季節高校生

goro

久々の日常







小さな小鳥の鳴き声。




「う……………うーん」


鍵谷はその鳴き声に寝惚けた状態のまま布団から体を起こした。
ぼんやりする視界で辺りを見渡すと、そこに広がるは自分の部屋。




欠伸をしながら布団から立ち上がり、鍵谷は目を擦りながらリビングへと足を動かす。
ゴボゴボ、と何かを煮る音。
トントン、とまな板の上で何かを切る音。




音のする部屋に行くとそこには食事の支度をする鍵谷 藍の姿があった。


「おはよう、真木」
「うん、おひゃよう」


鍵谷は再び欠伸をしながら食事が並ぶテーブル前に座る。


「もう、髪が爆発してるわよ」
「う、んにゃ………大丈夫」
「はぁ……。はい、ご飯」
「ん、ありがとう」


溜め息を吐きながら渡されたご飯を受け取る鍵谷。
と、ついでと藍は、


「あ、これも隣に渡して」


続けてご飯を鍵谷に渡した。
鍵谷はご飯を受け取ると、誰に? と一瞬手を止めてしまう。
が、


「それ、俺の」
「ん、はいどうぞ」


隣からかけられた声に従い鍵谷はご飯を渡す。




……………………………………んにゃ?


やっと、頭が回転し始めた。
そして、さらに鍵谷の頭は回転する。




………………………………今の声、誰?




鍵谷はゆっくりと隣に首を動かす。
そこには、


「…………ん、何だよ?」




黒い私服姿の藪笠芥木の姿があった。
何だ…藪笠か、と再び視線は戻す鍵谷。






……………………ん?
……………………………んんんんッ!?


バン!! とテーブルから音がなる。


「な、ななな………」
「ん、何だ」
「何でアンタがいるのよぉぉぉッ!?」


あまりの驚きに藪笠から距離をとる鍵谷。
一方、藪笠に至っては平気で食事に手をつけている。


「うるせぇよ、朝っぱらから…」
「そんな事はどうでもいい!!何で、というかどういう」
「昨日、道端で寝てた真木を藪笠くんが送ってくれたのよ」


藪笠と鍵谷。二人の口論の中、藍がその一言を言う。


「……………え?」


藍の言葉に固まる鍵谷。その間に藪笠は食事を素早く済ませる。


「ごちそうさま」
「あ、もういいの?」
「はい、ありがとうございます」


藍に礼を言う藪笠は、スタスタと鍵谷の後ろを通りすぎ、部屋を後にした。
そこでやっと現実に戻ってきた鍵谷は藪笠がいないことに気づき、


「ッ、ちょっと待ちなさいよ!!」


急いで藪笠の後を追う鍵谷の後ろ姿を見て一人藍は微笑むのだった。


















「何、このバイク?」


鍵谷が玄関に出ると、そこには見慣れない真っ赤なバイクにまたがる藪笠の姿があった。


「ん? 俺の」
「え? こんなのアンタの家にあった」
「春香から貰ったんだよ」


つかれる…、と溜め息を吐く藪笠。
一方ではしばし藪笠の乗るバイクに見とれている鍵谷が、


「おい。早くしねぇ学校、遅刻するぞ。後、髪の毛もボサボサだし手入れとかしてねぇだろ?」
「うっ!? べ、別に気にしてないからいいのよ!!」
「あっそ、本当。女らしくないよなお前」


藪笠は再び溜め息。


「っ、そんな事よりアンタはどうなのよ!」
「は?」
「学校。また休むき?」
「……………」


鍵谷の言葉に黙る藪笠。
鍵谷もそこでやっと自分の失敗に気づく。


「…………………」


沈黙。
二人の間に静寂が漂う。
せっかく久しぶり話せたというのに。
鍵谷は顔を伏せ、自身の失態に後悔する。


しかし、その時。






「……お前は、来てほしいのか?」
「!?」




はっ、と顔を上げる鍵谷。
視線を向けた先には真剣な表情の藪笠の顔がある。


『自分の気持ちに正直になった方がいいよ』




以前、島秋 花に言われた言葉。


頬が熱くなるのがわかる。
汗がにじみ出てくるのがわかる。
心臓が、鼓動が、脈が……。




「………き」
「………………」


震える唇を堪え、鍵谷は小さな声で。
………………言った。














「………来てほしい」


















キーンコーンカーン、と学校のチャイムが鳴る。


「はぁ…………」


窓際に手をつけ、溜め息を吐く島秋。
昨日の件もあって鍵谷と顔を会わせずらい。
しかも、今日は浜崎の姿もない。


………つまらない。




「はぁ…………」




重い溜め息を再び吐く島秋。
そして、不意に窓の外にあるグラウンドを覗いた。




「あ………」




そこにいたのは、










「遅刻するぅぅぅぅ!!」
「お前のせいだろ! 着替えるから待てとか言って」
「いいじゃない別に! バイクの方が早くつくと思ったんだから!!」
「早くもくそ、遅くなっちまっただろ!!」
「それは藪笠が学校の用意とかしてないからじゃない!」




口喧嘩。
校庭のグラウンドを走りながら喧嘩する二人の姿。
それは久しぶりの光景に思える。




「藪笠くん、真木ちゃん……」




島秋はそんな二人を見下ろしながら、口元を緩めた。






そして、その表情は嬉しさに染まった笑顔だった。







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