季節高校生

goro

夏の緊迫









あれから空は暗くなった。




「ちょっと藍さんとこ行くから大人しく待ってろよ」


藪笠は鍵谷を自宅に連れて帰り、保護者である鍵谷 藍に連絡すると着替えを取りに来てと言われ、今、自宅を出る所だ。


一応と風呂場でシャワーを浴びる鍵谷に声をかける藪笠。




まぁ、あの状態なら心配ないか、と思うのだが。


















バイクを飛ばし、藍から着替え一式。
何故か学生服まで入れた物を渡された。
どうやら、泊めてやってということらしい。


また、外で寝るしかないか。




藪笠は溜め息を吐きつつ、休憩とバイクを河原付近で止めた。


「…………………」






微かに聞こえる虫の声。
夜空には雲一つない星に輝く空が見えている。








数時間前。
自身でも可笑しいぐらい、遊びに混ざっていた。
いや、可笑しくはない。


あれが普通なのだ。
そして。
それは多分、鍵谷たちのおかげ。




「………………」






もしかしたら、アイツはこんな日常を共にしたかったのかもしれない。


笑って。


泣いて。




時に喧嘩したりして。






そんな平穏な。






「………………」


いつしか、藪笠の口元は笑っていた。
何の変化もない。




ただの高校生として。


















「似合っていませんね、四季装甲」


















異物。
後方から放たれた、その声に身体中が悪寒にさらされた、その時までは。


「!!」


警戒を一気に高め、藪笠は後ろに振り返る。








月光に明かされた地上。




その光に当てられながら、そこに立つ茶髪の男。
頬の肉付きは少なく頬骨が見てわかる、眼鏡をかけた男だ。




しかし、今はそんなこと。
気にしている理由はない。




ただ一つ。
今、四季装甲とコイツは言ったか?




「………お前」
「ああ、失礼。いや何、私が聞いていた情報とはまるで違っていましたから、つい」
「………………」


口元を緩ませる男に藪笠は知らず知らず四季装甲を酷使させる。


春が自身に纏われる。




「しかし、どうしたものか」
「…………」
「全く、今の状態では困るんですよ。我々にとっては」
「……………何が言いたい」


次第に力がこもっていく。
藪笠は冷静を装いつつ、声を出す。
だが、


「いえ、ただ」
「…………………」




次の瞬間。










「誰か身近な人間を殺せば戻るかと」


















一瞬。
藪笠は男に向かい走り出し、そこから跳躍して落桜を叩き込む。














ドォッッ!!


















はずだった。






「ッ!?」


落桜。
跳躍から一撃を与える、春の内の一技である。


しかし、それにはある弱点がある。


それはモーション最中。
直撃までの間、その威力はキーとなる足に全くとして入っていないことだ。












そして、そのことを見抜かれ防がれた。






目の前に突如現れ、片腕で落桜を中断させた。
全身黒に包まれた、ライオンを連想させるボサボサ髪の男に。




「チッ!!」


藪笠は腕を弾き返し、地面に着地する。


目の前に同じように着地する男。
コイツは、後ろの茶髪とは比べ物にならないほどに強い…。


「!!」
「ッ!! 四季装甲、秋!!」


まるで消えたかのような走りを見せる男に藪笠は一瞬で危険を察知し、秋を纏わせる。










秋は攻撃全般の技ではない。


回避、予測、沈着を全般とさせるサブシステムとも言える。




「……!! ……!!」
「ッ!!」


一瞬とも言える速度での連撃。
かろうじで回避をし続ける藪笠だが、その速度は一技一技と上がっていく。


そして、




「…………弱いな」
「ッが!!」


カギツメともとれる一技が藪笠の脇腹に入り、その状態のまま体は前方に吹き飛ばされた。




ドォン!! と体がノーバウンドど地面に激突する。


「ッあ……ぁ…」


痛みと共に腹部からにじみ出る赤い血。
服には三ヶ所の穴が空き、そこから徐々に血が広がっていく。




黒髪はそんな藪笠を眺め、つまらないと息をつく。
そして、茶髪に向かって尋ねた。


「おい、まさか四季装甲っていうのはこんなものなのか?」
「いやいや。彼はただ忘れてしまっているのですよ」




まるで視界に入らないとでもいうように話を続ける男たち。
黒髪の男は呆れたような表情を浮かべ、




「なら、どうすれば強くなる? こんな弱い物苛めはくだらなさすぎる」
「………そうですね」


茶髪の男は顎に手を当て考え出す。
しかし、そんな素振りはただの偽りだ。
奴の頭には答えが既にある。






茶髪はその口を左右に避けさせながら言う。


















「やはり、身近な親しい人間を殺せばいいでしょう」


















瞬間。
何かが切れかけた。






…………………………………………潰す。


潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す!!












ぶっ潰す!!!












「?」


黒髪が小さな異変に気づき、後ろに振り返る。
その直ぐ側で、


「真・桜」


ドォ!!!!
叩き込まれた拳により、横方に吹き飛ばされる黒髪。
危機に腕を使い、一技を防いだ、が。




それすら生温い。




「!!」
「ッ!?」


まるで風に舞う桜のように。
背後に回った異物は体を捻らせ、連激。


「乱桜」


三激連打。
黒髪のがら空きの箇所に衝撃を食らわせ、後方に叩き落とした。


「ッッ!!」




それは怒りによるストッパーの解除。


これが、藪笠芥木。




これが、四季装甲。






「!!」






藪笠は黒髪から次に茶髪を睨み付け、潰しにかかろうと。


した。










バタッ。
直後、何の衝撃なく倒れる藪笠の体。


「………………!?」


困惑する藪笠に前方から声が聞こえてくる。




「やっと効いてきましたか」


茶髪の男、手には何かの液体が入った瓶が見える。




「あなたの脇腹の傷。そこにこの麻痺薬が侵入したんですよ」
「………な……ッ」
「彼の爪に塗っていたんで掠り傷でも効くよう強力な物を作りましたよ。まぁ、まさか体の体内に入れれるとは思いませんでしたがね」




茶髪は口元を緩ませ、小さく笑い出す。
すると、今度は後方から、


「……全く、気に入らねぇやり方だな」
「!?」






それは、数秒前に潰したはずの男。
手加減すらしていない。本気の一撃を食らわせた。






なのに何故、コイツはピンピンしている。




「おや、無事でしたか?」
「ああ、まぁな。とっさに力を使わなかったら全身の骨が潰れてた」




黒髪は倒れる藪笠を無視して通りすぎ、服についた土を叩き落とす。


「帰るぞ、美戸」
「おや、もう帰ってしまうんですか? 連れて帰っては」
「黙れ。この件は俺が指揮を取ると言われた。貴様がさっきいったような殺すなど勝手にするな」
「……………」
「絶対だぞ」




黒髪の睨みに茶髪、美戸は溜め息を吐く。
了解との合図だろう。


黒髪は小さく息を吐くと、倒れる藪笠に口を開く。


「四季装甲。貴様には悪いが今日は止めにする。こっちも卑怯な手を使ったからな」
「……ふ、ふざ」
「心配するな。無関係な奴を傷つけるつもりはない。だから安心しろ」




まるで、心を読まれたように。


藪笠の怒りも徐々に引いていくのがわかる。






黒髪はそんな藪笠を見つめると、息をつきながら美戸と共に去っていく。


















そして、その場は何もなかったように静寂に包まれるのだった。







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