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季節高校生

goro

プール・アウト





勉強会から数日が経ったある日。


付近の公園にて。
日射しの眩しさを防ぐべく木影にバイクを止めた、黒の半袖にジーパン姿の藪笠芥木は携帯を手に汗を袖で拭いながら立っていた。


温暖化ともあり気温は暑く、時間が朝の七時にもかかわらず高温を保っている。








藪笠は欠伸を手で押さえながら首を回す。
不意に背後からカツカツと足音が聞こえてきた。


振り替えると、そこには。




「おはよう、……藪笠くん」


日光の中、茶髪を光らせ、夏をイメージする薄黄色の半袖、青のジーンズを足首ちょい上まで捲った、手首にオレンジデザインの手提げをかけた島秋 花が立っていた。










散髪にでもいったのか髪もどこか短く整った物になっており、藪笠は気づかないみたいだが、微妙に気合いが入ってる。






パタン、と携帯を閉じ、後部座席に引っ掻けていたスペアーの赤いヘルメットを島秋に渡した藪笠は両肩を回しながら、




「…それじゃあ、行くか」
「……うん」










こうして、藪笠と島秋はある場所。








以前から約束していたプールに行くこととなった。


















七時に出た理由は、場所が遠いということと、人気があるためか遅くだと混むからだ。


島秋を後部座席に乗せたバイクを走らせて約一時半。








着いた頃には、少しながら人混みができはじめている最中だった。






大人気の遊楽地。
ディナーレストランと大型プール。


夏休みもあって、当たり前といえば当たり前だ。しかし、今回は早めに来たおかげですんなりと駐車場に入ることはできた。












「広いな、ここ」
「……そう……だね」


駐車場にバイクを止め、ロビーに訪れる藪笠と島秋。
二階はディナーレストラン。
一階、ロビーの隣フロアーは大型プールとなっており、ロビーの壁がわに設置された窓ガラスからは多くの家族連れが水の中で遊んでいるのが見えた。




「藪笠くん、楽しみだね?」
「………ま、まぁな」


きらきら、と目を光らせる島秋が眩しすぎる。




藪笠は苦笑いを浮かべつつ、こっそりと息を吐くのだった。
















見とれていても仕方がないので、藪笠たちは直ぐにフロントに行き二人分の料金を払い男女別の更衣室へと向かった。




そして、その数分後。












「人が多い………」


藪笠は一人、ベンチに座り頬をついている。




着替えるのに手間がかからなかった分、更衣室から早く出てきてしまった藪笠は室内型の大型プール見渡していた。




大型プールの目玉はぐるぐると円を書くように流れる水に子どもの遊び場らしき、ジャングルジム。
ある一角ではイベントらしき物が開かれた流れるプールと直結した洞窟らしき場所が見られる。






だが、今回。
藪笠たちは泳ぎにきただけであり、イベントをしにきたわけではない。


気にしないでおこう、と両腕を伸ばしながら藪笠は息を吐いた。




すると、その時。














「…………お………おまたせ」




やや恥ずかしさのある声が聞こえてきた。
ん? と振り返る藪笠は、その直後。


「ッ!?」


……盛大に動揺してしまった。


最初に目に映ったのは、その大きな二つの膨らみ。
オレンジ色の布に隠されているがその迫力は隠せていない。




下には穿かれた水着にヒラヒラと花びらのような物がついているが、一番は上だった。
髪をゆっくりと捲し上げて彼女、島秋は口を開く。




「……ど、どうかな?」
「………………」
「? 藪笠くん?」


首をひねりながら顔を赤らめ、藪笠に近づく島秋。


「……藪笠くん?」
「っわ!? 島秋、どうした」
「それはこっちの台詞だよ、藪笠くん」




両膝に両手をつく島秋。
それがより二つの膨らみを強調させてしまっているのに気づいていない。




藪笠は顔をそむけ、以前に別荘に行ったさいの鍵谷と島秋の事を思い出す。


あの時、二人の水着を見知っていたはずだったのだが、ここまでは動揺しなかった。
まぁ、別の事で動揺していたのだから仕方がないのだが……。




「ねえ、藪笠くん聞いてる?」
「あ、ああ。聞いてる聞いてる」
「……………藪笠くん。あの…………聞きたいんだけど、私の水着………どうかな?」


………………………………………。


「……………ごめん、今何て?」
「だから…………私の水着、どう思う?」


顔を真っ赤にさせ尋ねる島秋。
眉をピクピクと動かしつつ、視線を彼女に向けないようにしながら藪笠は言った。














「………綺麗…だよ」
「!! …………そうか……綺麗か………」


頬を染めながら、口元を緩める島秋。


まぁ、間違ってはいないだろう。
くびれもあり、出るところも出ている。




綺麗なのは事実だ。






視線を今だ向けれずにいる藪笠に島秋はニコニコと、


「藪笠くん」
「ん?」
「泳ごう♪」


笑いながら、少年の手を引き歩き出す島秋。
最初、驚き顔だった藪笠もじきに諦めたように口元を緩め、一緒に歩き出す。




あれこれ考えていても、疲れるだけだ……。






そう思った藪笠は、息を吐きながら、冷たさのあるプールに島秋と同じように、そっと足をつけようとする。


















する、直後だった。




パン、パン!! と直ぐ側で鳴らされたクラッカー。そして、その後に聞こえてきたのは、


「おめでとうございます!!」




は? 間の抜けた声を出してしまう藪笠。
島秋も目を点にしてしまっている。


クラッカーの音に辺りの視線が集中する中、三人組のスタッフらしき大人たちは藪笠たちに近づき、手に持った大きな看板を見せるように出してきたので、何々と内容を口にして読んだ。




「…入場、100人目! イベント参加券と景品券をプレゼント♪……」
「はい♪」
「……………………」
「…………………あ、あの?」


ガシッ、と。
島秋の手首を掴み後退する藪笠。




「ちょ、待って待ってっ!?」


スタッフらしき大人のうち、一人の女性が慌てて藪笠の行く手を押し止める。


「100人目ですよ! めでたいですね」
「……じゃま」
「いや、じゃまって………カップルですよね? どうですか、景品とか」
「じゃま」
「あ、あの」
「じゃま」
「………ぁ」
「じゃま」
「ぅぅうう!! ちょっとぐらい話聞いてくれてもいいじゃないっ!!」




あ、泣いた。
げんなりと呆れ返る藪笠。
一方では見事におどおどする島秋の姿がある。
だが、だからといって根負けするつもりはない。


「島秋、ほっといて行くぞ」
「え………うん」


手を繋がれた嬉しさもあり、頬を赤める島秋はそのまま、藪笠に手を引かれこの場から退散しようとする。
後ろの方で泣き続ける女性が見えたがこのさい、無視だ。


やれやれ、とその場から離れていく藪笠たち。










しかし、その瞬間に聞こえてきた言葉に藪笠の表情は硬直した。




「……まぁ、諦めて次行くぞ。100人目のイベントの次に景品券のディナーレストランの10000円引きが残ってるんだから」














ピタリ!! と。
いうまでもないが、島秋の動きが止まった。
まずい……、と顔を青ざめる藪笠。




これでは以前の二の舞だ。
藪笠は何とかしようと、話を反らすべく振り返る。
と、そこには……。






「ディナールーム………お化け屋洞窟………ぅぅ」


二つの問いに悩みつつ、涙目で葛藤する島秋 花の姿があった。
















結論。
根負けした。


あの後、島秋のねだりに渋々負けを認めた藪笠は今、島秋と共に初めに見た洞窟前に来ている。
プールの通り道に作った洞窟らしく、行くというより泳ぐが正しいだろう。
だが、今はそれよりも肩がまずい。
後ろにいる島秋の手は肩を力強く、……いや、握り潰す勢いだ。


「し、島秋………怖かったら」
「行く………」




撤回はもうダメだろう。
藪笠は溜め息を吐きながら、洞窟へと進んだ。










紫色のスポットライト。それは暗闇の中をゆらゆらと動いている。
他にもまだ何かあるだろうが、まぁ、お化け洞窟とはよく言った物だ。


しかし、スタート近くだからかして一行にイベントがはじまらない。




「まぁ、初めからは来ないか」
「………………」


ぎゅっ、と強くなる力。


はっきりいって、痛い。


洞窟をほんの少し進むと、突然とスポットライトが消えた。
辺りが真っ暗となり、島秋の吐息がより新鮮に聞こえてくる。






直後。




「ッ!?」
「ひゃあッ!?」


水面の足下。そこから一気に急速の水が吹き出し、それに続きなぞるように何かが足に襲い掛かってきた。


「や、藪笠くんッ!!」
「ッ! んなっ!?」


ガシッ!! ポムッ、と。
柔らかい感触がっ!!


「し、島秋、あたってっ!!」
「離れないで! 藪笠くん!!」


背骨辺りからくる生暖かな感触。
軽い布地の感触があることを踏まえて、二つの塊が密着していると思っていい。




直ぐ様に離れたくても、島秋の手が肩から離れない。
どうすれば……。


考えていく間にも体はプールの流れにそって進んでいく。




そして、やっと遅れてのお化け仕掛けが、


「きゃああああああああああ!!」
「ぐわッ!! あた、あた、当たってるって!?」
「きゃああああああきゃああああああきゃああああああ!!」
「!? 首っしまって、がっ」
「ぅぅ、ぅぅ、ううううううううー!!」
「最後に泣いた!?」


















洞窟から抜け出し、景品は無事に貰えた。


「…………………」
「…………………」


藪笠と島秋。
その表情はどっと疲れていた。


しかも、あの後からでは泳ぐ気になれず先に食べに行こうということで今、藪笠たちはディナーレストランでメニュー欄を見ていた。
ちなみに景品は早速使わせて貰っている。




「まぁ、島秋。ディナーの券は貰えたんだし…」
「………………うん」
「それより、何食べる? 高めのやつ食べ」
「…………………これ」


顔をうつむけながらメニュー欄の一つに指差す島秋。
どれどれ…、とその指された料理に視線を落とす。


「……………」
「…その間は何? 藪笠くん」
「え、いや何でもない何でも」


メニュー欄から選ばれた物、それは景品にそって作られた物らしい。


5000円と値札がついた。


ごはん、ラーメン、スープ。それに続く、グラタン、鶏肉の丸焼き、椎茸山盛りスパゲッティ。


後、組み合わせに三品セットが二つもある。
まぁ、予想はできてはいたが……。




「………質より量なんだな」
「………藪笠くん」
「え? なに」
「思ってること……口に出てた」




むぅ、と頬を膨らませる島秋。
あ、いや………、と気まずさを隠すべく辺りを見渡した。




しかし、その時。


「やぁ、久しぶりだなぁ」


その大人びた声。
藪笠は目を見開きながら、その声のした方向に視線を向けた。




この暑さにもかかわらず、長袖長ズボンとネクタイを着けた男。


夏休みに一度、会った警察署の警部。
東 次代だ。


「アンタ………」
「この前は、ありがとう。君のお陰でたすかったよ」


両者ともに言い争っているわけではない。
だが、この二人の視線は緊迫感を漂わせているのだ。




付近の客席から、視線を感じる。
島秋は意を決して声を出す。




「や、藪笠くん。……この人……知り合い?」
「………………」




無言で島秋に視線を向ける藪笠。
本心では言いたくはない。


だが、そんなことをすれば余計に彼女に気をつかわしてしまう。


「…………………」
「藪笠くん?」


島秋の表情が不安に染まっていく。
藪笠は小さく息を吐き、そして、小声で口を開いた。


「…………俺たちの街の…警察署の警部だ」
「ッ!?」


動揺が起きたは直ぐにわかった。
島秋は目を見開き、その頬にはうっすらと汗が見られる。


あの事件で島秋は一時的な混乱に陥った。
そして、それは一人の男が言った言葉が原因であり、警察官でもあった。


「………………」


東は目の前で動揺を隠せない少女の近くに足を進めた。
少女の視線がその直後に交わる。




だが、それがなんだ…、と思う。




やるべきことなど一つしかない。
東は少女に向かって頭を下げながら一言。
口を動かした。






「部下が失礼な事を言って………すまなかった」










島秋は、今聞こえてきた言葉に目を丸くした。
大の大人、それも警部にあたる男が頭を下げながら謝ったのだ。




……以前、あったあの男とは違う。
そのいいよりのない苦々しさが胸に募る。




「……いえ。………もう気にしていませんから」


手が震える。
島秋は落ち着きを取り戻そうと、息を吐く。
それでも収まらない。


どうしよう……、と島秋は顔を俯け、目を閉じた。






その時。






ガシッ、と。
震えた手の上に暖かな手が置かれた。


驚いた表情で顔を上げると、そこには視線を東に向けた藪笠がいた。


「それで、…警察がなんでまたこんな所に?」
「ああ………、いや休暇をもらっていて、たまたま来たんだよ」




その場の空気が藪笠の言葉で一変した。
さらに、さっきまで震えていた島秋の手が治まっている。


「だったら、ゆっくりと満喫しに行ってきてくれ。俺達はまだここで休んでるから」
「……………ああ、そうしよう」


東は息を吐きながら、背を向け去っていく。








藪笠はその背中が見えなくなるまで、島秋の手を離さなかった。
そして、やっと視界に消え、


「……藪笠……くん」
「…あ、悪かったな。島秋」


そう言って、手を離す藪笠。


「…………島秋」
「………何?」
「……大丈夫か?」


心配そうな表情をみせ尋ねる彼に島秋は小さく頬を緩め、うん……大丈夫だよ、と答える。


「ありがとう。………あ、ちょうど来たみたい。食べよう♪」


ガチャ、という音に振り返るとそこには沢山の料理が並べられた台が運ばれていた。
いざ、見るとやはり多すぎると思う。


「おいしそう……♪」
「……………」


よだれが出てる。
藪笠は口元を緩めながら、近場にあった紙布巾を取り、ヌグ、と。


「ッ!? や、藪笠く」
「よだれ。…………まぁ、それぐらいが島秋らしいな」


藪笠は島秋の口を拭いながら頬を緩めるませながら笑う。
島秋も顔を赤くさせながら、同じように笑う。












店内が穏やかな空気に染まることとなった。









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