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季節高校生

goro

瞬殺の殺意







視界が真っ赤に染まる。




横たわる体。頬から伝わるコンクリートの冷たさ。
力なくした片腕。


倒れる笹鶴の周りに立ち囲む。
かつて、仲間だった女たちは同時に鉄パイプを振り上げる。






そして、その凶器は降り下ろされた。














その時、だった。




ザッ!! と数人の女たちが押し倒され、横たわる笹鶴の体がその場から持ち去られる。


ガン!! と数本の鉄パイプが地面に直撃する。






場が騒然と荒れる。
何者かに抱えられた笹鶴は、ぼやける視界の中、金色の髪を見つめる。










黒のタキシードを着た、金髪の少女。
敵を射ぬく瞳で事態を呑み込めていない女たちを睨み付ける。




「玲奈様の言いつけで跡をつけていたが。……何だこれは」






リーナ=サァリアン。
笹鶴の教え子でもある浜崎玲奈を守る、SPである彼女がその場に立つ。


騒ぎ出す女たちを手で制止する雨音。


「誰、アンタ?」
「……笹鶴春香の知り合いだ。悪いが彼女は私の主様にとって必要な存在、やらせるわけにはいかない」


リーナは笹鶴を足元に横たわらせ、懐から小さなナイフを取り出す。


「……これ以上やるなら私が相手をしてやる。何、素人風情の貴様らなら数分も掛からないからな」


瞬間。
その場にいた雨音の仲間たちから殺気が膨れ上がる。
いつ襲いかかってきてもおかしくはない状態だった。
だが、


「止めな、アンタたち」


雨音は再び憤る仲間たちを手で制止させる。
諦めたのか。


いや、そうではない。






雨音は前髪をかきあげながら、口元を緩める。


「ちょうどいい。アレを試すにはいい機会だ」


雨音は懐から小さなリモコンを取り出す。
その直後。
雨音の動作を見た、側にいた女たちが動揺し出した。




(何だ………周りの空気が変わった?)


雨音から離れ、一ヶ所に固まる女たちにリーナはナイフを構え、気を引き締める。


不敵な笑みを浮かべる雨音は、手に持つリモコンのスイッチをONにした。


ガッコン!!
雨音の背後に閉まっていたシャッターが鈍い音を出しながら上がり出す。
灯りが灯らない、その奥の暗闇。
聞こえるのは、荒々しい吐息。


「が、…あぁ」


鈍い不気味な声が口から漏れる。
ボロボロの白ワイシャツに黒のズボン。
外見から見て、男だとわかる。
だが……。




腰まで伸びた荒々しい黒髪を生やし、筋力だけを高めた肉体には鎖が何重にも巻き付かされている。
連想するにゴリラなど、が当てはまり、あれは本当に人間なのか? と考えてしまう。
それほどまで、その男は異物に見えたのだ。




そして、その異物は伏せられた瞳がギラリと開かれリーナと視線が交差した。




その直後だった。


「ッ!?」


背筋に突き刺さるような寒気と共に、異物は信じられない速さでリーナの直ぐ側まで移動し、




「が、あああああアアアア!!」


上からの一閃。
その場から一気に間合いを詰めた異物は、強靭な鋭い爪をリーナの顔面すれすれに降り下ろした。




「ッ!?」


直感で顔を反らさなければ死んでいた。
いや、もしくは意識をもぎ取られていた。


「ッ…!!」


リーナは瞬時に横たわる笹鶴を抱え、後ろに飛び去る。
あの場に笹鶴を放置するのは危険と思ったからだ。


後方に足をつけたリーナはその場に笹鶴を横たわらせ、ナイフを握り締め、駆け出す。




数秒の戦闘。
思考で考えていては追い付くどころか自身の身すら守れない。


リーナは感覚を研ぎ澄ませ、ナイフをいつ振れてもいいように構えを変え力を込める。


「「!!」」


キィン!! と。
刃と爪がぶつかり合う。
普通なら刃が爪もろとも肉を切っている。
決して刃の切れ味が悪かったわけではない。


(ッ、硬いッ!)


異物の鋭利が尖った爪。その硬さは刃に負けず劣らずの頑丈さを持つ。


ギィン!! ギャン!!
衝音は鳴り止むことはなく続く。




男は、まるで野生に生きる獣のように自分にある武器を使う。
爪に足、頭に体。


そして、歯。




ガキィン!!


「なっ!?」


衝突により歯こぼれしてきたナイフが男の牙により噛み砕かれた。
リーナは歯を噛み締め、懐からスペアのナイフを男に向かって投げ飛ばし距離を取る。


「ッ……はぁ、はぁ、はぁ…この、はぁ……、化け物…が……」


荒い息を吐き、リーナは懐から再びスペアを取り出し構えようとした。
だが、その瞬間。


「!?」


チッ!!
寸前、顔を反らし避けるも、顔面に飛び込んできた物は頬を掠める。
頬には一閃の傷が作られ、そこから血が垂れる。


投げられた物、それは回避のさいに男に向かって投げたはずのナイフ。
言動から思考はないと思っていた。
だが、違う。


勝つために男は最前の物を利用する。




武器は勿論、肉体にあるもの。それが、たとえ敵の物だとしてもだ。


「ッ」


頬に垂れる血を拭い、雑念を振り払おうとするリーナ。


だが、その一瞬の隙が。


死に繋がる。










「あああああ!!」
「!?」


瞬間。
眼前に広がるバックり、と開かれた顎。
その鋭くされた歯はリーナの右手首を捉えていた。


(なっ!?)


噛み潰される。


思考が一瞬にして止まった。
その時、


「ッあ!!」


グッ!!
背中の服が捕まれ、リーナの体が無理やり後ろに飛ばされた。
剥き出しだった男の歯はリーナの手首、袖を噛みちぎり肉を食えなかったことに化け物が首を傾げている。




リーナは今、何が起きたのかわからないかった。だが、徐々に止まっていた思考が戻り、その答えは直ぐに出る。
ザッ、とリーナの背後から足音が聞こえる。


リーナが振り返る、そこには、




「………………リーナ、下がって……て」


血を一滴一滴と地面に落ちる。
後ろに一纏めにされていた髪はほどけ、長い黒髪がゆらりと揺れる。


笹鶴春香が地面に転がっていた鉄パイプを手に立っている。




「へぇ、……まだ生きてたんだ」


離れていた場所に立つ雨音が呟く。


額から大量の鮮血が流れた。
笹鶴は揺れる視線の中で男を睨みつけた。


「が、あ?」
「はぁ、…………はぁ……」


負傷している者より、万全の者が有利。
…そんな事は、わかっている。


だが、相性ではリーナのスタイルでは勝てない。


「はぁ………」


静かに、呼吸を整える。
負傷は頭。
しかし、体はまだ動ける。


意識するな。
怪我をしていることを忘れろ。




考えることは一つでいい。


(あの時、私は何も守れなかった。………でも、だからこそ、今度こそ守って見せる。………………もう、私の目の前で、………大切な物をなくさせない)




覚悟が力を循環させる。
口を名一杯に開き、大量に酸素を呑み込む。
次の瞬間。






「はあああああああああああああああああああああああああ!!」


絶声。
瞬間、笹鶴は重傷とは信じられないほどのスピードで駆け出す。
同時に男も駆け出し、スピードとスピード。


駿足の死闘が始まった。


「が、ああああああああああ!!」
「ッ、はああああああああああ!!」


抜き去る手前に連激を打つ。
男が動く、その隙をかいぬぐり笹鶴は攻撃を叩き込む。


そして、また抜き去り直ぐに振り返りを繰り返す。


その死闘は数分。
攻撃を一番に与えているのは笹鶴だった。








しかし、


「ッ、はあああああ!!」
「が、あ!! ……あ?」


男が首を傾げる。
リーナと死闘を繰り広げていた時には見せなかった動作だ。






「クッ…」


後方でその光景に視線を向けていたリーナが歯を噛み締める。
男が首を傾げた意味がわかったからだ。










笹鶴が連激を繰り出す。
だが、それは表面だけで中身が零に近い。
つまりは、威力がないのだ。
体は動かせても、その打撃はリーナと戦った時に比べて遥かに弱い。


「………ッ、はぁ!!」
「が?」


男が立ち止まり、笹鶴の動きも止まった。
勝敗は、明らかに不利。


「あ? が?」
「………………」


荒い息を吐き、立ちつくす笹鶴。
男はそんな笹鶴にゆっくりと近寄ろうとする。




このままでは殺られる。
リーナは立ち上がろうとした。
だが、次の瞬間。


場の空気を一瞬で変えてしまう、異変は起きた。


「が、あ、あ??」


ガクッ。
男の両膝が突如、地面に落ちたのだ。
リーナは目の前に広がる光景に目を疑った。


「な、何が……」
「……いくら化け物でも生き物」


リーナの声に答えるように、笹鶴は口元を緩める。


「連続で……膝骨や肘骨に攻撃を集中し続ければ、…はぁ、……例え化け物でもまともに動けないでしょ」
「!?」


笹鶴は、ただ攻撃を加えていたのではなかった。




地上を歩く生物には骨があり、部位と部位を繋ぐ箇所が存在する。
笹鶴はそこに向かって集中してダメージを与え続けたのだ。
威力が弱くても、そこにダメージを蓄積させ続ければ…。




たとえ、動けたとしても、それまでの正常な動きはできなくなる。




「これで、終わり……だ……」


笹鶴は鉄パイプを振り上げ、最後を決めるべく男を睨み付ける。


死なない程度。


意識はするが、だからといって力を押さえるわけにはいかない。




終わりだ。


「ッ!!」


顔を伏せる男に向かって、笹鶴は渾身の一撃を放った。
勝敗は、笹鶴の勝利。














に、なるはずだった。


ガァン!! と。
鉄パイプが、男がいた場所の地面に叩き落とされれ、


「な、なんッ、!!!」




グシャリ、と。






その直後。
不気味な、肉を噛み締めた音が笹鶴の直ぐ側で放たれる。


降り下ろされた笹鶴の左腕、その直ぐ側に移動した男がその腕を強靭の牙で噛み締めた。






思考と痛覚、それが一瞬にして叫びが上げた。






「ッあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」






笹鶴の悲鳴が轟きを上げる。
ブシュリ!! と、音をたて牙から開放される左腕。
肉は裂け、骨までは見えていない。
だが、出血の量は想像を遥かに越えていた。


両膝が崩れ、グッタリと倒れかける笹鶴の体。






しかし、男はそれを許さなかった。








血が垂れ続ける笹鶴の左腕を握り締め、目の前には掴み上げた。


「あっ、ああ………」
「が、あ?」




何故だ。
リーナは目の前の光景に息を荒くする。
確かに笹鶴の攻撃は決まり、奴の足は潰した。


笹鶴の攻撃が甘かった?


いや、そんなことはない。
笹鶴が言うように、奴は完全に動けなかったはずだ。
それなのに、何故!?




「ッ!!」


リーナは頭に囚われた思考を一度止め、震える体を動かし男に向かって走り出す。
だが、




「行かせないわよ」


ザッ!! と。
行く手を阻む、雨音の群れがリーナに立ちはだかる。


「ッ、どけぇぇ!!」


リーナはナイフを片手に走り出す。
負けるつもりはない。
だが、それでも時間が掛かる。
今が急死を分ける。
一度の停止が、絶望に繋がることを決定にしてしまう。




「……………ぁ……ぁ」


左腕の感覚がない。
傷口をさらに潰された笹鶴は声をからし、霞んだ視界で、男を見つめる。


「が、あ?」
「……………」


男は笹鶴はまじまじと見つめ、歯をカチカチと鳴らす。
まるで、どこを食べようか迷っているかのように。


笹鶴は歯を噛み締め、力を込めようとした。


「が、あ!」


その瞬間。
男の表情が薄く、笑みを作ったように見えた。





ブシュリ!!


「ッあ! ああああああああああああああああああ!!」


左腕とは逆の右腕。
試し咬みをするかのように男は笹鶴の右腕に噛みついたのだ。
肉が歯により裂け、血が吹き出す。




「あ…………ぁ………」


右腕が力なく落ち、笹鶴の体から急激に熱が抜けていく。
思考、痛覚、それがもう直ぐなくなるのが理解できた。




ああ、死ぬんだ……私………。
眼前にいる男を見つめ、笹鶴はその事実に唇を紡ぎながら目を伏せた。








静かな世界。




聞こえるのは、リーナの叫びと雨音の笑い声。














あの時のように、自身を助けに来てくれた藪笠は、ここにはこない。


………ごめん。


笹鶴は、藪笠と親しくなってから会った人々の顔を思い出す。






街に住む、こんな自分に話しかけて来てくれた人たち。


いつも無愛想な竜崎。


藪笠に付き合ってくれる。
玲奈。
真木ちゃん。
花ちゃん。
















あの時、助けてあげれなかった美羽ちゃん……。


















そして、最後は。




たとえ、嘘を突き通していても。
心の奥底で好きだった。






藪笠。






「………ごめん………藪………笠……」


一筋の涙が落ちる。
そして、笹鶴の意識は途切れた。








男は次に笹鶴の懐に口を開かせる。
リーナは絶叫を上げながら、笹鶴を助けようと駆け出す。


それでも、間に合わない。




最悪の、終わりが笹鶴を襲おうとした。


















ォォォォォォォン!!


「が、あああああ!?」


直後だった。
男は、トラックに引かれたかのように工場の壁を突き抜けた何かに真横から吹き飛ばされる。
それと同時に、笹鶴の体が男の手から離れ宙に浮く。






シュゥゥン。
静かなエンジン音が鳴り止み、宙に浮いた笹鶴の体は一つの腕により受け止められた。


「………………」


笹鶴は抱えたまま、紅い獣をイメージしたバイクから下り、襟首が毛皮で覆われた黒のコートを着た存在は、笹鶴をゆっくりと地面に横たわらせた。


「………………」




ゆらりと黒のコートが揺れる。
その存在は、かつて黒士と呼ばれていた。












藪笠芥木。








「………な、何で」


雨音が信じられないといった驚愕の表情を浮かべる。
それは雨音以外の者たちも同じだ。


女たちの動きを藪笠の登場に停止し、リーナは急いで倒れる笹鶴の元に駆け寄る。
横たわらせた笹鶴の両腕と額からは今も血が流れ続けている。


「リーナ」


藪笠は側に止めたバイクの座席を指差す。


「そこに包帯と応急箱、針や糸も入ってる。できるなら傷口を塞いで救急車を呼んでくれ」
「…………だが、間に合わないかもしれな」
「もしもの時は輸血の道具も入ってる。……俺は丁度、O型だ。笹鶴はA型だから輸血は何とかいけるはずだ」
「……………ッ」


自身の弱さ。
それがこんな結果を生んだ。
悔しさに口元を紡ぎ、リーナは言われた通りバイクから救急道具を取り出す。


藪笠は横目でそれを確認しつつ、拳を握り締め、瞳を前方にいる。


「ッ!!?」


体を震え返す雨音に向けた。
その目はかつて、雨音自身も見たことがない。










殺意の瞳。






「が、ああああああああああ!!」


吹き飛ばされ、倒れ込んでいた男が怒号を上げながら立ち上がる。
時速180以上で衝突したにも関わらず、男は無傷と言わんばかりに腕を振り回す。


「ッ、気を付けろ藪笠。奴は不死身並みの肉体を持っている!」
「…………」
「もしかすれば、打撃では倒せないかも」
「関係ない」
「!?」


リーナの言葉をバサリと切る藪笠。


目の前で雄叫びをあげ続ける存在。


















あれが、笹鶴をこんなにしたのか?
















ゾン!!
その瞬間。
辺り一帯の空気が瞬殺されたかのように、ある感情がリーナたちに押し掛かる。






それは、藪笠が放つ殺気。
ただの殺気ではない。




冷たく。


重く。




全てを潰す、と言わんばかりの物だ。








「…………笹鶴に、ここまでしたのはお前か?」


藪笠は目を伏せ、体から溢れでる殺気を自身の体に取り込む。


一歩。
足を動かし、前に出る。


雄叫びを上げ続ける男が藪笠に気づき、瞬間に近づき鍵爪を、


「春、鉤桜」




ザァン!!
男の顔から胸にかけて鮮血が飛び散った。


藪笠の五本の爪が男の表面の肌を引き裂いたのだ。


「があ、あああああ!?」


危険を感知し、後方に跳ぶ男。
その表情に、初めての恐怖が見え隠れする。




パキ、パキッ。
鉤桜を出した右手指を動かし、骨を鳴らす。
藪笠は目の前に存在する男に向かって、告げた。










「逃げてんじゃねえよ。………………俺は、お前の体にあるもん全部、叩き潰す」




その瞬間。
藪笠の瞳が一瞬、桜色に染まる。







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