季節高校生

goro

到達







秋の中盤。
風が海独特の匂いを運ばせる。




東北にある小さな孤島。
その地には人の出入りはなく、孤島に近い街の人々はそこを無人島と称していた。


曰くつき。
誰の目にも入らない、未知の島。




日影が多く見られる森林の中、野生の鳥の鳴き声が聞こえる。
そんな中で、突如。


ドン!! と、勢いよく地面に落ちる人影がいた。




「いっ…つつ……」


地面に強打した腰に手を当て、肩に乗る落ち葉を片手で払う一人の青年。
左右腰に黒と白、手のひらサイズになる分厚い六角形のアクセサリーが見られる。
青年は自身の体格より大きめな茶色のジャケットを揺らがし、立ち上がる。


上空、青空に漂う雲を見上げながら、青年は言った。




「……何とか入り込めたな」


















秋の肌寒さが体を震えさせる。


時刻は朝の10時を回っていた。
そして、そんな時間の中で海に浮かぶヨットの中で二人の男女、藪笠芥木とリーナ=サァリアンは口論を続けている真っ最中である。




「だから、悪かったって言ってんだろ」
「ふん、貴様の言葉からは全くとして反省の色が見えない!」


文化祭終了から二日が経ち、今日は通常通り学校は行われている。
しかし、仮病を使い藪笠はこの場にいるわけであり、リーナも主こと浜崎玲奈に内緒でここにいる。
リーナ談によれば、バレたら相当にヤバイらしい。




藪笠とリーナが今この場にいるには訳がある。


それは藪笠が密かに頼んだ遺伝子改造による内密情報の手掛かりがきっかけでもあった。


『遺伝子改造が施されたと診断が下った』


リーナがやっとして掴めた情報。それが目撃された場所が無人島である孤島にあるのだ。


藪笠が提供した内密情報。
それは平穏な日常を壊しかねない物だ。




本来なら、緊迫とした雰囲気が漂っているはず。………なのだが、


「いいか、この件が終われば貴様何か警察に突き出してやる!」
「いやいや、おかしいだろ、どう考えても!!」
「黙れ、この痴漢が!」


顔色を微かに赤くしながら声を上げるリーナ。


何故こうなったのかというと、それはここに来る数時間前に遡る。








無人島付近の街。
何とかヨットを借りようと海岸近くの道路上を歩いていた藪笠とリーナ。
しかし、そこでハプニングが起きた。






水鳥の奇襲。
白の物体がリーナに襲いかかり、それを難なく避けた。
そこまではよかった。


そう、足を躓き倒れそうになったリーナを難なく支えた藪笠。
…………だったのだが、何とも偶然か、その時たまたま藪笠の手が柔らかな膨らみに触れてしまったのだ。
…………そこからは言うまでもない。






「ッ……………」


別に意識しているわけではない。
そう自身に言い聞かせるリーナ。
と、不意に前方に顔を向けていた藪笠が声を出す。




「おい、あれか?」
「ん?」


藪笠の言葉に視線を前方に向けるリーナ。


微かな霧が晴れ、その姿が明るみに出る。
それは自然が実り、人の姿が見えない孤島。




目的地である無人島が藪笠たちの目の前に姿を現した。


















無人島についた藪笠たちは、海水に流されないよう砂浜上までヨットを押し上げ、目の前に広がる森林を見渡した。




本当に人の気配が感じられない。
人が住んでいた文化が目で確認するに認識できないのだ。






「………まずはここら一帯を捜索するしかないな」


リーナは息を吐き、肩を動かしながら体の調子を確かめ藪笠に話し掛ける。
と、不意に、


「…………歓迎にしては大層だな」
「?」


藪笠が呟いた。
その言葉の真意に眉を潜めるリーナだったが、次の瞬間。


「なっ!?」




ガシッ、と藪笠はリーナの肩を捕み、自身の胸元に抱き寄せた。


「なななな、何をっ!?」


瞬間、リーナの顔色は一気に真っ赤に染まり、口からは動転した声が漏れる。


「黙ってろ」


しかし、この時。
藪笠の神経は森林奥。




そこからこちらに向かって脅威的な速さで放たれた。
風を突き抜け迫り来る、複数の大石が藪笠の眼に捉えられる。




「四季装甲、冬」




その瞬間、藪笠の呟く直後に瞳の色は白い雪色に変わる。
そして、慌てふためくリーナをよそに迫り来る石に向けて、藪笠は言った。




「雪調」










複数の大石が目の前へと迫り来る。
避けることもできた。だが、ここで逃げ腰の体勢を見せることは同時に相手への移動速度等を知られることになる。




接触まで数秒も掛からない。
しかし、その時に異変が起きた。




藪笠自身に直撃しかけた瞬間、突如石はそこで動きを止め、ドンと音とともに地面に転がり落ちた。
まるで、見えない壁から通行止めを食らったかのように……。




「………………」


静寂の中、藪笠は目を閉じ再び開けた時には瞳の色は元の色へと戻っていた。
そして、側では…、




「……き、…気持ち悪い…」


藪笠と一番に接触していたリーナが口に手をやりながら両膝を地面につき、顔を伏せている。


理由は『雪調』による物だ。




干渉を操る四季装甲、冬は力の発動と同時に周囲にも余波がかかる。


そして、リーナも理由が分からないまま余波を受け、まるでこの世界から突き放されたような感覚が全身を襲ったのだ。


それが結果、気持ち悪くなるわけで…、




「おい、何やってんだ?」
「う、うるさい……」


顔を伏せるリーナに藪笠は溜め息を吐く。
風が吹き抜け、森林の葉等が揺さぶられる。






この島のどこかに………。






藪笠の瞳が微かに揺らぐ。
だが、考えすぎても仕方がない。
藪笠は、そっと息を吐いた。


















………………………………………『まさかな』




「ッ!?」


刹那、全身を貫く殺気が藪笠に襲いかかる。
バッ、とその場から一気に飛び退き後ずさる藪笠。


「ん、どうし………おい、貴様」
「っ、はぁ、はぁ………はぁ」


リーナが目を見開きながら、洗い息を吐く藪笠に驚き顔を見せる。
そして、その時………藪笠は気づいていなかった。




無意識の内に四季装甲、春を使ったことで瞳の色が桜色に変わっていたことを……。


















森林の奥、口元を緩ませる存在に対し………。







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