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季節高校生

goro

孤独の黒士



 まだ、藪笠たちが住む街に不穏が漂っていた、二年前。
 あちこちで、暴力、強盗、殺人が多数起っていた。
 だが、そんな中で一つの噂が流れる。
 それは、暴君とも言える。
 一人の黒に身を包んだ何者かの手により少なからず悪さをする者たちが減少しているということ。路地裏の者たちはその男を『黒士』と呼ばれ、恐怖の象徴とも言われていた。
 そして、その話が耳にした時。
 笹鶴春香は気にする素振りを見せることはなかった。






 溜り場ともいえる廃工場。
 古びた柱に放置されたドラム缶。
 地面には錆がついたネジやら部品が落ちてあり、人の寄り付かないことにはもってこいの場所でもあった。
 笹鶴春香は暴力集団の中でトップに立つ存在でもあった。
 約、数十人の仲間を持ち、あちこちの暴力グループをを叩き潰した。
 彼女は決まって、無関係な一般人を襲わないと決めていた。
 それが自身の決めたルールでもあったからだ。
 数々の暴力集団を潰し、約数か月で三分の一は片付いた。
 ちょうど、その時だった。


 『シクザラ』と呼ばれる掲示板事件が起きたのは。




 廃工場の二階に続く階段の上で、ジーパンに黒のシャツ、白い羽織を着た笹鶴は携帯を見つめながら眉をひそめていた。
 「…………………またか」
 彼女が見ていたのは、数日前に現れた『シクザラ』と表示された掲示板。
 各学校にその掲示板は広がり、そこから生徒同士の争いや、教師と親と混乱が日々増えてきていた。警察も出所がわからず、手を出せないでいた。
 「早くケリをつけないと…」
 笹鶴は携帯を閉じ、ポケットに納めながら立ち上がる。
 二階からは、一階が見晴よく見えた。
 そして、そこにいる男女合わせて数十人の仲間たちを見つめ、笹鶴は声を上げる。
 「今から、シクザラを管理している男を潰しにかかる。何があるかわからない。だから気を引き締めて行こう!」
 その言葉に、全員が握り拳を上げる。
 笹鶴は口元を緩め、階段に立ててあった木刀を掴む。


 現況を叩く。


 その思いは皆が同じだと、思った。






 いや、思っていた。














 雨の中。
 砂利の上に倒れこむ、白い羽織。
 体中を傷だらけにした、笹鶴春香だ。


 ぼやけた視線の中、目の前に広がる光景を見つめる。
 そこには、………仲間だと。
 共に同じ志があると信じていた仲間たちの姿がある。
 その眼はどこか、辛く、でも仕方がないといった目をした者が数多くいた。
 何で、と笹鶴は震えた腕で体を起き上がろうとする。
 だが、
 「ぅぐ!」
 躊躇もなく、頭上に足が落とされ、頬が勢いよく地面に叩きつけられる。
 痛みにゆがんだ表情で、笹鶴は横目でその足の人物を睨む。
 茶黒のパーカに黒のズボン、黒カラーの眼鏡をかけ両端が裂けたように笑う一人の男。この男こそ、陰で『シクザラ』を管理していた人物だ。
 「…………この」
 「悔しいか? 仲間がこっちについて?」
 男はケラケラと笑い、踏む力を強めていく。
 「まぁ、正義感だけじゃ何も救えないってことだよな、これは」
 「…なに、を」
 「知りたいか? こいつらがなんでこっちに来たのか?」
 男はあざ笑うように笹鶴を見下ろす。


 数分前、笹鶴はこの男の隠れ家に足を踏み入れた。
 廃工場とはまた違った、古びた木造の空き屋敷。既に外側が半壊している状態だった。笹鶴は慎重に中に侵入しようとした。その時に現れたのがこの男だった。
 手には何もなく、武器すらない。
 先手必勝。
 笹鶴が前に足を踏み出そうとした。突如。
 「ぐはッ⁉」
 懐に、重い一撃が叩きこまれた。
 それも、背後。
 仲間がいたはずの場所からだった。


 男は小さく息を吐き、面白話をするように口を開ける。
 「お前はどうか知らないが、こいつらにも大切なものがあるんだよ、だからそいつを囮に使えば後は簡単だってわけ」
 「ッ…」
 「でも、薄情だよな。迷いなくこっちにつくんだから。お前………初めから信用すらされてなかったんじゃね?」
 なあ、と言って、男は他の者たちに尋ねかける。
 返答は無言という形で返ってきた。
 それが、より一層。


 悔しさに。


 辛さに。


 孤独感に。


 「あん? 泣いてんのか、お前?」
 男に言われて気づいた。
 両方の瞳から溢れ出す、涙。
 それは、今までの思い出が自身の自己満足による物だったということ。
 そのことが悔しくてたまらなかった。
 「まぁ、いい。性格は問題だが、体はいいから売ったら儲かるだろ。連れてけ」
 男の指示に従い、仲間だったはずの者たちの中から二人が歩み寄り、その抵抗する気力を失った笹鶴の体を持ち上げる。


 ……ほんとに、嘘だったんだ。


 茫然とした頭で、その言葉が浮かぶ。
 今まで、自身がやっていたことは全部、自己満足だった。
 誰も受け入れていなかった。


 「ぅ、うう、ぁぁっ」 
 嗚咽が口から洩れる。
 それでも、誰も。
 声すらかけてくれる者はいなかった。
 絶望の底なしに、全てが落ちようとしていた。






 その、時だった。




 がっ⁉ と左右から吐き出された声が聞こえたのは。
 そして、掴まれてた両腕が放され、笹鶴の体が地面に落ちようとする。
 だが、そこには壁があった。
 ドサッ、と笹鶴の体がそこで受け止められる。
 茫然とした状態の中、顔を上げる。
 そこには、毛皮が襟首につけられたジャンバーに黒のシャツに黒のジーンズ。黒髪の長髪をなびかせる一人の少年の顔があった。
 「ぁ、ぁあ」
 「……………………」
 少年は笹鶴の体を抱き上げ、そっと、放置された車の傍に座らせる。
 笹鶴の顔に生気が見られないことに、少年は口元を紡ぎ、ゆっくりとその頬に手を当てた。それは何かの約束かのように数秒して離すと、少年は立ち上がり、体を後ろに振り向かせる。
 その冷酷な瞳を、笹鶴春香の仲間だった者達に。
 そして、今も悠長に笑みを浮かべる男に。
 「……たった一人の女を相手に大人数でやってんだ」
 少年、藪笠芥木は言葉を吐く。
 「全員でかかってこい、……ぶっ潰してやる」
 その瞬間に何が纏われたかわからない。
 だが、その争いは数分もかからないうちに、終結し、誰一人気づくことはなかった。
 その藪笠芥木こそが、噂とされている『黒士』だとは…。








 そして、これが。
 笹鶴と藪笠。
 二人の初めての出会いでもあった。






















































 


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