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季節高校生

goro

過去の幻影





文化祭イベント開始5分前。








人通りがほとんど見られない、太陽光が差し込まない薄暗な裏路地広場。
そこには数人の男たちと一人の少女。


「…………ッ」


口をガムテープで塞がれ、手足を縄で縛られた島秋 花の姿があった。






「チッ、灰崎はまだか」
「うるせぇ」




数人の男たちの内の二人。
愚痴を溢す中太りの男を一言で黙らせる金髪頭の男、脇山圧尾は細めた瞳を島秋に向ける。




「楽しみは最後まで取ってたほうがいいだろうが」
「ッ!?」


その言葉にその場にいた男たちの空気が変わる。
危険という感情が島秋の体を震え上がらした。




手足を縛られ状態の島秋は体を揺らしながら少しずつ後ろに後退り、脇山から距離を取ろうとする。
しかし、逃げ場の背後には固い頑丈な金網の壁があり、側には二人見張りがついている。




逃げ場が、ない。


「ッ」


島秋の表情に不安が見えた。
脇山は口元を緩めながら、ゆっくりと島秋に近づいていく。
そして、硬直する島秋の頬を片手で掴み脇山は口にした。








「でも………いい体してんなぁ」
「!?」


笑みを浮かべた脇山の手が徐々に島秋の胸元に近づいて行く。
島秋は目を見開き逃げ出そうと体を動かそうとする。
だが、


「おっと、逃げんなよ」
「ッ!?」


ガシッ、と太い腕が島秋の両肩を捕まえる。
それまで見張りとして立っていた男二人が島秋の身動きを完全にできなくしたのだ。


「ムーッ!!」


口を塞がれた状態で島秋は声を上げる。
しかし、身動きができない状態の島秋を見て脇山は口元をニヤつかせながら、ゆっくりと自身の手を少女の胸元に近づいていく。


(…い……嫌)


(………………嫌ッ!!)




涙ぐむ島秋。
だが、その手は島秋の胸に触れ、


「ーッ!!」








かけた、その時。










「何とか間に合ったみたいね」


大きな、大人びた声が聞こえた直後。




ビュン!!
まるで速球かのような一直線で放たれた物体が脇山のがら空きの後ろ足に突き刺さる。


「ッが!?」


顔を歪ませた脇山の手は地面に落ち、痛み声に続き、カランと足元に小さな木製の小太刀が落ちる。


「んーッ!?」
「な、何だぁ、テメェ…」


カタッ、カタッ…。
脇山の問いに続き、その場にいた男たちの視線が目の前にある広場入り口を歩く女性。
後ろに一束にした長髪。青の長袖ジャンバーを羽織る。






木刀を片手に構えた笹鶴春香に集まる。




「……………」




目元を細める笹鶴は、辺りにいる男たちに視線を向けつつ、島秋に視線を戻し、


「本当ごめんね、花ちゃん。間一髪だったけど間に合ってよかったわ」


場の空気を読まない、笹鶴の会話。
脇山の歯は剥き出しになり、怒りの表情が顔面を支配する。




しかし、笹鶴はそんな脇山を嘲笑うように口元を緩めた。
そして、


「………………」




カタッ、カタッ と、笹鶴の背後でゆっくりとした動作で現れるサングラス姿の男。




「喋ってねぇでさっさと片付けるぞ、笹鶴」




竜崎牙血がその場に現れた瞬間、今まで漂っていた空気が一変した。




「な、なんで……」


中太りの男が後退りながら声を震わせる。


「なんで、竜崎牙血がこんな所にいるんだよ!!」
「ッビビってんじゃねぇ!! こっちに何人いるか忘れてんじゃねぇよ!!」


脇山は怖じ気づく男たちに怒声を放ち、懐から取り出した携帯のボタンを押した。


「?」


竜崎は脇山のその動作に首を傾げた。
だが、異変は直ぐに来た。


「…………」


笹鶴は後ろに振り向く。
ザッザッ、と足音に続き大人数の男たちが笹鶴たちの逃げ場を塞いだ。




今しがた脇山の携帯からの呼び出しに集まったのだろう。
だが、それにしては準備が万全すぎる。




「チッ、面倒だな」


竜崎は服袖につけられたリングを一つ掴みとり、片手指の関節を順番に鳴らしていく。
隣にいた笹鶴も片手で木刀を構え、さらにもう一つを構えた。
と、不意に竜崎が笹鶴に尋ねる。




「ん? なんだソレ?」


笹鶴が懐から出し、構えた武器。
形状は木刀に近いが、それにしては短すぎる。


ニッ、と笹鶴は口元を緩ませながら口を開く。




「小太刀よ。まぁ鉄じゃなくて木なんだけど」
「……二刀流ってお前」
「ちなみに、私的には三刀流だけど」
「絶対何かに影響されただろ、お前」




緊迫とした空気の中、竜崎と笹鶴だけが日常会話を続ける。


コケにされた気分だ。


脇山の頭に血を昇り、怒声が放たれる。






「殺れお前らあああああああああ!!」


ザッ!!
その場にいた男たちが合図に従い動いた。
そして、その瞬間に、


「「!!」」


ザン!!
両者位置を入れ替わるように地面を蹴飛ばし笹鶴と竜崎は、共に一撃で大人数の内の一人を沈め落とす。




後ろ髪を揺らせながら、笹鶴は前方にいる男たちに口元を緩める。


「来なさい、手加減はしてあげる」
「ッ死ねやぁぁぁ!!」
「遅いわよ」


一太刀。
木刀を男の右肩に叩き込んだ笹鶴は次にもう片方に持つ小太刀を構え、その勢いを殺さずに、一人、また一人と男たちを倒していく。






一方、片手にリングを握り締めた竜崎は、


「邪魔くせぇんだよ!!」
「ッガバ!?」


振り上げた拳を男一人の顎に叩き込み、さらに握っていたリングを前方の男の足膝目掛けて投げ飛ばす。
リングは頑丈な鉄で出来た輪。


膝骨に直撃したリングは男の口から悲鳴を吐き出させる。


「ガッッッぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


悲鳴を出し続ける男。
しかし、竜崎は気にすることなく勢いを殺さない状態で次々と男たちを押し退け、脇山へと近づいていく。


「くっ………」
「ッー!?」


顔色に焦りが浮かんだ脇山は、側にいた島秋の襟首を掴み上げ、盾のように前に突きつけた。


「!!」


それでも竜崎は止まらない。
足を踏み出し、暴虐の獣の如く脇山へと近付いていく。


「なッ!?」


迫る恐怖に体を震わせる脇山。
震えた手で、背中に締まっていた小太刀ほどの凶器。










赤い警棒を取り出した。






苦し紛れか?


竜崎は全速力で足を踏み出し、接触寸前で地面を蹴飛ばして向きを左はずらす。
そして、島秋の後ろにいる、赤い警棒を振り下ろそうとする脇山に向かって拳を振り下ろそうとした。


その直後だった。










「避けて、竜崎!!」
「!?」


背後からの笹鶴の声。
咄嗟に拳を引き戻した。次の瞬間。






バチィィィィィッ!!
赤い警棒から青白い火花が散り、竜崎の拳に微かな焦げ目がつく。


「っ!?…」


バッ、と後ろに距離を取る竜崎。
手を見ると、小さく火傷したような症状が見られ、さらに痺れと痛みが手の動きを鈍らせる。


一方、脇山も今何が起こったか分からなかった。だが、次第に現状を理解した脇山は、口を笑みに変えながら警棒を島秋の顔に向けて突きつける。


「いいか、こっちに来るなよ!! 来たらどうなるかわかってんだろうな!!」
「チッ」


島秋の顔にちらつく赤い警棒。笹鶴と竜崎の足を踏み止め、脇山を睨み付ける。


「ッ何で……」


歯噛みする笹鶴には、あの赤い警棒に見覚えがあった。






それは、かつて仲間だった者たちのリーダーであった一人が持っていた物。
そして、その威力は笹鶴自身が身を持って味わっている。




もし、体ならともかく、顔になどに当てられればどうなるか……。


「ムーッ!!」
「うるせぇ、黙ってろ!!」


脇山の手から逃れようと体を動かす島秋。
だが、脇山は警棒を島秋の頬に当て脅しをかける。






竜崎は、この場を切り抜けるため、考えれる限りの策を考えていた。
しかし、今の立ち位置からするとなれば、島秋に危害が行くのは明白。


回避するには、至近距離での脇山への攻撃しかない。






「ッ……………」


グッ、と木刀の柄を握り締める笹鶴。
さっきのように小太刀を投げつけるという策はある。
だが、あれは不意打ちや認識を反らすに対して生きる行動。


まして、投げつけたその瞬間に電流を流されれば……。






どうする……。
どうすれば……。








共に苛立ちを顔に出す。


だが、その時だった。








ズン!!


「「!?」」


一気にのし掛かる殺気。頭上から押し付けられるそれに竜崎と笹鶴は顔を上げ、


「なっ………」
「え…………」


驚きの声が口から漏れる。
そして、それは脇山の動揺を生んだ。
頬に凶器を突きつけられた状態の島秋は笹鶴たちにつられて顔を上げた。






そして、島秋の瞳に映る。














赤い羽織を纏う、瞳を白みのかかった桜色に染めた少年。






藪笠芥木だ。




「!!」


ドン!!
脇山の背後に着地した藪笠。
脇山は驚愕の表情を露に後ろに振り返る。


「ッ!?」


瞬間に藪笠は動いた。
ガッ、と島秋に突きつける警棒を掴みとり、自身の方向に向ける。


「な、何だテメェッ!!」


脇山は怒りに任せ、電流のスイッチを押した。






バチィィィィィィィィィィィィィィッ!!


直後、致死に至る電撃が藪笠の手の中で飛び散る。




普通なら皮膚が焼け焦げ、異臭すら漂ってもおかしくはない。




笑みを浮かべる脇山。
だが、その時。


脇山は直ぐに異変に気づく。






おかしい。


致死に渡るはずの電流。それが流れているにもかかわらず、目の前の少年は悲鳴どころか顔色一つ変えはしない。




ただ、雪色と桜色。
混合した瞳で脇山を睨み付ける。






「ひィ!?」
「二連季、咲雪桜陣」


藪笠が呟いた。
その瞬間、藪笠は掴んでいた赤い警棒を握り潰し、そのまま空いた拳を脇山のがら空きの腹に向かって叩き込んだ。


「ッが!?」


叩き込まれた拳による圧迫で脇山の内の酸素が吐き出される。




そして、藪笠は口にした。










「咲・蓮雪華桜」














『咲・蓮雪華桜』


それは以前、分かれ山で鍵谷をさらった御影に使った技だ。
しかし、この技は御影に使った時とは明らかな違いがある。




それは、脇山に当てた拳。


御影の時には手のひらを使った。
だが、脇山に対しては手のひらではなく、拳。










つまりは、衝撃を重視した干渉を食らわせたのだ。
そして、それが腹部から全身。
全てに干渉すればどうなるか、


「あっ、があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


全身に行き渡る衝撃。
痛覚が全開で脇山を襲い、一瞬にして意識を奪い去る。


白眼をむく脇山は、よろよろとした状態で力なく倒れ落ちる。












騒動は終わりを告げた。




「…………………」


その場に静寂が訪れる。
駆け寄る笹鶴の手で縄と解いてもらった島秋は、未だに背中を向ける藪笠に声を掛ける。


「…………や、藪笠くん」
「…………」


島秋の声に振り返る藪笠。
自身が知る彼とは違う。




大人びた顔つきをちらつかせる。
藪笠は静かな足取りで、島秋に近付いていく。
そして、そのまま構えた指で。










「…………はぁ」


バチン、と島秋の額に向けてデコピンを食らわせた。


「あう!?」
「まったく、お前も鍵谷と一緒でトラブルに巻き込まれすぎなんだよ」


藪笠は呆れた表情で息を吐き、そのまま口元を緩ませた。
赤くなった額を押さえ、弱冠涙目になる島秋。


しかし、さっきまでとは違う、自身の知るいつもの藪笠だと認識すると、口元が次第に笑みに変わる。




「ふぅ…………………さて」


共に口元を緩ませ藪笠は小さく息を吐くと、そっと島秋の手を掴んだ。


「え?」
「春香……それに牙血も…………ありがとな」


未だ茫然と立つ二人に対し、藪笠は口元を緩ませてそう言うと、そのまま島秋を連れ笹鶴たちの横を通り抜け、広場細道から表通りへと出ていってしまった。














それからどれぐらいの時間、固まっていただろうか。
笹鶴はやっと動いた唇でそっと呟く。








「やっぱり…………かっこいい…かも」
「……ま、まぁ…確かに、な」











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