かせ、驚いた表情を浮かべながら藪笠を見る。
一方、藪笠はケンが口に出した名前に対し目を細めた。


『佐江』


それがアズミが言うオジサンと呼ばれる男の名字なのか?


「お前はアズミより事情に詳しいみたいだな」
「黙れ!!」


目を睨ませ、アズミを守るように前に立つケン。人格はあるらしく、目を鋭くさせ藪笠に殺気を飛ばす。






………このまま長話していても始まらない。
藪笠は大きく息を吐き、そっと呟く。


「四季装甲、冬」


瞬間。
瞳の色が桜色から雪色へと変化した。
それは、干渉を操る四つの四季装甲の内の一つ。話を聞く以上、口を開けない状態にするわけにはいかない。
カウンターを狙う。


藪笠は足を前に踏み出そうとした。
だがその時。
ケンの目は見開き、同時に震えた口が動いた。










「四季装甲………………何で、お前が」










『四季装甲』


その言葉が出回っているとは考えにくい。
なら、どういった経緯でそれを知ったのか。


「……悪いが、話を聞かせてもらう理由が一つ増えた」


藪笠は片手に力を込め、地面を蹴飛ばそうとした。
その時だった。


ダッ、と藪笠たちの間に入る一つの影。


「だ、ダメ!!」


アズミだ。
藪笠とケンとの間に入り争うを止めようとしている。
だが、そこで藪笠は小さな異変に気がつく。


「ッはぁ、はぁ、はぁ」


荒い息。
アズミの顔色が徐々に悪くなる。
それは確実なまでに、さっきとは何かが違う。


藪笠はふらふらとするアズミに声を掛けようとした。




しかし、事態は突如として急変する。








「はぁ、はぁ………け、ケンくんを、傷つけ…………ぐっ!?」


バタッ。
ふらふらとした状態から力なく地面に倒れるアズミ。
藪笠は、すぐ様アズミに駆け寄り現状を把握しようとした。
だが、事情を知るケンはそんな時間を与えない。


「アズミから離れろ!!」


藪笠に鉤爪と放ち、回避したその隙に倒れるアズミを抱えようとする。
グッ、と藪笠はケンの肩を掴み動きを封じる。


「どういう事か説明しろ!!」
「うるさい!! 早く、早く佐江オジサンに薬を射ってもらわないと、アズミは病気でッ」


その言葉には焦りが見える。
藪笠はアズミの異様な腕に目を向けると、苦しむアズミに続き生えていなかった手の甲から毛が徐々に生え出てきているのがわかった。
同時にアズミは呼吸を荒々しくさせる。


(……進行が進んでるのかッ)


倒れるアズミに対し、歯を噛み締めるケン。
自分にはどうすることもできない。
その事を知ってるからこそ自身の無力さに怒りを覚える。








そして、その瞬間。
藪笠は見た。
その光景と重なる、かつての自分の姿。










あの火の中、助けることができなかった。
自分と少女。










『一緒にいられなくて、ごめんね』


















………ふざけるな。










コイツも…アズミも。






あんな思いを………。










(………俺と同じように何かさせてたまるかッ!!)






カッ、と目を見開かせる藪笠。
突如に瞳が複数の色に重なる。


「退け」
「っ!?」


ケンの襟首を掴み後ろに突き飛ばす藪笠は、横たわるアズミの胸に手を静かに当てた。
そして、


「二連季、咲雪桜陣」


呟いたと同時に瞳の色がさらに強さを増す。
……今まで使うことはなかった。










干渉と循環


藪笠は禁忌の季節を使う。














「華宗雪桜」






ドンッ!!
直後、アズミの体が後ろから撃たれたように跳ね上がる。


「な、何やってッ」
「黙ってろ。今、干渉で俺の春を循環させてる!!」
「ッ!?」
「任せろ。絶対に助けて見せる!!」


覚悟の籠る言葉。
藪笠の顔色には焦りと疲労が見える。


「ぐっ」
「あ、アズミ」
「ケン………く……ん」


震える唇でケンの名前を口にするアズミ。
ケンは今すぐにでも藪笠を止めに掛ることができた。
……できたはずなのに、体が動かない。




残された時間はもう既にないのに。
助けることができなければアズミがどうなるかわかっているのに。




何もできない自身に対し、ケンは歯を噛み締める。いきようのない拳を地面に突きつけようとした。
その時だった。






「グアワッ!?」
「!!」






吐き声と共にアズミの瞳が一瞬と桜色に変化した。
ケンの目は見開き、胸のうちに生み出された自覚のない憎しみと怒りが全て藪笠に向けた。
そして、鉤爪とした爪を藪笠の背中に向けて放つ。


次の瞬間。














「ケン…くん」
















ピッ。
伸ばされた鉤爪が藪笠に突き刺さる寸前で停止する。


ケンは驚愕とした表情で、横たわっていたはずのアズミに視線を向けると、


「?」


キョトンとした表情のアズミの姿がそこにあった。
顔色は徐々に回復が見られ、荒い息も消えている。


「あ、アズミ、大丈夫なのか……」
「う、うん」


普段と変わらない返事を返すアズミ。
見間違いかと、ケンはもう一度アズミを見る。




(…確かに顔色が回復している。今まで薬による治療をしても、回復に一日はかかったのに)


ケンは他に以上がないかアズミの身体を調べた。進行していた腕の症状は以前の状態で止まっていた。
やつれている様子もない。


本当に病気が止まったのか?


ケンは茫然とした顔で、アズミの手元に視線を向けた。
その時だ。


「?」


ケンが首を傾げる。
そこには一つ、普段とは違ったものがあった。




それは、刺青とも取れる。


「花びら……」
「え?」


ケンの言葉にアズミは右手の甲。


小さな印のように桜の花びら一枚を型どった刺青に目を向けた。
綺麗……、と呟くアズミ。
一方、ケンは眉を潜める。








(これが四季装甲の力なのか。…………もし、これが本当だったら)


ケンは隣にいるはずの藪笠に声をかけようとした。
だが、その直後。






バタッ、と倒れる影。






「っ、はぁ……はぁ、はぁ」


荒い息と同時に力なく地面に倒れた藪笠。
顔を歪ませ荒い息が口から吐かれる。額から落ちる汗が尋常じゃない。




ケンが困惑した表情を浮かべる中、アズミは心配げな表情で藪笠の頬に触れようとした。
その時。






「藪笠、どこだ!!」






耳に届く、遠くから聞こえてきた女の声。
ケンは気にするアズミの手を引き言う。


「行くぞ、アズミ」
「え………………う、うん」


アズミは苦しむ藪笠を横目で見つつ、口を紡ぎながらケンとともにそこを後にした。


















胸騒ぎがする。
リーナは急いで藪笠が指定した水が流れる岩場を探す。
そして、最後と木に隠れていた行き着いたそこには倒れる藪笠が、


「藪笠!?」


リーナは急いで藪笠に駆け寄り、容態を確かめようとした。
しかし、リーナの肩を掴み、


「待て」


風霧はリーナを制し藪笠の側にしゃがみ込み、片手を藪笠の額にかざす。。














「(四季装甲。これが……………の特別か)」














風霧はポケットから小さなボトルを取り出し、意識が朦朧とする藪笠の頭を垂直に、人工呼吸するかのように固定させ、口にソレを突っ込んだ。


「……な、何を」
「回復薬みたいな物だ。まぁ、数時間は眠りっぱなしだけどな」


ッグッ、と喉から声を出す藪笠。
ボトルが尽きたのを確認するとソレを口から外しポケットに直した。


そして、担ぎ上げるように倒れる藪笠を持ち上げ風霧は言う。




「場所を移すぞ。動くのは、コイツが起きてからだ」
「………………そう、だな」




リーナは言われるがまま風霧のあとを追う。




ここで何があったのか。








ソレを知るのは、藪笠ただ一人……。







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