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季節高校生

goro

プール・アウト 2







プールゲート、柱の一角。
視界がより防げる柱の影に潜む男たちは、静かな口調で口を開いた。


「どうだ、いたか?」
「いえ、まだ……」


一人の男は、その言葉に溜め息を吐くと胸ポケットから煙草を取り出し口に加え火をつけた。
唇から、ひっそりと煙が吐かれる。
そして。




その男、東 次代は声を落としながら告げる。






「わかってると思うが、下手に踏み込めば一般人を巻き込むことになる。……慎重に行動しろ」


















時間は昼を回り、レストランからプール広場に移る。


「食べ過ぎたぁ……」


そう呟きながら、お腹に手を置く島秋。
側では呆れ返った藪笠の姿がある。


今、
彼らがいるのはプール広場の隅に配置された休息エリア。
あちこちにベンチとパラソルが置かれ、一般客、特にカップルたちが休息する。






普通に考えれば、珍しくも何の不思議もない光景。






だが、しかし。
彼ら、藪笠たちだけはそんな雰囲気から外れた存在になっていた。


何故かというと、それは……、








「ぅぅん……お腹、いたい」




彼女、島秋 花がベンチに寝込みながら唸っているからだ。


目の前で寝込む島秋に視線を落とす藪笠。


状況をはっきりさせるために言うと。












彼女が、馬鹿ほどに食い過ぎたのだ。












ディナーに出された料理は食い終えたはいいが、その料理をまさかの早食い。
その結果、腹痛を起こしてしまったのだ。






藪笠は溜め息を吐きながら、水着に黄色のパーカ姿をした島秋に、正直な感想を言ってみる。




「普通、ゆっくり食べるのが正しいと思うんだけどな」
「ぅ……ぅん」


気まずそうに顔を背ける島秋。




……まぁ、あの量からして異常なのだ。
溜め息を吐く藪笠は腰に手をつけ、立ち上がりながら島秋に尋ねる。


「茶でもいいだろ? 買ってきてやるからそこでちょっと休んでろ」
「…ぅ…うん」


ひらひらと手を振る島秋を背に藪笠は口元を緩めながらプールゲート付近にある自動販売機にへと向かった。


















時間が昼時を指しているためか、人混みが多くなってきた。
ぎゅうぎゅう詰めというわけではないが、藪笠はその人込みの間に生まれる細い道を通りながら前へと進んでいく。


すると、ちょうど人込みがすいた場所が見え、行けるか? と足を力強く踏み出し前へ出た。
瞬間。


ドン!!


藪笠の右肩と向かい側を歩いていた短パンにアロハシャツ姿をした男の左肩が衝突し、


「っ!?」
「ッ! 気を付けやがれこのガキ!」


チッ、と舌打ちを吐きすて手に持つ重々しさのあるシルバーの旅行用アタッキュケースを引きながら歩いて行く。




確かに悪いとは思っているが態度が悪すぎだ。


眉をひそめながらも気を落ち着けるべく溜め息を吐き、藪笠は足を踏み出そうとした。


だが、




「…………………?」




瞬間。
数秒前の光景を思い出す。




アロハシャツの男。ではない。
その手に持ったアタッキュケースだ。
閉じられたケースの間から微かにはみ出ていた物。


一瞬だったが、何とか繊細に思い出せた。






そういえば、あれは………。


















「警部、出てきました」


部下の声に後方を監視していた東の視線が振り返る。
部下に任せていたのは前方だ。




顔を近づけ、部下が監視していた前方に視線を向ける。


昼時のため人混みが激しかったが、それでも男の顔はしっかりと記憶している。




顎髭を伸ばした顔細の男。




視線をとばしているうちに、その男を見つけることができた。
短パンにアロハシャツ。片手にはアタッシュケースが握られている。






遊び人にカモフラージュしたみたいだが、その男は間違いなく今回の重要容疑者だ。




「それにしても何でこんな所で、あんな」
「さぁな………ただ」




東は再び煙草を加え、緊張を強めるようポケットから出したトランシーバーに命令を飛ばす。










「お前ら、気を引き締めろ。…………一命がかかってるんだからな」
















『はい!!』と複数の声がトランシーバーから聞き取れた。


……俺も動くか、とトランシーバーを直し立ち上がる東。
だが、その時。






「? あれは……」




視線の先。
ある人物が東の目に止まった。


















ほぼ、同時刻。


「藪笠くん、どこまでいったのかな……」


腹痛が引き歩けるようになった島秋は、プールゲート付近に向かって歩き出していた。
あれからすでに二十分は経つ。




帰ってしまったのかなぁ…、と不安になってしまう島秋は自身のマイナス思考に溜め息を吐いてしまう。
…まだ会って間もないがが、今だ藪笠芥木という少年のことを島秋はわかっていない。




ただ。
……どこか、偽った感じが普段から見て取れるのだけはわかっていた。
だから、か……。




「藪笠くん………ホントはどう思ってたのかな…」


プールに誘った時。
彼は本心ではどう思っていたのか。


もしかしたら、嫌々で来たのではないか……。








……………………………………はぁ。




本日、二度目の溜め息を吐く島秋。
今は彼を探そう。
島秋は頭を切り替え、止まっていた足を再び動かそうとした。






その時だった。






「ッ!?」




直後、背筋に寒気が起きる。


腕に手を置き、体を冷やしたのかと考えた。
だが、瞬時に違うと確信できた。


何故なら、この寒気。
一度、前に感じた事があるからだ。






…そんなに、…昔ではない。


ここ……数ヶ月前。




春の終わり。
父の事でショックを受けていた時、事情聴取と一切の気づかいを見せなかった。










警察と告げた男と同じ感じ……。


















気づくか気づかないか。


離れた距離を維持し、藪笠は目の前を進むアロハシャツの男の後をつけていた。


話かけてもよかった。


だが、下手をすれば手間が増えてしまう。
場合によっては被害が出てしまうかもしれない。
しかし。
とはいえ、このままの状態は危険だ。




「……………(先に潰すか……)」


拳を握り締めつつ一瞬、藪笠は瞳を閉じる。




突き進む道。
仕掛け所。


そして、潰す時間。


数秒でイメージを構築させた藪笠は瞳を開き、地面を蹴り飛ばそうと足に力を込めた。




「ッ!?」


直後だった。


突如、片方の腕が手錠のように現れた手により拘束される。
藪笠は目を見開き、素早い動きで振り返る。






そして、そこにいた人物に藪笠は眉を潜めながら口を開いた。








「やっぱり………休暇じゃなかったんだな」
「………いや、休暇だよ」


平然と答えたのは、まぎれもない数分前にディナーレストランで会った男、東だ。


「本当なら俺も休む気で満々だったんだが……、彼女はどうしたんだ?」
「休憩所で休んでる。後、休暇とか嘘つけ。そこらにゴロツキの警察らがいるじゃねぇか」




藪笠は目を細め、辺りに潜む警察らしき男たちを顎で示す。
気づいていたのか…、と苦笑する東は小さく溜め息を吐く。
だが、掴んだ手を離そうとはしない。


藪笠は睨みをきかせるが東は引きはしない。
小さく息を吐き、東は重々しく口を開く。


「…すまないがアイツを捕まえるまでじっとしてもらえないか?」
「……………」
「わかっているんだろ? 私たちが誰を追っているのか。……一般人を巻き込むわけにはいけないんだ」


もっともらしい、警察の言い方だ。
東はそう言って一度切り、藪笠を見つめた。
だが、そこで藪笠は気づく。




東の瞳が、どこか懐かしさを思い出したような瞳になっている事を。




東は小さく。
……奇妙な言葉を口にする。










「特に、君には怪我をしてほしくない」






……は? と眉をひそめる藪笠。
だが、その時。
















事態は動いた。


『きゃああああああああ!!!』
「「!?」」


穏やかな空気を一瞬で切り裂いた悲鳴。
藪笠と東は顔を見合せ、直ぐ様その場から悲鳴が聞こえた場所に走り出す。




距離はそう遠くない。




現場に直ぐ様駆けつけた藪笠たちは、その瞬間。
その光景に目を疑った。


「「!?」」
「テメェら、動くな!!」


一人の男。
あのアロハシャツの男だ。


男は、騒ぎにより大きく開いた広場の中心に立っている。
そして、小さな。
小学生ぐらいの少女を人質に怒号を発していた。




側にはアタッシュケースが置かれ、少女を掴んだ手の片方手には、鋭利な果物ナイフが握られている。


東は直ぐ様トランシーバーを取り出し事態の全容を問い質す。


「どうなってる、何故動いた!!」
『い、いえ、我々は動いていません。どうやら外部からの電話で我々の動きに気づいたみたいで』
「電話だと?」


トランシーバーから顔から離し、辺りを見渡す東。
騒ぎに集まった野次馬。その中にはアロハシャツの男と関わりを持つ共犯者がいる。
だが、


「クソッ……」


探すにしても情報が足りない。
それ以前にそれどころではない。




東は舌打ちをうち、今の現状を改善するべくアロハシャツの男になるべく距離を取りつつ東は声を上げた。


「落ち着け! その子は離すんだ!!」
「うるせぇ!! 動くんじゃねぇ!!」


男は凶器を少女に突き向け、少しずつ後ろに下がり東から距離を取ろうとする。




このまま、挑発し続けるのは危険だ。
下手をしたら少女の身に危険が起きてしまうかもしれない。


「ぅう、ぅぅぅ」
「泣くな、殺すぞ!!」
「ぅッ………!?」


体を震わせ目に涙を溜める少女。
小さな体は、男の手によりなすがままの状態に陥っている。








『離して!! 娘が! 娘が!』


離れた所では、その場に配置された警察官を押し抜けようとする母親らしき女性の叫び声が聞こえてくる。














少女を人質に取る男の側には洞窟に繋がるプールがある。




事態に戸惑い、動けない警察。




助け出そうとする母親。


















そして、助けて、と涙を流し願う少女の姿。


















「ッ!!」


直後。
藪笠の体は自然と脳の指示により動く。
東の視界から一気に抜け出し、野次馬の波を素早く走り抜けた藪笠は野次馬がいない、広場外側に抜け出た藪笠は、そのまま片足を軸に事態の中心がある方向に振り返る。
そして、


「(二連季、咲雪桜陣)」


囁くように、四季装甲を口にした。




瞬間。
体に春と冬、二つの季節が纏わされる。






藪笠は、目を見開き現場。全視野を一瞬で再確認し、軸足とは反対の片足を浮かせ、今度は囁きではない。








騒ぎを瞬殺する、言葉を口にする。












「陣・流散桜」


















ドォンッ!!!!
直後。
藪笠のいた場所から広場全域に落下のごとき衝撃音が轟いた。


辺りにいた皆の視線が数秒、音の発生地点に集中する。
その時間、ほんの数秒。
だが、




「ッ!? オマッ」










その数秒で十分に足りた。


野次馬の波をぶつかることなく一気に突き抜け、アロハシャツの男の背後で足を到着させた藪笠は、驚きを見せる男を睨み付ける。


突然の事に動揺を隠せない男は慌てて行動に移ろうとする。
だが、結果は既に決まっていた。














陣・流散桜。
その名は、まだ終わってはいない。


「!!」


ガッ、と左手を鉤爪のように構えた藪笠は、男のナイフがある左腕の服裾を引きちぎるごとく引き寄せ、少女から危険を鉤取り、そして。


「……………ッ!」


藪笠は流れるように自身の空いた右腕を男の右脇腹に鉄槌のように叩き込んだのだ。


「ッがぁぁッ!?」


強烈な衝撃に顔を歪ませる男。
藪笠はそのまま地面を蹴飛ばし、自身もろとも側のプールに飛び込み、素早かな切り換えで呟く。


「春、乱桜」


瞬間、三裂打。
水中での、肘、膝、踵。
連激を食らわせ、一瞬で男の意識をもぎ取ったのだった。


















「………………え?」


島秋はその時、何が起こったかわからなかった。


騒ぎに気づき、それでも遅れた到着をした島秋は、その衝撃音を皆より遅れて気づいた。
そのため、振り返ることが数秒、後になってしまった。










しかし。
だからこそ、気づいてしまったのだ。






さっきまで一緒にいた少年が男に向かい、少女を助け出す瞬間を。
そして、プールに飛び込む時……。


















少年の背中に男の手に持つ果物ナイフが振り落とされた事を。


















辺りが騒然とする。


さっきまで少女を人質に取っていた男が消えたのだ。
警察官に保護された少女でさえ、何が起きたのかわかっていない。








東の指揮の元、部下たちが必死に男を捜索する中で、








「ぷはっ!!」


突如、勢いよく息を吐き水中から藪笠が顔を出した。




…………………………………。


一瞬、その場が静寂に染まる。
だが、藪笠は気にせずプールの端まで移動し、片方に沈んでいた手を水中から引き上げた。


すると、そこには…。








その場から消えた、人質を取り声を上げていた男が捕まれている。


「なっ……き、君一体何を!?」


慌てて東の部下が駆け寄る中、藪笠は至って簡潔に口を動かし、


「プールの底に頭ぶつけて気絶してるみたいだから」
「ッな!?」


その言葉に驚きを隠せない警察の面々。
だが、藪笠は気にする素振りも見せず、アロハシャツの男をプールから上に放り投げる。
そして、自身もプールから上がり、溜め息を吐いた。


次の瞬間。




「藪笠くん!!」
「ん? 島あっ!?」


突如。
走りながら駆けつけてきた島秋が藪笠を押し倒し、濡れた腹部のあちこちと触り出したのだ。


「お、おい何やって!?」


藪笠は顔を赤くさせ、声を上げようとする。
だが、そんな言葉すら遮り島秋は声を荒々しく上げた。


「動かないで! さっきナイフで刺されたんだよ藪笠くん!?」
「!?」


瞬間。
その言葉に藪笠は目を見開いた。








誰にも気づかれていない。
いや、気づかれない自信があった。




現に回りは何が起きたのかわかっていない。
それなのに。








………何故、島秋はその起きた事を知っている?


「いいから、いいからじっとして!」


島秋の顔にびっしりと汗が浮かび、焦りが見える。


腹部には触ってみたが、切り傷は全く見当たらなかった。
では傷は……後ろの背中に?


「ッ……………」


島秋は藪笠の背中に周り、一瞬。
目を閉じてしまう。






鼓動の速さが激しくなる。




胸の奥、苦しみに顔を歪めつつ島秋は慎重に…。








背中に瞳を向けた。
だが、












「………………え? 傷が………ない」










水滴の濡れた体。
そこには傷どころか、掠り傷すら見当たらない。
綺麗な無傷の背中だった。




ぺちゃり。
島秋の足腰から力が抜け、地面に座り込んでしまった。




「し、…島秋、大丈夫か」
「…………何で…」
「え?」


島秋の声に首をかしげる藪笠。




俯いた状態の彼女は唇を紡ぎ、目の前にいる、何もわかっていない藪笠に荒々しい口調で問い掛ける。




「何で………あんな危ないことするの? 死ぬかもしれなかったんだよ!!」
「………し、島秋」
「もし、心臓とか刺されてたら藪笠くん、死んでたんだよ……いなくなっちゃうんだよ………そしたら、私…………私……」


ポタ、ポタ……。
その目に溜まる小さな滴が膝に落ちていく。


死ぬかもしれなかった。


大切が人がいなくなる哀しみを知っているからこそ、辛いのだ。






「…………悪い」


藪笠は顔を伏せ、そんな彼女に近寄り、そっと口にした。


本心の言葉。


彼女を泣かせ、辛い思いをさせてしまった。
その事に対しての言葉だ。














だが、それでも藪笠は決して、


『もうしない』


とは言わない。


それだけは、言えなかった。










「………………うん」


顔を俯け、その言葉に小さく呟く島秋。
藪笠は口元を緩ませ小さく、ありがとう、


と彼女の頭に手を置き体勢を立ち上がらせた。


そして、直ぐ近くで視線を向けていた東の元に歩き出し、藪笠と東。
二人の視線が交差する。




「…………君は」
「アンタら警察は何の事件を追ってたんだ?」


東の言葉を遮り、藪笠は目を細める。


「……君は、もうわかっているんだろ?」
「……いや、事件の内容までは知らない」


ただ、と藪笠は続け、




「あのアタッキュケースに入っている物なら、何となく想像がつく」




視線を東から外すと、直ぐ側では部下の警察官たちがロックの掛かったアタッシュケースを開けようとしていた。




藪笠が気にするきっかけとなったのはそのアタッキュケースの一角。


よく目を凝らさないわからないが、そこからタラリと垂れた奇妙な物がはみ出ている。






それは、細い糸のような白の髪束。








最初は何かの毛皮かと疑った。
だが、よく観察してみるとその白い髪は妙に生々しさがある。




「…あのアタッシュケースなら、人間一人ぐらい入れてもおかしくはないからな」
「……………」
「…中に入ってるのは死体か? それとも…」
「……死体………ではないとは思っている。……私たちも、あの男が運び屋としか聞いていないんだ」
「…………」




疑うような視線を向ける藪笠だったが、直ぐに諦めたように息を吐く。


今は、何にしてもあの中身が気になる。








しばし、藪笠はアタッシュケースが開かれるのを待ち、側では涙目の島秋が近づいてくるのが見えた。
そして、






「…よし、開けるぞ」
「ゆっくりだぞ。慎重に開けろ」




そんなやり取りをとり、東の部下たちは、ガタッ、とロックの掛けられていたケースを慎重に、飛び出ていた髪を挟まないようにして気をつけながら開けていく。






その場にいた皆が息を飲む。














次の瞬間。
ケースは藪笠たちの目の前で開かれた。






その中には…。






「!?」
「なっ…………」












部下に続き、東の口から息詰まった声が溢れる。


その場にいた誰もが同じように驚き、口に手を当て驚きに顔を染める島秋の傍ら、藪笠はゆっくりとケースに歩み寄る。












その目に写る物を、疑いたくなった。








藪笠はケースに近づき、不意に口に出してしまう。


















「…お……女?」






島秋たちと同じぐらいの年か?


白く染まった長髪に、白のドレス姿をした眠り姫のように安らかに眠る少女。








そして、藪笠がそう口にした。


その時。












うっすら、と少女の瞳は開かれた。







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