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季節高校生

goro

プール・アウト 3











その時、少女の瞳が開いた。
瞬間。場に緊迫とした緊張感が漂う。




「……………」


藪笠は気を静めながら片方の手にそっと力を込め、側にいた警察の男たちに視線を向ける。


どの顔からも動揺が確認できた。
無理もない。
確かに、目の前にいる少女はアタッシュケースに入れられた被害者なのかもしれない。


だが、それだけで、側に寝ている男の仲間でないと決めつけれる訳がないのだ。
隙を見て奇襲もあり得る。






常時、力を意識し藪笠は気を緩めない。
と、その時。


寝かされていた少女がゆるりと体を起こし辺りを見渡しだした。
そして、


「ふ、ふわぁー………」




場の空気すら気にしないほどの間抜けた欠伸。




白髪の髪を片手で捲し立て、両肩を回し固まった体を慣らす少女は、その眠たげな瞳を藪笠に向けた。


「………………」
「………………」


二つの瞳が静かに交差する。




藪笠は一時も気を緩めず、静かに口を開こうとする。だが、それよりも速く口に手を当て、少女が口を開いた。


「ah………っこほん。そういえば、ここは日本でしたね」




丁寧な日本語だ。
藪笠に分かるよう言語を合わしたのだろう。
眉間を寄せる藪笠に少女は口元を緩め、その透き通ったような瞳を向けながら、今度はすらすらと言葉を口にした。




「初めまして。後、助けていただきありがとうございます」




……………………………………は?


一瞬。何を言っているのか分からず目を点にする藪笠。


さっきまでの緊迫が、その一言で簡単に崩れてしまった。






…………いやいや。
藪笠は再び真剣な目線で話しかけようとする。
だが、


「? 日本流儀では、丁寧な感謝は良いと聞いていましたが、ダメでしたか?」
「??? いや、今そんな和らいだ会話とか必要ないだろ!?」


我慢の限界。
つい、ツッコミを入れてしまった。
同時に少女の乗せられてしまったことに頭を抑える藪笠なのだが。




場の空気も既に崩れてしまっている。




……正直、自身の知る限りでは、こういうタイプは初めてだ。






肩を落とし、溜め息を吐く藪笠に少女はクスクスと笑い出す。
そして、一歩。
アタッシュケースから出た少女は足を踏み出しながら歩き出し…。






ピタッ、と少女は藪笠の目の前で足を止めた。


「それじゃ、数分後にまた会いましょう」
「は?」


言葉の意味が分からない。
首をかしげる藪笠。
対して少女は言葉の変わりにスマイルを送るとスルリと藪笠の横を通りすぎて行った。
















だが、……その時、誰も気づきはしない不意の言葉が少女の口から放たれる。
それは、側にいた藪笠にしか聞こえない。
小さな声。






「(同じ特別同士、仲良くしましょう♪)」
「!?」


言葉の意味。
それは藪笠だからこそ、理解できる。


「……お、おい!」
「♪」


呼び止めようとする藪笠に手を振りながら離れていく少女。
段々と遠くなっていく、小さな後ろ姿だ。






藪笠はその少女の後ろ姿を睨みつつ、もう一度、少女の言葉を思い出す。




『同じ特別同士』




(同じ特別同士……、アイツ。まさか……)


いつしか顎に手をやり、考え込む藪笠。
と、不意に側に来ていた島秋が恐る恐ると尋ねてきた。


「藪笠くん、今の人。…知り合い?」
「………いや、会ったことはない」




やや控えぎみな島秋にを見つつ、視線をもう一度少女に向けると、離れた所では少女に対し警部である東 次代があたふたしているのがうかがえた。




……考えすぎか?
はぁ、と呆れながら溜め息を吐く藪笠。
そして、


「……確かに、あの辺りだったな」
「え?」


その声に、島秋が振り返った、直後。
バシャッ!! と。
水しぶきを上げ、数分前に飛び込んだプールに藪笠が再び潜り込んだ。
島秋は咄嗟に声を上げようとした、が直ぐに、


「ッ、よっと」


藪笠は、何事もなかったように水中から顔を出した。


はぁ、と安心の溜め息を吐く島秋。




だが、直後。
島秋は藪笠の手にさっきまでなかったある物に気づく。


「や、藪笠くん……そ、それって……」


プールから上がる藪笠の片手。
その手に握られていた物は、数分前にアロハシャツを着た男が持っていた。


「……流れて泳いでる人に怪我させちまうかもしれねぇからな」




ヒビが一筋入った果物ナイフが、その手に握られていた。


















「…………………」
「♪♪ー」


現在、東 次代は困っていた。




場の騒動が収まり、まだ数分も経ってはいない。被害者を出さず逮捕できたことは、功績といえば功績なのだろう。
だが、しかし。




「♪♪」




問題は側で共に歩く一人の少女だ。
外国育ちが長かったのか、日本の風景を楽しんでいる彼女に、どう会話していったものかと悩んでしまう。






普段なら気にしない性分なのだが、と彼女に対し気まずさが感じてならない東。
と、そんな時。






「警部さん?」
「!? お、おお、何だ?」


突然の彼女の声に、あからさまに動揺してしまう東。
一方、そんな東に対して、にっこりと笑みを向ける少女は、その表情のまま。


何の躊躇なく平然と言った。


「私、警察に行く前にもう一度さっきの彼に会いたいんです」








……………………………………………ブチッ。


その瞬間。
東の額に青筋が入る。


「……ダメですか?」
「ダメだ」
「? 何故ですか?」


不思議そうに首をかしげる少女に東は怒りを抑えつつ、内心思った。






………さっきまでの自分の状態を問いかけてもいいのでは?




怒り呆れる東は重い溜め息を吐いた。
そして、一応はと彼女に丁寧な言葉遣いで東は説明していく。


「…君は今、重要参考人でもあるから、そう易々と移動は許されてはいないんだ。それに、君は掴まっていた身でもある。まだこの付近に共犯者がいるかもしれないんだぞ?」
「………? そんなことでダメなんですか?」
「なっ、いやそんなことで…というが」


平然とした彼女の言葉に驚く東。
対して、少女はそんな東に口元を緩ませ、すっと瞳を閉じ、


「……………大丈夫です」
「?」


数秒。
閉じた瞳をゆっくりと開け、彼女は次の瞬間。










断言ともいえる言葉を口にする。














「警察に行くまでの私の未来に、危険が降りかかることはありませんから♪」




…………………………………。




「……今、馬鹿にしてますね?」


クスクスと笑う少女。


東を見据えながら少女は開いた唇を動かし、直後。












「目の前に通る男の子。転びますよ」




と、口にした。
何を言って…、と眉をひそめる東だったが、次の瞬間。






目の前で奇怪な事が起きた。




「っ!! ぅ、うわあああああああん!!」


東の隣を通りすぎ、走り出した少年。
少女が口にした、数秒して勢いよく地面につまずき、言葉通りに転けたのだ。


近くからは、父親らしき男性が慌てて駆け寄ってくるのも見える。


その現状じたいで驚きを隠せない東だったが、その上で少女の口はまだ止まらない。










「警部さん、そろそろ部下さんたちから電話がきますよ?」
「!?」


再び、少女がそう言った直後。


ブー、ブー、と。
胸ポケットから小刻みなブザー音が鳴り出し、慌てて携帯を取り出し画面を開く。


「ッ!?」


その先には、言葉通り。部下からの着信が表示されていた。




「………………」




ブー、ブー。


いつまでも、鳴り続くブザー音。
しかし、東はその時。
電話に出ることさえ忘れていた。






それほどまで、東の意識は彼女に向いていたのだ。




「………君は」
「警部さん。………多分、あなたを含む部下さんたちにも私が狙われていた理由は伝わらないでしょう。……だから、……それを教える変わりに彼と会わしていただけませんか?」


















楽しめた。
楽しめなかった。


気分は、五分五分である。


「……………」
「……………」


水着から私服に着替え終わり、島秋と藪笠は今、駐車場に向かって歩き出していた。


会話はあれから少ししかしていない。




気まずい空気のまま、出口ゲートへと進む二人。だが、その時。




ひょい、と出口ゲート付近から顔を出す一人の少女。


「数分後、お会いできましたね?」
「………………」




アタッシュケースに閉じ込められていた少女だ。どうやら藪笠が来るのを待っていたらしい。


離れた所では東の後ろ姿が確認できる。






「え、えーと……藪笠く」
「……悪い、島秋。ちょっと席を外してくれ」
「え、…………………うん」


素直に引いてくれた島秋に対し、ありがとう、と藪笠は答え、少女の側に向かって歩き出す。


「……すみません」
「いや、…………向こうで話そう」


















出口ゲートから少し離れた人気の少ない通り道。
そこからは涼しげな風が吹き通る。




「ふわぁ………」


少女は両手を広げ、風に辺りながら呟く。




「やっぱり日本は暑いですね?」
「………………」


返答を返さない。
今だ、藪笠は少女に対し気を許してはいないのだ。


少女は苦笑しながら溜め息を吐く。


「…もう、そんなに警戒しないでください。危害は加えませんから」
「………」
「まぁ、……………たとえ危害を加えようとした所で、あなたには敵いませんからね?」




……まるで、見てきたような言い方だ。
返答を返さない藪笠は小さく片手に力を込める。




少女は頬をかきながら、息を吐くと、小さく思い出したように唇を動かす。
















「二連季、咲雪桜陣。陣・流散桜」
「!?」




瞬間。
その言葉に藪笠の表情がここに来て一番の驚きに染まった。
口元を緩める少女は藪笠の視線を気にしつつ言葉を続けていく。


「……性質も、役割も、私とはまるで違いますね」
「……私とは?」
「はい。……あなたの力と違い、私の方はまた変わった力でして、日本では在り来たりと聞きます。……数分、数秒、集中すれば数ヶ月まで私は先を予知することができるんです」
「………予知」


…話を聞くかぎり、大まかにいえば、つまりは未来予知だ。
四季装甲が能力と分類されるなら特別同士と言った意味が何となく理解できる。


「……予知であなたが助けに来てくれることは、わかっていました」


予知さえできれば、その時、恐れることはない。


だから、少女は助け出した時。恐怖なく平然としていたのだ。


未来がわかっていたから。




だが、疑問はすぐに浮かんだ。


「…お前は、予知できるのに何でこんな所に来たんだ? 未来がわかっていたなら回避する道も」
「さっき言いましたよね? 性質も、役割も、私とはまるで違うって…………助かる道もあったかもしれません。だけど、それは役割から離れたもの…………だから私は売られる事に同意したんです」


売られた。
つまり買収に従ったというのか?


「…………」
「…そんなに怒らないでください。心配しなくても体を目的としたのではありません」


少女の声に、知らずと眉間にシワが刻まれていた事に気づく藪笠。
一息吐き、ゆっくりと気を静めていく。


少女は藪笠の表情が戻ることを確かめ、話を続けていく。


「……私は、その予知を買われて売られたんです」
「…親は」
「母も父も、知らないうちに死んでしまいました。……とはいえ、金に目を眩んでしまった親だったんですが」




小さく笑う少女。
その表情の裏にはどんな気持ちがあるのか、誰にも計り知れない。


「……………」
「気にしないでください。心にケリはつけましたから。………今度は私の番でいいですか? ……あなたは『その力』どう思っていますか?」
「…どう……って」
「嫌いになりましたか? なければ幸せでしかた?」
「………………」




幸せ。
嫌い。


いや、どちらでもないのかもしれない。
この力は決して望んで手に入れたのではない。












意思とは関係なく、あの時、内から生み出された物。


それが、四季装甲。
















「……人間には皆、可能性が備わっていると思うんです」


沈黙を続ける藪笠に少女は独り言のように喋り出す。


「気づく人、気づかない人、それによって未来は大きく変わります。……大体は一緒なんですけどね?」
「……それ言ったらお仕舞いだろ」
「そうでもないですよ。予知してきた中で……ズルをせず努力してきた人は良い未来に変わりましたし、可能性をうまく引き出せたんだと思います」
「……可能性」


小さく、呟く藪笠。
少女はそんな藪笠に対し、顔をひっそりと俯け、小さく一言を口にする。














「だけど、私たちにはその可能性はありません」
「………」


藪笠の瞳。
少女の透き通ったような瞳と再び交差する。


「可能性はない。…だけど、その代わりに……私たちには、力がある」
「……………」
「力でしか道を作れない。……私は、そう思っています」




断言。
とはいかないみたいだ。
少女は、そう信じるように、自分に言い聞かせているみたいに見える。


「……………」
「自己満足、……ですよね?」
「いや、…自分がそう思っているんなら、それでいいんじゃねえか?」
「………………」
「誰しも、信じることから始まる。そこからどう進むかは、自分次第だ」


自分次第。
たとえ、間違えだとしても変えはしない。




それで大切なものを守れるなら、




「……お前は俺に、その可能性について話したかったのか?」
「………いえ、違います」
「だったら…」
「あなたに会いたかった理由は、助けてもらった身としての…」


少女は瞳を閉じ、静かに、気を引き締めたような口調で声を出す。




「忠告です」
「………………」


目を細くさせ、藪笠は少女の言葉を待つ。




「…………瞳から漂う黒き存在」




それは、いつかは分からない。
だが、予知した。
いずれ訪れる未来。




「……たとえ………あなたの守りたい者があったとしても、それは使ってはダメです」
「………………」
「………あなたは既に、わかっているはずです」


その時。
少女の口調は鋭くなった。


何故なら、本来。
伝えるべき一番の言葉だったからだ。


















「あれは、まるで奪い尽くすように……あなたの…」


















いつしか、夕日が見え隠れしていた。


「悪い、島秋」
「あ、藪笠くん」


出口ゲートの前で、一人立ちながら待っていた島秋に声をかける藪笠。




彼女の表情からは心配したという心境が見て取れる。
藪笠は口元を優しく緩ませつつ、そっと手を掴み、




「行こうか」
「…う、うん」


一瞬。島秋は頬を赤らめながら頷く。


だが、すぐに小さな違和感に気づいた。














(何、これ…………)




手と手。
今、触れ合っている彼の手。










まるで、風に揺らぐ紙切れのように。






目を離したら。
手を離したら。
















もう会えないような、そんな違和感がしてならなかった。


















「………警部……東さんでいいですか?」
「……ああ」


少女は今、東の元に戻り警察車両に腰を落としている。
既に東には交換条件ということで情報は話している。


「………………」
「少し………聞いてもいいか?」
「? はい、いいですよ」
考え込む少女に東はそう言って了解を取ると、自身の疑問を怖じけることなく尋ねた。


「予知ができる君が、どうしてあの少年に未来を教えた? 君の話では未来を変えることは」
「……確かに。……今まで私が予知して未来を強引に変えた人たちは皆、更なる悲惨な未来に合っていました」
「なら、何故」
「彼の、………彼の未来だけは変えたかった。ではいけませんか?」
「…………」




膝の上で、小さく手を合わせる少女。




少女は数分前の、彼に言った言葉を思い出す。


「      」




そして、その言葉に対し返ってきた彼の言葉。


















『…俺は、そんな事。…………もう気にしない事にしてるんだ』


















「東さん……」
「?」


少女は東に、そっと目を向け、言葉を口にする。
大きなお世話かもしれない。
たとえ、彼が望んでいないとわかっていたとしても、




「……絶望の過去を抱いたまま、未来を終わらしてしまう」




だけど。
その先で悲しむ人たちを作らないために動きたい。
思いを悲しみに変えさしたくない。




だからこそ。












「お願いします。彼を、助けてください」




少女は動くのだ。
役割から外れているとしても……。







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