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季節高校生

goro

二つの季節





時間は夕暮れを指し、森が徐々に黒い闇に染まろうとする。


「真木ー!!」


鍵谷 藍と藪笠芥木。
二人は今その森の中を走っていた。
何故このような事になったのか。




それは鍵谷真木の行方がわからないからだ。




岩像から帰ってきて鍵谷の姿がないことに不審に思った藍は電話をかけた。
だが、一行に繋がらない。


そうしている内に辺りはだんだんと暗くなっていく。
荒い息を吐き膝に手をつく藍。
と、その時。


「藍さんー!!」


藍と藪笠の元に御影が走ってきた。




「こっちにもいないんですか?」
「………はい」


藍は額に浮き出る汗を拭い、もう一度深く息を吐く。
その息づかいは荒く、吐くのがやっとのようだ。




「はぁ………み、御影さん」
「は、はい」
「はぁ…、すみませんが別荘の電話を、使わせてもらいませんか?」
「電話? あ、わかりました」


言葉の意味を察した御影は藍と共に別荘へと向かう。
藪笠はそんな二人に視線を送り、


「……………」


夕暮れが沈む。
その流れを藪笠は静かに見つめていた。














警察が来たの藍たちが連絡して1時間後。
数台のパトカーが集まる中、その一台から一人の男性が出てきた。


「……藍さん、お久しぶりです」


藪笠はその男性に見覚えがあった。
以前、警察署の事情聴取のさいに数人の男たちに警部と呼ばれていた男。


確か、名前は…東 次代。




「妹さんの娘……鍵谷真木さんの捜索は今も続いています」
「………はい」


東は顔を伏せ落ち込む藍の肩に手を置く。
……ひどく震えた体。
表面以上に藍の心は動揺を隠せていないのだ。


「……………藍さん」
「………私、どうしたら」


藍は顔を手で覆い、その奥で溢れる涙を圧し殺そうとする。


何が何でも見つけなくては…。


東が本心でそう思い、部下たちに声を上げようとした。
が、その時だった。


















「大丈夫だ」


















その場を一変させる声。


皆の視線がその声に集まり、声の主。


「やっと……夜になった」


藪笠芥木は携帯を片手に持ち立ち上がる。


注目の中、足を動かし川沿いに近づいた藪笠は携帯のボタンを押し静かに息を吐いた。


…………………………………………………………………。




視線が集中する中、側にいた御影が怪訝な表情で藪笠に声を掛ける。


「な、何を…」


だが、瞬時に、


「黙ってろ」
「ッ!?」


口を開くことさえ遮らせ藪笠は再びボタンを押す。


………………………………………………………………。


静寂。
藪笠の言葉が皆の口を閉ざす。
夜へと変わったことで森の静けさがよりいっそうに増す。


……………………………………………………………。


静かに。
冷静に。
聞こえる音を慎重に聞き分ける。




そして、




……………………………………………………………………………………………ト……ルルゥ。








「………見つけた」


藪笠の言葉にその場が動揺を走らせる。
藍も目を見開き藪笠に振り返る。
そこには……、


「藪笠くん」
「…………行ってくる」


口元を緩ませた少年の姿。
藪笠は藍にそう言い残すと背を向け、そのまま暗闇の森の中に足を進めた。
そして、その後に続くように捜索隊も森の中に入っていく。


















「…………」


さっきまでの騒動から数分が経つ。
東は未だあの少年、藪笠芥木の言葉を考え込んでいた。




あの少年。
『見つけた』と、そう言った。
確かに聴覚が優れた者は遠くからの音を聞き分ける。
……不可能ではないのかもしれない。
だが、それよりさらに気になったのはその後の行動だ。


(何故、一人で行動した。わざわざ警察を離さなくてはならない理由があったのか? ……いや離れざるえない理由があったのか…?)


東は辺りを見渡し、ここに来ていた者はたちを確認……、


「………!?」


直後。
東はその中で一人欠けている事に気づく。


冷静な判断が一瞬で動揺に変わる。


















…あれから時間は経った。


…警察は未だ森の中を捜索している。


山頂に近い場所に建てられた別荘の側で一つの影は薄く笑う。




…やはり見つけられなかった。
…何が『見つけた』だ。


影は笑いを押し殺し、そのまま別荘の鍵がかかったドアを開け、中に入ろうと、


















「……偉く遅かったな」










バッ!? と背後から放たれた声に振り返る影、御影源二。
その視線の先には腰に手を置く藪笠芥木の姿があった。




「待ってたよ……………テメェが来るのを」
「ッ、………や、やぁ、藪笠くん、どうして」
「芝居はそこまでにしとけよ。ここに鍵谷がいるのはわかってんだ」
「な、…何を言って」


声を震わせ、その言葉を不定する御影。
藪笠は腕を上げ、その先に持つ携帯電話の通話ボタンを押す。




トルルルゥ、トルルルゥ…。












音は確かに。目の前に建つ別荘の中から聞こえてくる。




「クッ……」
「……鍵谷は返して貰うぞ」


藪笠はそう言って足を進める。
だが、


「わ、渡さない……誰にも、…………特に、藪笠……お前には絶対に!!」


御影は懐から銀色の小さな笛を取り出し、口に加え息を吹く。


………………………………。
……おかしい。
息を吹いた笛からは音が鳴らない。






………いや、鳴らないのではない、聞こえないのか?




藪笠はその謎にすかさず答えを導き出す。


「犬笛か……」
「あぁ……俺が森に放した野良犬どもが今に集まる、お前を食いにな。………お前も同じなんだ。また悲しませるんだ」
「…………」
「鍵谷さんが……またお前のせいで、また泣かなくちゃならないんだぁぁぁぁ!!」


怒りきった咆哮。
その声と共に辺りに気配を感じる。
見渡すと数匹、目を見開かせた野良犬たちが荒い息で藪笠を睨み付けている。


今すぐにでも襲い掛かってくる。




食事を与えていないのか、その目は食い殺す。
そういう目だ。








「…………四季装甲」




藪笠が小さく呟き瞳を閉じる。
反応するように一斉に食い殺しにくる。








迫る野犬。










笑い声を上げる御影。














聞こえてくる全てを知り、静かに対応する。


藪は静かに深く息を吐き、同時に詩のように口を動かした。








それは冬と春を同調させた詩。
















「二連季……咲雪桜陣」


















キャゥン!! と。
野良犬の一匹がそんな声を上げ倒れた。
数匹いた野良犬もあちこちで倒れ、木の側や林の中、哀れにも地面に仰向けで倒れる犬もいた。


「…なんだ、これは」


後ずさりながら口を動かす御影。




「……………」
「何を……した………何をした、藪笠!」




今起きた光景が繊細に脳裏に浮かぶ。


野犬たちは思惑通り藪笠に向かって飛び掛かった。
頭に腕、足、喉元と、間違いなく大怪我だけではすまなかった。
逃げることは不可能とまで確信した。




……それなのに、今の状況は何だ。


ボールのように跳ね返り吹き飛ばされた野犬。
さらに、辺りから漂う異様な悪寒。






目の前に立つ、コイツは一体何なんだ………。




「……冬は干渉を表し、春は循環を示す」
「…は…………何」
「テメェには一生理解できねえよ」


藪笠は片手を軽くゴミを落とすように振る。
そして、御影に澄みきった瞳を向け、呟く。


















『咲雪桜陣』


















咲雪桜陣。
四季装甲と、その分類させた季節を組み合わせたオリジナルであり、それは藪笠自身が編み出し全ての季節においてより力を抑制できる物だ。








「野良犬たちは別に悪くねぇんだ。……まぁ、気絶してもらったほうが手間が省けるから、そうした」
「ッぐ…」


歯噛みする御影。
怒りによる歪みが顔全体に染まっていく。
だが、藪笠はそんな御影に対し全く怖じけはしない。


さらに言えば、ただの好きなものをもらえない愚図る子供のようにしか見えない。






藪笠は閉じゆっくりと口を開く。




「藪笠…………親父のことだろ?」
「ああ、そうだ! 鍵谷さんを泣かせる最低の男だ! そして、お前も同様なんた!!」


御影の語る言葉。
それらはかつてここで起きた、分かれ山の由来を言っているのだろう。


そして、それが再び両者共に子供として表れた。そっくりのように関係も立場も似ている。






だからこそ、目の前の御影が口にする意味もわかる。






「…………確かに、俺じゃあ鍵谷を悲しませるかもしれない。アイツの気持ちを受け入れるなんて、俺じゃ出来ない」


認める。
御影が言う言葉は外れではない。


「ッ、ハハ…だからそうだと」
「………だけどな」


だが、例えそうだとしても。






「親父たちの結果になるかもしれないし、また繰り返すかもしれない。それでも、アイツが……」




鍵谷の気持ちが実らなくても。
御影の言葉が正しいとしても。


















「鍵谷真木は俺の物でも、ましてやテメェの物でもない」


その絶対はどう転ぼうが変わることはない。




「鍵谷の生き方は鍵谷だけの物だ。それを俺たちが勝手に横から歯止めする権利なんてないんだ」
「…ッ…知ったような」
「アイツの母親だってそうだ。確かに親父はアイツの母親に涙を流させた。だけど、そこから行くてを塞ぐ歯止めなんてしなかった。……手を差し出して、その辛さから這い上がる言葉を言ったんだ」
「ッ!?」




驚きに目を見開く御影。……知らなかったのだろう。


藪笠自身、岩像で藍に聞かされるまで知らなかった。




確かに、親父は鍵谷の母親を振った。
事実は変わらない。
しかし、その後に続きがあった。






藍は言った。
妹、鍵谷の母親があの時、親父に最後に言われた言葉。




『……お前が辛くなった時は必ず話を聞いてやる。助けを求めたなら絶対に助け出してやる、必ずだ』










「う、うそ…だ………そんな事………」
「…………多分、俺には本当の手助けなんて出来ない。アイツを振り回す歯止めしか出来ない。だから…………親父たちの事を知っているアンタにはそっちに行って欲しかった」
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」






咆哮を上げながら迫り来る御影に藪笠は目を閉じ、静かに、力強く地面を蹴飛ばし御影の懐に飛び込む。


「ぁぁ!!」
「二連季、咲雪桜陣」




そして、懐に潜りこんだ藪笠は告げる。














夏の中に、咲く。
干渉と循環を合わせ持つ花。










「咲・蓮雪華桜」


















ッ!! と。
御影の体がふわりと浮き上がる。
それは御影の腹部。
藪笠の手のひらから放たれた衝撃と干渉。
二つの力が大人一人の体を浮かばせ、直後に起きる。


「ッ………………………………ァ……」


全神経に干渉し走る衝撃。
御影はそのままほんの数秒宙に浮き、そして力なく地面に崩れ落ちたのだった。


















警察がここに来るのにそう時間は掛からないだろう。


藪笠は別荘の室内。
地下に続く階段を見つけ、そこに寝かされた鍵谷真木を見下ろす。


「……また呑気な寝顔だな」
「………すぅー、すぅー」
「……ほら、行くぞ」


藪笠は溜め息を吐きながら鍵谷を背負い階段を登る。
背負ったさいに触れた腕は少し冷たいが多分、大丈夫だろう。


「……ふぅ」
「………ふにゃ…」
「ん、目は覚めたか?」


寝息から寝ぼけた声に藪笠は声を掛ける。


「…………藪笠………だよね?」
「………………」


何を言ってんだ、コイツは……。
眉間にちょっぴりとシワが寄る藪笠。だか、そこでふと気づく。


咲雪桜陣、まだ解除してなかった……。


………………………………………。


首を傾げ寝ぼけた表情の鍵谷。
視線が物凄く感じる。


「………寝ぼけ過ぎだ」


誤魔化すようにそう言って藪笠はせっせと階段を上り、外へと出る。
気絶する御影は別荘の中に寝かせておいた。




「……はぁ、とりあえず藍さんが来るのを待つ」
「にぇえ……藪笠……」
「………………」
「きぃいてる? 藪笠?」




……寝ぼけているのか、酔っぱらっているのか分からない。


「…………何だよ」
「うふふ、…………あのね、実はね、……」
「うんうん…」
「ここって、夜になると、……蛍が見えりゅの!」
「………………はい?」
「だから、蛍が」
「あ、いや違う違う。聞こえなかったとかじゃなくて」
「それで、にぇ」
「おい、話が飛んだぞ」


鍵谷は寝ぼけた表情で嬉しそうに笑うと、藪笠に顔すれすれまで近づき、


「ッ!?」
「私、藪笠と一緒に見たかった、の!」


後方に退きながら驚く藪笠。
寝ぼけとはいえ限度があるだろ、と思う。
だが、


「ああーあ。見たかった、なぁ」
「………………」


恋しそうに呟く鍵谷。
藪笠は目をきょとんとさせながら。






小さく口元を緩ませ、呟く。




「……仕方がねぇな」


藪笠はその場から立ち上がると少し歩を進め、ピタリと足を止める。


「鍵谷」
「ん、にゃに……」
「今日だけの、特別サービスだからな」




藪笠は静かに息を吸い込み、そして、口にする。


















「二連季、咲雪桜陣………………咲・夜桜雪蘭」
















ポッ、ポッ、と。
森の中に留まっていた光が輝きを放ちながら飛び立つ。
一匹二匹ではない。
無数の光を放つ蛍が寄せ集まるようにして一点に向かって集まってくる。






それはまるで、夜桜を連想させる。


光の花びら。




「……………ぁぁ」


鍵谷は見とれた。
さっきまでの寝ぼけた頭が一瞬で覚め、その光景に茫然とする。


蛍が空から落ちるように、その場に飛び交う。
場の中心。






藪笠に挨拶をするようにだ。














「……………」


藪笠は蛍が集まるのを確認し、口元を緩ませる。


空を見上げ、静かな夜を見続ける。
そして、願うのだ。














この光景が鍵谷真木の良い思い出になるように、と……………。







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