季節高校生

goro

夏のプールに二人・2







あれから数分が経つ。


藪笠と島秋、二人はプール側にある太陽の光を防ぐために建てられたテントの下にあるベンチに座り静かに揺らぐプールを眺めていた。


「……後、数分したら足首も大丈夫だと思うから……まぁ1周ぐらいサボってもいいと」
「ダメだよ、藪笠くん。1回でもサボっちゃうと癖になっちゃうから」
「………島秋って、真面目だよな」
「普通だよ? 藪笠くんもこれを気にマジメになったら」
「島秋」
「っ…」


突然と、妙に真剣な顔つきになった藪笠に島秋は息を飲み、出かけた言葉に止めてしまう。
一方で藪笠は島秋を見つめ、息を吐きながら、決め顔で宣言。








「俺はマジメを突き通すより、サボりを突き通す方がいい」
「なっ!? それダメなんだよ藪笠くん!?」


叱り顔で立ち上がる島秋。


まぁ…冗談だけどな、と呟き藪笠はくすくすと笑う。


「むぅー……」


頬を膨らませたままやるにやるせない表情の島秋はしばし沈黙後、溜め息を吐いて腰を下ろした。


「あー、それにしても暑いな………ほんと…」


独り言をぼやく藪笠。
知ってか知らずか気温は既に三十五度を越えるか越えないかといった所だ。


「………あ! ……そう言えば藪笠くん」
「ん、どうした?」


何かを思い出したかのように尋ねてくる島秋に藪笠は口だけ返答を返す。


「えー………っと、真木ちゃんから聞いたんだけど。……キャンプに行った時、夜の蛍が舞い上がりながら集まって綺麗だったって聞いたんだけど……」
「ああ……まぁ、確かに綺麗だったなぁ」


………………………………………。
ん?


「……おい、何でそこで固ま」
「やっぱり」
「は?」


島秋は頭を伏せ、盛大に溜め息を吐く。


「真木ちゃん、また藪笠くんと行ったんだ」
「え? もしかしてアイツ黙って」
「はぁ、……藪笠くん、いーつも真木ちゃんと密かに何かしてるよね?」
「……そうか?」


あ、自覚ないんだ……。島秋は再び溜め息を吐き、それから目を細め…、


「……………」
「おい、その人を疑うような目はやめろ」
「………………はぁ」


島秋は疲れたように肩を落とすのだった。






太陽の光が時折、雲に遮られ地上に当たる明るさを弱らせる。


「なぁ、島秋」
「なに?」


小さな呟きも直ぐに聞き取りこちらに顔を向ける島秋。
濡れた髪に赤っぽい頬。外見は置いておくとしても、多分、美少女にはかわりないだろう。


「…………いや、何か。お前を一人でプールに行かすのは恐いなぁと」
「っ、ひどい!」
「諦めろ、事実だ」


きっぱりと言われた。
島秋はガクッと肩を落とし、傷心をその動作で見せてくる。
あれ、言い過ぎたか…、藪笠は一瞬反省しかけた。
だが、


「ねぇ、藪笠くん……」
「ん?」


島秋は眉をひそめる藪笠にゆっくりと顔を上げ、その頬はさっきよりも少し赤っぽかった。




「心配……なら。…今度プールとか行く時は一緒に行ってくれない、かな?」


…………………………………………え、今のは幻聴なのか?


「え? いや、それは」
「………………」


上目遣いの綺麗な瞳。
その瞳に藪笠は確実に捕らえられている。


「…………………わかったよ」
「……やった」


口元を緩め、嬉しそうに笑う島秋。
そして、そのまま上機嫌でプールへと向かって足を進めていく。


「おい、あんまりハリキルなよ!」


はーい! という返事。
藪笠は息を吐きながら口元を密かに緩めるのだった。
















全力で泳いだのか、島秋は直ぐに1周を泳ぎきった。


「終わったよ、藪笠くん!!」
「ああ、わかったわかった」


あのまま上機嫌な島秋に藪笠は手を振って了解と答える。


プール場には時計は設置されておらず、テントのすぐそば。プール場を固めるグリーンブルーの折から外にある時計台を見るしか時間を知ることはできなかった。


「じゃあ、着替えて帰る…か」


藪笠は後ろに振り返り時計台を見……………た、かったがそこで視線が交えた。
正確にいえば、時計台下にいたどこかであったような……いや、同じクラスの男子と完璧に目があった。




さらにいえば後ろから間の悪い事に、


「あれ? どうしたの、藪笠くん?」


……………………………………。
沈黙。
両者共に視線だけが交差する。
そして、


…………………………………………………………………シュバ!!。


時計台下にいた野郎が携帯を取り出し、一気に何かを送信しかけ、


「くたばれぇッ!!」


時計台、上の上空。正確には野郎の頭上を計算に入れ、藪笠はベンチに置かれていた何故かわからないテニス部のテニスボールを力あるかぎり全力で投げた。


ヒュー……、と。
上空に投げられたボールは空に上がっていき、狙い通り野郎の頭上で勢いをなくし落ちていく。


…………………………………グハッ!?


よし、命中。
藪笠はすかさず島秋の腕を掴み、


「おい、島秋! さっさとずらかるッ!?」
「んえっ!? や、藪笠くん!?」


ずらかろうとした。が直後に感じる悪寒。
時計台下を見るといつの間にか野郎どもが数人に増えている。


……呼ばれて即集合ってどんだけ暇なんだよ。




とはいえ、着替えなどしていては手遅れ。
やや強引だが、藪笠は島秋を引き連れ男子更衣室に連れ込み、ずらりと並ぶロッカーの一つを開けた。


「え、え、あッ、ダメ!?」
「しー!」
「むぐっ…………………」


慌てまくる島秋を無理矢理ロッカーに押し入れ、藪笠もすかさずその中に入り身を潜めた。
そして直後に外から盛大にドアが開く。


「っア…」
「(しー!)」


自身の口元に指を一本立て、島秋の動揺を何とか沈ませる。


「………藪笠………藪笠はどこに行ったぁぁぁ!!」


ユラユラ、とゾンビのように手を落としながら進む野郎ども。


……端から見ていても目が爛々と血走っているのがわかる。


「おい、居ないぞ」
「探せ! 情報通りなら島秋と多分まだどこかに潜んでやがる」
「見つけたらどうする? 木に縄でくくりつけて軟式ボールで滅多打ちに」
「いやいや、それだと巻かれた木が可愛そうだ。やるならプールに手足をくくって放り込もう!」
「おぉ!!」


………おい、何か? 俺は木より下って言ってんのか、このバカ野郎ども?


「女子更衣室はどうだ! もしかしたらそこに」


直後、バタバタと慌て出す島秋。
まぁ、当たり前といえば当たり前なのだが、


「(ッ! ッッ!?)」
「(っ、頼む! 静かにしててくれ!)」
「(っ、ッッッ!?)」


島秋の口を手で塞ぎ、藪笠は心底謝るのだった。










数分後。


どうやら、聞き耳を立てていたが女子更衣室に入る勇気はなかったらしい。
外に飛び出し、捜査範囲を広げた野郎ども。


藪笠は胸に溜まった息を盛大に吐き出す。
まさか、こんなにも疲れるとは思わなかった。


「……行った……みたいだな」
「……………」
「おい、島秋。どうした……」


黙り混む島秋。
島秋の様子がおかしい。
首をかしげながら尋ねる藪笠だったが、瞬時にある事に気づく。








吐息が漏れる。
その赤みかかった身体がゆっくりと動き、時折肩で息をしているのがわかってしまう。
さらにいえば、近すぎる。


抱き締め合うとまではいかなくても、藪笠の足は島秋の太ももから下へ交差してあり、肌と肌。ともに触れ合いその生々しさが敏感に感じてしまう。




ヤバい。この状態は色々とヤバい……!!




藪笠はすぐさま交差した足を外そうとするが、直後に、


「ァ、ダメッ………そこは、ダメ……」
「ッ!? いや、これはワザとじゃなくて! だからいうにっ!?」


足を動かしてもダメ。無理やり引き離すも………。
どっちにしてもヤバい状況になる。




「し、島秋。ゆっくりでいいから、足を動かして…俺の足をまたぐ感じで外してみろ」
「ッ………ん、ぅん」


ゆっくり。
肌に敏感なのか、また違う何かに敏感なのか。
島秋はゆっくりと足を動かし、交差した足がやっと取れかけた。












ガタン!! と。


その直後だった。


藪笠たちのいるロッカーが一気に開けられ、まさか聞き耳をたてられていたのか、藪笠と島秋は顔を青くさせ学校生活の終わりを予感した。












だが、そこにいたのは。




「何やってんですか、アニキ」


髪にカチューシャをかけ、黒いサングラスをかけた男。
竜崎牙血。


「え、誰? アニキ?」


島秋は初対面なわけでもあり、その言動に藪笠に視線を向けたりする。


一方で、藪笠はというと。












……………………………………………………………………ブチン!!


「ぶほっ!?」


竜崎の懐、自由になった片足で何の躊躇なく一撃を食らわせる。


腹を抑え、うめく竜崎。
島秋は介抱に行こうとしたが、それさえ藪笠は手で制止させ、竜崎の目の前に立つ。




「牙血…………一行だ。一行で何でここにいるのか説明しろ」
「え、あーと」


そのぶちギレ状態の藪笠に顔を青ざめる竜崎。
藪笠は一言。


「一行」
「は、はい!! アニキに用事があったんで、バイクにつけたGPSで探しに来ました!!」
「………………GPS?」
「あ………………」


墓穴を掘った。
竜崎は内密にしていたことを恐れのあまり口走ってしまった。


………………………………………。
静寂。
藪笠と竜崎。
二人の意味ありげな笑顔が交差する。
そして、一気に、


「砕け散れこのボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃああああああああああああああああ!?」


血祭りが始まった。
藪笠の一方的な仕置き。


島秋もやや顔を青ざめていたが、同時に同情の思いもあり、


「………………私、着替えてくるね」


島秋の退室後、竜崎の悲鳴がその場に轟きつづけることとなった。







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